『マインクラフト』幻のNPC“herobrine”は実在するのか【突撃!ゲームロア研究部】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『マインクラフト』幻のNPC“herobrine”は実在するのか【突撃!ゲームロア研究部】

この物語はフィクションです。きっと……。

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――現代。先端科学が支配する世の中になっても、この世界には未だ解明されてないことや、まだ明らかになっていないことがある。幽霊や妖怪、未発見生物やUFO……そして都市伝説。我々の生活のすぐ裏側に、闇は潜んでいるのである。ビデオゲームの世界においても、それは例外ではない。

こんな話を聞いたことはあるだろうか。あるところに呪われたゲームがあり、クリアできないと恐ろしいことが起こってしまうというような話を。または、あるゲームで決められた手順に従ってプレイすると、ゲームの裏側に入り込んでしまう……。Game*Sparkではそんなビデオゲーム都市伝説、すなわちゲームロアを独自にリサーチするチームを結成することになった。それが我々ゲームロア研究部なのである……。


11月某日。都内某所。その日は朝から気持ちの悪い天気だった……。空はどんより曇り、冬だというのに何故か生暖い空気が流れる日。そんな日にはなにか不吉なことが起こるということを私は知っていた。早朝に出社し、書類をまとめる。今日はこんな不吉な予感に溢れているというのにもかかわらず、勝負の日でもあった。

「ふぅん、ゲームロア研究部……ねぇ。ファクトチェックできんの?それ。最近うるさいからねえ。こういう怪しいやつは、時代遅れなんだよねェ」
編集長はそう呟いて、私の企画書を値踏みするように見つめた。

「ふぁ、ふぁくとちぇっく……」
現代社会において、情報の妥当性を確認するというのはメディアにとって非常に重要なことだ。確かに、ゲームの都市伝説を検証するなどという行いは時代遅れなのかもしれない。なぜならば都市伝説や怪談の類を取り扱うとき、正しさを必要以上に重視すると途端につまらなくなってしまう可能性があるからだ。

でも、だからこそ、と私は思う。だからこそ、そこには未だにミステリーが根付いているとも言えるのだ。

ゲームをプレイしているとき、ふと「このゲームの真実の姿を、私はまだ知らないのではなかろうか」という疑念に取り憑かれる時がある。それは直感のようなもので、簡単に他人に説明できるようなことではない。

日に焼けてクシャクシャになったわら半紙の企画書を手に取り、私は一度諦めかけた。半年以上の月日を費やして企画書を作り上げたこと、現代だからこそ「オカルト」を掘り下げることの重要性を説く力が、私には残っていない。なにせ昨晩というか前日の朝から『Auto Chess』をやりっぱなしだったし、正直言って今も目の前にチラチラと盤面の残像が見える。編集長、セイウチボクサー、石のスピリット、企画書……終焉のデーモン……。

「……まあいいんじゃないの、やってみれば。夏だし……」

あっさりと認められた。ボツになることも覚悟していた私にとって、編集長の返答は意外なものであった。げむすぱダイレクトには多種多様な企画が編集部に持ち込まれていたのだ。そのどさくさに紛れて「ゲームロア研究部」は発足したのである。私はその場で小躍りでもしたい欲求に襲われたがぐっとこらえた。ラッキーだと思った。しかし……今から思い直せば、この日こそがすべての恐怖の始まりだったのである。

ゲームロア研究部は四人のメンバーでこぢんまりと発足した。まずは私、ゲームライターの文章書く彦である。今ではすっかりビデオゲームのことにつきっきりだが、K大学に通っていたころは民俗学のフィールドワークをしていた。そのまま研究者になろうと考えたこともあったが、夢破れ、今に至るというわけである。


次に、編集部きっての凄腕ハッカー、小松。小松は典型的なオタクで、ネルシャツにメガネといういかにもな風体をしていた。寡黙で、その眼光はいつも鋭い。彼はディープウェブの専門家でもある。


三人目は新人社員のラグビーだ。ラグビーというのはあだ名だが、彼のことをよく表現している名前だ。彼は筋肉隆々の寡黙な大男で、暇さえあれば筋トレに励んでいた。私は彼のことをよく知らなかったが、見たところ頼りになりそうに思えた。


そして最後の四人目は紅一点のだ。郭は寡黙でクールな女性で、実際の年齢は知らないが二十代半ばに見えた。彼女は中国と日本のハーフで、その出自からか呪いや占いの類に精通しており、この手の企画にはうってつけだった。皆社内で評判の変わり者たちだった。よくもまあここまでアクの強いメンバーが集まったものだと、私も思う。



そんなメンバーが初めて集う、第一回の顔合わせミーティング。私はゲームロア研究部のコンセプトについて説明していた。やはり、みんな興味津々といった様子だった。

「ゲームの都市伝説、怪しい噂なんかについて知っていたら情報を共有してもらいたい。真偽のほどは定かでなくてもいい。それを調査するのが我々の仕事なのだからな……」


いまは小さな研究部だが、正直なところ、ここからどんどんと規模を大きくしていくのだという野望も芽生えていた。そのせいもあってか、私は普段よりも饒舌だった。

「こういう怪しい話について取り扱うメディアはそう多くはない。リスキーだからな。しかし、だからこそ、そこには黄金のような情報が眠っていると私は思うのだ……」

そう言ったとき、小松がスッと手を上げた。何か心当たりがある、というような表情を浮かべて。


「ヒヒヒ……文章のダンナ……だったらherobrineについて調べるってのはどうでやんしょ」

……「herobrine(ヒロブライン)」。今この文章を読んでいる君たちの中にも、その名前を聞いたことがある者がいるだろう。herobrineとは、かの超人気サンドボックスゲーム『マインクラフト』の“創作都市伝説”だ。その内容はと言うと……

とあるゲーマーがひとりで『マインクラフト』をプレイしていると、名前の表示されないプレイヤーキャラクターに出会った。だが、オフラインのシングルプレイで他のプレイヤーキャラと出会うことは、通常有り得ないのだ。インターネットで情報を集めているうちに、そのゲーマーは「名無しのキャラクター」が『マイクラ』の生みの親・Notch氏の死んだ兄弟なのではないか、と思うようになる。しかし、真相は闇の中……。こう言ってはなんだが、如何にもインターネットの連中の好きな悪ふざけの一種であるかのように思えた。

「ヒヒヒ……怪しがるのも無理はない……当然信じられない……それが一般的、通常の感性……しかし……」
訝しむ私の顔色を、小松は見逃さなかった。

「……あっしがよく出入りしているとあるディープウェブ関係のIRCに、herobrineの情報が投稿されてたんでヤンスよ。ものすごい暗号化が施してあったでヤンスが……」

なるほど……暗号化暗号化されているとなると、それはやはり重要な秘密であるに違いない。秘密でないことは暗号化する必要がないからだ。皆さんも想像してみて欲しい。「どうでもいい情報」と「隠したい情報」、暗号化するならどちらだろうか……そう、やはり「隠したい情報」なのだ。

小松はニヤリと笑みを浮かべると、おもむろに懐からノートパソコンを取り出した。いかにもハッカーが使ってそうな黒くてキーボードが光っているノートパソコン。小松が電源をいれると、ノートパソコンの画面に緑色の「0」と「1」が無数に表示された。


「これがハッキングする画面でやんす」
なるほど……ハッキング。たくさんの「0」と「1」が並んでいる。


小松は目にも止まらぬ速度でキーボードを叩く。画面にはそのたびに新しい「0」と「1」が現れ、古い「0」と「1」が消え去り、あたかも生物のようにうごめいていた。

「もう少しで暗号が解けるでヤンス……これでherobrineの秘密に………ッ」
小松がハッキングを開始してから1時間ほどが経過し、画面上の「0」と「1」もだいぶ減った。残すところあと数行。固唾をのんで経過を見守るゲームロア研究部……しかし。

「な……これは……ウワアアアアア!!!」


小松のノートパソコンの画面が真っ赤に変わる。そして画面上の「0」と「1」が、ひとつずつ半角カタカナへと変わっていく。「カカワルナ」。あっというまに画面は大量の「カカワルナ」という文字に覆い尽くされてしまった。


それでも、小松の指先は雷鳴のようにタイピング音を鳴り響かせる。私は、何故ハッカーが「ウィザード」などと呼ばれるのか、その真髄に触れたような気がした。そう、その時の小松の姿はさながら中世の大錬金術師のようだった……。そのうち画面に表示されたのは、ドクロマーク付きのダウンロードバーだ。

「小松……これはいったい」

「herobrineと出会ったという報告がある、謎のワールドデータでヤンス……」

小松が言うには、ディープウェブのさらに深い謎のサイトで、異常なプロテクトに守られていたこのワールドこそが「herobrine」に最も近い場所らしい。私は興奮を抑えきれず絶叫した。

「う、ウオオオオオ!オアアアアア!」

――そして我々はあまりに気軽にそのワールドへと足を踏み入れてしまったのだ。そこでめくるめく恐怖体験をするとも知らずに。


私はデータを持ち帰り、自宅のPCで起動してみることにした。ダウンロードされたサーバーデータを読み込むと、このような画面が表示された。さすがディープウェブで見つけたサーバーデータだけあって、めちゃくちゃなことになっている。私は意を決して「選択したワールドで遊ぶ」をクリックした。

まずは「herobrine」と出会う条件についておさらいをしておこう。「herobrine」というのはシングルプレイ時に出会うNPCであるが、その姿はデフォルトプレイヤースキンの「Steve(スティーブ)」そっくりだ。もちろん、開発元はその存在を認めていない。herobrineはワールドの中に謎の痕跡を残すことがある。このワールドにもそのような痕跡があるのだろうか。


ログインすると、牢獄のような場所に飛ばされた。壁際にはベッドが並べてあり、大人数を監禁する場所のようだった。出口がみあたらず、最初は壁を破壊することも考えたが……それはなにか、とても禍々しい行いのような気がした。

しばらく内部を散策していると、壁にスイッチを発見した。



隠し通路だった。あたかもアドベンチャーゲームかのように作り込まれた世界に、私は驚愕しっぱなしだった。そしてしばらく道沿いに進むと、さらなる驚愕の光景があらわれる……。


「ヒヒヒ……こいつはアタリでやんすね……」
画面に映る神殿のような建造物を見て、小松がほくそ笑む。その中央には、我々を歓迎するかのように「ヨウコソ」の文字が踊っている。


用意したボートで神殿にたどり着くと、そこにはすでにもう一艇のボートがあった。我々より以前に誰かがここを訪れた証拠だ。まさか、herobrineなのだろうか?



サーバー内部はめくるめく夢幻の世界だった。その全てを紹介するのにはあまりに時間が足りないが、内部にはところどころに「神」を想起させるモチーフがあり、さながら何らかの宗教施設のようだった。


日本語の記述が目立つが、意味不明な英語のメッセージも見られた。それは、ここが多国籍の不特定多数のプレイヤーによって作られた施設であることを示唆していた。そして、おそらく我々の間で言う「寺院」や「教会」のような空間なのであろう。

小一時間ほど散策しただろうか。やがてたどり着いたのはこの長い廊下だった。私は愚かにも、この頃にはherobrineのことを忘れて散策に夢中になっていた。奥へ続く廊下を好奇心だけで、進んでしまったのだ……。


通路の最奥が見えた。心なしか『マイクラ』のフレームレートが落ち始める。膨大な量のレッドストーン回路が敷かれているのだろうか?


廊下の果てに辿り着いたのは、ドーム状の建築物だった。そして、その中心には……。







気が付けば、翌日の昼だった。私のPCからワールドのデータはすっかり消え去っていた。慌てて小松に連絡すると「そんなことをした覚えはない」と言われ、編集長に問い合わせても「そもそもゲームロア研究部の企画にゴーを出したつもりはない」との返事。私の記憶とは大きく異なる世界だ。すべては夢だったのだろうか……。

しかし、私のPCには、そのワールドを訪れた証拠のスクリーンショットだけが残っていたのだった。あのワールドはいったいなんだったのだろうか?もう二度と訪れることはできないが……もっと注意深く散策すれば、真実に近付けたのだろうか?ラグビーと郭はいったいどういう人たちだったんだろうか?謎は深まるばかりだ。

しかし、私はめげない。こんなことで負けるわけにはいかない。この世界にはまだ未解明のゲームロアが沢山眠っているはずなのだ。波乱含みの幕開けを迎えたゲームロア研究部の行く先に、みんな注目しておいてほしい。
《文章書く彦》
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