『レッドシーズプロファイル(Deadly Premonition)』『The Good Life』などで知られるゲームクリエイター・SWERY氏と『シルバー事件』『ノーモア★ヒーローズ』などで知られるゲームクリエイター・須田剛一氏……コクのあるカルト作品を作り上げてきた彼らがついにタッグを組みました。
生まれた作品は『HOTEL BARCELONA』。殺人鬼の魂を宿した女性保安官が、血みどろになりながら極悪指名手配犯を殺しまくるというあまりにもB級な設定のローグライト・アクションです。

ゲーム部分には粗がありましたが、彼らの得意とするサブカルチャーへの偏愛と、それらをマッシュアップして新しいストーリーを組み上げていく姿勢は今回も感じられました。
キレッキレのシナリオと演出
本作はジャスティーン・ベルシュタインという保安官を主人公にしたローグライト・アクションです。気弱でビビりな彼女ですが、ウィッチと呼ばれる存在に親を殺されており、その仇を討つためにこのホテル・バルセロナにやってきました(バルセロナと言いつつ、ペンシルベニアとウェストバージニアの州境にあります)。しかしながら、何らかの影響によって、彼女は早々にループに囚われてしまいます。
そして、このホテルと近隣のレジャー施設には何人ものシリアルキラーたちが巣食っており、どうやら彼らを倒さなければループから解放されないようです。

さらに、彼女自身も「Dr.カーニバル」という殺人鬼と魂を共有しており、彼の力を借りて戦うことができます。もうこの時点で設定テンコ盛りZ級ホラーの香りがプンプンしますが、本編もずっとこのノリが続くのでご安心を。

拠点となるホテルにはさまざまな人物が集まっています……とはいっても、まともな人間は行方不明の妹を追いかけてこの地にやってきた山岳警備隊のモニカ・ロドリゲスくらいで、クローゼットに詰まったオバケとか、やたらと都市伝説が好きなコンシェルジュとか、人の耳を集めているバーテンダーとか、心臓を欲しがっているピエロとか、アクの強い連中ばかりです。

彼らそれぞれに、武器の販売やアップグレード、資源の交換に縛りプレイの設定などを担っていますが、それよりも面白いのは彼らが語ってくれるロアです。この呪われた地に引き寄せられたシリアルキラーにまつわる噂は、ビビりなジャスティーンを震え上がらせます。
ローグライトアクションの出来について
そんなホテルから一歩出ると、そこはシリアルキラーたちの領域。何故か襲い掛かってくるザコたちをギタギタにのしながら、ボスのいるエリアまで向かいます。ステージの構成は完全に固定で、選んだドアに付いているボーナス(体力回復、移動速度上昇など)がランダムで変わるだけです。

本作の目玉が「スラッシャーファントム」というシステムです。これは前回のジャスティーンの行動が保存・再生されるもので、赤い影になったジャスティーンが今回のジャスティーンと一緒に戦ってくれるわけです。

正直言って、このシステムの存在意義はなかなか怪しいところがありました。
そもそも、前回の自分の行動とシナジーがある動きなんて取れるわけもなく、たまたま同じタイミングで同じ敵を殴り、ササッと倒せることがあるというだけで、能動的にゲームプレイを組み立てている感覚はありません。画面の端でファントムが空振りしているだけ……という状況も少なくないです。

前と同じドアを選ばないとファントムが消えてしまうので、マップ攻略を妨げているのも問題です。そもそもマップ自体に面白い仕掛けがあるわけでもない割に高低差があり、落下した先が奈落や水溜まりだった……みたいなこともあります(一応右スティックで確認はできますが)。
ボスも、デザインこそ素晴らしいものの「再入場チケット」というボス戦がやり直しできるアイテムを積んで、スラッシャーファントムを何体も作って無理矢理殴り倒すことができてしまうので、ギミックバトルをしている感覚が薄いです。

いくつもの武器や難易度が用意されていたり、「返り血ブースト」という高速で敵を倒しまくるほど強くなるシステムはアグレッシブで良かったりするのですが、根幹の部分が荒いせいで、ローグライトアクションを充分に堪能することができないのが残念でした。
アメリカ映画の語り直し
とはいえ、筆者がSWERY氏や須田剛一氏の作品に期待してきたのは、アクションの完成度や、ゲームデザインの秀逸さではありません。
本作の舞台であるホテル・バルセロナ。描かれているテーマや、ホテルの内観から鑑みるに、映画「シャイニング」を意識しているようです。実際、SWERY氏も「シャイニング」に登場した武器に似せたものを登場させている、と発言しています。
SWERY氏と須田剛一氏は兼ねてから、映画やドラマ、洋楽といったサブカルチャーを自身の作品に登場させてきました。特にSWERY氏は、代表作であるゲーム『レッドシーズプロファイル(Deadly Premonition)』、小説「ディア・アンビバレンス ~口髭と〈魔女〉と吊られた遺体」で、ドラマ「ツイン・ピークス」を下地にしています。
しかしながら、ただのサンプリングではなく、二作とも「ツイン・ピークス」とはまったく別の作品に仕上がっています。“同じような題材と展開に見せかけて、実はオチまでちゃんと独自のストーリーを用意する”ことに、強いこだわりがあるように感じます。
本作『HOTEL BARCELONA』も、ただの「シャイニング」のクローンではなく、そして単なるB級ホラーの詰め合わせでもなく、独自のシナリオが展開していきます。

ビデオゲームは黎明期から名画や有名な映像コンテンツからフレーバーを借りてくることで進化してきたメディアです。彼らもその流れのなかにいる作家だとは思いますが、自分たちを作り上げてきたカルトクラシックへの偏愛と、それにオリジナリティを足していくことへの勇気と、ゲームデザインに対するあっけらかんとしたアティチュードと、今回も独特なクリエイティビティを感じました。














