中華ゲーム見聞録:1945年の台湾が舞台のADV『雨港基隆』政府による民衆虐殺があった歴史的事件「二・二八事件」を扱った台湾人の物語 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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中華ゲーム見聞録:1945年の台湾が舞台のADV『雨港基隆』政府による民衆虐殺があった歴史的事件「二・二八事件」を扱った台湾人の物語

「中華ゲーム見聞録」もとうとう第30回目。今回は1947年の政府による民衆虐殺事件「二・二八事件」をテーマにした、台湾が舞台のアドベンチャーゲーム『雨港基隆(The Rainy Port Keelung)』をお届けします。

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中華ゲーム見聞録:1945年の台湾が舞台のADV『雨港基隆』政府による民衆虐殺があった歴史的事件「二・二八事件」を扱った台湾人の物語
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「中華ゲーム見聞録」もとうとう第30回目。今回は1947年の政府による民衆虐殺事件「二・二八事件」をテーマにした、台湾が舞台のアドベンチャーゲーム『雨港基隆(The Rainy Port Keelung)』をお届けします。

本作は台湾のインディーデベロッパーであるErotes Studioによって、2015年3月31日にSteamで配信されました。作品のテーマとなっている「2・28事件」ですが、今でこそ2月28日は台湾の祝日(和平紀念日)になっており、台湾人なら誰でも知っている事件ですが、ひと昔前までは語ることもタブーとされていました。

日本が連合国に降伏した1945年、日本は統治していた台湾から兵を引き上げました。代わりに、戦勝国となった中華民国が台湾へ進駐します。このときに上陸した港が、本作の舞台でもある台湾の基隆(キールン)です。高雄に次ぐ台湾第2の港で、今では観光地にもなっています。台湾は漢民族が大半を占めており(原住民は数%程度)、「同胞」である国民党軍がやってくると聞き、大勢の台湾人が大喜びで基隆港に駆けつけました。ところが現れたのは、統率もとれていないようなひどくみすぼらしい兵士たちです。


国民党軍の主力は共産党軍に備えて大陸にいるため、台湾に来たのはモラルの低い連中ばかり。兵士の犯罪や官僚の汚職は当たり前のように行われ、治安や経済の悪化は著しいものでした。ちなみに戦後に台湾へ来た中国人を「外省人」、元から台湾にいる人たちを「本省人」と言います(今では差別にもつながるので区別することはありませんが)。

「狗去猪来(犬(日本)が去って、豚(国民党軍)が来た)」と本省人の不満は募りに募り、そして1947年2月27日、タバコを闇販売していた本省人の女性が取締官から暴行を受けたことから本省人の怒りが爆発。抗議行動を行ったところ、市民が射殺されるという事件が発生します。翌28日にデモ隊が市庁舎へ押しかけましたが、政府は話し合いどころか機関銃でこれに応戦。多くの死傷者を出しました。

その後も抗議行動を行う人たちへの弾圧は続き、一方で本省人も外省人を見つけては暴行を加えるなど、血で血を洗う戦いが続きます。ついには政府側は大陸から援軍を呼び、数万に上る人たちが投獄・殺害され、特にインテリ層がターゲットにされました(犠牲者数は諸説あり)。「白色恐怖時代(白色テロ時代。「白色」は共産党の「赤色」に対する言葉)」とも呼ばれる時代です。

ゲーム中に登場する基隆の港

戒厳令は1987年まで続き、言論の自由は長らく制限されました。今の台湾からは想像できないかもしれませんが、言論の自由が認められたのは90年代からで、案外最近のことです。筆者が子供のころは、映画館で映画が始まる前に国歌が流れ、観客全員起立しなければならないなどのルールもありました。今ではそういうのもなくなっていますね。

本作に登場する3人のヒロインたちですが、一人が本省人、一人が外省人、そして一人が台湾人と日本人のハーフという設定です。偏った視点ではなく、本省人や外省人など一般民衆の様々な視点から台湾動乱の時代を見ていくことができるようです。さっそくプレイしていきましょう。

台湾光復の日



物語は主人公・李肇維(りちょうい)の過去の回想から始まります。弟の李元徳(りげんとく)、友達の女の子・張暁瑜(ちょうぎょうゆ)と遊んでいるシーンで、フルボイスです。しかし途中で銃声が聞こえてきて、なんだか様子がおかしくなってきます。


目を覚ますと、どうやら外で爆竹をやっている音だったようです。時は1945年10月17日。日本敗戦後まもなくの時代ですね。弟の元徳とともにこの部屋に住んでいるようです。しかし元徳の姿が見当たりません。探しに出かけます。


廊下で女性とぶつかりました。ここの家主の娘、林明華です。漢字だけ見ると、中国人の名前にも日本人の名前にも取れますね。と思ったら、「あっ、ハジメくん」と日本語でしゃべり出しました。李肇維の「肇」は訓読みで「はじめ」なので、そう呼ばれているのでしょう。

女性の父は日本人、母は台湾人です(筆者と同じです)。名前は日本語読みで「はやし あすか」。基隆の皇民化運動(日本の同化教育)の模範生で、一時期は日本で暮らしていたようです。今は台湾に戻ってきてここの大家兼管理人として働いています。


それから明華のおじの源が登場。日本語で会話しているところを見ると、日本人のようです。明華を大切に思っており、主人公たち兄弟がここに住むことをあまりよく思っていない様子です。

この日は日本軍が台湾から全面撤退し、国民政府(中華民国政府)がやってくる「光復」の日。元徳はそれを見に行ったようです。戦時中、主人公たち兄弟は成績優秀だったことから日本に留学していました。医者だった両親は戦争初期に紅十字会(赤十字社)に加入し、中国内部で救助活動をしていましたが、そのまま帰らぬ人となりました。

明華は日本が負けるとは思っていなかったのでショックのようです。一方の主人公は「戦争に絶対なんてない」と冷めた様子。ただ問題は、日本の銀行券が使えなくなる可能性があり、家賃が払えなくなること。民衆は政治よりもまず自分の生活を成り立たせることが最優先です。主人公が弟を探しているのも、「勤めている茶坊の仕事がある」という現実的な理由からでした。

街は歓迎ムード



外へ出ました。街は歓迎ムードで、日本国旗は中華民国の旗に置き換えられています。また至るところに「歓迎」「慶賀」などの標語も貼られていました。主人公の知り合いの、雑貨屋の黄老人も喜んでいる様子です。彼は日本統治時代に、軍需品として商品をすべて没収されたり、家族が徴兵で帰らぬ人となったりなど酷い目にあっていたようです。近所の人たちも集まってきて日本の悪口を言い出して盛り上がったりなど、結構リアルな民衆の様子が描かれています。国民政府への期待はかなり高いものでした。


主人公の働く茶坊にたどり着きました。昔の台湾には日本式の家屋が多く、これもそのうちの一つでしょう。この日は店が閉まっていて、表に貼り紙があります。国民政府が来るのを祝って、休みになったようです。


国民政府に興味のない主人公は、「家に帰って寝よう」と引き返したところ、謝霽雲(しゃせいうん)という女性が登場。主人公の学校時代の先輩で、買い物で茶坊に来ていたとのことです。「今後日本語を使うのはやめたほうがいい」と注意されました。筆者の台湾の祖父もそうですが、台湾語と日本語を混ぜこぜにしてしゃべる人は多いですね。


謝先輩が去った後、茶坊の店主の娘である張暁瑜が登場。最初の回想シーンで出てきた女の子ですね。光復に興味津々で、「一緒に見に行こう」と誘われます。しかし主人公は「人の多いところに行きたくない」といった様子。暁瑜は強引に主人公を連れていきました。

新しい時代の始まり



基隆港のそばの通りは、人でごった返していました。無理やり主人公をひっぱってきた暁瑜もまさかここまで人が多いとは思わなかったようで、「もう無理。死ぬ」のようなことを言い出しました。

すると、人ごみの中で弟の元徳を発見。政治にあまり興味のない兄に対し、元徳は「やっと僕たちは中国人に戻ることができる。国民政府が来たら、台湾の生活はもっとよくなる」と喜んでいる様子です。


人ごみの中で弟や暁瑜とはぐれてしまった主人公は、近くの公園にやってきます。そこでは人形劇が演じられていました。それを見ながら批評する女性が一人。そばにいた主人公に演出の問題点などを話し、やがて迎えにきた男とともにどこかへ行ってしまいました。後々わかりますが、光復で台湾に来た外省人のようです。


夕方、大家さんと一緒に食事へ行きます。しかしそこには国民政府の軍人たちがいて、椅子の上で飛び跳ねたりなどバカ騒ぎをしている様子。主人公は「自分の見た範囲では、いくらひどくても日本軍はこんな真似はしなかった」と少し驚いています。大家さんは国民政府に嫌悪感を抱き、「こんな野猿のような人たちが基隆に来たらもう暮らしていけない」と怒っています。


すると酔っぱらった軍人の一人が大家さんに絡んできました。「日本鬼(日本人の蔑称)か?」と聞いてきたので、主人公はすぐに「彼女は台湾人です」と答えます。軍人は「我々が血を流して日本鬼を追い出してやったんだから感謝しろ」と言い出します。穏便に済ませたい主人公ですが、大家さんは「感謝なんてするわけないでしょ。皇軍は必ずあなたたちを追い出すから!」と言い出します。


主人公の友人で、店で働いている王太吉が止めに入りました。「今日はめでたい日じゃないですか。民衆はまだ慣れていないだけなので、許してやってください」と笑いながら軍人たちに酒をおごり、その隙に主人公たちを逃がします。良い友人ですね。店は大陸の料理をメニューに加えるなど、新しい環境に適応できるよう努力しているようです。一方の主人公たちは新たにやってくる時代を生き延びていけるのか。続きはあなた自身の目で確かめてみてください。

様々な立場から見る戦後の台湾


なかなか内容の濃いゲームで、歴史的な状況や民衆の生活もよく描かれた作品です。「本省人VS外省人」「一方が善、一方が悪」などという単純な構図ではなく、日々をいかにして生きていくのか、仕事はどうするのかなど、時代の移り変わりに一般民衆がどうやって対応していくのかがリアルに描かれています。相当な長編作品で、クリアまでは数十時間はかかるでしょう。

序章の後には選択肢も登場し、物語が分岐していきます

また本作では「台湾人のアイデンティティ」も一つのテーマになっています。「台湾人とは何か」という点ですね。民族的には漢民族が98%を占めており、大陸と行き来する人も多いので、現在では単純に本省人・外省人などという分け方で語るわけにもいかなくなってきています。白黒はっきりさせず、いろいろなものがごちゃごちゃと混ざり合いながらも日々の生活を成り立たせていくというのが、中華圏でのやり方かなとは思います。

それと、本作は現在のところ中国語のみをサポートしています。英語と日本語の字幕対応が予定されていたようですが、今のところまだ実装されていません。日本の方にも興味を持ってもらえる内容だと思うので、今後の日本語化に期待したいと思います。

製品情報



※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、繁体字を日本の漢字に置き換えています。
《渡辺仙州》

歴史・シミュ・ボドゲ好き 渡辺仙州

主に中国ものを書いている作家。人生の理念は「知られていない面白いもの」を発掘・提供すること。歴史・シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、「マイナーゲーム.com」「マイナーゲームTV」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「西遊記」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」「天邪鬼な皇子と唐の黒猫」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。

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