
3月25日に実施されたWarhorse Studiosオフィスツアーでは、モーションキャプチャーの撮影見学などのほかにも今後発表予定となる『キングダムカム・デリバランス II』新規DLCの内容について語られたほか、開発チームへのインタビューも実施されました。
追加DLCのテーマは「Brushes with Death」シールドペインティング機能などアート要素が多々追加
『キングダムカム・デリバランス II』の追加予定DLCコンテンツのテーマは「Brushes with Death」。現在はまだ発売日は非公開ですが、本DLCのストーリーは頭蓋骨にペイントを施すミステリアスな芸術家(a mysterious artist)が生涯で最も重要な傑作を描くのを手伝うこと。彼の謎めいた過去を解き明かしつつ、新機能、シールドペイント機能を用いて創造性豊かにゲームを進められる点が本作の特徴となっています。

また、追加DLCにはシールドペイント機能のほかに、別記事にて訪れた、トロスキー地方とクッテンベルク地方を舞台にした新たなストーリーや、ストーリーにちなんだ新たな限定武器と防具が手に入るとのことです。
なお、シールドペイント機能では、ミッションを達成することで手に入るアイコンを用いて、盾を自由にカスタマイズできます。そしてこのアイコンの中には一部、過去作などにもまつわるイースターエッグも含まれているとのことです。


また本作に登場する、ミステリアスな芸術家(a mysterious artist)の使用するアトリエの制作は日本人のコンセプトアーティスト川谷久海氏が担当したとのことです。

彼女によると、コンセプトアーティストとはゲームのグラフィックデザイン面の全てを担当する職業であり、資料をチェックしながら、自身の経験に基づいて、創造性豊かに作品を作っていく必要があるといいます。
本作は中世のリアリティを重視したゲームとなってくるため、資料のチェックが特に重要となってくるのですが、舞台が14世紀や15世紀のため、資料が十分に揃わないことも多く、不足分を想像力や実際のチェコでの暮らしの経験に基づいて補う必要があったとのことです。
特に“ミステリアスな芸術家”のアトリエを再現する際には、「美大生時代の自身のアトリエが中世のヨーロッパにあったならどのようなものだったのだろう」と想像を膨らませながら、マリア像や美術道具などの小道具が実際に存在してたものなのかどうかを確認しつつ制作を行ったそう。
ただし、大学院からチェコでの暮らしをはじめたゆえに、同僚のチェコ人アーティストの開発したデザインと比較した際にどこか「生活感」がなく、自分のデザインだけ浮いてしまうといったことも多くあったそう。この点は非常に感覚的なもので、チェコ人の同僚たちも「なんかそれっぽくないよね」というフィードバックしか出せない暗中模索の中、悩みながら開発を行っていたようです。
チェコ人の友人の里帰りについていったり、実家の写真を見せてもらうなどして、想像力と経験を膨らませながら、本作のアトリエを完成させたといいます。

開発へのこだわりとチェコという遠い異国ならではのゲーム開発事情!

続いて、Warhorse Studiosに関するインタビューをPRマネージャーのトビアス・シュトルツ=ツヴィリング氏(画像中央)、ナラティブデザイナーのヴラディミール・マレチェク氏(画像左)、コンセプトアーティスト川谷 久海氏(画像右)に実施。『キングダムカム・デリバランス II』開発エピソードはじめ、チェコならではのゲーム開発文化など、知られざる異国でのゲーム開発事情を伺いました。
――Steamユーザー評価が94パーセント好評(3月25日時点)と非常にポジティブなものとなっていますが、この点をどのように解釈していますか。
トビアス・シュトルツ=ツヴィリング氏(以下:トビアス氏):ここまでの反響がいただけたことは予測していなかったですね。開発当初は作品が成功するか不安な点が多く、テスト版が完成した際にようやくよい手応えを感じたといったところなので。
川谷 久海氏(以下:久海氏):本作をきっかけにファンになった方からのコメントも大変嬉しかったですが、特に、前作から待ち望んでくださっていたファンの声が嬉しいです。

――ファンの方にはどのような点が喜ばれていると考えていますか。
トビアス氏:まずはもちろん、本作の特徴であるリアルな中世描写です。その他にも、バグが少ない快適性や、どの選択肢を選んだとしても何らかの答えに辿り着くことができる“本当のロールプレイ”ができる点が評価されていると思います。
久海氏:リアルな中世描写を描けた背景には、前作からの積み上げがあったことが大きいですよね。それ故に本作ではより綿密に歴史やビジュアル、人間関係のディテールが描けたことを感じます。

――時代考証へここまでこだわる理由を教えてください。
トビアス氏:時代考証にこだわった目的はとにかく、リアルなゲームを作りたいという一心からきています。特に『キングダムカム・デリバランス II』ではマンパワーも増えてロケや専門家との相談を重ねた上で、ゲーム内にリアルで大きな中世の街を作ることができました。
また、歴史に詳しいファンからのフィードバックは常にチェックしており、それを基にしてアップデートをずっと繰り返しています。
ただし、中世の街づくりはできてもそこに生きている人々をリアルに描くことは非常に難しいです。貴族や王族に関する歴史資料は残っているものの、庶民の生活を描いた資料は非常に少ないため、開発の際には想像力を駆使する必要がありました。
――『キングダムカム・デリバランス』に関わらず、今後のWarhorse Studiosの開発方針を知りたいです。
トビアス氏:『キングダムカム・デリバランス』開発時には100人程度のメンバーでしたが、現在は250人のメンバーが在籍しており、現在、メンバーの多くは追加DLCの開発やデバッグの対応をしています。
今後は開発メンバーを300人に増やし、現在の『キングダムカム・デリバランス』プロジェクトと並行する形で、また別のRPGゲームを開発していきたいという考えがあります。まだ未定ですが、制作となった際にはディープかつエモーショナルな映画的な、ストーリーベースのRPGを変わらず作りたいという思いがあります。
――チェコならではのゲーム開発の悩みをお聞かせください。
トビアス氏:やはり、隣国のドイツなどと比較するとゲームの専門家の数が圧倒的に少ないことですね。
そのため、彫刻家や建築家といった専門外の方でも才能がある方は積極的に採用をして、彼らが持ってくるアイデアをうまく活用してゲーム開発を行っています。彼らが持っていないゲーム開発面での知識は、入社後に会社で教える形でカバーをしています。
――隣国のドイツやポーランドのゲーム文化や開発環境について、思うことを教えてください。
トビアス氏:まず個人的にドイツのゲームは面白くないと思っています。(笑)
それはさておき、世界のゲームの特徴をみると、地域ごとにテリトリー化しているように感じますよね。日本をはじめとする東アジアでは『原神』のように、アニメに影響を受けた作品が強い。
対して欧米圏は歴史が長いこともあって、「かならずこの要素は入れないといけない」といった暗黙のマニュアルができていることを感じます。そのため似たようなゲームが多くリリースされているように感じています。
ヴラディミール・マレチェク氏:一方でチェコ、ポーランド、クロアチアやトルコのゲームは、全ての作品がそうというわけではありませんが、前例のないパッションに溢れた作品が多くリリースされているように感じます。
特に、中東欧の国々は共産主義の影響を受けた国が多くあり、欧米諸国とはちょっと違ったものを見せていきたいという精神性が強くあるように感じます。

――本作をきっかけにチェコに訪れたいと思った人に、ローケンションはもちろんのこと、チェコのどのような文化面を楽しんでもらいたいですか。

トビアス氏:まず、我々は良いゲームを作るということを第一の目標としているのですが、それでもやはりゲームをきっかけにチェコに訪れる方が多くいるということはとても嬉しいことですね。特にチェコ人の方とたくさん関わって欲しいです。21世紀でも、チェコ人の心には、中世が残っているように感じます。
昔の中世時代の建物、お城とかが残っていることはもちろん、チェコ人は家族で集まって、中世時代から残っている自国の綺麗なお城などを回ったりします。チェコ人の方と街を回ったり、ハイキングやキノコ狩りを一緒に楽しんでもらえると、我々のそのDNAを感じ取ってもらえるかもしれません。
以上、『キングダムカム・デリバランス II』新規DLCコンテンツの紹介と、Warhorse Studios開発チームのインタビューをお届けしました。
筆者がインタビューをする中で想像以上に驚いた点は2つあり、一つがヨーロッパならではの働き方から生み出される創造力とこだわりに溢れた開発姿勢、もう一つが『キングダムカム・デリバランス II』などの作品が、チェコという国に対するアイデンティティと思いも寄らぬ形で結びついている点です。
チェコ人に未だ残る中世のマインドや、“中東欧らしい”どこか欧米や東アジアとは「違ったもの」を作るぞという思いが、作品の根底に根付いていることを深く感じるインタビューとなりました。
協力:チェコ政府観光局