構想9年、数々のトラブル乗り越え『マシンチャイルド』は如何にして生まれたのか。大槍葦人氏が語る“ギリ18禁じゃない”「娘育成ゲーム」【インタビュー】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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構想9年、数々のトラブル乗り越え『マシンチャイルド』は如何にして生まれたのか。大槍葦人氏が語る“ギリ18禁じゃない”「娘育成ゲーム」【インタビュー】

9年の苦難を乗り越えた熱き思いの一端に迫ります。

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構想9年、数々のトラブル乗り越え『マシンチャイルド』は如何にして生まれたのか。大槍葦人氏が語る“ギリ18禁じゃない”「娘育成ゲーム」【インタビュー】
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繊細な少女のイラストで知られる、イラストレーター・ゲームクリエイターの大槍葦人氏。氏が率いるサークル「少女騎士団」が、実に9年の歳月をかけて開発した娘育成シミュレーションゲーム『MACHINE CHILD(マシンチャイルド)』が、2025年9月5日、ついに発売の日を迎えます。

かつて『プリンセスメーカー』(以下、『プリメ』)に衝撃を受けた世代にこそ届けたい、という本作。その長い開発期間には、支援サイトや開発のトラブルなど、幾多の困難があったといいます。

Game*Sparkでは今回、開発者である大槍葦人氏に単独インタビューを実施。ゲームクリエイターとして自身のゲーム会社をすでに持っていた人間が趣味として始めたプロジェクトの紆余曲折、そして「娘育成ゲームのキモは、娘が可愛いこと」と語る氏のゲームに対する考えに迫りました。

俺の娘があまりにも可愛いすぎる!大槍葦人氏が“趣味で作った”娘育成SLG『マシンチャイルド』はキャラクターの魅力も遊びやすさもバッチリ【先行プレイレポ】

■趣味と“手弁当”で始まった『マシンチャイルド』

――本日はよろしくお願いします。『マシンチャイルド』の開発構想は2010年代からと伺いました。改めて娘育成ゲームを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

大槍葦人氏(以下、大槍氏):ゲーム会社(Littlewitch)をやっていた頃から、ずっと作りたいという思いはありました。それこそ私が過去に手掛けた『少女魔法学リトルウィッチロマネスク』も育成系のゲームですが、『プリメ』のような、強いアダルト表現を含まずに娘を育てるゲームは、ビジネス的に成立させるのが難しいと当時は思っていました。

――当時はまだ、今ほどインディーゲームの市場も大きくありませんでしたね。

大槍氏:ええ。この企画を立ち上げた9年前も、世の中に娘育成ゲームというものがほとんどなく、『プリメ』シリーズも(企画の時点では)続いていなかったので「作っても無理だろうな」という気持ちはありました。だけど、作りたいから会社とは別枠で趣味で作ろうと。最初はそれこそ手弁当で、予算も500万円くらいで作れればいいな、という感じだったんです。

――最初は小規模なプロジェクトだったのですね。

大槍氏:伝統的な娘育成ゲームのスタイルというより、当時流行っていた『クッキークリッカー』みたいなゲームでもいいかな、くらいの企画でしたね。『英雄*戦姫』の仕事が一段落した後で、「ゲーム作ってないとつまんないな」と思って始めたのがきっかけです。

■開発の難航からのプロジェクト中止寸前に…壮絶すぎた開発前半

――開発資金はユーザーさんからも支援していただく、というお話も当時ありました。

大槍氏:正確には「Enty」というクリエイター支援サイトを利用しました。実は、結構な支援をいただけていて「これだけでゲームが作れるな」と思ったのですが、その運営会社が身売りして、そこから2年ほど入金が全くされなくなってしまったんです。

――それは大変なトラブルですね……。

大槍氏:ファンからは「こんだけお金集めてるのに開発が全然進まない」と言われ、でもこちらには入金がない。この状況を言うと炎上するだろうし…と、しばらく様子を見ていたのですが、耐えられなくなって「入金がないので、このサイトでの支援募集はやめます」と宣言しました。最終的には自己資金で完成までこぎつけましたね。

発売に至るまでの本作の総開発費は多分5,000万円くらいがかかっていて、そのうち1,000万円ぐらいが支援でなんとかなった、という感じです。一定以上のご支援をくださった方にはゲーム自体を無料でプレゼントする予定ですので、最終的な結果としては大赤字になる可能性をまだまだ覚悟していますね(笑)。

――発売を目前にした反響についてはどうでしょう。

大槍氏:インディーゲームは宣伝しても紹介してもらえないという話を聞いていたので、発売日ぎりぎりで露出を狙って認知してもらうためのプレスリリースを書いていたのですが、各メディアさんが一斉に取り上げてくださって。うれしいなと。

――開発にもトラブルが多かったと伺いました。

大槍氏:本当に色々ありました(笑)。最初はお話しした通り、『クッキークリッカー』を拡張したようなリアルタイムのゲームを考えていたのですが、そもそも「娘育成ゲーム」ジャンルのゲームのイメージとか面白さのイメージの齟齬が大きかったんですよね。そのうえでリアルタイム要素もあったものなので、その差異がどんどん広がってしまっていました。

結果として、4~5年前かな、一度はプロジェクト存続の危機となってしまって。

元のスタッフもベテランの方々がそろっていたのですが、個々人のご都合や、やむを得ないトラブルなどもあり、実際の進捗がほぼ進まず、みたいなことになってしまっていたのです。

――名だたるベテランの方々が……。

大槍氏:そうなんです。初期の3~4年は、プロトタイピング段階での苦戦やそういったトラブルで食われてしまいました。当時の制作進行担当の子には「もう諦めましょう、無理です」と言われてしまったんですが、彼の立場だったら僕もそう言うだろうな、という状況でしたね。

――そこから、どうやってプロジェクトを立て直したのでしょうか。

大槍氏:僕の中では「絶対作れる」というゲームのイメージはありましたし、何より自分で描いた絵を無駄にしたくないという気持ちもありました。

そこで4、5年前に、僕が完全に主導権を握る形にして、ゲームシステムもリアルタイム進行からターン制へと方針を一気に変えました。そこから本当に身内の若いシナリオライターをメインに据えて、ようやくうまく回り始めたという感じです。

インディーズゲームって特にそうだと思うんですけど、これが自分のゲームなんだと考えて、「自分が面白くするんだ」っていう人が中心にいないと、本当に製作が進まないんですよね。作り直すまでは、結局そこで悪いループに入ってしまっていました。

■娘育成ゲームのキモは「娘が可愛いこと」―ブレなかったゲームデザイン哲学

――様々な困難があった中で、大槍さんが考える「娘育成ゲームの肝」はどこにあるのでしょうか。

大槍氏:それはもう「娘が可愛いこと」、これに尽きます。育てている子が可愛い、ひたすらそれだけ。その可愛い子との生活や一定期間の思い出が、エンディングで昇華される。それが娘育成ゲームの美しさだと思うんです。だから逆に、シナリオ的なギミックはあまり入れないようにしました。

――物語の連続性よりも、日々の出来事を重視したと。

大槍氏:ええ。世界に実際に色々な人たちがいて、様々な価値観を持っている、その“厚み”が見えればいいなと。

――いわゆる「スライス・オブ・ライフ(日常の切り取り、転じて海外における「日常もの」を指す言葉でもある)」ですね。

大槍氏:シナリオライターには「ゲームが終わった時に“こういうことあったな”と思い出になるような、短いけど印象に残る話が一番いい」と伝えました。700個以上あるイベントの一つ一つが、プレイヤーにとって娘との思い出になってほしかったんです。

プレイが終わった後に、「自分にとっての本作はこういうゲームだったんだな」と思い返せるようなものが良いなと。この子を育ててよかったなとか、あの子はお嫁に行ったけど幸せになってるだろうか、とか。父親としての気分をやっぱり味わってほしいですね。

――システム面でも、当初は複雑なものを想定されていたとか。

大槍氏:現状でも、今ある娘育成ゲームのどれにも特に似てないものになったな、という印象だったりしますが、最初の構想段階では『シヴィライゼーション』のようなランダム性や、勢力値みたいなものを入れたかったんです。

あるイベントをこなすと、教会での人気は上がるけど街のゴロツキには嫌われる、みたいな。でも、ゲームが難しくなりすぎて、ストラテジー好きには受けても、ただ娘を愛でたい普通の人がクリアできないゲームになるなと思ってやめました。

今はイベント類にマイナス要素はなく、ひたすらプラスにしかならないようになっています。イベントは700個近くが用意されているので、それらをどんどん選択して娘を成長させていきます。能力を上げるとスキルの習得も早くなるので、スキルツリーで新たなスキルを取ることでさらなるイベントを発生させて、という感じです。

――当初は子育ては親の思い通りにいかない、というお考えからランダム性も重視されたかったそうですね。

大槍氏:僕の持論であり、実際の子育ての実感でもありますからね(笑)。イベントの報酬の能力値変動を全部ランダムにしたかったんですが、「運ゲーすぎてゲームにならない」と止められまして(笑)。

今のシステムは、その中間地点に落ち着いた、絶妙なバランスになっていると思います。テストプレイの範囲では、全く娘育成ゲームを触ったことがない方でも、1週目からそこそこのエンディングに到達できるかなと思っています。

■“ギリ18禁じゃないエッチさ”と200種の着せ替えへのこだわり

――本作は全年齢対象ですが、少し“お色気”の要素も感じます。これは意識されたのでしょうか。

大槍氏:そうですね。かつての『プリメ』や90年代のガイナックス作品が持っていたようなPCゲームのパワーや、「ギリギリ18禁じゃないエッチさ」は入れたかった。あのラインを狙っています。

個人的には、このジャンルはアダルトではなくても「お色気」がないとダメでしょ、と思っています。

ちなみに、実は非アダルトで作ると発表した時から「18禁にしてください」という声が今でもずっとあるんですが、もう今作では世界観的にできないです(笑)。

――着せ替え衣装の数が約200種類と非常に多いのも驚きです。

大槍氏: 僕が着せ替えが好きなので(笑)。ただ、特定の服だけが強い、となるとそればかり着せることになってしまうのが嫌で、どの服を着ても能力面ではほぼ変わらないようにしました。

さらに、お気に入りをいくつか設定しておけば、娘が毎ターンその中から勝手に着替えてくれるシステムも入っています。また、イベントによっては自動的に適切なものに着替えてくれるケースもあります。衣装のお気に入りランダム設定は娘育成ゲームではあまり見ないシステムだと思いますので、好きな服を好きなように着せてあげてほしいですね。

服装のデザイン面では中世ファンタジーっぽい世界ではありますが、一番ベーシックな装い以外では、バニーガールとかスクールファッション、ビキニなど好きに描かせていただいています。

――今回ヒロインとなる3人についてはどのようにキャラクターデザインが決まっていったのでしょうか。

大槍氏: 最初にいくつもの案を作ったうえで、アンケートで決めていったんです。自分自身の好みだけで言ったら、決定した3人以外でもありかなと思えるところはあったのですが、あんまり個性が尖っていない方が逆に娘育成ゲームとしてはいいのかなと思っています。

娘のデザイン案。実際に登場することになったのは1、9、10番の娘。なお、このイラストの1番の娘の衣装は『プリメ2』パッケージのオマージュだとか

■Steam版も進行中

――今後の展開として、Steamでのリリースは考えられていますか?

大槍氏:Steam版は最初から作る前提で、ストアページの各種アセットを作ったり、レーティング対策に露出度を下げるため、キャラクターに黒タイツを履かせまくる、といった修正も進めていました。(編注:「規制解除パッチ」などの可能性については、審査にも影響する部分であるため本記事では触れていません。ご了承ください)

ただ、昨今のSteamの審査は非常に厳しいので、どうやれば審査を通過できるかという懸念があります。これはパブリッシャーとも慎重に話しているところです。

■“ギリ18禁じゃない”路線の新作の可能性も…?

――もし本作がヒットすれば、次回作の可能性も?

大槍氏:めちゃくちゃ売れたら、もう作らざるを得ないでしょうね(笑)。メディアの皆さんにもよくしていただいて、スタッフも「もしかしたら売れるのか…?」みたいな雰囲気になっています。

というわけで今作が売れたらこの路線の新作も「作るよね」という話にはなっていますが…まだ狸の皮算用ですね。僕はまだ売れるとは信じてないです(笑)。

――最後に、発売を楽しみにしているゲーマーへメッセージをお願いします。

大槍氏:本作の主なターゲットは、かつて『プリメ』が好きだった人たちでもあります。

あの時、子育てゲームというものを初めて知って、すごく面白いと感じた。『プリメ』を遊んだことがある人には「あの世界だ」と感じてほしい。もちろん初めて遊ぶ人にはその感覚を味わってほしいと、そう思って作りました。

ぜひ、可愛い娘を育てるのがいかに幸福か、ということを思い出してほしいです。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

構想から9年、その道のりは決して平坦ではなかった『マシンチャイルド』。しかし、大槍氏の「可愛い娘を育てたい」という初期衝動と情熱は、幾多の困難を乗り越え、ついに一本のゲームとして結実しようとしています。かつてブラウン管のディスプレイの向こうの“娘”の成長に一喜一憂した全てのプレイヤーに、本作は届くのでしょうか。

『マシンチャイルド』はDLsiteにて、Windows PC向けに2025年9月5日に3,300円(税込)で配信予定です。


インタビュアー/ライター:Arkblade,編集:Akira Horie》

インタビュアー/関連業界のあちこちにいたりいなかったりしてる人 Arkblade

小さいころからPCゲームを遊び続けて(コンソールもやってるよ!)、あとは運と人の巡りで気がついたら、業界のあちこちにいたりいなかったりという感じの人に。この紹介が書かれた時点では、Game*Sparkに一応の軸足を置きつつも、肩書だけはあちこちで少しづつ増えていったりいかなかったり…。それはそれとしてG*Sが日本一宇宙SFゲームに強いメディアになったりしないかな。

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Akira Horie

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