Game*Sparkレビュー:『Luto』凡百の『P.T.』フォロワーとは一線を画す。徐々に蝕まれていく精神的恐怖と手応えのある謎解き、深みのある物語を描いた“ループ”サイコホラーの傑作だ | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『Luto』凡百の『P.T.』フォロワーとは一線を画す。徐々に蝕まれていく精神的恐怖と手応えのある謎解き、深みのある物語を描いた“ループ”サイコホラーの傑作だ

異世界に変貌した「家」からの脱出を試みるサイコロジカルホラーゲーム。

連載・特集 Game*Sparkレビュー
Game*Sparkレビュー:『Luto』凡百の『P.T.』フォロワーとは一線を画す。徐々に蝕まれていく精神的恐怖と手応えのある謎解き、深みのある物語を描いた“ループ”サイコホラーの傑作だ
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2014年8月に突如としてPS4向けに配信開始し、瞬く間に人気となった小島秀夫監督のホラーゲーム『P.T.』が誕生してから早くも10年以上が経ちます。

『P.T.』

『P.T.』は元々『Silent Hills』のインタラクティブなティザー広告として制作されましたが、残念ながら同作が開発中止になり、『P.T.』自体もストアから消滅しました。当時まだ珍しかった一人称視点でゲームを進めていく没入感、部屋をループしながら核心に迫っていく斬新なプレイスタイル、そして深淵を覗き込むような深い恐怖感、など圧倒的な完成度と新奇性によって、プレイヤーのみならず、ゲーム開発者にも大きなインパクトを与えた伝説的な作品です。


その後『Allison Road』や『Supernormal』、『Visage』など、『P.T.』からの影響を受けたフォロワー作品が次々と生まれており、ホラーゲームにおいて新たなジャンルを切り開きました。

というわけで今回は、PC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに7月22日に発売されたサイコホラー『Luto』のレビューをお届けいたします。本作品は『P.T.』フォロワーでありながら他とは一線を画す、近年でも傑作の部類に入るホラーゲームでした。

なお、レビューにはPC(Steam)版を使用し、開発元のBroken Birds Gamesよりビルド版の提供を受けています。また、記事の性質上ネタバレを含んでいますので、閲覧の際にはご注意ください。


◆ループする「反復的構造」が底なしの恐怖を生む

本作は、一人称視点のホラーゲームです。形式としては、家の中を隅々まで調べてアイテム等を探し、手がかりを見つけていくウォーキングシミュレーターとインタラクティブな探索要素が組み合わさったシステムです。『P.T.』以降のモダンなホラーゲームにはお馴染みのメカニクスですが、ただただ歩き回って怪異現象に出くわす受動的なものと異なり、より能動的にフィールドを探索していくことが求められる密度の濃いゲームプレイが体験できます。

最大の特徴は、「同じ場所や空間を何度もループ」しながらゲームが進行していく“反復的構造”にあります。このゲームメカニクスは『P.T.』が先駆けた偉大な発明品ですが、本作でもこの手法を用いており、それによってジャンプスケアやモンスターに襲われるといった瞬間的な恐怖とは違う、じわじわと追い詰められ窒息していくような精神的な恐怖を表現しています

本作の主人公は、ある出来事をきっかけに「自宅」をさまよい続けている男性「サム」になります。何度も家の中をループするたびに、見慣れた我が家が“異界”に変貌していく様相は、ちょうど『サイレントヒル』の「表世界/裏世界」のような二重構造になっていて、本来安全であるはずの「家」が恐ろしく危険な場所になるという、予期せぬ心理的な不安と恐怖を強烈に感じました。

そしてプレイヤーの目的は、そんな境界があいまいで悪夢のような「歪んだ世界」からの脱出方法を探っていく、というものです。

まず目を引くのは作り込まれた繊細なビジュアルです。「家」が舞台であるだけに、廊下から差し込んでくる光などのライティングや、無造作に置かれた段ボールや小物などの背景美術まで、品質の高いグラフィックで細やかに描写されています。

またプレイヤーが迷い込む「異界」においても、抑揚の効いた静かな恐怖感を表現していて非常にセンスが光っていました。安っぽいホラータイトルにありがちな無駄なスプラッター要素はなく、変貌した家の様子のひとつひとつが主人公の精神的状態を表すための手段であり、ホラーゲームとして秀逸な点でした。

本作はウォーキングシミュレーターであり、基本的に敵との戦闘やチェイスはありません。しかし、ドアの軋む音や突然鳴り出す電話といった音に対するアプローチ、自宅の至るところで目撃する不気味な人影など、「静的な恐怖」を演出しており、それが見事にゲームの雰囲気とハマっていました。

そして、先述したように一番恐ろしいのは、いつまでたっても家から抜け出せないことです。何度も同じ空間をループしていきながら、ゆっくりと歪んだ精神的世界へ潜っていくのは、まるで見てはいけない深淵を覗き込む感覚になり、『P.T.』における無限回廊のような「抜け出せない恐怖」を非常に感じました

◆死と喪失を描く秀逸な物語性

本作は、“愛する家族の死”という圧倒的な「喪失感」をテーマに、主人公サムが奥底へ閉じ込めた自らの精神と対峙することを描いた物語です。

見慣れたはずの「自宅」は、実はサムの複雑な精神世界そのものであり、何度も同じ場所をループしてしまうのも、厳しい現実を直視できない心の葛藤を表しています。このメタファーが物語をさらに奥深いものにしておりプレイヤーの想像を見事に掻き立てます

とはいえ、メタ的な表現が過剰なせいか物語全体を理解するのは難しく、分かりづらかった部分も多々あります。断片的な情報をつなぎ合わせていく楽しみがある一方で、脱落するプレイヤーも出てくる賛否の分かれる点だと思いました。

また本作は日本語字幕に対応していますが、「彼」を「彼の者」、「ぬいぐるみ」を「ぬいふるみ」といった感じで、誤字や違和感のある表現が多少見受けられました。ゲームを進めるにあたっては特に問題はありませんが、ストーリー重視の作品であるため、評価としてはマイナス点でした。

◆舞台装置としての謎解き

本作は、インタラクティブな探索がゲームプレイのメインとなりますが、謎解き要素がふんだんに盛り込まれており非常に歯ごたえのある魅力的なものでした

基本的には、家の中を調べてキーアイテムを集めていき、仕掛けを作動させてパズルを解くことに成功すれば、次のチャプターへと進めるオーソドックスなものです。

日記やメモ紙片といった資料アイテムからヒントを得たり、環境を注意深く観察して正解を導くものなど、謎解きはさまざまタイプが用意されているので「またこれか」とはならず、毎回新鮮な気持ちで楽しめます

資料アイテムはヒントの宝庫だ

たとえば、板が打ち付けられた部屋に入るために「金づち」が必要になるのですが、シャンデリアに引っ掛けていて届きません。さて、どうすれば良いのか……普通のホラーゲームであれば、近くにあるハシゴや台などを使って入手するのが王道的パターンです。

しかし、本作の謎解きは一味違っていて、なんと自宅電話の「SOS」ボタンを押しまくるのが正解。なぜかSOSボタンを押すと家全体が振動してしまう奇妙な仕掛けがあり、それを利用して振り落とし入手するのです。こういった感じの一筋縄ではいかない謎解きは、プレイヤーを困惑させる一方で、とてもやりごたえを感じる作り込みでした。

また特筆すべきなのは、謎解きはただ難解なだけでなく、すべてに意味を持たせているということ。ゲーム終盤では4つのアイテムを見つけ、それぞれを正しく祭壇に配置していく仕掛けに挑戦するのですが、そのアイテム自体が主人公の「記憶」にまつわる重要なものであり、物語を紐解くためのキーであることを示唆しています。

サムの壊れためがね

アイテムを入手するには、記憶が封印された恐ろしいエリアを探索しなければなりません。つまり、謎解きそのものがストーリーを構成するための「舞台装置」として使われており、それがダイナミックで没入感のあるゲームプレイに繋がっていたことも素晴らしい点でした。

◆ホラー作品へのリスペクト

本作を手がけるのは、これがデビュー作となるBroken Birds Gamesという独立系のスタジオです。大西洋に位置するスペインのグラン・カナリア島を拠点に置いています。

公式サイトによると、彼らは「ゲームという媒体への情熱を持っている」とのことですが、それはゲーム本編にしっかりと反映されています。というのも、家の本棚には数々の蔵書が並んでおり、よくよく本のタイトルを見てみると、「BIOHAZARD」や「SILENT」、「WHAT REMAINS OF US」など、往年の名作ホラーゲームへのオマージュが小ネタとして仕込んであります

また別の部屋にはポスターが所狭しと貼ってあるのですが、言わずと知れたサイコ映画「羊たちの沈黙」に酷似したデザインであったり、「部屋303」という架空の映画はおそらく『サイレントヒル4』からの着想であったり、さまざまなホラー作品に対するリスペクトを感じさせます

『DEATH STRANDING』のようなイメージ
『SILENT HILL 2』を想起させる深い穴

とりわけ、『P.T.』をはじめ『DEATH STRANDING』などの小島作品、或いは『SILENT HILL 2』からの引用や影響は作中のさまざまな場面で見ることができます。

こういった細かい部分での遊び心あふれる仕掛けは、ホラーファンとして発見する楽しさや面白さがあって非常に好感が持てました

◆総評

本作品は、『P.T.』の遺伝子を受け継いだゲームとして革新的な部分があるわけではないですが、高水準のリアルなグラフィックス、反復的なループ構造によって深くなっていく恐怖感、愛する者の死と喪失感、憂鬱な感情といった“人間が普遍的に持つ心理的不安”を巧みに表現した物語性、やりごたえある複雑な謎解きパズルなど、構成する要素のすべてが上手くゲームに落とし込まれており、非常に質の高い傑作ホラーゲームに仕上がっています

プレイ時間は約10~15時間程度あり、『P.T.』が短編小説だとしたら、本作は中編小説くらいのボリューム感となっていて満足感は十分ありました。

しかし、メタ的な手法を取り入れたゲームプレイや断片的な情報など、説明不足や難易度調整不足から来る難解さは、ホラーゲーム初心者を遠ざけてしまう可能性があるし、謎解きで詰まり途中退場してしまうプレイヤーも出てくるでしょう。

とはいえ、『P.T.』ライクな作品でここまで完成度の高いゲームは他にはないので、ぜひとも体験して欲しいオススメのホラーゲームです。


Game*Spark レビュー 『Luto』 Windows PC(Steam、Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S 2025年07月22日リリース

ループ手法を用いた反復的なシステムで、じわじわと追い詰められるような精神的な恐怖感と深い物語性を描くことに成功した傑作サイコホラーゲーム

GOOD

  • おぞましさと美しさが同居した絶妙なグラフィック
  • 死と喪失、鬱、家族愛などをテーマにした深いメッセージ性
  • メタ的視点をも取り入れたユニークなゲームプレイ
  • やりごたえ抜群の謎解き

BAD

  • 説明が少なく初見では分かりにくい場面や、難解すぎて行き止まってしまうことも多々ある
  • 日本語表現においてやや違和感が見られる

ライター:DOOMKID,編集:みお


ライター/心霊系雑食ゲーマー DOOMKID

1986年1月、広島県生まれ。「怖いもの」の原体験は小学生の時に見ていた「あなたの知らない世界」や当時盛んに放映されていた心霊系番組。小学生時に「バイオハザード」「Dの食卓」、中学生時に「サイレントヒル」でホラーゲームの洗礼を受け、以後このジャンルの虜となる。京都の某大学に入学後、坂口安吾や中島らもにどっぷり影響を受け、無頼派作家を志し退廃的生活(ゲーム三昧)を送る。その後紆余曲折を経て地元にて就職し、積みゲーを崩したり映像制作、ビートメイクなど様々な活動を展開中。HIPHOPとローポリをこよなく愛する。

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編集/取材も執筆もたくさんやる、半ライター半編集 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。

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