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【名作インディー振り返り】時間の砂に埋もれない“非言語の魅力”『風ノ旅ビト(JOURNEY)』(2012年)

過去のインディゲームをルックバック! 不朽の名作『風ノ旅ビト』をプレイレポ形式で再度お届けします。

連載・特集 プレイレポート
【名作インディー振り返り】時間の砂に埋もれない“非言語の魅力”『風ノ旅ビト(JOURNEY)』(2012年)
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本記事では、過去に発売されたインディゲームをピックアップ!「名作インディー振り返り」と題して、プレイレポ形式で取り上げていきます。未プレイの方はこの機会にぜひ知ってもらって、そうでない方も再プレイのきっかけにしてみてはどうでしょう。

今回取り上げるのは、国内で2012年3月にPS3向けにリリースされたアドベンチャーゲーム『風ノ旅ビト』です。原題は『JOURNEY』。あとから移植されたSteamなどでは、こちらが作品名となっていますね。筆者としては邦題である『風ノ旅ビト』と呼ぶ派なのですが、『JOURNEY』の方も結構好き……。今回、筆者はSteamで再プレイしたのですが、本記事では“振り返り”ということで『風ノ旅ビト』と呼称します。

『風ノ旅ビト』は、広大な砂漠が舞台となるアクションアドベンチャー。すべてが砂の海に飲まれた世界で彷徨う旅ビトの物語……とはいっても本作は直感的な操作がベース。非言語的な感覚で物語を推察する作品です。「なんとなくわかって、なんとなく楽しめる」のが本作の魅力。砂漠の世界を自由に旅している心地よさがクセになる一作です。

◆『風ノ旅ビト』発売年プレイバック【2012年3月Tips】

●2012年に発売されたゲーム

『ポケットモンスター ホワイト/ブラック2』や『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』、『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』などがリリースされました。

●2012年3月の話題

映画監督のジェームズ・キャメロン氏が1人乗り潜水艦でマリアナ海溝チャレンジャー海淵に挑戦。世界最深部となる10,898メートルに到達しました。同氏の代表作は『タイタニック』(1997)や『アバター』(2009)。2022年12月には『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が公開予定です。

風ノ旅ビト』がリリースされたのは2012年3月15日(アメリカでは2012年3月13日に発売)で、今から10年以上前のこと。ThatgamecompanyとSIEサンタモニカスタジオによって開発され、Thatgamecompanyの『flOw(2006)』や『Flowery(2009)』などに続く作品となっています。

2022年現在の対応機種は、PS3/PS4/PC/iOS。また、PS5でもプレイが可能になっていて、2020年にはSteamでもリリースされています。ちなみに、本作は「ダウンロード専売」でオリジナル版が配信されていましたが、当時の世代では少し珍しい形態でもありました。

高く評価を受け数々の賞に輝いた本作。なんと『風ノ旅ビト』のサウンドトラックはグラミー賞、「Best Score Soundtrack For Visual Media」部門にもノミネートされています。

◆布は友達! 『風ノ旅ビト』が紡ぐ非言語の世界は楽しく美しい……。

さて、ここからは『風ノ旅ビト』プレイレポートになります。開始地点は見渡す限りの砂漠で……砂漠好きならもうそれだけで満足いくビジュアル。10年経った今も美しく感じられる、アーティスティックな描写に感動です。

チュートリアルは本当に最小限な解説のみで終了。“非言語”をテーマにしたような作品ですので、操作は簡単です。ただ、本作ではチュートリアル以外でのゲームシステムの説明がほとんどありません。しどろもどろで「こうすれば動き始められるのではないか?」と判断して行動していきます。

ただ、これを不親切と思わせないのが本作の凄いところ。すべてが「自由」であると直感的にわかるので、気付けた楽しみの方が勝るのです。……筆者は再プレイなので、正確に言うと「気付けた」ではなく「思い出した」でしょうか。

そんな本作のシステムをざっくり言うと「砂漠に舞う布と一緒に飛んでいくこと」。空を舞うためのエネルギーを布から得るので、必然的に空に泳ぐ布たちと共に歩むことになります。旅ビトも砂の海を舞うひとひらの布になったかのような一体感が楽しい。

旅ビトのまとうストールにエネルギーが貯められていくのも印象的です。アイテムを取得してストール(エネルギー残量)を伸ばしていくのが気持ちいいですね。このアイテムは至るところに散らばっているので、探索・収集要素も楽しめます。

あとはその場の流れで、良い感じにプレイしてください。……ふざけた物言いをしましたが、本作の最大の特徴は練りに練られたゲーム性。どこに行けばいいか、何をすればいいか……次の目的が直感的に分かりやすいので、「自分の流れ」で動けるのです。プレイヤーが次に目指す先を示す、“動線の構築”が非常に秀逸。「なんとなくわかっていく感覚」がたまらないですね。

本作では砂漠に沈んだ文明と、その末裔(と思われる)主人公のストーリーが展開されます。言語のない世界で、ぼんやりと浮かんでくるかつての栄華が解き明かされていく展開。しかし、本作はストーリー自体が魅力ではありません。ストーリーをバックボーンに、「自分がその世界にいる」こと自体が美しく、貴重な体験として胸に迫ってくるのです。

また、本作にはオンライン要素も含まれます。というか、実は開始直後からオン状態になっていて、ゲームプレイ中のどこかで別の旅ビトと出会うことができるシステムなのです。しかし非常にユルい繋がりで、交流手段は効果音を鳴らすことのみ……。適当なところで別れようと、はたまた行動を共にしようと自由です。

筆者が再プレイしたのは2020年にリリースされたSteam版。割と最近とはいえ、もともとは10年前のゲームですので、誰とも会うことはないだろうと考えていました。本記事では一人旅の楽しさを中心にお届けするつもりでしたが、なんと早々の段階で他のプレイヤーと遭遇。まさしく、砂漠のど真ん中で人に会えたかのような喜び……。

この名も知れぬ旅ビトとは、しばらく行動を共にすることに。しかし、適当なタイミングでふらりとその彼が砂丘の向こう側に行ってしまいました。あっけないお別れです。この一抹の切なさと、「ひとりひとりの自由度」が醍醐味。いうなれば、ソロプレイの進化系としてのオンライン要素でしょうか。

コミュニケーション手段が最小限なので、言葉がない代わり、交流に「喜び」が生まれる。筆者は『DEATH STRANDING』でも、これと似た感覚を憶えました。人によって様々なかたちの「居心地のよいオンライン環境」があると思われますが、本作や『デススト』はユルい繋がりながらも人の温かみを感じられる仕組みをとっています。

さすがに「まだ他のプレイヤーと会える!」と断言はできないのですが、もし今プレイしたとしても、人と会う可能性は十二分にあるはずです。

本作の魅力は、操作の爽快感や今見ても圧巻の砂漠の美しさなど色々ありますが、「心動かされるゲーム体験」の一言に尽きるでしょう。もちろん考察に値するストーリーや飛翔の楽しさなど、書くべき点は山ほどありますが、結局のところ辿り着くのは、明言化できない……あるいはゲームライターであっても「明言化したくない感動」なのです。

2022年の今、改めて振り返って無理に苦言を……という不埒なことも考えていたのですが、本作に限ってはそれが難しい。グラフィックにも見劣りがなく、なにより見事にバランスが取れたゲームです。どこかを崩してしまえば、作品全体が崩壊してしまうでしょう。


さて、少し面倒くさい話になりますが、文字というものは人類を進歩させてきました。言語にくわえ文字というものが発生し、本というものが生まれ、文明が発達したのです。「書物」に辿り着かなかった文明は進歩が頭打ちになってしまうほど、重要な要素。しかし言語・文字にもデメリットはあります。それは人間の営みが極端なまでに複雑化・煩雑化してしまうという点。精神的ストレスに通じる、束縛が産まれるのです。

『風ノ旅ビト』にあるのは、単調で純粋な非言語コミュニケーションのみ。言語があれば契約が生まれ、責任などが生まれますが、本作は意図的にそれを排除したゲームです。言語のない自由な遊びを、風に乗って体験できるでしょう。ゲーム性しかりオンラインしかり、『風ノ旅ビト』が持つ魅力はその純粋さにあります。もちろん、こういった非言語的なゲームは同作以前にも見られましたが、「完成度の高さ」で言えばその中でも上位に食い込むような名作です。

ゲームには「自分の思い出になるもの」も多く存在します。本作は間違いなくそのひとつ。まだ『風ノ旅ビト』をプレイしていない人は、ぜひこの世界を旅してみてはどうでしょう。そして当時プレイして魅了された方は、変わらないままそこにある砂漠の世界をもう一度味わってはどうでしょうか。

  • 製品名:『風ノ旅ビト(JOURNEY)

  • 対応機種:PC/PS3/PS4/iOS
     Steam『JOURNEY』(1,520円 税込)
     PS4版『風ノ旅ビト』(1,320円 税込)
     iOS版『風ノ旅ビト』Journey(610円 税込)

  • 記事におけるプレイ機種:PC(Steam)

  • ジャンル:アクションアドベンチャー



《高村 響》

ゲームライター(難易度カジュアル) 高村 響

最近、ゲームをしながら「なんか近頃ゲームしてないな」と思うようになってきた。文学研究で博士課程まで進んだものの諸事情(ゲームのしすぎなど)でドロップアウト。中島らもとか安部公房を調べていた。近頃は「かしこそうな記事書かせてください!」と知性ない発言をよくしている。しかしアホであることは賢いことの次に良い状態かもしれない……。

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