シリーズとしてはPS1世代最後の作品となった2000年発売の『ファイナルファンタジーIX』。「原点回帰」を掲げて王道ファンタジーに寄せた温かみのある作風は印象深く、『キングダムハーツ』シリーズにもゲスト出演したビビのエピソードに涙した人も多いことでしょう。
間もなく終わりを迎える2025年は25周年のアニバーサリーイヤーとして様々な企画が実施されています。22日からの「FINAL FANTASY IX 25th ANNIVERSARY THE EXHIBITION‐いつか帰るところ‐」では貴重な開発資料を展示しており、編集部ではメディア向け内覧会を取材しました。(記事は後日公開予定)
本作はオンラインを除くナンバリングにおいて、ファミコンから続いたボイスなしの最終作であり、文字だけで読ませる表現故に印象的な台詞も多く生み出されました。それらを改めて英訳で読んでみるとまた新たな発見があるかも知れません。今回は冒頭のアレクサンドリアから、劇場艇プリマビスタで演じられる劇の台詞を読んでいきましょう(英訳はUK版を使用しています)。

Dialogue/I Want to Be Your Canary
劇中劇「君の小鳥になりたい」ではシェイクスピア風に古典英語を使った訳になっています。ここで出てくるのが学校では教えてくれないわりによく見掛ける、毎度お馴染み二人称単数の「Thou/Thy/Thee/Thine」です。それに付随した「-st」の語末とあわせ、ファンタジーを読む上では避けては通れない要素が満載です。本連載でも何回か扱っていますが、こうした「作品を読む」ための英語を日本では英文学専攻以外でまとめて習うのが難しいので、見掛けたときは機を逃さずに慣れていきましょう。

Blank:Bereft of father! Bereft of mother!
Marcus! thou hast lost even thy love!
Cinna:Fortune hath escap’d thee!
For what end shalt thou live!
Zidane:For the sake of our friend...
Let us bury our steel in the heart of wretched King Leo!
Bereave(Bereft):他殺や事故で命を奪われる
Hath:Have三人称単数(=has)
Shalt:Shall二人称単数(≒you should)
Wretched:卑劣な
Bury:葬る、突き立てる
ブランク:父を奪われ!母を奪われ!愛さえも失ったマーカスよ!
シナ:運命にも見放され!何をよすがに生きろというのか!
ジタン:我らが友のため!卑劣なレオ王の心臓に剣を突き立てるのだ!

Blank:We shall back thee, kinsman!
Marcus:Pray, sheathe thy swords! This villain is mine alone!
Cinna:Nay, kinsman!
For I, too, have lost a brother to this fiend!
King Leo:What ho? Out, vermin! Away!
Thou darest bare thy sword before the king!?
All who stand in my way will be crush'd!
Zidane:Treacherous Leo, my kinsman's suffering shall not be in vain!
For I shall instruct thee in his incomparable pain!
Kinsman:血縁、同族
Sheathe:剣を納める
Pray:願う(≒Please)
ブランク:助太刀するぞ、同胞よ!
マーカス:手出し無用!この悪党は俺一人の敵!
シナ:そうはいかぬ、我とてこのけだものにより兄弟を失った!
レオ王:ええい、退け、クズども!下がれ!
王の前で剣を抜こうというのか?
我が前に立ち塞がる者は潰してくれる!
悪逆非道のレオ、我が同胞の戚然は決して無に帰させぬ!
彼の者の計り知れない悽愴流涕、思い知らせてくれようぞ!
この場面では未来の「Shall」が多用される中、一箇所だけ「Will」がありますね。現在では未来をほぼ「Will」で表わしますが、物事の流れや推論で起きる未来を「Shall」、その場で意思表明や選択をするときに「Will」と使い分けます。古典では重要なときに出る「Will」に注目しましょう。

King Leo:Thou hast not seen the last of me, Marcus!
Zidane:Out of the way, Blank!
Blank Consider this, Zidane! If Prince Schneider were to marry Princess Cornelia, peace would reign over both their kingdoms!
Zidane ‘Tis foolishness! If all were so easy, why, none would suffer in this world!
Blank:En garde!
Zidane:Expect no quarter from me!
Hast:Have 二人称単数
’Tis:It isの短縮形(=It's)
レオ王:貴様が我が最期を目にすることは決してない、マーカス!
ジタン:そこを退け、ブランク!
ブランク:考えても見ろジタン!シュナイダー王子とコーネリア姫が結ばれれば、両国に平和が訪れるのだぞ!
ジタン:なんと浅薄愚劣!全てがそのように容易いのなら、この世に不仕合せな者などいるものか!
ブランク:構えろ!
ジタン:容赦しない!


Garnet:I have a favour I wish to ask of you... I wish to be kidnap right away.
Zidane:Alright then, Your Highness! I shall hereby do my best to kidnap you!
Kidnap:誘拐する
Hereby:これによって
ガーネット:あなたにお頼みしたいことがあるのです…どうかわたしを今すぐ誘拐してください
ジタン:いいぜ、王女様!命により身を賭して誘拐致しましょう!
ここでの注目はジタンの「Hereby」と「Shall」です。この2つは英文の契約書でも必ず出て来ますが、前述の「Shall」の用法と同様、既に交わされた契約に伴う義務の行動なので、意思ではない「Shall」になります。この場面ではジタンが劇中劇を受けてキザに振る舞った点も忘れずに。

Zorn:We must hurry! We are in trouble!
Thorn:Hurry, we must! Trouble are we in!
日本語では「おじゃ」「のじゃ」の違いで表現されるゾーンとソーンは、英語ではソーンを倒置で対応させるという大胆な翻訳に。

Zidane:Come on, Princess. Let’s ditch Sir Rustalot and get outta here!
なあ王女様。こんな鈍騎士様なんかほっといてさっさと行こうぜ!
堅物のスタイナーに対するジタンの一言。アーサー王物語の騎士ランスロットと「Rust a lot」をかけていて、更に日本語にするなら「鈍キホーテ」といったところでしょうか。

乱入してきたビビも巻き込んで、大炎上の末に辛くもアレクサンドリアを逃げ出した一行は、魔物うごめく霧の大陸へと足を踏み入れます。ガーネット誘拐か始まる旅路はどこに続いていくのでしょうか……。













