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リーダーは泥まみれになる覚悟をもて!橋本善久氏のプロマネ講座

スクエニ オープンカンファレンス2012で11月24日、同社CTOの橋本善久氏は「ゲーム開発プロジェクトマネジメント講座 2012」と題して講演しました。テクノロジー推進部を統括し、「ルミナススタジオ」と『Agni's Philosophy - FF REALTIME TECH DEMO』の制作を主導、MMOR

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スクウェア・エニックス オープンカンファレンス2012で11月24日、同社CTOの橋本善久氏は「ゲーム開発プロジェクトマネジメント講座 2012」と題して講演しました。


橋本氏はテクノロジー推進部を統括し、ゲームエンジンの「ルミナススタジオ」と、技術デモ『Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO』の制作を主導。MMORPG『FINAL FANTASY XIV:新生エオルゼア』も技術面でサポートするという無双ぶりを発揮しています。補足すれば本イベントの発起人であり、総合司会も務めました。

そんな橋本氏はまた、卓越したプロジェクトマネジメントのスキルでも知られています。そのノウハウは昨年のオープンカンファレンスでも「ゲーム開発プロジェクトマネジメント講座」として講演され、惜しみなく公開されました。今年は『Agni's Philosophy』という具体的な成果物が示されたことで、その正しさが改めて証明されたと言えます。

今年度の講演では、昨年度の内容をベースに具体的なエピソードが多数示され、説得力が倍増。メソッドに加えて運用面での知見も加わりました。なお、昨年度の資料はウェブ上にアップされており、ざっと見るだけで要旨がつかめますので、一読をお勧めします(http://www.jp.square-enix.com/info/library/dldata/PM/PM.pdf)。

「プロジェクトの正確な予想は困難だが、制御することは可能」と橋本氏は指摘します。「プロジェクトは不確実なもの」という前提を受け入れ、「用意周到な事前対策」と「積極的な事後対処」を実践することで、プロジェクトの制御が可能になるのです。「当たり前のことから逃げないことが大切です」(橋本氏)


■プロジェクトの天秤でバランスをとるには?

ここで橋本氏は昨年からのアップデートとして、「プロジェクトの天秤」という概念を紹介しました。天秤の片側を入力(制作)、もう片側を出力(製品価値)とすると、この両者が釣り合うようにバランスをとっていかなければ、天秤のバランスが崩れて、プロジェクトは瓦解してしまいます。このとき、入出力は次の式で表せるでしょう。

【入力側】時間×リソース×生産効率
【出力側】品質×物量×基本要素数

つまり開発時に、時間とリソースと生産効率を上げれば、それだけ良い物が作れるということ。逆に製品の価値は、品質と物量と基本要素(仕様など)の数によって決められるという意味です。

この天秤はプロジェクト開始時には平衡状態でも、制作過程で「あれもやろう、これもやろう」と、出力側が膨らみがちになるもの。そのためには入力側も膨らませてバランスをとる必要がありますが、えてして発売日が延びたり、開発チームが徹夜したり・・・といった事になりがち。結果としてデスマーチが発生し、開発チームが消耗したあげく、市場で残念な評価を得る、などの現象が発生するというわけです。

「『Agni's Philosophy』の場合は、E3でお披露目が決定していました。また最先端プロジェクトなので、急激に人を増やすのも困難でした。一方で成果物の品質に妥協しないことも決まっていました。つまり生産効率を上げるしか、バランスを取る手段がなかったんです」(橋本氏)

具体的なプロジェクトマネジメントの手順としては、昨年度と同じく「調査」「戦略立案」「設計」で全体像を浮き彫りにし、「計画」で開発見積もりを立てたら、2週間から4週間の「スプリント」単位で開発を進めていくというステップで説明されました。開発中もさまざまな単位で「Plan→Do→Check」(計画・実行・検証)を行い、常に進捗状態を確認。それに基づいて中長期計画のアップデートを繰り返すことが重要だと指摘します。

また具体的なテクニックでは、ギリギリ達成できる期日と、もっとも時間がかかる場合の期日の両方を併記する「二点見積もり」や、作業内容や見積もりなどを付箋で管理し、一目でチームの進捗状況が把握できる「タスク管理ボード」、Excelベースの「タスク管理シート」などが紹介されました。実際にテクノロジー推進部では、このタスク管理ボードと朝会をくみあわせて、ほどよい緊張感を保っているそうです。


■メソッドよりも重要な運用フェーズ

ただし、これらはあくまで手段にすぎません。より重要なのは実行フェーズで、適切な運用がなければ、どんなツールも無用の長物です(同じことはゲームエンジンやミドルウェアなどの導入にも言えます)。幸いにもテクノロジー推進部では、立ち上げ直後の部署が小さかったころから実施していたため、大所帯になっても安定運用できています。

しかし、橋本氏自身が技術ディレクターとして『新生FF XIV』プロジェクトに参加した際は、話が違いました。テクノロジー推進部で予備調査を行ったところ、90%以上のプログラムを書き直す必要が判明。しかしプロジェクトチームはすでに大規模化しています。そこで、まずはプログラマーに限って、これまで橋本氏が独自に積み上げてきたプロジェクトマネジメント手法を導入することにしたそうです。

「今から許可を出すまでプログラム禁止」橋本氏はまず、こう明言しました。そしてユニットごとに調査・戦略・設計・計画を行い、その上でスプリント(実作業)に入っていきました。それでも当初はあえて「朝会」を控えていたそうです。「朝会は最も導入しにくいプラクティスで、お膳立てがそろうまで実行してはいけない」(橋本氏)。中途半端に導入して「こんなものか」と思われたら、それでアウトだからです。

その一方で、分担作業を進めていくと、全員の手からこぼれてしまう作業が発生しがちになります。これらは毎週のリーダー会議で拾い上げ、「もやもやリスト」として抽出していき、あらためて分担を決めるように留意されました。


■価値は覚悟とメソッドから生まれる

「ルミナススタジオ」の開発に加えて、新たに『Agni's Philosophy』と『新生FF XIV』でも、この「橋本メソッド」を適用したところ、だんだん見えてきたことがある・・・橋本氏はそのように語ります。

まず研究開発のような「やってみなければわからない」業務が中心のセクションでは、そもそも開発見積もりが立てにくいこと。具体的には『Agni's Philosophy』のシェーダー周りの設計と実装などが、これに当たりました。また開発フェイズや職種によって、調整の必要も感じられました。具体的にはデバッグやQAの段階では、本制作とは違うやり方が求められそうです。

このほか、タスク管理システムのアプリ化や、ゲームエンジンとの統合も将来的には視野に入れたいとのこと。たとえば「ルミナススタジオ」上のストラクチャにタスク管理用のタグをつける、などです。なるほど、バグが出ているテクスチャを見つけたら、タグに修正タスクを入力するだけで、タスク管理システムに反映されるようになれば、スケジュールの制御もさらに精度が高まるでしょう。

プロジェクトマネジメントに王道はありません。管理する仕組みを緻密に設計し、すべてに意味をもたせて、地道に進めること・・・橋本氏はこうした、当たり前のことを当たり前のように進めていく重要さを指摘します。

ただし、前述したとおり、これらはあくまでメソッド(手段)にすぎません。もっとも大事なことは、リーダーが腹をくくって、どろまみれになり、すべてを背負う覚悟を持つことだと語ります。「先ほど価値は『品質×物量×基本要素数』で定義されると説明しましたが」と前置きし、「リーダーの覚悟」と「メソッド」とも言い替えられると説明。講演を締めくくりました。












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