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Game*Sparkレビュー:『Victoria 3』―あまりにも高いハードルを超えてきた「伝説」の後継者

永久に発売されないとまで言われた『Victoria 3』。満を持して登場した本作は伝説的なシリーズの後継者になれるか。

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『Victoria 3』
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Victoria 3 - Release Trailer

19世紀から20世紀にかけてのヴィクトリア朝と呼ばれた時代、世界は産業革命により急速に変化していました。日進月歩の科学技術、列強による世界分割、社会問題と政治運動、前人未到の地への探検。そんな激動の時代を舞台に、自分だけの理想の国家、自分だけの歴史を作り上げるストラテジーゲーム。それが『Victoria 3』です。

『Victoria 3』は2022年10月26日にParadox InteractiveよりPC(Steam)向けに発売されました。前作『Victoria II』が発売されたのは2010年。続編を求める根強いファンの声にもかかわらず、デベロッパーのParadox Interactiveは沈黙を守り続けました。いつしか世界中のファンの間で「3はいつ出るの?」が合言葉となり、本作が正式発表された時も「それで、4はいつ出るの?」と冗談が飛び交ったほどです。本作はファンに長年待ち望まれ、永久に登場しないとまで言われた後継作であり、それだけに期待のハードルはこの上なく高くなっていました。

日本のプレイヤーにとっては日本語が公式サポートされたのも嬉しいニュースです。かつては日本の代理店が日本語版を取り扱っていましたが、近年は取り扱いがなく、同デベロッパー作品のPC版を日本語でプレイするには有志翻訳に頼るしかない状況が続いていました。本作は同社が代理店を通さず発売時から日本語をサポートする初めての作品となります。

ゲーム開始時の世界地図。マップ上に存在する200以上の国家を自由に選択してプレイできる。

世界に一つだけの歴史

本作は政治と経済という内政面にフォーカスした歴史ストラテジーゲームです。戦争や外交の要素もありますが、領土を広げることが最終目標ではなく、どんな大国でも政治的、経済的に破綻すれば内部崩壊してしまいます。システムが複雑なために最初は取っつきにくい印象を受けますが、その奥深さの虜になればあっという間に時間が溶けていくでしょう。

目標を設定しないサンドボックスの他に、経済的支配、覇権国家、平等主義社会の3種類の目標を設定できる。

本作には明確な勝利条件がありません。プレイヤーは自由に目標を定め、当時の世界に存在した国家を一つ選んで、1836年から1936年までの100年間をプレイします。目標は理想の国家を作ることでも、この時代を追体験することでも構いません。自分の手で「世界に一つだけの歴史」を作り上げる体験はそれだけで心が踊るものです。

プレイヤーが操作するのは特定のキャラクターではなく、「国家の意思」とでも言うべき存在です。好きな政治勢力に肩入れすることもできますし、外国との交渉を取りしきることもできます。しかし、無条件に何でもできるわけではありません。その国の法律に反することはできませんし、国民の意志に反して法律を変えようとすれば反乱が起こり、反乱や戦争で国が滅びればゲームオーバーになります。

ヴィクトリア朝は発明と発見の時代だ。登場する技術は生産、軍事、社会と幅広い分野にわたる。

本作はその特徴からプレイヤーによって向き、不向きがあります。内政より戦争が好きな人にはあまり向いていませんし、ズラッと並んだ数字に拒否反応を起こす人にも向いていません。しかし、システムの理解を助ける仕組みが充実しているので、内政ゲームは苦手という人でもこの時代の歴史が好きならチャレンジする価値はあるでしょう。

理想のアメリカを作ろう

ここからは筆者がアメリカ合衆国でプレイした内容をもとにレビューを進めていきます。

ところで、ヴィクトリア朝と言われても今ひとつピンとこない人もいるのではないでしょうか。日本では幕末から明治維新を経て昭和初期の時代にあたり、本作を日本でプレイすればまさにこの時代を追体験できます。

アメリカの場合、ゲーム開始時の国土は現在の半分ほどです。国内にはまだ奴隷制度が残り、開拓中の西部では先住民が迫害されています。北部でこそ産業革命が進んでいますが、南部では奴隷を労働力としたプランテーション(大規模農園)農業が盛んで、南北の経済対立が深刻化していました。もちろん、これらの状況はゲーム内でもしっかり再現されています。

ゲーム開始時のアメリカ合衆国。空白地は開拓中の西部。国旗の星の数は州の数に連動して増えていく。

このように本作では、当時のさまざまな国の政治的、経済的状況を疑似体験できます。体験と言ってもあくまでゲーム上の話ですが、それをきっかけに実際の歴史を勉強するのも悪くありません。設定されているデータは比較的正確で、アメリカの場合は綿花農園が南部に集中して配置されています。

しかし、ツッコミどころがないわけではありません。幕末の日本に「ひたちなか」という地名が登場したり、日本の仏教僧のリーダーとして「平八郎オシオ」(大塩平八郎)が登場するなど、自分のよく知る分野に関しては粗が目立ちます。

日本の仏教僧のリーダー「平八郎オシオ」。仏教僧はおそらく儒学者のことを指していると思われる。

歴史をそのまま追体験するのでなく、史実と異なる可能性を追求することもできます。例えば、筆者のアメリカは南北戦争を起こさずに奴隷制度を廃止し、西部開拓も中止して異民族を迫害しない理想国家を目指しました。

しかし、理想を高く掲げたものの、奴隷制度の廃止や先住民との共存は生易しいものではありません。筆者はそこに「歴史上の悲劇を矮小化しない」というデベロッパーの強い意志を感じました。実際にあった歴史を変えるのは簡単ではありませんが、それだけに思い通りの世界を作り出したときの達成感は大きくなっています。

アメリカ先住民が強制移住させられるイベント。歴史上の悲劇を止められるかはプレイヤー次第。

本作は自由にプレイ目標を設定するのが基本ですが、プレイ目標の指針を示す「ジャーナル」というシステムも用意されています。その中には歴史を変えたいプレイヤー向けの目標もあり、例えばアメリカで南北戦争を起こさずに奴隷制度を全廃するには「奴隷禁止の法律を制定した上で10年間内戦を起こさないこと」という目標を達成しなければなりません。

また、チュートリアルにもこの仕組みが利用されています。本作は同デベロッパーの他作品と比べてチュートリアルが充実しており、プレイヤーの状況に応じてさまざまな課題が提案されます。種類も豊富に用意されているので、課題を解決しているうちにゲームの基本的な仕組みが理解できるでしょう。

ジャーナルとして提示される目標は多く、中には奴隷制論争や明治維新といった特定の国に固有のものも。

政治:利害対立の狭間で

続いて、政治、経済、外交、軍事といったゲーム内の各要素について掘り下げていきます。

本作の政治は、「利益団体」と呼ばれる政治勢力間のバランスを取り、自分の望む法律を制定することが中心になります。国家ができることは法律で決まり、法律を変えるには利益団体の支持を得なければなりません。一見簡単そうですが、利益団体にはそれぞれ法律の好き嫌いがあり、国民が納得する法律改正をする過程はパズルを解くのに似ています

例として、ゲーム開始直後のアメリカで「奴隷禁止」を定める場合を見てみましょう。実は、国民全体では賛成派が反対派を上回っています。ところが、このまま法律改正の手続きを強行すると、国内で最大級の勢力を持つ南部のプランテーション農家が反乱を起こし、南北戦争の悲劇が再現されてしまいます。南部の人々にとって奴隷制度の維持はそれだけ死活問題なのです。

利益団体には法律の志向が設定されており、影響力や政府への支持といったパラメーターを持つ。

南北戦争を避けるためには、プランテーション農家と妥協しながら徐々にその影響力を減らさなければなりません。しかし、悠長に構えていると奴隷が虐待を受けたり、先住民が強制移住させられたりしてしまいます。しかも、南部を刺激しないためには、そうした悲劇に見て見ぬ振りをしなければならないのです。

このように改革を進めようと思っても、反対派の力を削いだり懐柔したりしなければ何も先に進みません。政治勢力同士の利害がぶつかり合い「あちらを立てればこちらが立たぬ」という政治の面白さがよく表現されたシステムになっています。

クリスマス・イヴに奴隷たちが蜂起した。南部を懐柔するなら彼らを見捨てなければならない。

経済:世界恐慌は突然に

本作の経済は、「施設」で生産される「商品」とその生産方法を決める「製法」の組み合わせ、そして「市場」を通じた商品の「貿易」に集約されます。

このように説明されても経済学の授業のようで、さっぱりイメージが伝わらないのではないでしょうか。経済は本作で一番重要な要素ですが、筆者も実際にプレイするまではまったく理解できませんでした。

しかし、本作はその複雑なシステムを見やすいアイコンと簡略化された操作で大幅にわかりやすくしています。複雑な経済を制御するのに複雑な操作は必要ありません。マイクロマネジメントと呼ばれる細々とした管理作業も不要です。

生産の制御はアイコンを選んで組み合わせるだけの簡単操作。新たな生産方式は技術研究で解放される。

経済システムの例として、筆者のプレイで実際に起きた出来事を紹介しましょう。ゲームも終盤の1927年、アメリカは未曾有の好景気に沸いていました。財政は大幅な黒字で、社会福祉も世界最高水準です。ところが、重要な貿易相手国であるイギリスとロシアで同時に革命が発生。安定していた貿易ルートが失われ、アメリカは未曾有の大恐慌に陥りました。

輸出入がストップしたことで需要と供給が釣り合わず、国内経済は大混乱。それを立て直すには、非効率な生産の見直し、貿易ルートの再構築、政府支出の削減といった経済の大改革が必要でした。このように、大恐慌がイベントではなく自然に発生し、それをプレイヤーの力で脱することができたのは、本作の奥深い経済システムのなせる技です。

突如アメリカを襲った大恐慌。恐慌後は国民が保守化し、アヘンまで蔓延するようになってしまった。

政治も経済もシステムが複雑なために最初はなかなか思い通りに進みませんが、その問題を調べていくと必ず上手く進まない原因が見つかります。本作はなにか問題が起きた時に「原因を突き止めて解決する過程を楽しむゲーム」であり、仕組みがわかってくると俄然面白くなります。

外交:一触即発の外交戦

本作の外交は戦争の前段階です。戦争で獲得できるものはすべて外交で獲得できますし、外交の失敗はそのまま戦争に繋がります。実際に、筆者はまったく戦争をせずに本作のラスボスとも言える大英帝国を解体したことがあります。同様に、外交だけで巨大市場を築き上げ、経済的覇権を握ることも可能でした。

この仕組みを支えているのが「外交プレイ」と呼ばれる外交交渉システムです。ある国が他の国になにかを要求すると両国間で外交プレイが始まり、同じ地域に関心を持つ国も外交プレイに参加できるようになります。外交プレイには制限時間があり、その間にどちらかの国が相手の要求を飲んで引き下がれば戦争の危機は回避され、時間切れになれば両国間で戦争が勃発します。

オレゴンの割譲を求めてイギリスと外交プレイ中。どちらも引き下がらなければ戦争に突入する。

戦争の前には必ず外交プレイが発生するので、いかに戦争までエスカレートさせずに自分の要求を飲ませるかが外交の肝になります。本作では軍隊の動員に時間がかかるため、交渉の途中で兵士を召集しなければなりません。駆け引きは常に一触即発の状況で行われ、大国間の外交は毎回手に汗握ります

軍事:経済力が物を言う戦争

本作の戦争は軍事的側面だけでなく、経済的側面も重視されています。戦争が始まると軍需物資の価格は高騰し、貿易ルートが危険にさらされることで生活必需品の物価も跳ね上がります。戦争が長引けば経済的負担は大きくなり、国家が崩壊の危機に瀕することも少なくありません。

ペリー提督率いる黒船が江戸城を攻撃。開国を求める外交プレイに江戸幕府が応じなかった結果だ。

本作の戦争にはユニット(部隊)が登場しません。戦争は簡略化されており、敵国との間に作られる「戦線」に指揮官を割り当てるだけです。同デベロッパーの第二次世界大戦ストラテジー『Hearts of Iron IV』に似ていますが、プレイヤーが自由に戦線を作ることはできません。システムが単純だからといって簡単に勝てるわけではなく、勝つための算段をしていなければあっさり負けます。

発売前に戦争が大幅に簡略化されるという話を聞いていた筆者はどうなることかと心配していましたが、実際のプレイ体験はそんな不安を吹き飛ばすものでした。大規模な塹壕戦や海軍の通商破壊作戦など、当時の戦争の雰囲気がしっかり再現されていますし、戦争が簡略化されているおかげで、戦争中でも内政を続けられるというプラスの効果もありました。

ユニットこそ登場しないものの戦闘を詳しく観察することはできる。サムライは最後まで抵抗を続けた。

豊富なフレーバー

本作は歴史イベントだけでなくランダムイベントも豊富です。当時の急激な社会の変化を追体験できるイベントや、前人未到の地に探検隊を送る連続イベントが用意されており、ヴィクトリア朝の香りを感じさせてくれます。イベントに繰り返し登場するキャラクターには思わぬドラマが生まれて愛着がわくこともあります。

英雄として帰還した南極探検隊。同行した犬を道中で泣く泣く犠牲にするエピソードも。

本作のマップは内政と連動して活き活きと進化するのが特徴です。鉄道を作れば都市と都市の間に列車が走りますし、その列車を牽引するのも時代とともに蒸気機関車からディーゼル機関車に変化します。ニューヨークに自由の女神像や摩天楼を建設すれば、マップにもしっかり反映されます。ときには手を止めて自分が育てた国をつぶさに観察してみるのも面白いでしょう。

ニューヨークの摩天楼と自由の女神像。パナマ運河を建設すれば大西洋と太平洋を船が行き交う。

本作はMod(ユーザーによるゲーム修正)のサポートも充実しています。デベロッパーのParadox Interactiveは古くからModの開発を奨励していますが、本作ではついにModを導入していてもSteamの実績が解除できるようになりました。Steamワークショップには、ユーザー目線でプレイ体験を改善するModからゲームを完全に作り変える意欲的なModまで、すでに数え切れないほどのModが登場しています。

無視できない問題点

ここまで良い点を中心に紹介してきましたが、発売直後の本作は残念なことに数多くの問題を抱えています。

まずは、不具合の多さを指摘しなければなりません。現在のバージョンはゲームが進行不能になるほど深刻な問題こそありませんが、至るところに細かい不具合が散見されます。例えば、筆者はマップ上に存在しない国から戦争を仕掛けられ、交渉もできないまま10年間戦い続ける経験をしました。敵国の首都は太平洋の真ん中にあり、支配者は謎の黒い影です。本作をプレイしていると、あらゆる場面でこのように不可解な現象に遭遇します。

不具合とは別にプレイを困難にしているのがゲーム後半の速度低下です。20世紀に入った頃から目に見えてゲームの進行スピードが低下し、最高速に設定していてもゲーム開始直後の標準速度より遅い状態になります。マシン環境に依存する可能性もありますが、筆者の周囲ではプレイヤーが口々に速度低下の症状を訴えており、一般的なPC環境で共通に発生する問題だと思われます。

同デベロッパーが2年前に発売して好評を博した中世ストラテジー『Crusader Kings III』は発売直後の高い品質が評価されましたが、本作は残念ながらそれには遠く及びませんでした。いつもの同社に戻ったとも言えます。なお、この進行スピードの低下はローンチ直後のバージョンで確認したもので、11月14日より改善を施すアップデートが配信されています。

太平洋から攻撃してきた謎の黒い影。そう言えば「クトゥルフ神話」の舞台もこの時代だ。(画像は英語版)

さらに、翻訳の問題があります。初めて日本語が公式サポートされた本作ですが、残念ながら翻訳の品質は極めて低いと言わざるを得ません。イベントのように明確な文脈のある文章は流暢な日本語に翻訳されているのですが、肝心のゲーム用語やルール説明はつじつまが合っておらず、ストラテジーゲームとしてまともにプレイできる状態ではありません。

最初に紹介した「平八郎オシオ」のような固有名詞の間違いや単純な誤訳も無数に存在します。本作には随所でテキストが動的に変わる仕組みが使われていますが、翻訳はそれにも対応できていません。

すでに有志のユーザーによる校正プロジェクトが活動を開始しており、成果は日本語改善ModとしてSteamワークショップで無償配布されています。かく言う筆者もそのプロジェクトの一員です。成果は公式翻訳にもフィードバックする予定ですので、プレイ中におかしな表現を見つけた方はぜひプロジェクトまでお知らせください。

かの有名な悲劇の豪華客船「巨大号」。船の名前がランダムで変わる仕組みのせいでこんな悲劇が。

総評は★2です。本作はストラテジーゲームとしての基本的な仕組みは完成されています。その点では、長年のファンの期待に応える作品に仕上がっていると言っても過言ではありません。しかし、発売直後の品質は高いとは言えず、評価はその点を差し引きました。


『Victoria 3』はPC(Steam)向けに配信中です。

総評: ★★☆

良い点
・問題解決の過程の楽しさ
・矮小化されていない歴史
・手厚いModのサポート


悪い点
・あまりにも多い不具合
・ゲーム後半の速度低下
・低品質の日本語翻訳


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《FUN》

遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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