本稿はゲーム内容及び背筋氏の著作に関する記述を含んでいます。
閲覧の際にはご注意ください。
KADOKAWAが開発およびパブリッシングを手掛ける、注目のホラーゲーム『まだ猫は逃げますか?』がPC(Steam)向けに10月27日リリースされました。
本作の特徴は、名もなき「猫」を操作して誰もいない民家を探索し、怪奇現象の真相に迫るという“猫視点”のステルスホラーゲームです。

また本編のシナリオを担当するのは、ホラー小説「近畿地方のある場所について」で一躍人気となったホラー作家の背筋氏。本著は、投稿サイト「カクヨム」にて発表されたちまち話題を呼び、書籍、映画、ゲームなど様々なメディアで展開されている人気作です。
そんな背筋氏の魅力といえば、作品の細部にちりばめられた「不穏な要素」の数々で、それが読者に考察を促す「謎解き」に繋がっています。さらに、現実と虚構が入り混じるモキュメンタリー的な手法や、日常に潜む違和感や不気味さなど「ジリジリと迫る恐怖」を描き出しているのが特徴です。

というわけで今回は、そんな背筋氏が手掛けた新作シナリオの魅力や小説との違い、「らしさ」などについて、本編ゲームプレイを交えながらお届けしたいと思います。
◆「猫視点」で進める探索と不気味なシナリオがじわじわ怖い


本編を開始する前に、まずゲーム設定を見ていきましょう。本作は、日本語に対応しているほか、操作方法はキーボード&マウス、およびパッドコントローラーが使用できます。操作感度やXY軸の反転、BGM音量の調整が行えます。
また明るさや解像度、画質、画面の揺れなどグラフィック全般の設定も可能で、基本的な項目がしっかりと揃っています。
ちなみに、正直にいうとゲームプレイにおける視点移動や操作性の出来があまり良くありません。Steamレビューでも多数指摘されており、たとえば視線移動の加速をオフにできないため、マウス・パッドどちらもかなり操作しづらかったり、一人称視点から場面によって三人称視点に切り替わる仕様となっているので、とにかく画面酔いしやすかったです。
いちおう画面酔い対策として、「カメラの揺れ」「被写界深度」「視点の安定化」といった設定項目がありますが、完全に防ぐことは難しく、快適なプレイ環境であるとは言えなかったのが残念でした。



さて、設定を終え本編スタート。冒頭のムービーが流れてきて、今作の主人公である「猫」が登場します。日向ぼっこしながらゴロゴロしている様子がとても可愛らしいですね。首輪をしているので、おそらくこの家の飼い猫でしょうか。
陽のあたる縁側、仏壇のあるリビング、玄関などが映し出され、舞台が民家であることがわかります。よく観察してみると、テーブルの湯呑みや並べ置かれた靴があり、家族が住んでいると思われます。しかし…家の中はなんだか閑散としており、誰もいない様子。

とくに変わった感じはしないな、と思っていたところ、仏壇から突然黒いモヤのようなものが…!それに包まれて画面は真っ暗に。


暗闇の中で、操作チュートリアルに入ります。操作は非常にシンプルでWASD/スティックで左右移動、LBボタン押しで走ります。加えて、特徴的なのが一人称視点ならぬ「猫視点」に切り替わったことです。パッと見普通の一人称のようですが、人間の目線より低い位置であったり、ネコ耳が画面手前に見えていたり、猫の視線となっていて没入感があります。
そして光の射す方へ進んでいくと…



「包丁の突き刺さったスイカ」や「板を打ち付けてある扉」「お地蔵さん」など、明らかに先ほどの民家とは違った異様な雰囲気に変貌しました。それに気づいた猫も不安そうに辺りを見回しています。



続いてゲームプレイのチュートリアルの説明を受けます。まず、画面右上には制限時間を示すアイコンが表示されており、時間が進んですべて赤くなるとゲームーオーバーになります。
そして、家の各所には家族にまつわる「記憶」が読めるアイテムが散らばっており、すべて集めるとゴールが解放される、という仕組みです。ちなみに、アイテムは白色で強調されているので発見しやすくなっています。
つまり、制限時間以内にステージを探索し、アイテムを見つけ出すのが本ゲームの目標で、操作同様とても単純明快な作りになっています。


チュートリアル画面を閉じると本番開始で、さっそく時間が進んでいきます。特定の場所に焦点を合わせると、「ジャンプ」や「調べる」ボタンなど各アクションを実行できます。
キッチンに飛び移り、4本の包丁が突き刺してあるスイカを調べてみると…。

記憶が再生され、祖母と子供の断片的な会話を読むことが出来ます。会話によると、孫の美香が家を訪れ祖母がスイカを出そうとしていることが分かります。


こうして家の中をくまなく見て回りますが、突然何かを殴ったような大きな物音がしたり、天井にびっしりと御札のようなものが貼り付けてあったり…誰もいないはずの空間は不気味さを増してきます。
それに「記憶」における短い会話は、一見何事もないようなものに見えながらどこか不穏な空気を含んだ内容で、背筋氏らしい“日常を徐々に侵食していくリアリティ”をヒシヒシと感じます。


玄関すぐの居間には、最後の「記憶」アイテムである古びた柱時計が落ちていました。祖母に、三時を知らせる鳩が出てこないのかと尋ねる子供でしたが、「もう三時を過ぎたから出ないよ」と説明する祖母。それでも早く見たいとせがむ子供に、「ごめんね。ばあばでも時間は戻せないんだよ」と意味深な発言で諭します。これはいったいどういう意味なのか…。
さらに不気味なのは、時計の針がなぜか「2時15分」で止まっていること。こんな風に、何気ない会話の中にサラッと不穏な要素や謎が散りばめているので、色々とストーリーについて想像が膨らみます。

記憶をすべて集めたのでゴールが解放されます。あとは、ここに行くだけです。


しかし、ステージには「謎の男」が登場し、猫を執拗に追いかけてきます。この追跡者に捕まらないようプレイヤーはゴールまで慎重に逃げなければなりません。もちろん、捕まれば即ゲームーオーバーです。


追跡者は、猫の姿や音を感知すると素早く近づいてくるので、走り抜けて別の部屋に行くか、「隠れる」場所を見つけてやり過ごすか判断します。


一定時間じっと動かず隠れていれば逃げるチャンスが生まれます。たとえ見つかってしまっても、捕まる前に隠れたらセーフなので、ステルス要素の難易度は高くなく、アクションが苦手なプレイヤーでも安心して遊べます。ただし、熟練のゲーマーにはやや物足りないかもしれません。
とはいえ、こちらに向かってくる足音や襲いかかってくる姿が非常に不気味で、しっかりとホラーゲームとしての恐怖を感じれたのは良かった点でした。


ここで気になるのは、追跡者の「正体」です。怪奇現象の数々も、おそらくこの追跡者と何らかの関係があるはず。その証拠に、ステージには追跡者と似たような姿をした「遺影」があり、祖母が“あの人”の仏壇に手を合わせるよう、香織(子供の母親)に促す描写があります。
また、奇妙なカレンダーの「記憶」アイテムを読むと、子供が「パパにはいつ会えるの?」と母親に尋ねるますが、「パパは出張に出ているから会えないよ」と返します。
なぜ、遺影の写真と追跡者の姿に共通点があるのか、なぜ「パパ」は出張から帰って来ないのか…その意味を考えれば考えるほど、身体がゾクッとするようなジリジリとした怖さを味わえました。

そして、なんとか追跡者から逃れてゴールにたどり着きステージクリア。直後モノローグが表示され、少しづつ今回の事件の真相が語られていきますが、まだまだ謎は深まるばかり。物語の全容はぜひプレイして確かめてみてください。
総じて本作は、操作性や視点移動などに難がありましたが、「猫目線」で探索して記憶を集めていくというユニークなシステム、背筋氏らしさ全開の考察しがいのある“ジワ怖”なシナリオが融合した良作ホラーゲームでした。

ゲームプレイは慣れれば単純かつ難易度は低いほうであるし、一周のクリア時間も小一時間程度なので、短編小説を読むようにカジュアルなプレイが楽しめるかと思います。
◆ゲームと小説の「相違点」と「共通点」。本編には背筋氏の“新たな魅力”が詰まっていた

多くのホラーファンを魅了する背筋氏ですが、筆者もそのひとり。ここでは、拙考ながら本ゲームと小説における背筋氏の「共通点」および「相違点」、そして本編で感じた「新たな魅力」について記します。
まず共通点ですが、背筋氏の魅力は冒頭でも触れたように、「謎を散りばめた考察しがいのある物語構成」「多くの資料を挿入し、現実と虚構が入り混じるモキュメンタリー手法」「日常に潜む違和感や不穏さにフォーカスしたじわじわする恐怖」といった要素に集約されます。

とくに代表作「近畿地方のある場所について」では、掲示板風の書き込み、インタビュー風の証言、現実に起きた事件をベースにした伝聞など、上記のファクターが遺憾無く発揮されており、“背筋節”のオンパレードです。
本ゲームにおいては、「記憶」アイテムがその役割を担っていて、断片的な会話情報からさまざまな解釈や憶測が生まれます。それが謎解きや考察に繋がっており、「背筋氏」らしいシナリオとの共通点でした。
また、読者(プレイヤー)を巻き込んだ対話型の物語構成は、主人公が存在するものの、あくまで狂言回し的なストーリーの進行役であり、それこそが新しいタイプのホラーを求める読者に強く支持された理由でもあります。
それを踏まえると、本作はなぜ「猫」が主人公なのか?という問いの答えになるかもしれません。筆者としては、人間ではない「猫」の第三者的な、俯瞰的な存在感が背筋氏の世界観とマッチしているのではないか、と考えました。

さて、最後に「相違点」と「新たな魅力」について。当然ながら、ゲームと小説は同じエンタメ領域にありながらも、媒体としてまるで異なります。ゲームが視覚および触覚情報を主とするメディアである一方、小説は主に活字のみで構成されたメディアで、表現手段も限られます。
けれども活字がゆえに、文章での伝達可能な情報量はゲームに比べても豊富です。もちろん、『かまいたちの夜』のようにノベルゲーは存在しますが…。つまり何が言いたいかというと、本ゲームにおける背筋氏のシナリオは、文字量が抑えられ(テキストはほぼ会話のみ)ている分、あくまでゲーム全体を「補完」する役目であり、そこが小説との相違点だと思いました。

とはいえ、背筋氏の書いたシナリオを基に創り上げた世界観を、ジメッとした和風ホラーに落とし込んでいたの本作は、背筋氏の新たな魅力を発見できるのではないでしょうか。
近年では、ホラーゲームを原作にした映画作品(「夜勤事件「8番出口)」など)が流行していますが、その逆も然り。今後さらに多くのホラー作家たちが、ホラーゲームに参加するかもしれませんね。
タイトル:『まだ猫は逃げますか?』
対応機種:PC(Steam)
記事におけるプレイ機種:PC(Steam)
発売日:2025年10月27日
著者プレイ時間:4時間














