
フランス革命。この出来事は、世界史を永久に変えてしまいました。
もちろん、フランス革命は「ベルサイユのばら」の作者・池田理代子先生も描かれている通り、バスティーユ監獄解放後は血で血を洗う惨劇が展開されました。急進左派のジャコバン派による恐怖政治は凄まじく、「反革命的」と見なされた人は次々とギロチンにかけられる……という光景が繰り広げられたのです。しかし、それまでは単なる生産力としてしか見られなかった民衆が巨大なパワーを持ち、結集した民衆の力でヨーロッパの諸王国を圧倒できるということが証明されました。
Steamで5月21日に配信されている架空歴史ターン制ストラテジー『ボナパルト-メカ革命』は、18世紀末の激動の時代をナポレオンではない「ボナパルト家出身の軍人」として駆け抜けるというタイトルです。実際の歴史上の人物も登場するなど史実のフランス革命をベースにしながらも、メカが登場して無双したり、実際のフランス革命では起こりえなかったifを体験できます。
バスティーユ監獄前で「どちらに味方するか?」を決断

ここからは本作の設定を紹介していきましょう。時は18世紀後半、フランス王国はアメリカ独立戦争に「コロッシ」という巨大ロボ兵器を送り込むことで、独立軍の勝利に貢献しました。
強大なパワーで歩兵も騎兵も砲兵もねじ伏せるコロッシは、戦争の姿を大きく変えるものでした。しかし、それ故に製造コストが莫大な代物。フランス国王ルイ16世はコロッシの量産を命じますが、同時にフランス市民に対して高額の税金を課します。

市民の怒りはやがて限界に達し、武器を手に取って立ち上がりました。フランス革命の始まりです。
主人公はボナパルト家出身の軍人セザール(男性)もしくはセリーヌ(女性)。ゲーム開始当初は王室に忠誠を誓うフランス軍大尉として、革命勢力の鎮圧に向かいます。場所はバスティーユ監獄の前。史実ではオスカル様が薔薇のように散った、あの場所です(歴史ガチ勢の皆さん、怒らないでね)!

ここで、主人公は決断に迫られます。革命勢力の中に、何と自分の兄弟がいるではないですか!

このまま王の軍隊として自分の身内と市民を蹴散らすか、それとも市民の側に立ってバスティーユ監獄を攻撃するか。おおっ、これはまさに「ベルばら」のオスカル様そのもの!! ここではもちろん、オスカル様がそうなさったように市民の側に立って戦うことを選択してみます。アンドレ、おぉアンドレーーーーーーっ!!!
コロッシは無敵の兵器……というわけでもない!
オスカル様は生身でバスティーユ監獄を攻撃して散ってしまいましたが、我々にはコロッシがあります。これを使えば、歩兵も砲兵も怖くありません!

本作のゲームシステム自体は至って伝統的なターン制ストラテジーで、敵の側面や背面を攻撃すれば大ダメージを与えられるという点もこのジャンルのゲームの定番と言えます。現状では日本語対応はされていませんが(ストアページには「日本語版は現在制作中」と説明されています)、システム自体は複雑ではないので、英語ができなくても何とかプレイできるはず。
それより何より、コロッシの存在感がものすごい!

とてつもない戦闘力を発揮するコロッシですが、一方でオーバーヒートしてしまうという設定もあり、あまり活発に動き過ぎると、勝手に壊れてしまう仕様です。強いことには違いないのですが、決して無敵ではありません。

その上で『ボナパルト-メカ革命』は戦闘だけでなく、「派閥に属して上手に立ち回る」ということも要求されます。たとえば、国王に反旗を翻した革命派も一枚岩ではなく、ロベスピエール率いるジャコバン派とラファイエットが束ねる中道派が存在します。
なお、チュートリアルのバスティーユ監獄前の戦闘で市民側勢力を攻撃すると(王の軍隊のままでいる判断)、そのまま王党派に属することに。つまり、ルイ16世とマリー・アントワネットがギロチン台の露になる悲劇を回避するシナリオをプレイし、実際の歴史とは異なるストーリーを楽しめる、というわけです。
巨大メカだけではない、史実をベースにした政治シム
本作はメカが登場するターン制ストラテジー要素も魅力ですが、左派、中道派、右派が鎬を削る政治シム……とも形容できます。ビジュアル的にインパクトのある巨大ロボは、エッセンスのひとつといっても過言ではありません。
我々現代人は歴史を予め知っていますから、「フランス革命勃発後すぐにナポレオンが台頭して強大な権力を持った」と誤解しがちです。しかし、実際のフランスは各党派がいくつかの地方を支配していたに過ぎず、そこから武力と党派同士の外交で少しずつ勢力を伸ばす……という行程を経なければいけませんでした。
ちなみに史実の18世紀フランス軍も結構ハイテクだった!

『ボナパルト-メカ革命』は巨大戦闘ロボまで登場する、というSF要素のあるゲームですが、実は史実の18世紀フランスもそれに負けず劣らずのテクノロジーを持っていました。
何と、この時代には既に航空部隊が存在します。
1783年11月、フランスのモンゴルフィエ兄弟が作った気球が人を乗せた飛行に成功します。これはモンゴルフィエ兄弟の兄ジョセフが火を焚いて洗濯物を乾かしていた際、下から熱せられた洗濯物が上に向かって舞い上がるという現象を転用させた発明品でもありました。また、モンゴルフィエ兄弟の実家は製紙工場で、気球を作るための材料には事欠かなかったという背景があります。

モンゴルフィエ兄弟の気球は熱気球ですが、彼らが有人飛行を成功させた僅か10日後にジャック・シャルルの水素気球が人を乗せて空を飛んでいます。何と、高度3,000mの上空に達してしまったとか。フランス革命が勃発した頃、既に人類は上空から地上を眺めていたということになります。
フランス革命戦争中のフランス軍でも、気球が偵察や大砲の着弾観測のために利用されました。もっとも、有効な通信手段がない時代にはあまり実用的なものではなかったらしく、戦場で大活躍することはなかったようですが……。
驚異的な通信速度を誇った「腕木通信」
そして軍事とえば「通信」も重要な要素で、当時最先端だった腕木通信を忘れてはいけません。

これはジョイントでつないだ巨大な3本の棒を文字毎に曲げたり傾けたりして文章を作り、通信文を送るという通信手法です。10kmほど離れた別の腕木通信所の観測員が望遠鏡で通信を確認し、それを自分たちの通信所の腕木でも行い、また別の通信所の観測員がそれを視認して……というバケツリレー方式で文章を伝えます。こりゃ恐ろしく時間がかかったんじゃ……と思われそうですが、何と100kmの距離をほんの数分で信号伝達できる性能を持っていました。高速の移動手段が馬くらいしかなかった時代、これは驚異的な速度です。ナポレオンもこの仕組みに注目し、フランスのみならず版図を拡大するなかでヨーロッパ各国に通信網を整備したといいます。
なお、日本では商人の間で用いられていた「旗振り通信」(大型の手旗信号)があったため、この腕木通信は導入されませんでした。そのため、日本人は手旗信号→腕木通信→電信という進化の段階的発展を経ることなく、明治時代にいきなり電信という通信の大革命を経験するに至ります。そしてこの電信が、やがて電話を経てインターネットに発展したことは言うまでもありません。

掘れば掘るほど意外にハイテクだった18世紀末のフランス。『ボナパルト-メカ革命』でifの歴史を体験しながら、実際の歴史に目を向けて見てもおもしろいかもしれません。













