Supergiant Gamesのスマッシュヒットといえる『Hades』の続編となる『Hades II』が9月25日に正式リリースとなりました。ギリシャ神話をテーマにしたクォータービューのローグライトアクションゲームという基本的な要素はそのままに、主人公メリノエの“魔女”らしい新たなアクションによってより戦術の幅が広がったゲームとなっています。
前作からキャラクターがとにかく喋りまくる驚異のテキスト量が魅力の一つでしたが、それももちろん健在。恒久強化の要素も取捨選択が楽しいものになっており、様々な点でブラッシュアップされた続編となっていました。
本レビューの執筆にあたり、筆者は発売前にニンテンドースイッチ版の製品をいただいてプレイしています。また、早期アクセス時点でのプレイはしておらず、正式リリース後の初プレイとなります。
ザグレウスとは違う、魔女「メリノエ」ならではのアクション

扉に表示されている報酬を見て次に行く区画を選択し、敵を掃討し報酬を受け取る。報酬で自身を強化して、また次の扉に入り、エリアの最後に待ち受けるボスを倒す。途中で倒されてしまったら、最初のエリアからやり直し。
こういった、ゲームの基本的な流れは前作『Hades』とおおむね同じです。しかし、本作は主人公がザグレウスから、その妹「メリノエ」に交代しており、おもにアクション面でことなる遊びを実現しています。

メリノエの最大の特徴は、新たなアクション「魔陣」を使えること。魔陣はステージの中に設置する円形の魔法陣のようなもので、ここに足を踏み入れた敵はほとんど移動ができなくなります。その隙に遠距離攻撃やリーチの長い武器で攻撃して掃討。これが本作の基本的な立ち回りです。
魔陣に引っかかった敵は依然として、攻撃など移動以外の行動は行ってきますが、魔陣はデフォルトでかなりのサイズですし、多くの敵がそこから移動できなくなるのはシンプルに強い。しかし、メリノエが最初からこういった強力な技を持っている分、敵の攻撃は前作よりも苛烈になることでバランスを取っている印象でした。

そして、この魔陣もメリノエに力を貸してくれる神々の「功徳」によって強化できます。功徳とはその周回きりのアップグレードのようなもので、しっかりと取捨選択をすることでメリノエを効率よく強化していく、ローグライトならおなじみの要素です。
たとえば、「通常攻撃を当てた敵に、数秒後にダメージを与える落雷を降らせる呪詛を付与」するゼウス神の功徳。「周囲にいる敵に腕力低下の呪詛を付与し、その敵の近くにいる間マナを回復」するアフロディテの功徳など、様々な功徳が存在しています。
魔陣に関する功徳としては、魔陣に入った敵に呪詛を与えるものや、魔陣の範囲を拡大するものなど、これもさまざまな効果が用意されています。足止めできるというだけでも強いのにこんなことまでできちゃっていいの?と思いますが、ちゃんとステージ後半では余裕で苦戦します。

攻撃のアクションとしては、新たなステータス「マナ」を消費して放つ「Ω技」が追加されています。武器ごとにYボタンで通常攻撃、Xボタンで特殊攻撃と、二種類のアクションができるのですが、ボタンを長押しすることで「Ω通常攻撃」、「Ω特殊攻撃」に派生させることが可能です。
たとえば、メリノエの初期装備である「魔女の杖」はリーチと手数に優れた使いやすい武器ですが、Ω通常攻撃では直線上に前後の敵を掃討する範囲攻撃を放つことができます。Ω特殊攻撃では敵をホーミングする魔法弾を発射可能。
これらのアクションを適切に使い分け、被弾を最小限に抑えていく戦闘は前作以上に戦術的になりました。筆者としては、やはり「魔陣」の面白さが本作の手触りに大きく貢献していると感じています。

恒久的強化要素は前作とは仕様がことなっており、限られたコストの中から自分に合った強化を選んで付与する「魔札」というシステムに変わっています。
たとえばコスト1の「Ω技のチャージが早くなる」やコスト4の「死神騙し(復活)を持った状態で出発」など、さまざまな効果があり、コストが多いほど強力ですが、当然枠を圧迫します。コストの上限や、各魔札は周回で手に入れた素材で強化可能です。
ローグライトの作品ではおなじみの恒久的な強化要素ですが、取捨選択があることで武器との組み合わせを含め自分なりのビルドを構築できるのはちゃんと楽しい。それでいて周回ごとに少しづつ強くなっていく要素もしっかり兼ね備えており、隙がありません。
あれ?ゲーム2本分ある…?高難度な追加マップで大ボリュームに
メリノエの目的は、冥界を侵攻した時の神「クロノス」を倒し家族を取り戻すこと。家出息子ザグレウスと父ハデスによる親子喧嘩だった前作と比べて、より切迫したストーリーが描かれます(とはいえ、クロノスはハデスの父なので、本作も叔父さんと孫娘との喧嘩と言うこともできなくはないです)。

そのため、基本的にはクロノスに奪われた「冥府」へと向かう道中がメインのマップとなっているのですが、途中でとある目的からメリノエは「地上」へも向かうことになります。地上はボスもフィールドもことなる追加マップのようなもので、メインのマップと同等以上のボリュームを持つコンテンツとなっていました。
ずっと同じステージ、同じボスを何度も周回させられるのがコンテンツのほぼすべてだった前作と比較して、メインのマップと同等のボリュームのステージとボスが追加されているというのはかなり嬉しい部分。地上マップで新たに現れる神々やNPCも多数登場しており、彼らに関するイベントやテキストも多数追加されます。

しかし、この地上マップ、通常マップよりもはるかに高い難易度であり、非常に険しい道のりです。いきなり難易度が上がり過ぎでは…?と思ったのですが、このマップはどうやら早期アクセス中にアップデートにて追加されたもののようで、早期アクセスをやり込み、恒久強化を一通り終えたようなプレイヤーに向けたような調整なのかもしれません。
緻密なアクションゆえに、何十回もの周回数を受容しきれるほどの遊びの多様さに欠ける
この地上マップの最終ボスを複数回倒すことがストーリークリアには必須となっています。具体的には、通常マップの最終ボスを6回以上、地上マップの最終ボスを5回以上倒すことがクリアには必須という形です。もちろん、そもそも各マップの最終ボスを倒す前に敗北することも多いわけで、実際には何十回もの周回が必要になります。
それだけの周回を要求するローグライトなのであれば、同じ敵と何十回も戦うことになってもなお、ビルドによって周回ごとに新鮮な遊びが構築されるというのが理想です。しかし、それを実現できているとはいいがたいというのが正直なところです。

これは、本作のボスの行動や主人公のアクションがしっかりと練られていて、アクションゲームとして高い品質であるからこその弊害のように感じられます。さまざまな武器や魔札、功徳によって上手くシナジーを生み、火力が上振れたとしても、アクションゲームとしてその敵の行動パターンを覚え、隙を見て適切に攻撃を入れ、しっかり攻撃を避けるという対処をしている時の“遊び”はほとんど同じです。

ボスの戦闘もフェーズ分けされており、一定量の体力を削ると一定時間ボスが無敵になり、次のフェーズに以降したり、その間に特殊な攻撃を行ってきたりします。そのため多少有利なビルドを作ったとしても、ボスの毎回同じ行動に毎回同じ対処をしないといけないというのはほとんど変わりません。
ボス戦において重要なのは、その先のためにどれだけ被弾を抑えられるかですが、このゲームにおいて被弾を抑えられた理由の大半はビルドによる恩恵ではなく敵の攻撃にちゃんと対処できたことにあります。

本作のローグライトとしての遊びの幅を狭めている要因は、上述したように、こういったアクションゲームとしての緻密さ、タイトさゆえであるように思います。では、仮にこれをどんどんとアバウトなアクションにしていくと……最終的には『Vampire Survivors』のようなローグライトに行き着くのかもしれませんが、それが『Hades II』にとって正解ではないことも事実でしょう。
ローグライトとしての多様さを取るか、アクションゲームとしてのタイトさを取るかで『Hades II』が後者に振れたのならば、少なくともストーリークリアに要求する周回回数はもっと少なくなければいけなかったように思います。
とはいえ、同じマップを10回クリアしなければいけなかった前作と比べて、マップが2つに増え、各マップのクリア回数も5回ほどに減っているのは確実に冗長さの軽減につながっています。ですが、地上マップの難易度の高さゆえ、結果的に要求される周回回数は前作以上かもしれません。
相変わらずのテキスト量。プレイヤーのインタラクションに逐一反応してくれるリッチな作り

『Hades』の楽しさはローグライト要素よりも、ギリシャ神話をテーマにした魅力的なキャラクターたちによる掛け合いにあると考えている人も多いかもしれません。『Hades II』もその期待にしっかり応えてくれる作りとなっており、相変わらず英語のフルボイスによる膨大なテキストが待ち受けます。

これらのテキストはギリシャ神話をベースにしているからこそ盤石な設定のもとに支えられています。たまに、ギリシャ神話が分からないせいで置いてけぼりを食らっている感もありましたが、プレイヤーにわざわざ説明しない、プレイヤーが居なくても世界が回っている感じはとても好み。
ベースはギリシャ神話ならではの複雑な家族関係の話なので、あまり詳しくなくても誰でも共感しやすいというのもテキストの面白さにつながっています。と同時に、今回はクロノスとの全面戦争といった話でもあるため、前作よりも熱い展開が多くなっています。

このテキストの多さこそが、本作の周回において最大の救いとなります。何十時間もプレイし、何十回も挑んだボスが、まだ新しいことを言う。プレイヤーの持っている武器や行動、ステータスに反応を示すこともありますし、もちろん周回を終えて帰ってきた拠点のNPCもこれでもかというぐらい喋りまくります。
当然ストーリーが進行すればみんな新しい反応をしてくれるのですが、本作はローグライトなので、クリアできずに帰還することも多く、そういう場合であっても飽きさせないようにとさまざまなイベントが用意されています。

しかし、このテキスト差分の膨大さが、逆に本作の要求する周回数の多さの要因になっている部分もあるのかもしれません。キャラクターを生き生きと描くことに注力しているこのテキスト群の魅力は、少ない周回数では伝わりきらないように思います。
ついに早期アクセスを終え、正式リリースとなった『Hades II』。前作『Hades』同様、コミュニティのフィードバックを受けながらしっかりとブラッシュアップされていったおかげか、アクション、アート、キャラクターや成長要素などさまざまな面で隙のないゲームに仕上がっていました。新たなアクション“魔陣”や“Ω技”は前作以上に戦術の幅を広げており、それらを存分に試せるチャレンジングな追加マップの存在も嬉しい部分です。
しかし、ストーリークリアのために必要な周回数が必要以上に多いという問題は前作と同様。その長時間のプレイを受容できるほど、周回ごとに多様な遊びを提供してくれるローグライトゲームにはなっていないというのが正直なところです。その冗長さを補いうる、魅力的なキャラクター達による膨大な“テキスト差分”にときめくことができればそこまで苦にはならないかもしれませんが、それは根本的な解決ではないように思います。
Game*Spark レビュー 『Hades II』 PC/ニンテンドースイッチ/ニンテンドースイッチ2 2025年9月26日
新たな戦術と魅力的なキャラクターを持つ高品質アクションゲーム―しかし、アクションとしての緻密さゆえに要求される周回数の多さが弱点として際立つ
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GOOD
- “魔陣”や“Ω技”によるメリノエならではの戦術的なアクション
- 取捨選択の楽しさと周回を重ねるごとの難易度緩和を両立する恒久強化要素
- ギリシャ神話をテーマに、より魅力的に解釈されたキャラクター達
- 周回の冗長さを軽減しうる、毎回反応がことなる膨大なテキスト
- 『Hades』2個分と言えてしまう大ボリュームのマップ
BAD
- アクションとしての緻密さゆえにビルドによる遊びの幅が狭い
- 遊びの幅の狭さに対してストーリークリアに要求される周回数の多さ
※UPDATE(2025/10/17 11:39):総評部分の誤りを修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。











