『真・三國無双ORIGINS』はシリーズ初の試みとして、三國鼎立前の赤壁の戦いをクライマックスに設定し、黄巾の乱から始まる後漢の崩壊を時間をかけて描写しました。DLCである『夢幻の四英傑』では、その前半で退場した張角、董卓、袁紹、呂布が生存するifの世界で未知の戦いが繰り広げられます。敵役として憎まれた彼らの新しい一面を見ることができるでしょう。
シリーズのベースになる「三國志演義」(三國演義)は歴史を題材にしたフィクション――言わば大河ドラマの一作品のようなもので、虎牢関の戦いなど有名な場面でも創作であることは珍しくありません。同時代の史書「三国志」「後漢書」などと読み比べ、どのように脚色されていったかを想像するのも楽しみの一つです。今回は張角、董卓の史実面を原文から見ていきましょう。


『ORIGINS』の構成に合わせて、これまで極端なキャラ付けをされてきた彼らは、それぞれに政治的な信念を持つ人物として描き直されました。大胆にイメチェンした張角に驚いた人も多いでしょうが、中国全土を動かす反政府武装組織のリーダーですから、今作の「革命家」としての信念にフォーカスした物語には新鮮さがありました。張角は黄巾党の指導者としてこの時代の多くの文献で言及され、後漢末期において最も影響の大きかった人物のひとりですが、列伝として出自から詳しく書いてあるものはほとんどありません。「演義」ではファンタジーを絡めてこのように描写しています。
時鉅鹿郡有兄弟三人。一名張角、一名張寶、一名張梁。那張角本是個不第秀才。因入山採藥、遇一老人、碧眼童顏、手執藜杖、喚角至一洞中、以天書三卷授之曰、『此名《太平要術》。汝得之、當代天宣化、普救世人。若萌異心、必獲惡報。』角拜問姓名。老人曰、『吾乃南華老仙也。』言訖、化陣淸風而去。(第一回 宴桃園豪傑三結義 斬黃巾英雄首立功)
ある時、鉅鹿郡に兄弟三人がいた。一人は張角、一人は張宝、一人は張梁という。張角はもともと科挙で落第した秀才であった。山に入り薬草を採っていると、一人の老人に出会った。その老人は青い目に童顔で、藜の杖を手に持っており、角を洞窟に呼び寄せ、天書三巻を授けて言った。「これは『太平要術』という書である。お前がこれを得た以上、天に代わって教えを広め、広く世の人々を救うべきである。もし邪念を抱けば、必ずや悪報を受けるであろう』と。角が名前を尋ねると、老人は『我は南華老仙なり』と答え、そう言うと清風となって去っていった。

『ORIGINS』の主人公が属していた「太平の要」はこの記述に由来し、碧眼童顏の人物にはプレイヤーなら心当たりがあると思います。史実に於ける太平道は太平清領書(太平経)を教典とし、「演義」に孫策がらみで登場する道士于吉が記したとも言われます。「後漢書」には順帝の時代に于吉の弟子が書を献上したとあり、後にそれを入手した張角が教えを広めていきました。逸話では于吉は薬草採取で見つけた水場で見つけた神書になっていて、これを「演義」で張角と太平要術のエピソードにアレンジしたと見ていいでしょう。
「後漢書」皇甫嵩朱儁列傳によれば、張角の組織は当初洛陽において大規模なクーデターを計画しており、中常侍(古代中国の官職)の内通で手引きが行われる予定でした。しかし密告で内通が発覚、朝廷からテロリストとして追われる立場となり、そこから「黄巾党」として全国での反乱を呼びかけた……といわれています。このとき内通者のひとりが張譲で、糾弾した王允を投獄に追いやりました。もしこの最初のクーデターが成功していたら、中国の歴史が違う方へ向かっていたのかもしれません。

黄巾の乱の後、朝廷内の内部対立の中で実権を握ったのが董卓でした。こちらも酒池肉林キャラはなりを潜め、暴虐の限りを尽くすヴィランとして劉備にある問を突きつけます。史書においても董卓の非道な行いは強調されていて、「三国志」ではこのように記述されています。
甞遣軍到陽城。時適二月社,民各在其社下,悉就斷其男子頭,駕其車牛,載其婦女財物,以所斷頭繫車轅軸,連軫而還洛,云攻賊大獲,稱萬歲。入開陽城門,焚燒其頭,以婦女與甲兵爲婢妾。至於姦亂宮人公主。
ある時、軍を陽城に派遣した。ちょうど二月の祭りの時期で、民衆はそれぞれの祭壇の下に集まっていた。そこで彼らの男子の首を全て切り落とし、牛を車に繋ぎ、婦女や財物を載せ、切り落とした首を車の轅軸に結びつけ、車列を連ねて洛陽へ戻り、「賊を討って大いに獲物を手に入れた」と称え、万歳を叫んだ。開陽城門に入ると、首を焼き払い、婦女と甲冑兵を婢妾とした。宮中の女官や公主を姦淫し乱すに至った。
卓豫施帳幔飲、誘降北地反者數百人、於坐中先斷其舌、或斬手足、或鑿眼、或鑊煑之、未死、偃轉杯案閒、會者皆戰慄亡失匕箸、而卓飲食自若。
卓はあらかじめ幕を張って宴を開き、北地で反乱を起こした数百人を誘い出して降伏させた。席の中でまず彼らの舌を切り落とし、あるいは手足を斬り落とし、あるいは目をくりぬき、あるいは釜で煮た。まだ死んでいない者は杯や膳の間で苦しんで転がり、参列者は皆戦慄して箸を落とし、卓は平然と飲食を続けた。


多少政治的な意図もあるにせよ、史書でこの書かれようなのでよっぽどの嫌われ役なのは間違いありません。こうした暴虐の一方で奸智に長けた面も見せ、涼州の羌族征伐についてこのように書かれています。
遷中郎將、討黃巾、軍敗抵罪。韓遂等起涼州、復爲中郎將、西拒遂。於望垣硤北爲羌、胡數萬人所圍、糧食乏絕。卓偽欲捕魚、堰其還道當所渡水爲池、使水渟滿數十里、默從堰下過其軍而決堰。比羌、胡聞知追逐、水已深、不得渡。
中郎将に任命され、黄巾の乱を討伐したが、軍が敗れて罪に問われた。韓遂らが涼州で反乱を起こすと、再び中郎将に任じられ、西へ赴いて韓遂らを撃退した。望垣硤の北で数万の羌族・胡族に包囲され、食糧が尽き果てた。董卓は魚を捕るふりをして、帰路となる渡河地点に堰を築いて池を作り、数十里にわたって水を溜めた。そして密かに堰の下を通り抜け、敵軍の前で堰を破った。羌族や胡族がこれを知って追撃したが、水はすでに深くなっており、渡ることができなかった。

涼州のいきさつについては本編でも言及があり、DLCのシナリオでも涼州から引き入れた勢力を自軍に加えていました。徹底的に抵抗勢力を潰すためならどんな悪逆でも構わず実行する。強烈な「悪のカリスマ」に付いた太平の要はそこに何を見出すのでしょうか……。
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