キルヒアイスの死とともに、いよいよクライマックスを迎えた地上波放送版「銀河英雄伝説 Die Neue These」。そして発表された続編(全24話)制作決定の報!原作1巻が発売してから40年近くを経ても、いまだ熱量衰えぬ「銀河英雄伝説」界隈では、新旧多くのファンが今後のシリーズ展開を期待しているのではないでしょうか。
そもそも、遠未来の二大勢力による銀河戦争やその背後の政治劇を舞台にした「銀河英雄伝説」、いわゆる「銀英伝」は田中芳樹氏の小説を原典とし、漫画やアニメを中心に広がったコンテンツ。アニメでは石黒監督版、漫画では道原かつみ版を嚆矢に、近年は「Die Neue These」や藤崎竜版コミックでも新たなファンを加えながらその人気を高めています。そして、同作を原作とした数々のゲームも88年のファミコン版(コトブキシステム)以降、複数のハード・メーカーの手で作られてきました。
そこで本記事では、銀河の英雄たちへ馳せる想いが冷めやらぬうちに、ゲーム版「銀河英雄伝説」のなかでも、とくにオススメな作品を紹介していこうと思います。
銀河の歴史を自由に描く『銀河英雄伝説IV EX』(PC-9801/Windows)
かつてボーステックが手掛けた「銀英伝」シリーズの傑作にして、「銀河英雄伝説」ゲーム史上に燦然と輝く名作、それが『銀河英雄伝説IV EX』(以下『EX』)です。本作は一言で言えば、「銀河英雄伝説」版『太閤立志伝』、あるいは『信長の野望・創造 戦国立志伝』。プレイヤーは帝国・同盟いずれかの提督の一人となって、UC795の第四次ティアマト会戦からUC799のバーミリオン会戦まで、好きなシチュエーションを選んで歴史に介入していけるものとなっています。
本作最大の魅力はなんといっても自由度の高さで、メルカッツで貴族連合軍を勝利に導くもよし、トゥルナイゼンでバーミリオンの死闘でのローエングラム公の勝利に貢献するもよし、あるいはゾンバルト少将でひたすら輸送に励んでもよし。プレイヤーの想像力の羽ばたきの数だけ、ゲームの遊び方もまた広げることができるわけです。
選択できるキャラクターはシナリオ開始時点で少将以上の階級の人物のみですが、准将以下の人物も副官などで使用可能で、総登場キャラクターはなんと180人以上。クロイツェル伍長やリンザー大尉といった、ファンならうれしい人物たちも続々登場します。ちなみに、アンドリュー・フォークの最終階級は准将なので、プレイヤーとしては使用不可であることは明記しておかねばなりますまい!
なお、作戦計画や艦隊の移動指示は統合作戦本部長など高位身分の権限で、プレイヤーがいち提督の場合は権限者に都度要請、承認を得ることで戦略を組み立てていきます。
銀河の歴史を1ページ書き加えてみよう『EX』リプレイ!~パエッタ、不死鳥の如く~
さて、ここまで『EX』を紹介しましたが、書いてるうちにプレイしたくてたまらなくなったので実際に同作を1プレイした流れを記しておきましょう。筆者は遊んで楽しく、未プレイユーザーはゲームの雰囲気がわかって、これは一石二鳥というもの。
――ときは宇宙歴799年、帝国歴490年4月22日。バーミリオン星域でヤン艦隊とローエングラム公ラインハルトの艦隊が今まさに砲火を開かんとした瞬間。
首都ハイネセンに駐留する第1艦隊司令官パエッタ提督は、宇宙艦隊司令長官ビュコックに自身への出撃を要請します。フェザーン回廊を経由して大挙押し寄せてきた帝国軍の大艦隊は、ヤンを罠に嵌めるべく今や同盟各地に分散中。この好機に首都の防衛部隊も全艦出撃し、バーミリオンでローエングラム公討つべし……と!
急転バーミリオン
宇宙歴799年5月1日。9日(3ターン)の日数を経て、バーミリオン星域に同盟軍増援としてパエッタ提督がついに到着します。原作ではこの翌2日、ヤンの尋常ならざる攻勢にラインハルトの敗北を確信したヒルダが、ミッターマイヤー艦隊を訪れる日となります。
今回のバーミリオンの戦いは、同盟帝国どちらも消耗戦の体を成しており、ヤンもラインハルトも満身創痍。そこにミュラーより速く到達したパエッタは、いまだ交戦中のヤンを囮に帝国軍の背後に展開します。そして弾薬を惜しむなと総攻撃を命じ――。
ドーソン謀殺
バーミリオン会戦でローエングラム公の野望は挫かれ、同盟の各艦隊は分散した帝国軍を打ち払っていきます。一連の功績でパエッタ提督は大将に昇進。主星ハイネセンに帰還した彼はビュコックに要請して各艦隊を再編して反攻作戦に備えるのでした。
しかし、軍事作戦の全権を握る統合作戦本部長ドーソン元帥は、パエッタの提案をことどとく拒否。臆病風に吹かれたじゃがいも野郎に、パエッタはビュコックとともに一計を案じます。
軍事作戦の決定権は統合作戦本部長のドーソンが有しますが、実際に作戦に沿って艦隊に命令を出すのは宇宙艦隊司令長官のビュコック。つまり、ドーソンが立案した数少ない攻勢作戦に、ビュコックの命令でドーソン自身を駆逐艦1部隊で突っ込ませたのです。
統合作戦本部長の憂鬱
しかし誤算がありました。てっきりドーソンが提案を拒否するのは彼との相性の悪さと、怠惰と臆病と頑迷さと嫉妬が原因だと思われていたのですが、新たな統合作戦本部長ヤン元帥も作戦を許可しなかったのです……!
タッシリ星系への防衛出兵は「だめ!」、ガンダルヴァ星域の攻略も「だめ!」、ランテマリ……「だめ!」。よくよく同盟の状態を見てみると、バーミリオンに至るまでのたび重なる敗戦と、多くの星系をすでに失陥していることですでに財政が破綻。国防予算は毎月5000億ディナールほど振り込まれるものの、月末には残金0というありさまだったのです。そこは高度の経済的柔軟性を維持しつつ、臨機応変に……「だめ!」
ビバ・デモクラシー!
しかし、どれほど犠牲が多くとも、たとえ同盟全経済が死にいたっても、なすべきことはありまーす!パエッタは、ここで自由惑星同盟最高評議会に政治工作を実行。トリューニヒトに働きかけ、国家命令として出兵を要請させたのでした。軍部が嫌と言おうとも、ビバ・デモクラシー!ビバ・シビリアンコントロール!ウィンザー夫人、貴女は正しかった。
システム的には、政治工作値を1000消費して、1ターン限定の強制命令を発動したパエッタ。ちなみに政治工作は最大値がキャラごとに決まっており、クーデターの実行には最大値の8000が必要となります。政治工作を8000まで貯められるのはローエングラム公、ロイエンタール、グリーンヒル、ヤンといった一部の人物のみ。パエッタに8000の政治工作値があれば、迷わずクーデターを選んだのですが、ここはしんぼうしんぼう。
同盟ばんざい!
月初のごく限られた予算を元手に、ついに反攻作戦に転じた同盟軍。あるいはパエッタ提督の傀儡となった同盟軍。しかし艦隊自体は帝国に比して決して多くはありません。パエッタは、他の全艦隊に同盟領の要所・ランテマリオ制圧を指示すると、自身はわずか1個艦隊でイゼルローン攻略に向かうのです。
「ヤンに可能だったことが俺には不可能だと思うか?」パエッタがそううそぶいたかはさておき、副官にカスパー・リンツ大佐とバグダッシュ大佐を要請した彼は、イゼルローン回廊に突入。情報工作担当バグダッシュの「通信妨害」でひそかに要塞に接近し、軍事工作担当リンツの「占拠」を用い、たちどころにイゼルローン要塞を奪回したのでした。
そのころヤンやビュコックに率いられた同盟主力艦隊は帝国艦隊を破り、ランテマリオを制圧。あいかわらず貧乏ではあるものの、同盟本領をほぼ回復し、いよいよフェザーン回廊への突入を目前としていたのです。
ときに宇宙歴800年、帝国歴491年3月1日。遠からぬ将来、再び同盟軍は帝国領に“大”攻勢をしかけ、専制政治の圧政に苦しむ銀河帝国250億の民衆を解放し救済する、崇高な大義の戦争を行うことになるのでしょう。銀河の歴史は新たな1ページが開かれるのか、それとも過去のページを繰り返すだけになるのか、それは後世の歴史家のみが知ることなのです……。
ここまで『EX』の内容を紹介してきましたが、いかがでしょうか。同作は、宇宙規模の戦略シミュレーションというよりは、原作キャラの立場を体験するロールプレイゲームとして楽しむべき作品です。
ただ、CPUの戦略AIがかなり場当たり的で、軍事作戦を要請しないと各艦隊がひたすら右往左往するばかり……という難点も。これは停滞した100年の無益な戦争を繰り返す両軍と、その歴史を変える英雄(=プレイヤー)の登場を現すとも言える仕様ですが。
ちなみに筆者のロイエンタールプレイ時は、ローエングラム公の緩慢な戦略に業を煮やしてクーデターを敢行。オーベルシュタインに尻尾を振られ、投降したバイエルラインに暗殺されかかるという展開に……。プレイごとに異なる歴史に熱くなれる、そんな「銀河英雄伝説」ゲーム史上の名作なのです。
キルヒアイス生存の原作IFも楽しめる!バンダイナムコ版『銀河英雄伝説』(Windows)
ボーステックの手掛けた『EX』が破天荒なまでの自由度を見せる一方、原作ストーリーをしっとり丁寧に追ったのがバンダイナムコ(BNE)版『銀河英雄伝説』。
複数の艦隊を操る戦術ストラテジーである本作。帝国・同盟双方のストーリーを追体験するキャンペーンモードが用意されており、舞台となるのはまだラインハルトが少将だった第六次イゼルローン攻防戦からバーミリオン会戦までの期間の物語です。戦闘はリアルタイム制となっており、三すくみとなる陣形の優劣を考えながら、随時指示を与える必要があります。
ネット対戦(こちらもサービス終了済)にも対応していた戦闘システムは、シンプルながら作戦がハマると気持ちよく敵を壊滅させられる爽快感が魅力。発売は2008年ともう10年以上も前になりますが、それでも「銀英伝」ゲーム作品では最新の部類であり、他に比べた戦闘アニメの美しさもまた目を引く作品です。
BNE版のストーリーは石黒監督版アニメ「銀河英雄伝説」をもとにしており、途中にはアニメムービーもたびたび挿入されます。それ自体が原作追体験として楽しいだけでなく、特定条件を満たせば原作と異なる展開も……。
例えば2周目の帝国軍プレイでは、原作と異なる選択を選ぶことでキルヒアイスが“あの場面”で銃を携帯。アンスバッハはすぐさま射殺され、キルヒアイスは引き続きラインハルトを支えていくことになります。歴史そのものは要塞対要塞、神々の黄昏作戦と、以前と変わらず展開していきますが、2人で宇宙を手に入れるべく戦う姿は、ファンの「これが見たかった」感がすごいことに……!
戦略と物語性を両立させた徳間書店版『銀河英雄伝説』(PlayStation)
スーパーファミコン、セガサターン、PlayStationと、コンシューマ機種に数々の「銀英伝」ゲームを送り出してきたのが徳間書店です。なかでもその集大成と言えるのが98年に発売された初代PlayStation版の『銀河英雄伝説』。
同作ではプレイヤーは帝国・同盟いずれかの勢力をプレイして相手勢力を滅ぼすべく全軍を指揮していきます。ボーステック版『EX』の戦略性と、BNE版のシナリオ展開をほどよく掛け合わせたようなゲーム性になっており、銀河全体マップで進軍や艦隊編成を指示していくだけでなく、条件を満たせば物語を再現するイベントが発生し、戦況が大きく動いていくことになります。
とくに星系内での戦闘システムは秀逸で、移動ラインを設定することで「相手方向を向いたまま、ゆるやかに弧を描くように背面に回り込む」指示が可能なのです。この移動ラインシステムは直感的な機動戦術を可能としており、艦隊戦を大いに楽しむことができるものでした。
「Die Neue These」キャラがまさかのコラボ参戦『三國志14』(PS4 /Windows)
さて、そろそろ読者の皆様はお気づきではないでしょうか。そう、ゲーム作品はいずれも旧OVA、石黒監督版「銀河英雄伝説」がベースであり、「Die Neue These」のゲーム作品はいまだ存在しないということに……!
こればかりは今後の展開に期待するしかないのですが、じつはあのコーエーテクモゲームスの『三國志14』にコラボキャラとして「Die Neue These」のラインハルトやヤンたちが参戦中です。
動乱の三国時代に現れた「銀英伝」キャラたち。曹操vsラインハルト、諸葛孔明vsヤンといったドリームマッチはまさに必見!
圧倒的な自由度の高さを誇る『EX』、原作再現だけに留まらないBNE版、独自の戦闘システムが心地よい初代PS徳間版などなど、これまで登場してきた多種多様な「銀英伝」ゲーム作品たち。
ただ、「銀河英雄伝説」の名を冠するゲーム作品は、08年のBNE版を最後に現在はすっかり途絶えてしまいました。(※ 2016年まで基本無料ブラウザゲームの『銀河英雄伝説タクティクス』がサービスを続けてはいたのですが)
「Die Neue These」の続編が発表されたということで、いつかまた「銀英伝」ゲームの歴史に新たな1ページが開かれる日への期待を胸に、今回は記事を閉めさせていただきたいと思います。
※ UPDATE(2020/9/15 21:10):公開当初、著者名が間違っておりました。関係者と読者の皆様にお詫び申し上げます。