YouTubeにて、『The Elder Scrolls V:Skyrim』で最も有名かつ、ほぼ必須Modとされてきた「Unofficial Skyrim Patch(非公式スカイリムパッチ、以下USKP)」の歴史と、その活動を巡る長年の論争を紐解く長編ドキュメンタリー映像「Unofficial Skyrim Patch | Down the Rabbit Hole」が公開されました。
「バグ修正」の定義を問う―大守護石の変更

映像はまず、ベセスダ作品に付き物の無数の不具合、通称「ベセスダ・ジャンク」を修正するために生まれたUSKPの成り立ちを紹介します。しかし、その活動はやがて「何が“バグ”で、何が“開発者の意図”なのか」という問いに直面します。
その象徴的な事例が、序盤に登場する「大守護石」の仕様変更。原作では「盗賊の石碑」に弓術スキルへのボーナスが含まれていましたが、USKPチームはゲーム内他所の分類や公式ガイドブックを根拠に、これを「戦士の石碑」のカテゴリへ移動させました。
チームはこれを「バグ修正」と主張しましたが、一部のプレイヤーからは、この変更がバグ修正の範疇を超え、ゲームの遊び方にまで介入しているとの批判が上がりました。この変更は、当該仕様が「開発者の設定ミス」なのか、プレイスタイルの一つ「隠密弓使い」を補助するための「開発者の意図」なのかという議論へと発展しました。
開発者の意図を“補完”する修正―存在しないアセットの追加

USKPの変更は、次第に単なるデータ修正に留まらなくなっていきます。
NPCが「鉄鉱山」と呼ぶにもかかわらず、実際には貴重な「黒檀の鉱石」が採掘できた「レッドベリー鉱山」の事例では、USKPチームは鉱石をすべて鉄鉱石に変更。さらに、会話で言及される「赤い霧」がゲーム内に存在しなかったため、チームは独自に赤い霧のテクスチャを作成し、ゲームに追加しました。
この傾向はさらに進み、ゲームのメインクエスト序盤に登場するドラゴン「ミルムルニル」の事例では、字幕に対応する英語音声ファイルが存在しないという問題に対し、チームはコミュニティメンバーに依頼して新たなセリフを収録し、それを音声ファイルとして実装。
これらの事例は「バグを修正するために、原作に存在しないアセットを新たに追加することの是非」という、さらに踏み込んだ問題を提示しています。原作の不自然な点を「修正」するという名目で、Mod制作者がどこまでゲーム内容に介入すべきかという議論を巻き起こしました。
コミュニティとの対立と絶大な影響力

USKPは非常に有用であったため、多くのMod制作者にとって必須のMod(前提Mod)となり、コミュニティ内で絶大な影響力を持つようになりました。しかし、プロジェクトリーダーであるArthmoor氏の好戦的で独善的な姿勢は、コミュニティとの間に深刻な対立を生んでいきます。
映像では、ユーザーが望まない要素をModにバンドルして議論を巻き起こした事件やSkyrim VRコミュニティとの対立、Mod導入自動化ツール「Wabbajack」への抵抗、そして最終的に大手コミュニティサイトRedditから永久追放されるまでの経緯が詳細に描かれています。
新作『Starfield』では、この独占状態を避けるべく競合プロジェクトが立ち上がったものの、人員不足で失速。多くの反発を受けながらも、その巨大さと長年の蓄積により、Arthmoor氏率いる非公式パッチプロジェクトは今もなおベセスダのModシーンに君臨し続けているだろう、と映像は締めくくられています。
※UPDATE(2025/8/19 10:30):記事内の誤字を修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。








