会場は高円寺のコワーキングスペースこけむさズ。ソファーや絨毯が広がるリラックスしたスペースでワークショップが始まりました。今回の講師Richard Mark Honeywood氏はスクウェアエニックス、ブリザード、レベルファイブでローカライズ業務にたずさわってきたベテラン。『ファイナルファンタジー』、『ドラゴンクエスト』、『二ノ国』といった人気JRPGを手がけた経歴があり、現在はフリーランスの翻訳者として活動しています。
今回の内容はLocJAMを題材としながら、ゲームローカライズの流れを紹介するというもの。詳細な資料はネット上でも公開されているので、気になった方はこちらをチェックしてください。
LocJAMはインターネット上で開催される短期間のビデオゲーム翻訳コンテスト。ゲーム開発のイベントとしてはGlobal Game Jamが日本でも開催されていますが、こちらはその翻訳版です。昨年開催された第1回は、『Papers,please』の作者ルーカス・ポープが開発した『The Republia Times』が題材でした。世界で511、日本からは20の翻訳が提出。入賞した作品はこちらで実際にプレイすることが可能です。
ローカライズは大きく分けて7つのステップがあります。1番目のステップはファミリアライゼーション。ゲームを実際にプレイして馴染んでいく過程です。しかしながら、ほとんどの会社ではこのステップを設けておらず、翻訳者はゲーム内容をよく理解しないまま仕事に入ることも多いそうです。質が良いローカライズを行うためには、本来ならばしっかりとやるべきと、Richard氏は強調します。さらにこの段階でファイルの内容を確認、文字数をカウント。作業時間を見積もります。
またワード数をカウントするとき、どこまでを文字数に含めるべきか、決めておく必要があります。というのも、翻訳するファイルの中には文字テキスト以外にもマクロのような文字列が含まれており、それらは翻訳の必要はありません。このマクロをどうカウントするかによって、報酬が大きく変化することもあるため、はっきりと取引先と了解をとっておく必要があります。
2番目はグロッサリーとスタイルガイドの制作。統一した翻訳をするために用語集を制作します。まずはどういう訳し方をするかブレインストーミングを行います。『The Republia Times』では『Papers,please』と同様、オーウェルの『1984年』のような言葉遣いが出てきます。直訳ではなく、本物の翻訳をするために、雰囲気をうまくつかみとる必要があります。
さらにターゲット言語のためにふさわしい表現を考えます。『The Republia Times』では新聞記事の見出しがゲームの大半を構成しているため、同じような日本の新聞を参考にします。新聞といっても朝日、読売、東スポなど様々。原文の雰囲気に合わせて選択します。また制約についても意識する必要があります。特に『The Republia Times』では新聞を題材に使っているため、訳文をコンパクトにまとめる必要がありました。
3番目は実際の翻訳作業。ひたすら翻訳していきますが、バックアップを忘れないように。またときおり翻訳したファイルを組み込み、文字が収まっているかどうかチェックします。4番目は編集。翻訳した文章は必ず第三者にチェックしてもらいます。業務では専門の編集や校正が行いますが、LocJAMでは日本語の堪能なネイティブに頼むことになります。ただし訳語の選択などの最終判断は必ず翻訳者本人が行います
5番目は組み込みです。簡単なゲームの場合は自分でファイルを上書きしますが、通常は開発に渡して実装してもらうことになります。場合によっては思わぬ時間がかかるので注意が必要。6番目はQA(品質保証)。他のテストプレイと同じく、翻訳した言語でゲームをプレイします。翻訳に起因するバグやコンテキストにふさわしい訳になっているかどうかをチェック。さらにフォント抜け、はみ出しといった部分もここでつぶしていきます。
最後は翻訳を投稿して振り返ります。LocJAMでは翻訳したゲームを公開できるため、友人などにプレイしてもらい感想を聞くのも良いでしょう。また他の翻訳と比べてみることで自身の能力を分析することもできます。
以上、ワークショップは簡単なものでしたが、初心者でも気軽に挑戦できる内容は魅力的。海外ゲームの有志翻訳に関わっていた方もここからプロのゲーム翻訳を目指すのも可能でしょう。すでに今年のLocJAMは2月22日から始まっており、翻訳の提出日は一週間後の3月1日です。気になった方は公式サイトをチェックしてみてください。
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