かつてPC市場では、成人向けゲームが大きな盛り上がりを見せていました。年齢制限が必要なほど刺激的な描写に魅了された成人ユーザーは、当時後を絶たなかったほどです。
そうしたタイトルの中には、セクシー描写を呼び水としながら、心を震わせる物語や優れたゲーム性により、上質なゲーム体験を提供した作品も少なくありません。
■アリスソフトの『夜が来る!』がSteamに上陸

特にアリスソフトは、鬼畜な主人公で波乱の物語を駆け抜ける『ランス』シリーズを筆頭に、成人描写への期待を一時忘れてしまうほどのゲームを次々と作り上げ、その人気を盤石なものとします。
2001年に発売された伝奇RPG『夜が来る!』も、アリスソフトが手がけた作品のひとつ。当時のゲーム市場では、現代ファンタジーとダンジョンRPGを組み合わせた作品はかなり珍しく、ユーザーの潜在的な需要を見事に掘り起こしました。
それから23年もの月日が経った2024年、Windows 10/11向けの成人向けゲームとして『夜が来る! Square of the MOON Remastered』がリリースされ、翌25年5月31日にSteam版も配信開始。かつての“夜”が蘇り、そして今では世界に広がる形となりました。
■“ご褒美”おあずけで挑む『夜が来る!』

『夜が来る!』の復活と新たな躍進は嬉しいばかりですが、Steam版『夜が来る! Square of the MOON Remastered』に成人指定の表記はなく、配信されているそのままの状態では成人向けの要素は盛り込まれていません。
Kagura Gamesで配布されているパッチを導入すれば成人向け要素も楽しめますが、同作が備えているゲーム性の軸はダンジョンRPGです。キャラクターの育成やダンジョン攻略、敵とのバトルといった部分は、パッチの内容と深い関係はありません。

プレーンの状態だと成人向け要素のないSteam版を、令和のゲームに慣れた身で遊んでも面白いのか。それとも、要所に挟まる“ご褒美”がないとプレイ意欲が途絶えるのか。その疑問に向き合うべく、パッチ未適応の『夜が来る!Square of the MOON Remastered』をプレイしてみました。
■現代ファンタジーRPGの先駆けは、今遊んでも「お見事」
まず最初に、『夜が来る!』が評価されたポイントである「現代ファンタジー要素」を、今改めて触れてみた実感からお伝えします。
文章のノリや機微は時代の流れを受けやすく、どんな名作ゲームであっても時間が経てばテキスト表現のどこかに古臭さは漂います。これは時代を超えた作品につきものなので、本作にもそうした片鱗があることは隠し立てしませんが、当時の雰囲気を残したという意味ではプラスでもあり、個人的には減点要素とは感じていません。

その上で改めて本作の物語に触れると、導入部から構成の妙を感じる箇所がいくつもありました。例えば、主人公の「羽村亮」(名前だけ変更可能)と、ヒロインのひとりでリーダー的な存在の「火倉いずみ」が出会うシーンでは、亮がいずみをかばう形で、自分に向けられる脅威(攻撃など)を察知する「重ね」という能力を明示します。
この時に、「重ね」がきっかけで幼少期にいじめられたこと、それ以来隠してきたことが語られます。能力モノの作品では、「そんな力があったら、もっと使うのでは?」という疑問も湧きやすいものですが、本作ではいじめのトラウマという形で、力を隠す理由を簡潔かつスマートに描写しています。
そうした設定を自然に消化しただけでも流石ですが、ここでさらに「かばうという動作」だけで亮の能力に気づくいずみの観察力、代わりに怪我を負った彼を癒すことでいずみの能力も開示、お互いの秘密を見せ合った特別な関係性の構築と、いくつもの要素を畳みかけて提示します。

このイベント自体は短く、テキスト量もそれほど多くはありません。それなのに、伝記モノに欲しい要素をいくつも押さえ、軽やかに展開するテンポの良さは、20年以上の時を経ても色褪せていませんでした。
また、現代ファンタジーにつきものの設定は、『夜が来る!』にもたっぷり盛り込まれています。プレイヤーが立ち向かう異変の象徴は、夜空に浮かぶもうひとつの月「真月」。この真月が輝く夜に訪れる異形「光狩(ひかり)」に対抗する存在「火者(かしゃ)」として、亮やいずみが過酷な戦いへとその身を投じます。
こうした本作ならではの独自設定も印象的ですが、言葉としてはあまりにも日常的な「夜が来る」という言い回しで、異常な存在である光狩の襲来を指し示すセンスは、今こうして直面してもやはり脱帽です。

特殊な言葉で特別な状況を伝えるのではなく、平凡な言葉で異様を伝える。こうしたヒネりは、現代でも十分通用しそうです。転じて、「あなたに朝は訪れない」といういずみの攻撃時の台詞も、同じようにシビれました。
ただし、シナリオ全般にわたって隙がないかと言えば、残念ながら惜しい点はいくつもあります。一部の展開が性急であったり、明らかに説明が不足してると思われる下りもあるため、完璧とは言い難いのもまた事実です。
そうした弱点を抱えつつも、現代ファンタジーとして今も十分通用する感触を、今回改めて味わいました。