なぜゲーム企業が動いたのか? 米国在住のゲームライターが肌で感じた「#BlackLivesMatter」を解説【コラム】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

ハードコアゲーマーのためのWebメディア

なぜゲーム企業が動いたのか? 米国在住のゲームライターが肌で感じた「#BlackLivesMatter」を解説【コラム】

米国在住のゲームライターから、「Black Lives Matter」について解説。なぜゲーム起業や開発者が動いたのでしょうか。

連載・特集 特集
なぜゲーム企業が動いたのか? 米国在住のゲームライターが肌で感じた「#BlackLivesMatter」を解説【コラム】
  • なぜゲーム企業が動いたのか? 米国在住のゲームライターが肌で感じた「#BlackLivesMatter」を解説【コラム】
  • なぜゲーム企業が動いたのか? 米国在住のゲームライターが肌で感じた「#BlackLivesMatter」を解説【コラム】
  • なぜゲーム企業が動いたのか? 米国在住のゲームライターが肌で感じた「#BlackLivesMatter」を解説【コラム】

この一ヶ月ほどで、アメリカで長年灯っていた種火が爆発に至りました。警察の過剰な暴力がもたらす、特にアフリカ系アメリカ人が経験する日常的な出来事が、ジョージ・フロイド氏の残酷な死の動画によって公にさらけ出されました。

警官を抗議する世界中の人々は「息ができない」と叫び、新型コロナウイルスの危険を理解しながらも一連のデモに参加して、警察制度の改革を訴えました。そしてその風に乗り、「#BlackLivesMatter」のハッシュタッグを使ってステートメントを発表したり寄付を行う企業も現れました。

本稿でお届けする話題は、筆者としても書きやすい内容ではありません。それだけでなく、一部の読者にとってあまり読みたい内容でもないかもしれませんし、いちゲーマーとしては好きなゲームやその開発者が政治的な問題を取り扱うことに、疑問を抱いているかもしれません。あるいは、「自分には関係がない」と感じるかもしれません。しかし、多くの企業と開発者はそれぞれ「フロイドの死は、自分と関係がある出来事なんだ」と心に決めています。


この記事では、米国で起きた警官によるジョージ・フロイド氏の殺害事件とそれを巡るデモ、そしてゲーム業界の対応について解説していきます。なぜ、エンターテインメントを扱う企業がこの問題に対して動き出すのか。市民には、どのような対応が望まれているのか。または、どのような行動がかえって浅薄に感じられてしまうのか。アメリカ在住のゲームライターの目線から、ゲーマーとしてこの事件をどのように受け止めていくべきかを示していきます。




2020年5月26日に、ミネソタ州のミネアポリス市で黒人男性ジョージ・フロイド氏は、「息ができない」と嘆きながら警察官に首を絞められ、殺害されました。現場に立ち会っていた方のスマートフォンで録画された8分46秒の映像は衝撃的でありながら、「見慣れた光景」とも言えます。また、3月には黒人女性のブリアンナ・テイラー氏が白人警官に殺害されていて、2月には黒人男性のアマード・アーベリー氏が、ジョギングの途中で理由もなく白人の親子に殺害されました。

この数年、何百人もの黒人の命が同様の事件で奪われています。2012年にトレイボン・マーティン氏の命を奪った事件が無罪判決となったときに生まれた「Black Lives Matter」という社会運動は、「このような事件は日常的に起こっているのだ」と世間に示そうとすること、そして政治家に変化を要請することが目的です。


COVID-19で何百万人の人間が失業し、経済的に苦しんでいますが、その影響は黒人労働者に強く表れています。そんな中、ジョージ・フロイド氏の映像はアメリカ人たちの感情を爆発させる着火剤のような存在となりました。ミネアポリス市で始まったデモンストレーションは急速に拡大。デモに参加している市民たちは、警察から再び過剰な暴力を振るわれることで、更に怒りを強めました。黒人への過剰な暴力・殺害を防ぐのみでなく「警察」というシステムを見直すべきと主張するこの社会運動は、ついに日本を含む世界中からの注目を掴みました。

アメリカ在住のゲームライターとして、絶句してしまうほどに鋭い衝撃を受けました。ここ数カ月、COVID-19の拡散を抑えるために私たちはずっと家にこもっていました。ニュースで報道されるのは、「感染者は何人?」「死者数はいつ10万人を超えるのか?」「これからの経済はどうなる?」など。1月に失業し、復帰できるまでは時間をつぶすことしかできなかった筆者ですが、世界は一変したように見えます。

COVID-19の脅威が収まったわけではありません。ただ、私たちの胸の中に沸き起こった怒りと悲しみ、その他いろいろな感情は、もう家に閉じ込められなくなったのです。私の友人の多くもどこで何をすべきか感じ取れたようでした。大勢の人々が、この機会を逃してはいけない、という義務感を抱いているのです。


そしてその義務感は、ゲーム業界を含めた幅広い範囲でも抱かれていたようです。ほぼすべての大手ゲームメーカー、Webサイト、有名なクリエイターやインフルエンサーは、何かしらのコメントを挙げています。「黒人のファンや社員を心から支援しています」と、あやふやな声明を出しているところがあれば、スクウェア・エニックスのように黒人を支援する組織への寄付を行った企業も見られます。

ロックスター・ゲームズは、『GTAオンライン』『レッド・デッド・オンライン』のサーバーを「Black Lives Matter」のために一時的にダウンしました。形はどうあれ、これらの企業は「人種の平等を望む組織」として活動し、そう認識されるべくアクションを起こしています。

しかし、それはなぜでしょうか。ゲーム企業はなぜ「メッセージを発信しなければ」と感じているのでしょう? そして私たちは、そのメッセージや行為をどう受け入れたらいいのでしょうか。


そういった企業の動きは、「Black Lives Matter」という社会運動を支持しているゲーマーへのダイレクトマーケティングとしても受け取れますし、それはおおむね間違いありません。特に、声明の公表以外に行動を起こしていない企業の多くはそうでしょう。ポジティブな言い方ではないかもしれませんが、「この運動を支援するとメリットがある。それほど大きくなった」と認識されることは、「Black Lives Matter」に共感する人々にとって重要なポイントです。保守派のファンからの反発は、恐れるほどのものではなくなったように見受けられます。

エンターテインメント産業と言えど、ゲーム業界も急速に動く世論に追いつこうとするものです。そしてデモを支持して、自分の立場をうまく活用して力になりたいと思っている、各企業の社員もたくさんいることでしょう。外からも内からも大きな力が加えられ、企業が動き出しているのです。


それでも、「声明にとどまらず、寄付金で支援する企業も空虚に感じる」と話す黒人ゲーマーやライターは少なくありません。多くの企業には差別的行為・表現の歴史がありますし、黒人のゲーム開発者の雇用や昇進に前向きでないところも多いのです。例えば、多額の寄付金を送ったライアット・ゲームズも一枚岩ではありません。幹部の一人は、亡きフロイド氏にまつわる差別的なメッセージをSNSで投稿し、調査を受けた上で6月11日に解雇処分を受けました。


また、大手ゲーム企業のタイトルの多くは、デモが指摘している「警察の暴力」をヒーローのように描きます。エレクトロニック・アーツの『バトルフィールド ハードライン』は、アメリカの警察を犯罪者と戦争している軍隊のように描写しました。ユービーアイソフトの『ディビジョン2』の設定には、ライカーズ島という場所にある刑務所の脱獄者から「街を取り返す」という物語が含まれています。黒人ジャーナリストのギータ・ジャクソン氏は、「この連帯感は確かにありがたい。しかし、ゲーム業界はそれぞれ自社に被った埃を取り払ってから、この問題の一部になっていることを認めなければ」と語っていました。

本当に「黒人の命を大切」にしたいのなら、声明の発表や寄付にとどまらず、黒人スタッフを雇い、彼らの仕事を適切に評価し、日常化した差別的行為には相応のペナルティを与えればいいと、筆者は考えます。逆に言えば、現在はそれらが行われておらず、「雇用の機会」も「適切な評価」も「差別行為へのペナルティ」も充分ではないということです。

アフリカ系アメリカ人の「大量投獄」を分析するNetflix配信のドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」

もしくは「黒人が犯罪者で、警察が勇敢に銃で問題を解決するゲーム」というものを今一度見直し、黒人のキャラクターにもヒーローの座を与えるのも選択のひとつでしょう。ゲームや映画、ドラマなどで描かれる「黒人キャラクター」のイメージは変わりつつありますが、それでもステレオタイプだったり不自然に活躍したりして、結果的に疑問が残る描写に至ることもあります。しかし、そうでない作品も増えつつあります。


例えば2018年の映画「スパイダーマン:スパイダーバース」では、黒人男性の主人公マイルズ・モラレスがとても丁寧に描写されています。黒人としてのアイデンティティは映画のシチュエーションに影響しますが、彼の物語がお約束のような設定で描かれるわけではありません。ギャングや麻薬、父親がいないなどステレオタイプな背景ではなく、「私立学校での居心地の悪さ」といった要素で彼のアイデンティティが表現されています。このように、黒人クリエイターが自分の経験を映し出したり、生の質感を覚えられるようなキャラクターが求められるのではないでしょうか。同作品の売上や受け取った賞を見ても、そういった丁寧な描写をオーディエンスが受け入れていることはすぐに分かります。

そして最も重要なのは、世界中が人種差別問題に注目していない時期でも、このような行為を続けることです。時流に乗って「あなたたちをサポートしています!」とアピールするだけでなく、行動を伴う支援に注力するほうが、意義深いことでしょう。



日本に住むゲーマーの方に、無理やり「Black Lives Matter」について考えさせることはできません。世界中のサーバーに影響を与えたRockstar Gamesの『GTAオンライン』『レッド・デッド・オンライン』の一時停止を除く行為は、英語圏でないコミュニティにあまり影響はありません。そして、こうした問題を無視してゲームをプレイし続けても、きっと問題はありません。

しかし、私たちはCOVID-19と「Black Lives Matter」の運動が重なったグローバルな社会変革の途上で暮らしています。今回のデモ活動は、アメリカから国境を越え、世界中に広がり、ついには日本まで届きました。フロイド氏の残酷な最期は、何百万人という人間に人種差別という問題に目を向けさせました。それは自分が経験したものかもしれませんし、参加したものかもしれません。いちライター、ゲーマー、人間として、皆さんには少しだけ時間をとって、自分なりの考えを作ってほしいと願います。8分46秒だけ、考えるための時間を作ってもらえないでしょうか。
《Cameron Gilbert》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集

連載・特集 アクセスランキング

アクセスランキングをもっと見る

page top