先日、中国・上海で実施された「WePlay Expo 2025」の開幕を控える直前、突如として出展が大々的に告知されたインディーゲームがありました。それが火鴉游戏が開発を進めているタイトル『第玖音像店』です。本作は「都市伝説」を題材としたオートチェス×ローグライクなタイトルです。
プレイヤーは経営不振に陥った謎多き店「第玖音像店」の代理店長として、人々の想いが形作る不思議な「異界」を探索しながら、数多の都市伝説の真実と対峙していくことになります。
そんな本作ですが、実はWePlayが開催される3日前に、bilibiliやTapTap、小紅書といったプラットフォーム上で、急遽ティザー 映像が公開されたのです。一部の中国インディーゲームファンの間では話題となりましたが、本作のことを知らない来場者たちとっては、ある種サプライズのような作品だったかもしれません。
今回は、『第玖音像店』の開発プロデューサーである天柒氏に書面でのインタビューを打診した結果、快く引き受けてくださったので、その全容をお届けしていきます。恐らく世界初公開......かもしれません。

恐怖はスパイス、主役はユーモア。『第玖音像店』が目指すのは「怖いのに気持ちよく遊べる」都市伝説体験
――まず『第玖音像店』という企画はどのように誕生したのでしょうか。世界観やタイトルの由来など、根本的なインスピレーション源を教えてください。
天柒私たちは、自分たちの好みから「二次元ゲーム(※1)」にすることにしました。そのうえで、嗜好・開発難度・チームの得意分野といった要素を踏まえ、ローグライトに“ややストラテジー寄り”の遊びを組み合わせるゲーム性に決めたんです。
ゲームのテーマを検討していた当時、中国国内には英雄譚や叙事詩のようなファンタジー作品から、シリアスでダークなもの、残酷なテイストの二次元作品などが溢れていると感じていました。
ですが、私はもっと「軽快さ」「日常」「ユーモア」を基調とした題材が好きです。たとえば『ペルソナ』シリーズのような作品ですね。社会競争と経済的なプレッシャーが年々強まっている社会環境の中で、こうした題材の方がプレイヤーにも受け入れられやすく、物語に入り込みやすいと思いますし、特に生活感のあるシーンには共感してもらいやすいと考えています。
また、検討している当時主流だった「二次元ゲーム」の題材とも差別化できます。プレイヤーが物語の視点に自然に感情移入できるようにするため、主人公は見知らぬ街にやって来た大学院生という、異なる環境に初めて身を置き、社会経験もまだまだ乏しい人物像に設定しました。
「音像店(※2)」というテーマについては、先ほど述べたニーズとゲームプレイ上の要件を受け止める「器」として選んだものです。
※1 アニメ・漫画風のキャラ美学を基にしたキャラクター重視型ゲームの総称
※2 CD・DVDなどの音楽&映像ソフトの販売店
ほとんど時代に取り残されつつありながらも、強い記憶性を持ち、かといって大衆から完全に乖離しているわけでもない店でもありますから。ゼロから小さな店を経営していくシチュエーションは、きっと誰にとっても魅力的ですよね。


――「都市伝説×思念世界」というテーマを選んだ理由を教えてください。この設定の背景には、文化的な影響や、開発チームメンバーの個人的な経験などがあるのでしょうか。
天柒一つには、ゲームのテーマを決めていた当時、「新怪談」(※ 現代都市を舞台にしたファンタジー)テイストや、オカルト要素を含んだ物語が大きな人気を集めていたことがあります。プレイヤーたちは、日常の外側にある“隠された語り”に惹きつけられていたんです。こうした断片的で全体像が見えないスタイルは、インディーゲームの物語ニーズにもぴったり合致していました。
もう一つは、私たちがより若い世代の心に響くテーマで現代のプレイヤーに訴えかけたいという思いがあったからです。今の若者は、人間関係がどんどん希薄になっていく一方、爆発的な情報量に思考を奪われている時代に生きています。行き場のない感情が蓄積し、抑圧されている――そこに私たちが掘り下げるべき物語の土壌があると感じました。
『第玖音像店』は、これら二つが合わさって、現在の方向性にたどり着いています。魅力的でユーモアを交えた「都市伝説」を導入部として、記憶、後悔、癒しといった核心的なテーマへと展開していく構成になっています。
――「都市伝説の真相と正面から向き合う」という物語の題材には、多少なりともホラー的なニュアンスが感じられるかと思います。この辺り、恐怖とユーモアのバランスはどのように調整しているのでしょうか。
天柒少し踏み込んで説明する前に、まず「都市伝説」の持つ恐怖感がどこから来るのかを定義しておきましょう。その根本は“未知への恐怖”にあります。つまり、物語の主人公の視点から得られる情報が制限されている点――「暗闇の中に何が潜んでいるかわからない」という不安感です。この種の作品でよく用いられる手法は、異常な真実をあえて隠蔽し、非合理的な表現を用いて不安の種を蒔くことでしょう。
一方で、『第玖音像店』の作風の軸はあくまで軽さとユーモアに置いており、そこにほんの少しの恐怖感を調味料として加える、というスタンスです。その役割は物語にほどよい緊張感を加えることであって、決してプレイヤーを重苦しくさせることではありません。


遊び手にゲームプレイヤーとしての立場を与えた瞬間、都市伝説の恐怖の根幹である不可知性の多くは、すぐに解体されてしまいます。異常現象は、もはや理解不能の恐怖そのものではなく、「観察・分析・介入できる対象」へと姿を変えてしまうからです。
私たちはプレイヤーが異常現象に遭遇したとき、短いスリルのあとには、興奮と好奇心が湧き起こり、それが探索を駆動するモチベーションになってほしいと考えています。ですので、私たちは「プレイヤーの立場を一段引き上げる(視点を高次化する)」工夫を意図しました。
――「音像店」というモチーフからは、メディア文化や記憶の保存といったイメージが想起されます。世界観の中で、どのような「記憶」のテーマを描きたいと考えていますか。
天柒私たちが「音像店」というモチーフを選んだのは、それが現代の若者、特に東アジアの文化圏で生きる人たちの心の状態を象徴的に表せると感じたからです。
今は、かつて当たり前だった価値観や生き方のモデルが、次々と通用しなくなっていく時代です。何を信じて生きればいいのかが見えにくくなり、多くの人が「世界の中での自分の立ち位置」を見失いがちだと感じているからです。その中で、かつて自分を支えてくれたはずの“思い出”や“憧れ”も、日々のサバイバルの前では色あせてしまったように感じられることがあります。

作品の中にある「音像店」と、そこに蓄えられたノスタルジックな記憶は、そうした感覚に対するひとつの答えです。そこは、「今ここにいる自分」を理解するために、「どんな過去が自分を形づくってきたのか」を静かに振り返らせてくれる場所です。記憶はただ懐かしむためのものではなく、迷子になった自分をもう1度つなぎ直すための手がかりとして描かれます。
物語の最終局面にある“戦い”も、その意味では単純な勧善懲悪ではありません。それは「過ぎ去った時間からの試練」であり、旧来の伝統と、新しい時代の感覚が真正面からぶつかって、対話する瞬間とも言えます。
主人公がしなければならないのは、過去や伝統を力づくで打ち倒すことではありません。むしろ、その重さやしがらみをきちんと理解したうえで、その中にひそんでいた希望や、次の世代に手渡すべき願いをすくい上げることなのです。そして、それらを「未来へ向かう勇気」として引き受けたとき、主人公はようやく、誰かの真似ではない、自分自身の新しい生活を歩み始めることになります。
――登場キャラクターたちはみな個性が際立っていますが、キャラクターの設計において特に重視しているポイントは何でしょうか。
天柒私たちはゲームのキャラクターたちに対して「遠い異世界の架空の人物」ではなく、「現実の生活の中にもいそうな、生き生きとした面白い人たち」としての感触を持たせたいと考えています。
プレイヤーがゲーム内で体験するキャラクターたちとの日常的なエピソードも、私たちが日々の生活の中で出会う、ささやかだけれど記憶に残る出来事や小さなエピソードに、より近いものにしたいと思っています。

――本作は「オートチェス×キャラクタービルド×ローグライク」を掛け合わせた作品とのことですが、このジャンルミックスの“手触り”をどう感じていますか。ゲーム性の設計において、軸足や取捨選択はどのように決めているのでしょうか。
天柒中国ゲーマーたちの中では「万物皆可Rogue(すべてはローグライトになり得る)」という言葉があります(笑)。ローグライトは一種の進行形式であり、オートチェスは戦闘を検証するモジュールのような位置づけです。この2つを組み合わせること自体は、それほど難しくありません。現在主流のストラテジー系ローグライトとも、基本的な構造は似ていますね。
本作は、一般的なオートチェスみたいに、シナジーを揃えたり三枚合成したりするタイプではなく、キャラクターが自動で移動・通常攻撃・スキル発動をしてくれる一方、配置やヘイト管理、地形やギミックの活用、どのタイミングで切り札スキルを切るかといったところで戦略性を出しています。ただ、考えどころを増やしすぎると操作が煩雑になってテンポが悪くなるので、「操作はシンプルだけど、きちんと読んで準備するとリターンがある」ラインを探り続けているところです。

天柒二つ目が、「多キャラビルド」ならではの難しさです。本作ではたくさんのキャラクターを組み合わせてパーティを作りますが、どのキャラも“ただのユニット”にはしたくないと思っています。たとえビルドの主役じゃないキャラでも、「この子だからこそ担える役割」がちゃんとある状態にしたいのです。
ただ、その一方で、キャラが増えすぎると役割がバッティングしたり、情報量が多すぎてプレイヤーさんの負担になったりもするのも事実です。個性と分かりやすさのバランスをどう取るかは、今も重点的に調整している部分ですね。
三つ目が「3D探索パート」の存在です。探索で“ガラクタ拾い”をする感覚や没入感を強め、3Dアートの強みを際立たせるため、比較的リアル寄りのスケール感&レイアウトでステージを作っています。その結果、探索パートと戦闘パートの切り替えテンポのバランスが非常に難しくなり、「ガラクタ拾い」の時間が冗長になりやすいと感じています。WePlayに出展したデモ版も、この問題はある程度表れていました。


天柒こうした設計上の難しさはいろいろありますが、実はすでに各問題に対して、基本的な解決策や改善方針は見えてきています。現段階でも70点くらいの体験には到達していると考えており、今後は90点、さらには100点に近づけていけるよう努力しているところです。
――ローグライクとしてのリプレイ性を高めるために、メカニクスの面でどのような工夫をされましたか。(たとえば、シナジー/コンボ、ランダムイベント、ビルドの多様性など)
天柒本作では、とくに「同じキャラでも毎回違う遊び方ができること」を意識して、ビルド設計に力を入れています。まず、キャラクタースキルの段階で、「このキャラはこう育てる一択」にならないようにしました。数値の組み合わせ方を工夫することで、1人のキャラクターにつき最低でも2つの基本方針を持てるようにしているんです。
たとえば、「李暁紅」というキャラクターであれば、クリティカル率+攻撃力を伸ばすことで、わかりやすい純アタッカーとして活躍できます。一方で、クリティカル率+HPを組み合わせると、攻撃しながら回復もこなせる、タフな前衛兼ヒーラーのような役割を担えます。

天柒同じキャラクターでも、「火力寄りに振るか」「タンク寄りに振るか」で運用がまったく変わるんですね。こういった、ステータスの組み合わせでビルドを作っていく発想は、『リーグ・オブ・レジェンド』に近いところがあって、私たちはこれを“数値ビルド”と呼んでいます。さらに探索途中は、各キャラクターが「拡張スキル」を獲得していきますが、この拡張スキルが、キャラクターの可能性をもう一段階押し広げてくれます。まったく異なる運用が可能になる面白さを秘めています。
ビルドを形作るのはキャラとスキルだけではありません。本作ではアイテムプールもかなり豊富に用意しました。1回のプレイ中に手に入る装備品、コレクションアイテム、消耗品、換金アイテムなどが、それぞれゲームプレイ方針に影響を与えてくれるかと思います。ダンジョンやイベント、戦闘ステージは完全ランダム生成ですし、多数のユニークなモンスターを用意することで、リプレイ性を担保しているんです。

天柒しばしば質問されるのが、「最近よくある“キーワード型ビルド”や、“オートチェス的なシナジーシステム”は採用しないのか?」という意見ですね。たしかに、そうしたシステムの方がプレイヤーにはとっつきやすく、フィードバックもわかりやすいという長所があります。
しかし同時に、「最適解」や「定番の組み合わせ」が固定化されやすく、そのことがリプレイ性という観点では大きな制約になり得ると考えています。それが、私たちがあえて別の方向性を選んだ根本的な理由です。
――作中でプレイヤーが集める「思绪碎片」はゲーム内でどのような役割を果すのでしょうか。また、どのようにゲームプレイと物語を結びつけているのでしょうか。
天柒ゲームの中でプレイヤーが集めることになる「思绪碎片」は、そのすべてが現実世界の人々の強い感情や記憶が、「異界」に転写されて生まれたものです。異界で手に入るアイテムや、そこで出会う生き物たちは、その思念が形を変えた存在だと考えてもらえればわかりやすいかと思います。
ただし、その姿かたちは主人公の主観を通して立ち上がります。たとえば、異界にあるハンバーガーは、ある人が抱いていた「おいしい食べ物」の記憶が具現化したものかもしれませんが、主人公自身は貧しくて、ろくにおいしいものを食べた経験がない。そのため、それは「主人公が知っている範囲で、いちばんおいしかったハンバーガー」としてしかイメージできないのです。
人は、自分の知らないものをそのままの形では理解できない、というテーマをここで表現しています。プレイヤーは、敵を倒し、アイテムを集め、イベントに関わることで、こうした思念の欠片を少しずつ集めていきます。そして、それらを謎の組織との取引によって資産へと変換し、主人公の店の再建に投じていくのです。
この仕組みによって、「ローグライトとしての拠点側のメタ成長」と、「思念の欠片を追いかけながら、少しずつ全体像が見えてくる物語体験」を同じサイクルの中で同時に進められるようになっています。思绪碎片は、その二つをつなぐ“共通の通貨”のような役割を果たしているわけです。
――プレイヤーと仲間キャラクターとの「絆」は、物語だけでなく、具体的なゲームプレイにも影響を与えるのでしょうか。
天柒はい。拠点側のシステムでキャラクターとの絆レベルが上がると、わずかな数値強化だけでなく、そのキャラクターのスキル効果も強化されます。また、拡張スキルや、取得できる非合成タイプの装備の中には、そのキャラクターに紐づいた専用効果が現れることもあります。
――WePlayで初めて試遊を公開した際、プレイヤーのフィードバックで特に印象に残っているものはありますか。
天柒実は現地で公開したデモ版は本当に突貫工事で、既知の問題の多くを調整する時間がまったく足りていなかったんです……。バグやインタラクションの問題、テンポ調整、導線の問題、仮素材といったものまで、さまざまな粗が残っていました。
それでも試遊しに来てくださったプレイヤーの皆さんはとても寛容で、多くの方がこうした明らかなマイナス要素を抱えた状態でも1時間近く遊んでくださいました。もちろん、問題の多さに耐えきれなかった方もいらっしゃったとは思います。その点については、全てのプレイヤーの皆さんに心からお詫びしたいです。
もう一つ印象的だったのは、多くのプレイヤーや業界の方々の第一印象として「美術の雰囲気が『ゼンレスゾーンゼロ』にとてもよく似ている」と言われたことです笑。(実際には到底及ばないのですが!)。ある程度そう言われるだろうという覚悟はしていたものの、想像以上にその印象が強かったので、今後は美術面をもっとスタイライズして、独自の色を出していく必要があると感じています。

――チーム規模はおよそ10人ほどと伺いました。メンバーの担当分野や、日々の開発フローについてお聞かせください。
天柒現在、オフラインで一緒に動いているメンバーは、プログラマーが2人、2Dアーティストが4人、3Dアーティストが3人、プランナーが2人、ライターが1人です。いわゆるスタートアップのチームでして、開発プロセス自体に特別ユニークな方式があるわけではありません。
こだわっているのは、作業の受け渡しやコミュニケーションの「形式」や「型」をあまり強調しないことです。重視しているのはコミュニケーションの効率ですね。各メンバーが、自分の前後工程の作業をある程度理解し、「最終的にゲームとしてどんな画面・体験になってほしいのか」を共有できていれば、非常に高い開発効率を実現でき、多くの差し戻しやフィードバックのコストを避けられますから。
――現在の開発進捗やチーム全体の状況について、差し支えない範囲で教えていただけますか。
天柒正直に言うと、現時点での完成度はまだまだ低い段階です。戦闘やローグライト部分の基礎的な体験だけを取っても、きちんと整えるにはまだ時間をかけて調整する必要があります。とはいえ、チーム全体の熱量はとても高く、多くのワークフローもすでに一通り回り始めています。全体としては、かなり良好な開発状態にあると言えると思います。
――今後の開発計画や展望について、可能な範囲で教えてください。
天柒今後は、外側の育成要素やストーリー、各種コンテンツの拡張といった部分の実装にも着手していきます。最新の開発状況については、ぜひ私たちのアカウントをフォローしてチェックしていただければと思います。
また、他のプラットフォームにも順次公式アカウントを開設していく予定ですので、そちらもあわせてチェックしていただけると幸いです!
――貴重なお話ありがとうございました!











