本記事では実際の遺体の映像及び
『DEATH STRANDING 2』の物語要素を取り上げています。
苦手な方は閲覧の回避を強く推奨します。

死を免れる永遠の肉体は古今東西問わず人類文明の夢。魔術信仰から科学的アプローチに至るまで、ありとあらゆる手段を使って人間はその可能性を求めてきました。現代の生活を支える高度な医療技術はその副産物であり、実用化に至った再生医療はその究極にまた一歩近づく道筋と言えるでしょう。
生物が死ぬと、その身体は自然に分解されて腐り、やがて原形を留めない土になります。その一方で、特定の条件を満たして腐敗を免れる場合もあり、時には数千年を超えて生前の面影を残す「永久死体」に変わります。
永久死体は神聖を帯びた奇跡として信仰の対象となり、人工的な永久死体化の技術も医術の発展と同様に研究されてきました。一般的に葬儀で実施されている、遺体を美しく見せるエンバーミングもその応用です。

『DEATH STRANDING 2』では、ドールマンのエピソードで有名な永久死体「トーロンマン」に言及しています。1950年にデンマークの泥炭湿地から発見されたトーロンマンは、2000年以上前に人身御供として沈められた男性の遺体で、生前の顔がそのまま残っている状態のため直近の事件と間違われたほどです。
腐敗が起きるのは自然に存在する微生物の働きによるもので、主に温度、酸素、水分の要素が関係しています。これらが欠けて微生物の活動が抑えられると、通常とは異なる状態の死体に変化していくのです。法医学においては、永久死体は以下の3種に分類しています。
・ミイラ
永久死体で最もポピュラーなものと言えば、遺体を極度乾燥させたミイラです。高温の砂漠、乾燥地の高山でも自然に発生することから、人身御供や即身仏など世界各地で人々の信仰に組み入れられてきました。
エジプトのミイラ作成法はヘロドトスの「歴史」に記述があり、心臓を除く内臓を除去したのち、体内に香料を詰めてナトロン(天然の炭酸ナトリウム)で約2ヶ月乾燥させる(後世では塩を利用)。整形して樹脂やタール(または天然アスファルト)で防腐処理を施してから、布で巻いて納棺します。
世界で最も古い人工ミイラはエジプトではなく南米チリのチンチョーロ文化にあり、紀元前5000年頃から始まったと考えられています。南米の高山は土壌に塩分を多く含み、雨量もほとんど無いのでミイラができる環境としては最も良い土地柄です。ミイラは土や泥で補強され、カツラを付けて生前の姿を保とうとしていたようです。
1991年にイタリアの氷河で発見されたアイスマンは、冷凍による脱水でミイラ化した紀元前3000年頃の男性。身体に矢傷や打撲の痕跡があることから、部族から追われる身であった可能性が示されました。
・死蝋(屍蝋)
特に刺激の強い画像を用いて説明しているクリップのリンクです。
周囲への配慮など閲覧には細心の注意を払ってください。
死蝋は逆に湿度の高い環境かつ酸素の循環不足など条件が揃うことが珍しく、発見例はミイラと比較してかなり少なくなります。その代わりに見た目は生前の形状をあまり崩すことが無く、一目では死後間もない遺体と見分けが付かないものも多いのです。生物の中にある脂肪分が1年近くかけて、蝋というよりは石けんに近い状態に変質し、死体全体を覆っていきます。皮下脂肪の多い遺体が死蝋化しやすいため、かつては良質な食事を取れていた高い身分の人間が比較的多かったと推測され、国内では福沢諭吉の遺体が死蝋化していたことが知られています。
・第三永久死体
上記のミイラ化、死蝋化以外の要因で発見された長期保存の死体です。氷付けになったり、人工的に防腐処理を施されたり、または原因が特定されていなかったりと種類は様々。発見されれば科学的にもゴシップ的にも注目されるため、いずれのケースも名前を付けられて有名になりました。カトリックでは永久死体を「不朽体」として聖人認定し、透明な棺で展示しています。

トーロンマンは北欧の寒冷環境でできた死蝋体であることに加え、遺体を黒く染めた泥炭湿地に含まれる大量のタンニン、水苔によって微生物が働かない強酸性に保たれているなど、複数の要因が加わってよりよい状態を保ちました。トーロンマンを含む同様の死体は特に「湿地遺体」と呼ばれます。
ロザリア・ロンバルドは最も美しいと称されるエンバーミングを施され、1920年の死から100年以上経過しても、少女の瑞々しさをほとんど失っていません。最近ではやや痛みが目立ち始めているようですが、高い防腐技術は医学的観点からも注目されています。

現代から未来に向けた遺体保存は冷凍(クライオニクス)が有力視されていますが、冷凍時に細胞内の水分が膨張して、解凍時に肉のドリップと同様の現象が起きてしまいます。氷の中で冬眠する一部のカエルは体液の糖質濃度を上げてこれをクリアしており、これを人間に応用する研究が進められています。将来の医術によって、神話のように「死からの復活」が本当に叶う日が近づいているのでしょうか。









