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神戸電子専門学校 ゲーム業界セミナー、グラスホッパー・マニファクチュア須田剛一氏が語る人材 像と組織論【レポート】

今夏、神戸電子専門学校の在校生向けセミナーは外来者も一部見学可能となっています。そして8月7日に開催された講演には、なかば狂気的なファンの心を鷲づかみにして離さないSUDA51こと須田剛一氏が壇上に立ちました。

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今夏、神戸電子専門学校の在校生向けセミナーは外来者も一部見学可能となっています。そして8月7日に開催された講演には、なかば狂気的なファンの心を鷲づかみにして離さないSUDA51こと須田剛一氏が壇上に立ちました。グラスホッパー・マニファクチュア(以下GhM)からは、『KILLER IS DEAD』(以下KID)が今年8月1日に発売されたばかり。なお、昨年から引き続き2年連続の登場です。

講演は、神戸電子専門学校の司会者とのセッション形式で進みました。まずは、GhMの歴史について。"インディー"なる単語がもてはやされる昨今ですが、GhMもまたかつては独立系の開発会社であり、カプコンやEA、マーベラスAQL、角川ゲームズらとタッグを組んで様々なタイトルを生み出してきたことはファンならば誰しもが知るところ。そして、現在では『パズル&ドラゴンズ』で1つの時代を創りあげたガンホーグループとなっています。

ガンホーと組むにあたり、飛んできた指示は「面白いゲームを創りましょう、それ以外しないでください。売上は二の次です」だったといいます。売上うんぬんについてはともかく、体力的に余裕のあるガンホーと協調路線を取るからこそ、SUDA51らしさあふれる作品も盤石の体制で開発・販売できるということでしょう。



次に、オープンキャンパスらしく学生が興味を持ちそうな話題、"社風"について。新しいものを創る、革新性を生み出すといった認識をセクション横断的に共有していることをアピール。また、須田氏やディレクター級の人物の意見ですべてが決まるのではなく、現場スタッフとのやり取りで面白いアイデアが飛び出せば積極的に吸い上げます。

開発の現場というものは様々なパターンがありますが、GhMの場合は「パーティションなし」タイプ。以前はパーティションを導入していましたが、最終的に撤廃。現在では、須田氏も含めた開発スタッフ、はては総務スタッフまでがフラットで、社員全員が社内全体を見渡せるスタイルだそうです。

そのようなオープンさの根底にあるコンセプトは、須田氏いわく「ライブ感」。仲間の顔が見える、会議の声が開発チームにそのまま聞こえてくる、そのような開かれた雰囲気作りを大事にしているのです。コミュニケーションについてもメールでのやり取りもなるべく避け、できる限り対面、せめて内線電話を使うよう指導。音楽に一家言ある須田氏らしい判断といえるでしょう。

"コミュニケーション"……なんとも漠然としているようでそうでもない、不思議な単語です。コミュニケーション能力について、「自分は100点満点中50点を超えていると自己採点できる人は?」という質問にたいし挙手した学生はまばら。当然といえば当然の結果かもしれません。しかしこのことについて須田氏はきわめて寛容な姿勢で受け入れます。

    僕、学生の頃はそんなにコミュニケーション能力ありませんでしたよ。社会に出たときも同じでした。社会に入って、自分でいろんな仕事をして自分に自信が持てた瞬間なんかがきっかけとなってコミュニケーションが円滑になったりするケースだってあるんです。

    僕の場合、24になってからゲーム業界に入りました。それまではいろんな仕事をしていました。バッグ屋関連の仕事なんかもしていました。そこで、メーカーさんや小売店さん、バイヤーのおばちゃんとかにかわいがってもらって、そこでようやく"コミュニケーション"できたんです。

    最初はどんな仕事もひよっこですから、何もわかりません。それを教えてもらって、ようやく人並みにできるようになった瞬間、この仕事でもやっていけると自信が出て、そこからコミュニケーションができるようになるものなんです。だからみなさん焦らないでください。そりゃあコミュニケーション能力は高いほうがよいですけれど、低くてもそれが普通です。職場で気が合う人も出てくるでしょうし、そこから広げたらいいんです。


組織のトップから飛び出した発言としてはなかなか刺激的でパンクです。ネットで散見される「求める人材像」の常時トップに居座る項目について、社会に出てからどうにかすればいいと一刀両断。しかし逆に考えると、こうした考え方を持つ者が率いる組織であればこそ、意思疎通の障壁を下げうるともいえるのではないでしょうか。

組織的開発環境としては、Unreal Engineを導入したことの意義を強調しました。つまり、GhMの門を叩いたならばまずはUnreal Engineの取り扱いをひとまずはひと通り習得することになります。ただし、現在Unreal Engineは3から4への端境期で、これまでは「Unreal語」を学ばなければならなかったところが、今後はよりC++などの一般的な技術で対応できるようになるであろうという見込みも示しました。また、ゲームの面白さのキモにもなりうるレベルデザインに特化した職種がここ5年くらいで生まれたそうです。

また、須田氏がデビューした当時の2Dドットグラフィックスからは想像もできない進化を遂げている次世代機については、価値観が変わり、ゲームデザインの方針も刷新しなければならないが、楽しいと断言。理由は、「これまでの価値観を捨てていいわけだから」。


ゲームのあり方については、まず1IP・マルチプラットフォームタイプのタイトルが増えていくと分析しました。ガンホーの『パズドラZ』を引き合いに出し、ゲームを遊ぶ時間やタイミングが増えている現在においては、据え置き機ではなくスマホでも遊べる、遊びを延長するという概念を推し進めたいと述べました。

ゲームハードの進化にともない、いくつか機能が増える傾向があります。たとえば最近になりようやくコンソールハードにも普及してきた感のあるデータ共有(クラウドセーブデータ保存など)も、積極的に導入していく意欲を持っているようです。いわく、「データの上澄みが一番価値があるところになると思う」。セーブデータが消滅した経験のある方ならばおおむね同意できるところでしょう。



そして、須田氏の経歴について。ゲーム業界に入った契機は、SUDA51を語る上では外せないプロレス。プロレスのゲームなら創れるのではないか、とうっすら思っていたところ、今はなきヒューマンの人材募集があり、「運良く入れた」そうです。そこから須田氏は2本プロレスゲームを製作することになります。

このことについて、司会から「やりたいことができるというのはすごいことです。虎視眈々と狙っていたのですか?」という問にたいし、「まったく。入れないと思っていた。」と意外な答え。あらゆる情報が獲得できる現在とは異なり、パソコン通信の時代に育った須田氏(なお会場で"パソコン通信"なる単語を知っていたのは1人だけ)。


    当然情報がないんだから、ハカセが創ってるんだろうと思ってたんですよ。みんな白衣着てね。そういう人らがプラグをつないでポコンと出てくるのがゲームだろうと思っていたわけなんです。理系畑でもありませんでしたから、あまりにも敷居の高い世界だったわけです。ましてや自分が入れるとは思えませんでした。たまたま、プロレスがきっかけだったんです。プロレスについては圧倒的な知識と情報量がありましたからね。


須田剛一の一点突破性がここにあります。



司会からの「若い時代を思い出して、注力したことは?」という質問にたいして、入社時に業界が若かったこともあり上司も年下の22歳であるという状況から「まずこの中で生き残らないとまずいな」と思ったといいます。ヒューマン時代には企画は20名ほど、ディレクションに携わるのはその半分以下。新人には過酷な環境でしたが、たまたま『ファイアープロレスリング』のディレクターが辞めたため、その後釜として参画したのです。

ここで須田氏が採用したのは正攻法です。「自分より若い人が多いのだから、ほかより3倍仕事しよう」。納期1週間後の仕事を3日で終わらせて持っていくスタイルを3年間継続しました。あの手この手でお手本を吸収し、また一方では新しいお手本を作り出し、と徹底的に活動し、3年間はほぼ遅刻欠勤がなかったそうです。そして、「3年やったらサボりだそうと思ってた」と発言し会場の笑いを獲得しました。

続いて20年のキャリアを持つ須田氏が今なにに重きを置いているか?という質問へは、「若いスタッフへのチャレンジ」と回答。昔環境に恵まれていた自分を思い出し、1本1本魂を込めて創りあげるべく、GhMの技術やマインドなどを共有したいと考えているそうです。一時期現場を離れたこともあるという須田氏、なればこそ直接デスクまでいって話し合うような、スタッフとの距離を縮めたゲーム創りを重視したいとのこと。とくに須田氏の独特の世界観などは口伝で(たとえばディレクターからグラフィッカーへ)リレーされているうちにわけがわからなくなることがありがちなので、そういった問題へ対処するという意味合いもあります。



いわゆるコミュニケーション能力の高さを武器にしていると見受けられる須田氏ですが、特別な訓練を受けたわけではありません。


    今でこそ自分で代表やっているからだいたいのことは聞いてもらえるんですけれど、ヒューマン時代なんか何も耳を貸してもらえませんでしたよ。「ド素人が何言ってんだ」って目線ですからね。そこで、たとえば共通の趣味を見つけるというアプローチなんかもとりました。たとえばプログラマが好きなアニメがあったら同じように観て、話を合わせたりとかね。

    徹夜だってありました。業界的には今は減っているし、弊社も減っていますけれど、昔はほぼ半年くらいプログラマが徹夜続きなんて状態もあったんです。そのとき僕はヒューマンのスタイルに合わせました。「企画はプログラマに付き合え」というものです。企画とは、徹底的にちゃんとそばにいて彼らを補助する、心のサポートなんです。たとえば、深夜2時とか3時とかにビルドが終わって、焼きの時間(当時の採用プラットフォームである初代PlayStationのメディアに書き込む際に発生するアイドルタイム)には『バーチャファイター』で遊んだりね。あとは、当時出社が8時半だから8時に起きようと仮眠を取るわけです。そこで先に起きて朝マック行ってプログラマの分を買ってきて二人で食べる。つまるところは人と人との仕事、思いやりの問題なんです。「これをやれ、あれをやれ」ではなく、感謝の気持ちを持たなければなりません。


プログラマーの頑張り、グラフィッカーのセンス、そういったもののすごさを徹底的に認め、人付き合いを介してスタッフの能力を最大限まで引き出す。それが企画マンとディレクターの仕事であるとしました。



次に、『KID』について。須田氏によるシナリオを先行させ、同時にゲーム構成を入れていくという開発スタイル。規模はコアチームが平常時で20人前後、最盛期で60人。『KID』開発では一部タイやベトナムなどアジア方面へのオフショア開発をしたため、たずさわっているメンバーの数は最大時に100名近くまで及んだそうです。オフショア開発の一般的な問題点はいくつかありますが、そこをクリアするためにGhMが採ったのはSkypeでの常時ビデオ通話とデスクトップのモニタリング。開発環境は当然Unreal Engineで、指示についてもフェイス・トゥ・フェイスを貫きました。

気になる会話は、すべて英語。ただし須田氏は「まったくしゃべれません」とのこと。下手な英語をしゃべるより自信のある日本語をしゃべって、それを通訳に翻訳してもらうほうが通じるとの考えに基づいています。合理的です。
(注: 「まったくしゃべれない」は須田氏が謙虚な姿勢を示しただけにすぎず、以前のインタビューによると、思わず英語の歌を歌ってしまうということはあるようです。)

ちなみに、『Shadows of the Damned』のころには一部上海で制作した部分もあったようですが、その後じわじわと人件費が上がったため路線を変更しています。「プログラミングが優秀な人材がいる国はいっぱいある」とも。



『KID』開発で苦労したことは?については、「絵作り」と答えた須田氏。海外製FPSにおける戦場・戦地のようなリアル方面へ振るのではなく、ゲームとして埋もれないための存在証明、いわば名刺代わりになるものを目指したといいます。シェーダーやポストエフェクト、ライティングを駆使しての絵作りです。

とくにプログラマの技量が活かされるのはライティングとのこと。『KID』でもライティングが絵を引き締めたとのことです。シェーダー系を使うと描き込まれたテクスチャに比べると「画面の密度」が薄まってしまうのにたいし、ポストエフェクトやライティングで密度を上げて全体のバランスを取るというやり方です。

また、注目してほしい部分としてはアクションを挙げました。いわく、企画・アニメーター・プログラマー・サウンドの「四位一体」。モーションの問題点を指摘するとフレーム単位でプログラマが調整して、当たり判定もこだわり抜き、といった具合に創りこんだ結果非常に面白い仕組みができたと強調しました。
(※2周程度プレイした記者の私見ですが、本作は"須田ゲー"としては言うに及ばず、アクションゲームとしてのクオリティが極めて高く、数多ある有名所3Dアクションと並べても何ら遜色のない水準にまで到達しているように感じられます。)



今後の開発タイトルについては、「面白いゲームを創るのが当然」「ゲームのど真ん中にゲームを創っていきたい」と表現。これは、日本を意識、世界を意識、という次元ではなく、誰もが遊べるものを創るということ。ゲーム業界の中心に位置し、次世代コンソールのタイトルをきちんと開発するというスタンスをあきらかにしています。高度な技術を維持してPlayStation 4/Xbox One/Wii Uで遊べるのを前提に、かつスマホでの遊びも視野にいれることを意識するとしました。

求める人材については、Unreal Engineベースで開発していることを踏まえ、そこに興味があることがまず大事なところであるとした上で、「10年後に引っ張ってくれる人を求める」と述べました。一緒にものをつくるハートを持っていて、ゲームが好きで、ガッツがあるスタッフを求めているとのこと。須田氏のキャリアならではの重みがあります。

なお、採用されたスタッフはひとまず責任のあるタスクを与え、即実戦という方式です。当然失敗もつきものになるわけですが、それをサポートしていくという長い目で見た姿勢です。そうやって職能を硬直化させず、将来的にはディレクターやプロデューサー、あるいは経営者というキャリアも切り開いてあげる環境、若いスタッフがのびのびと活躍する組織を目指しているのです。



最後に、須田氏は非常に示唆に富む話で締めくくりました。プランナー/ディレクター SUDA51いわく、


    ゲームは結局総合芸術なんです。たとえばグラフィックスデザイナーとしては、あらゆるアート―建築でも映画でもなんでも、そういうものに興味がある人間が向いています。なにかしらかじっていて言葉なり思いなりを持っていること、多くのものを見て体験すること。そしてそれを伝えられることが大事なのです。

    興味本位でかまいません。背伸びして本を読んでもいい。若いころ観てもワケのわからない映画でもかまいません。それが将来血となり骨となるときがあるのです。だから、積極的に吸収していってください。


講義はこのまま『子連れ狼』の革新性とそれが海外映画界、とくにスプラッターホラーの世界に与えた影響などの解説で派手に脱線し、そのままタイムオーバー。

インタビュー編へ続きます。
《Gokubuto.S》
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