“ヒッピー”って何者? 自由人たちの文化が『DEATHLOOP』『ファークライ4』『MOTHER2』に与えた影響を辿る | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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“ヒッピー”って何者? 自由人たちの文化が『DEATHLOOP』『ファークライ4』『MOTHER2』に与えた影響を辿る

ゲームにも影響を与える「ヒッピー」。昔は思想的で、危なくて、ロックでした。

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“ヒッピー”って何者? 自由人たちの文化が『DEATHLOOP』『ファークライ4』『MOTHER2』に与えた影響を辿る
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髭が長めなロン毛の連中、自由人で「ラブ&ピース」などと言いつつドラッグをやってる奴ら、ゲームをやっているとちょくちょく目にしませんか? 和ゲー、洋ゲー問わず、ゲームには様々なリアル文化の片鱗が見て取れます。60年代を中心に流行ったライフスタイル「ヒッピー」もそのうちのひとつです。

ゲームや映画、小説などを通して、ヒッピーは「ロック」「ピース」「自由な生きざま」などなどのイメージと共に描かれてきました。変わり者で社会に馴染めていないけれど、善い人であろうとする人間といった印象を持っている方も多いことでしょう。事実、現在においては大体がその通りですが……それは1950年~1960年代から約60年も経過した中で変容した結果でした。当初は苛烈な運動として知られ、ヒッピー文化に纏わる本が発禁処分を受けたり、猟奇的な殺人事件が起こるなど陰惨な側面も。さまざまな背景によって、ヒッピーは「反社会的」の代名詞でもあったのです。

最近だと『DEATHLOOP』のヒッピー描写が、多くのゲーマーに強烈なインパクトを与えていました。孤島でコミューンを作り上げた指導者、そしてそれについてきた人間たちが主人公の前に立ちふさがるのです。彼らは理想を唱えながらも、反社会的。主人公を見つけると感情をあらわに襲い掛かってきます。

本記事ではそんなヒッピームーブメント、そしてそれを作り上げた「ビート・ジェネレーション」世代の作家たちについて、その歴史を解説したいと思います。功罪ふくめアメリカを中心に大きな影響を与えたこのカルチャー。ゲームにヒッピーが出た時、ふと思い出してくれると幸いです。

◆『DEATHLOOP』で見られる“ヒッピー”コミューン

『DEATHLOOP』において“エターナリスト”は普通の人間でした。訓練された軍人ではなく、屋外ライブで盛り上がったり、幹部への不満を軽々しく口にしたりと、結構ノリが軽めな、ことの重大さがわかっていなさそうな集団。60'sな雰囲気も相まって、ヒッピー感バリバリです。

“エターナリスト”たちにはアート、音楽、ドラッグなど、ヒッピーが重要視していた要素が共通点として多々あります。ヒッピーのコミューン(共同体)に在り方がかなり近い。ゲームとして、なにより珍しいのは、「暴走したコミューンの内部紛争」という点です。

現実ではヒッピーコミューンは割と暴走的な行為に走ったり、社会から離脱したりと目立っていましたが、ゲームとして、特に内部から描写されるのはあまりありません。

現実社会で、ヒッピーが起こした凄惨な事件としてもっとも有名なものが「シャロン・テート殺害事件」。シャロン・テートという女優がマンソン・ファミリーというコミューンの襲撃を受け、殺されました。近年、クエンティン・タランティーノ監督の映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で脚光を浴びた事件です。

これはもちろん「コミューンが勝手に暴走した」ということであって「ヒッピーであること」が悪いわけではありませんが、「孤立したコミュニティを形成しやすい」「反社会的な思想を持つ」というヒッピーの性質が、理由としてつながってしまっていたでしょう。

苛烈すぎる事件を取り上げましたが、ヒッピーがどういう反社会的側面を持っていたか考えれば『DEATHLOOP』での“エターナリスト”が集まった理由もわかりやすくなります。

まず、ビート世代で大きなリーダーシップを発揮したのが3人の作家、「ウィリアム・バロウズ」「アレン・ギンズバーグ」「ジャック・ケルアック」。ギンズバーグが発表した詩、「吠える(HOWL)」に“ヒップ・スター”という単語が現れ、これが「ヒッピー」という言葉の原型になりました。当時蔓延していた“アメリカの息苦しさ”をとらえ、精神世界に目を向ける内容となります。

そこから、音楽・ドラッグ・フリーセックスによる非言語的なコミュニケーションでたがいに結び付き、言語で成り立つ豊かなアメリカを否定するという考えに至ったのがビート・ジェネレーション。内面の変化を重視したコミューンを作りつつ、社会活動に参画しないことによってアメリカを否定するから「反社会的」なわけです。

そうして成り立ったコミューンは一種の密閉状態に。そのため、カルト的な指導者が誕生したりと、暴走の機運は高まってしまいます。『DEATHLOOP』においてコミューンで暴走してるのは主人公のコルトなのかもしれませんが、その主人公に相対するエターナリストたちも外から見れば暴走集団。内面の変化というより自然法則の変化がキーと違いはありますが、実にヒッピー的と言えるでしょう。

◆『ファークライ4』ヨージーとレギー、そして精神世界への探求

『ファークライ4』の作中では、“バックパッカー”“葉巻”好きなヨージーとレギーというキャラクターが登場します。彼らはバックパッカーとは名乗っていますが、その在りようは限りなくヒッピー。葉巻ではトリップしません……。

本作の舞台となるキラットはシベリア付近の架空国家です。ゲーム中にはキラットに向かう経由地なのか、インド出入国の旅行券もあったり。ストーリーでは、ヨージーとレギーの“葉巻”とは違いますが、内なる人間性に目を向ける展開が多くあります。エイジェイは虎に導かれ、トリップしたかのような世界を旅しました。

現実のヒッピーたちは「精神世界に目を向ける一環」として、東洋の神秘を求めて世界中を旅しました。前述したビートニクの旗手たるひとり、ケルアックは「禅ヒッピー(ザ・ダルマ・バムズ)」という著作を残しています。海外で「オリエンタリズムな神秘性」が語られる理由のひとつ。

なにはともあれ、そうして出来上がったヒッピーの聖地に、インドのゴアやネパールのカトマンズという場所があります。彼らは「ヒッピートレイル」と呼ばれる旅路でこのような東洋の神秘を求めました。(ドラッグなどは強く否定したうえで)このような内面世界への探求が、今も続くヒッピー文化のポジティブな一面になったのでしょう。

今も真贋を定められず噂の域を出ませんが、筆者の恩師である今は亡き文芸編集者いわく、ビートニクの影響で海外には「無責任なフリーセックスの果てに生まれた子供たち」がいるんだとか。もしそれが確かならば、これはビートニクが生みだした問題のひとつになるでしょう。

もちろん『ファークライ4』はエイジェイがパガン・ミンや母の遺灰を中心に、自らの起源を紐解く内容であって、ヒッピートレイルな話ではありません。キラットはパガン・ミン以外には楽園ではない……。『ファークライ5』もかなりヒッピー感がありますが、あちらは新興宗教との戦いなので、ヒッピーとは少し系統が違います。『ファークライ プライマル』などはさらに遡って、原始の神秘性にまで踏み込んでいましたね。

◆日本産ゲームにおけるヒッピーの影響

●『MOTHER2』にも登場、“カルチャー”としてのヒッピー

日本のゲームでは『MOTHER2』にて「きままなにいさん」が登場。いかにもヒッピーな風貌をしており、なんと英語版では「New Age Retro Hippie」としっかり「ヒッピー」呼ばわりされていました。ちなみに「ニューエイジ」とは、ヒッピー・ムーブメントの一側面。ヒッピーの影響を受けながら起きた「スピリチュアルな感じの活動」を指す単語と言えばざっくりわかるでしょうか。すでにヒッピーが古くなった時代に「ニューエイジ・レトロ・ヒッピー」とは言いえて妙ですね。

日本においてビートニクは、反社会的な側面よりファッション・音楽などの文化的影響が強いでしょう。同時期に起こっていた学生運動などに比べ、他人に強制する性質でなかったのもあるかもしれません。こういった理由で、日本では「きままなにいさん」程度の存在感で、本場アメリカよりもマイルドに受け取られたのでしょう。「寅さん」でおなじみの「フーテン」と融合したのでは、との見方もあります。

日本への文化的影響としては「ヒッピー族」の出現が挙げられ、新宿などで生活をしていたそうです。ただ、物価が高騰していくにつれてその数は減少していったとのこと。日本においてビートニクは「カウンター・カルチャー」に合流して現在も継承されていて、カウンター・カルチャーのみを取り扱った古書店なども残っています。

大阪などでは小説家の「中島らも」などがヒッピー的であると有名ですが、彼は自らのことをヒッピーではなく「フーテン」と宣言しました。ビートニクに造詣があったため、自らには反社会性などの思想を持ち合わせていないとの意味で発言しました。

●“インスタント・ゼン”とすら呼ばれたドラッグ「LSD」、そしてゲーマーにとっての『LSD』

「文化としてのドラッグ」……なんて言葉は筆者としても認めたくないですが、ビートニクには間違いなくそういったカルチャーがありました。しかし、先ほど挙げた作家のひとりであるバロウズは、彼が断薬していた時期に「ドラッグは絶つべき」と警句しています。

その中で、過去にヒッピーのドラッグとして有名だったものが「LSD」。「インスタント ・ゼン」とすら呼ばれていたとか。しかし、もはや『LSD』という言葉はもうゲーマーの方が馴染み深いかもしれません。


現在はかなりマイルドになり、鳴りを潜めた……というよりは“今に影響した昔の文化”にまでなったヒッピー。ですが「ビートニク」として全盛だったころは社会の変革を願うほどの苛烈な運動でもあったのです。

本記事では「ヒッピー」のネガティブな側面を意図的にピックアップしました。ヒッピーを「能天気で平和な人たち」と呼ぶことは簡単です。しかし、ビートニクとして本来持っていた闇深さまで忘れ去られることに、筆者はもったいなさを感じています。その功罪を積み重ねたうえで、ロックの伝説「ウッドストック・フェスティバル」などに至る熱狂が生まれ、それは現代でも文化として影響を与え続けています。

『DEATHLOOP』ではその功罪が鋭敏に取り上げられましたし、『ファークライ4』でもその前提が見え隠れします。「ヒッピーっぽい設定」まで広くピックアップすると、SFの電子ドラッグ、すこし自由人なモブキャラ、ロックを取り扱ったものまで、本当に様々な形でゲームに登場していることが分かります。特に古いロックや一時期のクラブミュージックを題材にした作品では、外せない要素でしょう。もしヒッピー的なキャラに触れる機会があったら、善し悪しを越えて世界に及ぼした影響を思い出してみたらどうでしょうか。


《高村 響》

ゲームライター(難易度カジュアル) 高村 響

最近、ゲームをしながら「なんか近頃ゲームしてないな」と思うようになってきた。文学研究で博士課程まで進んだものの諸事情(ゲームのしすぎなど)でドロップアウト。中島らもとか安部公房を調べていた。近頃は「かしこそうな記事書かせてください!」と知性ない発言をよくしている。しかしアホであることは賢いことの次に良い状態かもしれない……。

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