
いきなりですが読者の皆様は「サイバーパンク」と聞いたら、どういった世界をイメージされますか?おそらくネオンに彩られたビル群と、怪しい日本語の看板がドン!と出てくる私企業に支配された退廃的な都市を想像されるのではないでしょうか。
私達がぱっと思い描く「サイバーパンク」という共通のイメージは、1982年公開の映画「ブレードランナー」の世界が下敷きとなっていると思われます。実際弊誌で過去に行った製作者インタビューの統計結果でも、同映画を参考にしたと答える方が多く、その影響力は今日まで続いているといっても過言ではないでしょう。
本稿では、そんなサイバーパンク世界をベースにし、高難易度のターン制ストラテジー作品として2025年5月23日リリースの『Twilight Wars』をご紹介。なお執筆にあたり、開発を手掛けたデベロッパーのComrade Bear Gamesより先行プレイの機会を頂きましたので、レビュー形式でお届けしてまいります。
君、今日から組織のリーダーね

21世紀半ば、致命的なパンデミック後の新秩序では、企業が国家に取って代わり国際社会を支配しています。産業スパイと企業間の暴力が日常となる中、「調停者」と呼ばれる国連の特殊部隊が設立されました。
富豪アントン・アンブラはこれをさらに発展させ、匿名仲裁機関(Triple-A(以下AAA))を創設。高度AI「シー(Shi)」の支援を受け、企業支配に対抗する勢力を結集させました。そうして物語は「エンスクのスラム街」での変異や感染に関する調査から始まります。
しかし、謎の武装組織の襲撃を受け組織と本部は壊滅。シーの呼びかけで目を覚ましたプレイヤーは、何故かAAAの支部組織の管理者として、立て直しを図っていくことになります。いきなり「管理者をやれ」と言われても困りますが、何をすべきかはチュートリアルでシーが丁寧に案内してくれます。
難しいレベルデザイン故、事前準備は万全に

襲撃前のチュートリアルでは、エージェントの新人訓練ということで、「戦闘」と「探索」を実戦形式で学ぶことになります。各エージェントには4つのスキルがあり、ターンを消費してアイテムを使用できるほか、味方の位置を入れ替えるスワップ、待機して行動順を後にするウェイト、回避力を上げてターン自体を飛ばすスキップといった戦術行動も取ることができます。
スキルには攻撃だけでなく、戦闘を有利に進めるバフやデバフ効果に特化したものもあります。しかしスキルの並べ方には位置が設定されており、配置次第では効果が弱まったり、そもそも発動ができなくなることも。

また各ミッションでは、探索を行うことでゴールのマスまで進んでいくのですが、各マスでのイベントは戦闘だけでなくアイテムの獲得や、特殊イベントなどもあり、各エージェントの持つ探索スキルも、こういったイベントに影響することがあります。


ミッションを終えるとエージェントの給与分を差し引いた報酬、基地運用に必要な素材の入手、そしてエージェントのレベルアップが行われます。エージェントはレベルが上がることでスキルの成長のほか、探索の結果次第ではメリットのあるサイコパークという能力が身につくことがあります。ただしその一方で、ネガティブ効果の能力が身に付く場合もあります。

エージェントが戦闘中に負傷した場合は、基地で治療を行わないと体力の最大値に制限がかかって死亡しやすくなるなど、同じエージェントを連続して出勤させづらい設計になっています。一応、エージェントが死亡しても復活させることは可能ですが、デスペナルティによるデメリットが大きすぎるので、負傷したエージェントを使い続けるのはおすすめできません。

そんなこんなでミッションが終わると基地運営のフェーズに移ります。ここでは必要な設備の建築や、新規エージェントの採用などを行い、新たなミッションへと赴くことになります。

新規エージェント採用に際して行われる「面接」は現実さながらで、志願者の反応を見計らいつつ、経歴や趣味などを質問することで相手の意欲(モラル)を上昇させます。このモラルが低いままだと、戦闘中味方に誤射したり、最終結果でマイナスの効果を得やすいといったデメリットが大きくなります。


それなら反対にモラルをガンガンに上げてキープすればいいのか……というと、そう甘くないレベルデザインなのが本作。各エージェントには「性格」が設定されており、プレイヤーの分身である管理者との性格が噛み合わなければ、ミッション選択時に大きくモラルを損ねることになってしまい、そのためメンバー選定は非常に悩ましい設計になっています。


なおプレイヤーである管理者もミッションを経ることで成長します。プレイスタイルや進行状況に合わせたスキルを取得すると良いでしょう。それらスキルは、各エージェントの成長に直接影響を与えるだけでなく、ミッション中のマップが一部見えるようになるなど様々な効果があります。
多少気になる運絡みの難易度と周回には煩わしい要素

ここからは本作の「ちょっと惜しい部分」に触れていきます。まず難易度については、ゲーム開始時に選べますが、ノーマルとハードのみ。しかも各種ポイントでリロードができるか否かという違い程度で、能力パラメータなどのバランスに関わる部分に違いがほとんどありませんでした。

本作におけるバフ/ デバフの効果はかなり強力です。上手く使用しないと変哲もない雑魚敵との戦闘ですら全滅してしまいます。攻略中、最初の雑魚敵ですら全体攻撃で毒を平然と撒いてくるなどかなり苦戦しました。
戦闘を最初からやり直せるノーマルでもかなり歯ごたえがあるので、『X-COM』や『Age of Empire』などのストラテジー作品が好きな筆者にとっては、何度も最初からやり直しては、試行錯誤を重ねて戦略を考えながら攻略することが何より楽しかったです。

とはいえ、本作をプレイしていて真っ先に感じたのは運要素の影響力で、あまりにも強すぎる。ミッション終了後におけるパーク取得の渋さ、戦闘時にデバフの有無次第では壊滅しかねないピーキーなレベルデザインはかなり気になりました。施設や管理者の能力で確率は増減できますが……発生確率10%でも0%ではないので、起きるときは起きる。それが体感だとやや理不尽な印象でした。

そして何度も何度も最初からやり直して気づいたのは、本作のランダム性は戦闘の展開とミッション終了後のパーク取得確率それぞれにおいて偏りがあること。さらに道中のミッションや加入するエージェントが固定なので、やり直していくうちに、序盤の動きはかなりテンプレート化します。
特に新規加入エージェントの面談の答えや、道中イベントにおける選択肢、さらにはエージェントのモラルキープや施設の建設の優先順位など、レベルデザインだけでなく要求されるプレイスタイルも、「開発が求める枠」に押し込められるような感覚がかなりありました。
そこへ戦闘アニメーションやセリフ送りがスキップできないことなどが、若干の面倒臭さを加速させてしまう。とはいえそういった演出スキップは、今後のアップデートで改善されそうな気はしています。

そんな訳で、プレイしていて気になったのは上記の箇所くらいで、ストーリーだけでなく日常会話でも発生するエージェント毎のサイドミッションのクオリティ・バランスといった他の部分には問題ありませんでした。


ただし、記事執筆時点においては対応言語のなかに日本語はありません。英語自体は読みやすいのですが、選択肢も展開を考えて選択肢を常に選ぶ必要があるので、ある程度の英語力は必要になってくるかと思います。
英語に苦手意識がある場合は、こちらの開発者インタビュー記事でも紹介のあった『PCOT』を利用すれば、プレイの手助けにはなるのではないでしょうか。
他には、戦闘のテンポなど気になる点がいくつかありますが、本作が持つ、ストーリー重視の歯ごたえ抜群ターン制ストラテジーという大きな魅力は見逃せないでしょう。本ジャンルに興味があるなら是非とも押さえておきたいタイトルですね。

と、思ったら日本語字幕がきた
この記事を提出した直後に、日本語字幕がアップデートで追加されました。なんというタイミングでしょう。確認したところ、全体的に「機械翻訳」のため、その精度はあまり高くありません(上記画像をクリック推奨)。
日本語フォントが使われていないことから漢字表記に違和感があるほか、システムタグまで翻訳されてしまっていることで、一部表示がおかしくなっています。それでも、序章を軽くプレイしてみた限りでは、大きな支障は感じませんでしたが……。
Game*Spark レビュー『Twilight Wars』Windows PC(Steam)2025年5月23日リリース
周回の煩わしさと運要素の強さが気になるが、ターン制ストラテジーとしては良作品
GOOD
- 1戦闘1戦闘が歯ごたえアリ
- 周回前提のマルチエンドもあるミッション展開
- 世界観に合致した独特なアートスタイル
BAD
- カットできないアニメーションやセリフなどの演出
- やや影響が強すぎる運要素