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e-Sportsにウェブメディアは必要なのか?シブゲーを潰した男、倉田元編集長インタビュー

今回は「SHIBUYA GAME」元編集長、倉田氏に現在の想い、そして元SHIBUYA GAME編集長としてこれからe-Sportsにどう携わっていくのかを伺いました。

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2019年8月、e-Sportsメディア「SHIBUYA GAME(シブヤゲーム)」が2019年内に閉鎖することを発表しました。日々新たなプレーヤーが参加するe-Sportsという業界において、先駆けともいえる専門メディアの早すぎる閉鎖には、多くの人が驚いたことでしょう。

今回は「SHIBUYA GAME」元編集長、倉田氏に現在の想い、そして元SHIBUYA GAME編集長としてこれからe-Sportsにどう携わっていくのかを伺いました。

筆者含めメディアを生業とする者は、ポジティブな情報だけではなく、業界の諸問題に切り込むのも大事な仕事です。e-Sportsにウェブメディアは必要なのか?という本質的な質問もぶつけてみました。

SHIBUYA GAMEの閉鎖


――「SHIBUYA GAME」はただのe-Sportsメディアではなく、個性的なライター達のプラットフォームという印象でした。最終的には、プロゲーマー、ゲームタレント等、80名近くのライターを抱えるメディアになりました。

倉田氏(以下、敬称略)ありがとうございます。設立当初からその方針だったわけではなく、時代とともに姿が変わっていきました。

――普遍的な内容を取り扱うe-Sportsメディアが多い中、ライターの主観が盛り込まれた記事を読めることが「SHIBUYA GAME」の魅力でした。実際、ライターの皆様からの提案はどの程度あったのでしょうか。

倉田僕のスタンスが“来るもの拒まず”でしたので、多くのご提案をいただいておりました。

もちろん、すべての提案が通るわけではありません。特に「このイベントのレポートをしたい!」というご提案は非常に多かったのですが、これでは提案として不十分です。「そのイベントレポートで自分が何を書けるのか、どのような付加価値をつけて発信できるのか」まで考えて提案していただかないと採用には至りませんでした。

――閉鎖発表時はユーザーのみではなく、業界関係者からも多くの反響がありました。数多くのインタビューや大会レポートの消滅。「e-Sportsの歴史が1つ消えた」との声も耳に入ってきます。

倉田在任中はできる限りのことをしたのですが、力及ばずでした。実際、8月の閉鎖発表時には多くの関係者からご支援のお声掛けをいただきましたが、時既に遅し。編集部にとっても閉鎖決定は突然のことでした。

――反響の大きさは想定内でしたか?

倉田お恥ずかしい話ですが、僕らの仕事がユーザーにこんなにも届いているとは思っていませんでした。もっと自分達の価値を認識して世間にアピールしていれば、違う結果を得られたのかもしれません。編集長として、社内に向けてもメディアをしっかりと発信すべきだったと思っています。

――倉田さんはシブゲーをどのようなメディアにしたいと考えていましたか?

倉田私が目指していたのは問題の核心に迫れるメディアでした。直近では日本eスポーツ連合の賞金問題、『ハースストーン』の大会で政治的発言をした選手の失格等、これらのような複雑な問題を取り扱えるメディアです。

勿論、特定の個人を傷つけるような報道をしないのは大前提ですが、誰かが声を上げないとならない問題に対して、どのメディアよりも先んじて報じるメディアでありたいと思っていました。

e-Sportsにとってウェブメディアは必要か?


――最近はe-Sportsに限らず、世間で起きた諸問題について、個人がSNS、note等で見解を発信する機会が増えてきました。個人の発信が盛んな情報社会において、e-Sportsにおけるウェブメディアの存在意義そのものが問われていると感じます。今回の「SHIBUYA GAME」閉鎖を受けて「そもそも、e-Sportsのウェブメディアは必要なのか?」という問いと向き合う時が来たのでしょうか?

倉田発信力のみを考えると個人のメディアだけでも十分なのかもしれません。ただ、その情報が発信者の主観で構成された情報が多く、多角的な議論になりづらい事が欠点だと思います。

SNSではエコーチェンバー現象(※)が起きやすく、1人のインフルエンサーの意見が強くなりすぎることもあります。そういう状況では、俯瞰的な視点に立てるメディアの必要性が強くなるはずです。メディアに限らず、少数派の声を吸い上げる場所は必要だなと。
※ネットのコミュニティやSNSのタイムラインにおいて、自身と同じ意見のユーザー同士で交流し、自分の声がさもこだま(エコー)のように返ってくることで、自分の意見や考えが増幅・強化される現象

――今は個人の発信力が強い時代ですが、いずれは揺り戻しが起こるということでしょうか?

倉田揺り戻しが起こると思います。それは1年や2年ではなく10年置きといった長いスパンに思えます。特に大きな事件が起きたときは転換期になりえるでしょう。

――大きな事件とはどのような事件でしょうか?

倉田個人のメディアが暴走したときでしょうか。SNSでは往々にして“情報の正しさ”よりも“誰が発信したか”が力を持ってしまいがちです。冷静かつ多角的に分析できない人が“人気”だけを武器に偏った意見や不当に誰かを貶める意見を広めてしまうことは、あり得ない話ではありません。

――現在はバランスを取る役目をSNSが担っているとも思えます。各個人が発信した情報は1度SNSのタイムラインに集まり、ユーザーは総合的に判断できるとも考えられますがいかがでしょうか。

倉田確かに、個人メディアが暴走したとしても、他の個人メディアが抑止力になっているのかもしれません。もちろん、情報収集力に長けた人であれば、タイムライン上から両極端な意見を多く集めて分析していくことができるでしょうが、それは多くの方にとっては難しいことです。ウェブメディアは、多くの個人メディアを渡り歩けない人の受け皿になると思います。

個人のメディアと公式のメディア、どちらも必要だと考えています。お互いに監視し合い、時には役割が反転する。双方が情報の質を高め合う関係性になるのが理想です。

e-Sportsメディアを運営して見えたもの



――ウェブメディアの必要性について良くわかりました。「SHIBUYA GAME』の運営を通じ、様々なタイトルのe-Sportsコミュニティを見てきたかと思います。その経験の中で、気付いたことを教えてください。

倉田僕自身、学生時代にサッカーとテニスをやっていましたが、スポーツを“する”ことは好きだったのに、“見る”ことには興味がなくて。ただ、e-Sportsの仕事を通して考え方が変わりました。

選手がどんな想いで戦っているのかがわかった途端、e-Sportsとフィジカルスポーツ問わず試合観戦が楽しめるようなったんです。

――e-Sportsメディアの取材を通じてフィジカルスポーツの魅力に気付いたんですね。その価値観の変化は非常に面白いです。e-Sportsの仕事を通して、選手に感情移入できるようになったからなのでしょうか。

倉田まさにそうですね。また、フィジカルスポーツはe-Sportsよりも選手が積み重ねてきたことが体格などに出るので、選手のストーリーを推し量りやすいですし。競技に対して深い理解がなくても感動できるというフィジカルスポーツの良さを、e-Sportsもどんどん取り入れていって欲しいですね。

――メディアという立場から業界全体を見たときの気付きはありましたか?

倉田日々色々な企業が参入を表明していますが、ビジネスのために参入してきた人がe-Sportsに魅力を感じることができずに去っていく姿も目立つようになったと思います。

――興行化には常につきまとう問題ですね。具体的に、e-Sportsの魅力がわからない人たちとはどのような人たちですか?

倉田興行的な魅力は感じつつも、ゲームやe-Sportsを楽しむまでには至っていない人達のことです。ただ、e-Sportsは他のスポーツと比べると認知度が低いので、知らない方たちを馬鹿にするのではなく「e-Sportsってこんなに面白いんですよ」とこちら側に引き込む方が建設的ですよね。

メディアの人間として、僕自身が橋渡しとなり「e-Sportsでこういう露出をしていけば良いのでは」と提案することもありました。e-Sportsの間口を広げることは「SHIBUYA GAME」の目的でしたし、今後も僕自身の役割であることは変わりません。

e-Sports好きとゲーム好きの分断


――間口を広げる観点として、ゲーム好きとe-Sports好きの分断については何か感じますか?従来からのゲームファンほど、今のe-Sportsには乗り切れないこともあります。例えば、友達と格闘ゲームをするのは好きだけど、格闘ゲームのプロプレイヤーに関心は無く、EVOも観ない方々のことです。このような方々はゲーム好きではありますが、必ずしもe-Sports好きというわけではありません。

倉田ゲームプレイのスタンスが大きく影響するのかもしれません。e-Sportsはゲームの楽しみ方の1つですから、他の楽しみ方をしている人がいるのは当然だと思います。

――元来、ゲームは閉鎖的なコミュニティ形成が特徴でした。しかし、e-Sportsは開放的なコミュニティ形成を目指しています。このギャップに戸惑うユーザーは多いのかと思います。『バイオハザード』や『ファイナルファンタジー』など、かつて僕は1人の時間を楽しむためにゲームをしていた気がしますし、『大乱闘スマッシュブラザーズ』や『モンスターハンター』は周囲の友人とのコミュニケーションツールでした。

倉田僕もゲームは1人で黙々とプレイするのが好きでしたから、気持ちは分かります。でもこれからゲームに触れ合う若い世代は必然的にe-Sportsに惹かれ、開放的なコミュニティに飛び込んでいくのかもしれませんね。最初に手に取るであろうスマホゲームは対戦要素を含んでいることも多いでしょうし、意識せずとも頻繁にe-Sportsのコンテンツとも触れ合うことになると思います。

――本日はありがとうございました。倉田さんが今後どのような信念でe-Sportsに携わっていくのかがわかりました。最後に編集長としてのアドバイスを下さい。この記事のタイトルはなんとつけましょう?

倉田そうですね。僕が編集長なら「シブゲーをつぶした男」というキーワードは入れなさいと指示しますし、そう書いていただいても覚悟の上です。

僕はe-Sportsに限らず、読者の人生が豊かになる情報であれば何でも発信したいと思っています。そのために、コンテンツを制作する浦辺制作所という会社を立ち上げました。

「SHIBUYA GAME」は一旦その役目を終えましたが、僕自身は本当に価値があるものを、時代に合わせて適切な出し方をして多くの人に伝えていきたいです。
《OGA》
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