
京都・みやこめっせにて2025年7月18日から7月20日まで開催した、日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit the 13th(以下、BitSummit)」には、アニメ会社の超老舗・東映アニメーションも出展していました。
試遊展示されたゲームは『Re:VER PROJECT -TOKYO-(以下、リバープロジェクト・トーキョー)』。東映アニメーションとインディーデベロッパーのネストピが共同開発している、注目のサバイバルサスペンスアドベンチャーです。ブースもネストピとの共同出展です。
ドット絵で描かれた現代の東京を舞台に、無実の罪を着せられた芸能マネージャー「弥音ユキノリ」と、彼が担当するアイドル「六実ひなぎ」の逃亡生活を描く本作。プレイヤーはユキノリとなり、冤罪から逃げ続けなければなりません。
お尋ね者のため買い物もままならない状況で、ゴミ箱を漁るなどして食料や物資を調達し、空腹や健康状態を管理しながら生き延びるユキノリたち。相互監視社会と化した東京では、都民の目が警察の捜査を進めてしまうため最も恐ろしい敵となるなど、厳しい現実を描いているゲームです。

Game*Sparkでは、そんな本作について、東映アニメーションのプロデューサー・松浦寿志氏へインタビューを実施!本稿では、会場でもかなりの集客率を誇っていた『リバープロジェクト・トーキョー』のインタビューをお届けします。
数々の国民的アニメを世に送り出してきた東映アニメーションが、なぜ全く新しいフィールドであるインディーゲームの世界に足を踏み入れたのか。そして、インパクトのあるゴミ箱を漁るという描写はどのようにして生まれたのか……など、人間の生活についても深く考えさせられてしまう内容です!
現代のエンタメ消費スピードに追いつくため、アニメ業界の未来も見据えた挑戦
――東映アニメーションといえば、誰もが知るアニメ制作会社の老舗です。それでいて、全く新しいフィールドであるインディーゲーム業界に参入された経緯やきっかけについてお聞かせください。
松浦氏:大きな背景として、アニメーション制作を取り巻く環境の変化があります。ひとつは、制作のイニシャルコストが高騰し続けていること。もうひとつは、現代のエンターテイメントの消費スピードに対して、アニメの制作時間が掛かりすぎているという課題です。
例えば、大ヒットした映画「THE FIRST SLAM DUNK」も、企画開始から公開までには非常に長い年月がかかっています。変わってきているエンタメの消費スピードに対応しようにも、アニメーションだけをプラットフォームにしていては追いつけないかもしれないという懸念がありました。
一方で、弊社には70年近く培ってきた、キャラクターやストーリーを創造する力があります。その力をアニメーションという形だけに結びつけるのではなく、まずはゲームなど他のメディアで原作を創出し、そこで成功したものをアニメ化していく、という新しいビジネスモデルを構想したのがきっかけです。その選択肢のひとつとして、今回はインディーゲームに挑戦することになりました。

――なるほど。そうして生まれた本作は、アニメファンとインディーゲームファンの両方から注目されていると思います。メインターゲットはどちらを想定されていますか?
松浦氏:大前提として、個人的には「アニメファン」「ゲームファン」という垣根をなるべくなくした作品作りをしたいと考えています。作品単位で楽しんでいただく状況を作りたいですね。
少しビジネス的な話になりますが、日本のアニメ業界が海外と競争していくためには、業界内だけの競争に留まるのではなく、業界をまたいだ作品作りや、そういった作品に対するリテラシーの高いファンを日本に作っていく試みが必要だと感じています。
そういった垣根のない環境を作っていかないと、海外の大きな市場に太刀打ちできない時代が来るかもしれない……という、少し長い目で見た上での話ですが、今回の『リバープロジェクト・トーキョー』においては、まずインディーゲームとして出しているので、「インディーゲームファンがメインターゲット」というのが答えになりますかね。
「ゴミを漁る」行為が問いかけるもの。“他人の視線”から考える現代社会の矛盾
――『リバープロジェクト・トーキョー』では、全体的に都会のシリアスさや人間の黒い部分が描かれています。個人的には、御社の作品ですと人間社会の闇も描く「ゲゲゲの鬼太郎」に近い空気を感じました。このような緊張感は、やはり表現する上で気を払いましたか?
松浦氏:その辺りは非常に気を遣いました。私たちが目指しているのは、実写ではなく、あくまでエンターテインメントと実写の“狭間”にあるような表現です。「ゲゲゲの鬼太郎」は言いえて妙かもしれません。
エンターテインメントとして楽しんでいただくプレイヤーの皆さんが、ご自身の記憶や経験を作品に投影し、それぞれが自由に解釈できる“幅”を持たせることを意識しました。例えば、小説を読むとき、行間に書かれていないことを読者が自身の経験から想像して、物語を補完しますよね。
それと同じように、あえて結論を描き切らず、プレイヤーの皆様の中にある思い出や解釈に委ねることで、一方的になりすぎないリアリティが生まれるような描写を意識しています。

――人間の闇といえば、インパクトのあるアクションとして「ゴミを漁る」行為がありますよね。これをNPCに見られると警戒されるという、まさに“他人の目”が気になるゲームデザインは、社会風刺を意識されているのでしょうか?
松浦氏:社会風刺をしたい、という強いメッセージはそこまで考えているわけではないですね。それよりも、“人間が抱える矛盾”そのものを描きたかった、という方が近いかもしれません。
多くの人は「周りの人は自分に無関心だ」と思っているはずなのに、その一方で「他人からの目が気になる」と感じていますよね。この矛盾した感覚は一体何なのだろう、と普段から不思議に思っていました。なので、この作品は風刺というよりは、皆さんご自身がどう感じるかを知りたいという問いかけに近いかもしれません。
あと皆さんもそうだと思うんですが、普段生きていて“サバイバル感”をなんとなく感じることってありますよね。「サバイバル」って、すごく解釈の懐が深い言葉になっているなと思ってまして。
例えば、経済的にとても豊かな状況にある人であったとしても、何かしらのサバイバルを感じる瞬間はあると思うんです。「生きなきゃいけない」「逃げなきゃいけない」という感覚は、誰にでも常につきまとうものなのではないかとも思っています。

――そうした精神的なサバイバル感は、ゲームBGMにも反映されているように感じました。
松浦氏:そうですね。ぜひ音も聞いていただきたいのですが、本作では意図的に明るい曲は作っていません。ネガティブで、儚くて、消え入りそうな感じの曲ばかりです。
これはたくさんの作曲家の方とお話をして厳選しました。ただ暗いとか悲観的なだけではなくて、「闇の中にいるけれども、心の中には確かに光が残っている」……そんな精神的な部分をどう音楽で表現できるか、夜な夜な作曲家の方と話し合って生まれています。
……あまりこういった精神的な部分を語りすぎるのも、気が引けるんですけどね(笑)。でも、こうして語ることで、また皆さんから色々な解釈のお話が聞ける。それこそが、本作の在り方なのかもと思っています。

クリアしてどう思ったか語り合えるようなゲームに―「コミュニケーションツールになってほしい」
――今回やこれまでのイベント出展などを経て、ユーザーの反応はいかがですか?また、発売を楽しみにしているユーザーへのコメントもお願いします。
松浦氏:どのイベント会場でも、想像以上に多くの女性の方も本作を手に取ってくださるんですよ。アートワークやストーリー性のある作品を好意的に受け止めてくださっているのかもしれません。
この作品は、もしかしたら私たちが一方的に何かを伝えるというより、「皆さんの話が聞きたい」という思いから生まれている部分もあるかもしれません。「プレイヤーの皆さんの反応や感想が知りたくて作っている」という側面があります。
原作側の視点から思うのは、このゲームがプレイヤーの皆さんにとっての「コミュニケーションツールになってほしい」という願いです。クリアした後に、「お前はあの時どう感じた?」と、友人やSNSで語り合えるような作品を目指しています。
開発スタッフには「エレベーターで2人きりになるのが、他人の目が気になるから苦手」という人がいるのですが、こんな風にプレイヤーの皆さんがそれぞれ違うポイントで「わかる」と感じ、その共感の違いを楽しめるような作品になれば嬉しいです。
ぜひ、この奇妙な東京でのサバイバルを体験していただき、皆さんが何を感じ、どう考えたのか、その声を聞かせてもらえたら。それ以上に嬉しいことはありません。

――発売後にユーザーの感想を見て回るのが私も楽しみです!発売時期はいつになる予定ですか?
松浦氏:発売時期はまだ具体的に決めていません。今回はSteamという全世界に向けたプラットフォームで展開できることもあり、海外のプレイヤーの皆さんにとって最も届きやすいタイミングはいつなのかという点も考慮しながら、慎重に検討していきたいと思っています。
――本日はありがとうございました!
東映アニメーションとネストピによる『リバープロジェクト・トーキョー』は、2025年にPC(Steam)にてリリース予定。ゲームを遊んでどう思ったか、筆者も読者の皆さんと語り合える日が来ることがインタビューを通じてとても楽しみになりました!












