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Game*Sparkレビュー:『絢爛舞踏祭』―芝村裕吏氏新作『LOOP8』発売前に捧げる、約20年越しのラブレター

「貴方はこれまでも、色々なゲーム世界を渡りながら平和を呼んできたはずです」――鮮烈なオープニングメッセージで幕を開けるPS2用シミュレーションを、今レビューします。

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2022年2月10日、マーベラスは「Nintendo Direct 2022.2.10」を通してニンテンドースイッチ/PS4/Xbox One向け新作ゲーム『LOOP8(ループエイト)』を発表しました。

本作は“自分だけの夏を作り出すジュブナイルRPG”。プレイヤーはNPC達と人間関係を構築しながら「ケガイ」と呼ばれる厄災に立ち向かっていきます。ゲームプレイは「日常パート」と「非日常パート」に分かれて進行するとのことで、やり直しがきく「ループ」機能も搭載。人類の脅威と立ち向かうジュブナイルSF、そして田舎町で繰り広げられる人間ドラマに期待できる作品です。

本記事ではそんな『LOOP8』発表にかこつけて、同作のゲームデザイン/シナリオを手掛ける芝村裕吏氏が関わったPS2世代のシミュレーションゲーム『絢爛舞踏祭』をレビューしていきます。

「日常」と「非日常」、そして「AI達と織り成す人間ドラマ」。『LOOP8』にも期待できるキーワードで構成されていた旧作『絢爛舞踏祭』は、どのような魅力と問題を持った作品だったのでしょうか?執筆は副編集長、校正校閲は編集長がそれぞれ担当というGame*Sparkの総力戦とも言えるレビューとしてお届けします。


『絢爛舞踏祭』がリリースされたのは2005年7月7日。本記事執筆時から20年近く遡った七夕に、ソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されました。本作はアルファ・システムとプロキオンが開発を担当し、そのゲームデザインを務めたのは芝村裕吏氏。PS向けに2000年に発売され、ゲームアーカイブスでも配信されていた『高機動幻想ガンパレード・マーチ』を始め、『新世紀エヴァンゲリオン2』、そして直近では『刀剣乱舞』の“世界観監修”を担当するクリエイターとして有名です。

そんな本作のジャンルは「リアルタイム・ドラマシミュレーション」という、なかなか聞き慣れないフレーズで説明されていました。発売当時は“『ガンパレ』みたいなゲーム”または“箱庭ゲーム”とも呼ばれていたと記憶していますが、筆者が知る限り2023年現在においても、『絢爛舞踏祭』を指すに相応しく、なおかつゲーマーがピンと来るような分かりやすいジャンル名は他に存在しません。

そこでまずは、ゲーム本編のチュートリアルやWebArchiveで確認できる当時の『絢爛舞踏祭』公式Webサイトなどをもとに、本作で体験できる主な要素を紹介しましょう。なお、本稿ではアルファ・システム作品共通のストーリーラインである「無名世界観」は評価において些細な要素と捉え、基本的には作品単体の情報を取り扱っていきます。

『絢爛舞踏祭』はどのようなゲームだったのか

「希望の戦士 新しい伝説」はデフォルトネーム。独特なワードセンスが光ります。

本作を端的に説明すると、「インタラクティブなシミュレーションゲーム」です。ゲームプレイは大まかに、ほぼリアルタイムで船のいち乗組員として日々を過ごす「ライフシム」なパートと、ターン制の2Dパズル風味な「戦闘」パート、そしてテキスト主体の「内政・外交シミュレーション」的なパートの3つに分けられます。

プレイヤーは「OVERS・SYSTEM」によって、この世界にゲームという媒体を通して介入している、いわば異分子と言える存在です。介入先であるこの世界を、プレイヤーとOVERS・SYSTEMの世界への介入がなくなった状態で、火星、地球などの太陽系及びその辺境銀河に100年の平和を約束する事が、このゲームの最終目的となります。プレイヤーの介入先は火星独立軍唯一の戦闘潜水艦「夜明けの船」。そこで1クルーとして生活します。たった一人の人間しか扱うことが出来ません。これまでに培ってきたゲームスキルやセンスをフル活用して、この不可能とも思える状況に打ち勝って下さい。

こちらは、本作をプレイし始めたところでゲーム内で示されるメッセージ。物語の背景をかいつまんで説明すると、舞台は「23世紀の火星」。異常気象によって水で覆われたこの星では、「都市船」と呼ばれる海中都市とそれらを結ぶ物流船、地球政府や異星人の軍艦がそれぞれ活動しています。

かつての戦争特需が終わったことで大不況を迎えていたり、地球と異星人との板挟み状態であったり、舞台設定からは未来的で楽しげな雰囲気を一切感じられません。そしてプレイヤーの取り組むべきミッションは、この「火星」の不安定な情勢に介入すること。地球や異星人からの独立を目指す「夜明けの船」のクルーとして、地球政府や異星人と戦ったり、海中都市などでの政治活動を通して「100年間の平和が続くシステム」を作り上げることが目的となります。

NPCクルーとのコミュニケーション

本作でプレイヤーが主に体験していくのは「夜明けの船」の船内での活動です。プレイヤーだけでなく、他のクルー達も意思を持っているかのように行動していて、仕事や訓練をしたり、お互いに交流したりしながら、日々を過ごしていきます。

本作において特筆すべきは、「プレイヤーとクルー(AI)の人間関係」だけでなく「クルー同士の人間関係」も構築されていくシステムです。「軍医と操舵手の仲が険悪になってきた」「整備士と艦長が人の気配がないところでやけに仲良くしていた」など、プレイヤーの数だけクルー同士の関係が構築され、独自の物語が紡がれていく点は、2023年の今においてもユニークです。

「AI同士の人間関係」で言えば、SF人狼ゲーム『グノーシア』も似た例として挙げられるでしょう。『グノーシア』では“人狼ゲーム1プレイ分”という短いスパンの人間関係、そして『絢爛舞踏祭』ではゲーム開始からクリアまでの約数十時間と、長期的な関係を築いていきます。

システム的には大きく異なるものの、NPCがお互いを気に入ったり嫌悪したりする様は、どことなく相似点に見えます。SF作品であることも相まって、筆者は『グノーシア』をプレイした直後に『絢爛舞踏祭』で過ごした「閉塞的な船」での生活を思い出しました。

艦内での生活

『絢爛舞踏祭』は「ほとんどが“海”と化した火星」という斬新な舞台設定を持ちますが、海中を冒険したり宇宙に飛び出したりすることはなく、実際のゲームプレイとしては艦内をひたすらうろつくことになります。

船を動かす主要スタッフが集まる「艦橋」、火星の海で戦うロボットを格納する「ハンガーデッキ」、巨大な潜水艦を動かすための裏方仕事が光る「機関室」など、手狭とは言えSFファンなら胸が躍るロケーションが揃えられています。

「MAKI」と一般の「BALLS」に感情パラメータは存在せず、チュートリアル&フレーバー要素に過ぎない。

プレイヤーは「MAKI」と呼ばれる船内AIとどこにいても会話でき、フロアには「BALLS」と呼ばれるめっちゃ進化したルンバみたいなロボットが駆け回っていたりと、SF的な描写はどちらかと言うと落ち着いたトーンです。

それを彩るUIは直線的なデザインが多く、BGMにおいては音数の少ないアンビエント/エレクトロニカらしいアプローチが強め。派手な装飾や演出に惑わされず、多くのプレイヤーがマイペースに「遠い未来の船内生活」を体験できるでしょう。

プレイヤーの仕事は“パイロットとしての戦闘”がメイン

■パイロットとしてのゲームプレイ

そんな「夜明けの船」でプレイヤーが最初に与えられる仕事は、敵と戦う“花形”と言える部署「飛行隊」での任務です。この部署のメンバーは、ひとたび船が戦闘状態に入れば、刻一刻と戦況が変化していく中で格納庫へと駆けつけ(駆けつけない自由すら今作にはあります)スクランブル発進。“ラウンドバックラー”と呼ばれる人型兵器を操り、様々な敵と海中で交戦していきます。本筋とは関係ありませんが、海中が舞台なのに“飛行隊”というネーミングセンスに、発売当時高校生であった筆者はハチャメチャに痺れました。

発進後の敵との戦闘はリアルタイムで戦況が変わっていた船内から一転、ターン制へと変わり「トポロジーレーダー」と呼ばれるシステムを通して進行します。「速度」「深度」「機動」の3つの要素を相手方に近付け、魚雷や近接武器で攻撃していく……と言えば奥深いように聞こえますが、実際のプレイングは「三角形の形をいい感じに変えていくパズル風のゲーム」に等しく、正直言ってかなり地味です。

攻撃&回避時に加え、深度が低ければ画面が明るくなったり、速度が高ければエフェクトが激しくなるなど、
ちょっとした演出要素はある。

しかし、そんな地味な戦闘での敵ユニットの撃墜は「100年間の平和が続くシステム」の達成に直結します。平和を脅かす存在を1体ずつ排除するわけなので、当然のことですね。それを繰り返していく先に果たして本当の「平和」があるのかどうか、「敵の排除」が火星にどのような影響を与えていくのかについては、本作の抱える大きな問題点でもあるため後述します。

■「艦長プレイ」を始めとした遊びのバリエーション

プレイヤーは「飛行隊所属のパイロット」としてゲームを開始することになりますが、クルーが就いているポジションと交代して「整備士」「操舵手」などへの職業変更も可能です。エースパイロットとして活躍するだけでなく、戦闘中に被弾して爆発したエンジンをリアルタイムで直すメカニックとして汗を流したり、艦長の指示するがままに船を操舵するクルーとしても、「夜明けの船」を支えられるのです。

また、実績を積むことで溜まる“威信点”を高めれば「夜明けの船」の艦長としてプレイすることも可能。艦長プレイは他ポジションとは大きく異なり、船全体のマネジメントを体験できます。


本作の設定や体験できるゲームプレイは、おおむね以上のとおり。「もし2023年に『絢爛舞踏祭』を紹介する記事をGame*Sparkに掲載するなら……」というテーマで原稿を作るのであれば、あとは製品情報などを案内してほぼ完成でしょう(実は2017年に掲載していましたが)

しかし本稿は『ループ8』発売を控えた時点での『絢爛舞踏祭』レビューです。ここからは、公式Webサイトやその他のオフィシャルな情報源、そしてゲーム内で説明されてきた要素が「実際にはどのようなものだったのか」を振り返りながら、Game*Sparkとして『絢爛舞踏祭』に点数を与えていきます。

SFライフシムとしての評価

まずは「リアルタイム・ドラマシミュレーション」というジャンルとシステムについて見ていきましょう。プレイヤーはクルー(AI)と交流したり、船内の施設でSFモノらしい生活を送って「夜明けの船」で筋書きなく紡がれていくストーリーに介入していきます。

一般的なシム寄りのADVタイトルのように、NPCと熱い友情を育んだり恋愛してみたりするのはもちろんのこと、本作ならではのNPC同士の人間関係はドラマを形作る魅力的なスパイスです。現代においても「キャラクターとの交流」は十分楽しめる要素と言えます。

シンプルに「好感度」だけで関係が動くに留まらず、短期的・長期的な行動指針まで備えて行動していくAIシステムは、今もなおユニークであり続けています。

この点に関しては『グノーシア』を例示しましたが、事前にゲームシナリオとして設定されたやりとりが最小限であることを踏まえれば、『ワールドネバーランド』シリーズにも近いものがあるかもしれません。しかし、真に「同様のシステムを採用したゲーム」は『ガンパレ』『エヴァ2』など芝村氏の関連作を除けば、他に類がないのです

『ジンコウガクエン』のようなキャラクターとの交流に特化した作品は類似作品として挙げられますが、大きな目的と日常と戦闘シミュレーションが折り重なった作品は、他にないと断言できます。というか、本当に『絢爛舞踏祭』みたいなゲームが他にあるんだったら頼むから教えてくれ!本記事でそんな詫び訂ができるのであれば、涙を流して真摯に対応させていただきます。

他にも「料理」や「コーヒーを淹れる」といったアクションがあり、生活感に浸れる。

艦内での生活についても、SF好きならニヤリとできるポイントが多いところには好印象です。艦内のデザインは流線的な表現が特徴的で、あまり古臭さを感じません。MAKIという名前の船内AIは「2001年宇宙の旅」のHAL9000を思い起こさせますし、本作発売時には「MAKIがHAL9000のように暴走するギミックが検討されていた」との情報も流れていました。ローポリゴンであることが功を奏しているのか、食堂で出される食べ物も「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせます。

「船」という舞台ならではの閉塞感と、いつ敵に襲われるか分からない緊張感。それと共に繰り広げられる、プレイヤーですら完全な把握はできない人間関係のシミュレーション要素は、「SFライフシム」を見事に成立させています。シンプルで心地良いBGMとUIが支えるその雰囲気はたまらなく魅力的で、今もなお高く評価できます

しかしながら、「艦長」としてのプレイングにおけるNPCとのコミュニケーションには重大な不具合が見られます。艦長に存在する「指示出し」という重大なアクションの効率が非常に悪いのです。後述の戦闘システムと被るところはあるものの、これは「AIの欠点」として挙げなければならないトピックです。

例えば戦闘時であれば、魚雷発射を任せる「水雷長」と実務担当の「水雷手」に攻撃命令を出したり、敵の攻撃を避けるために「操舵手」に指示を出したりする必要があります。指揮官の仕事ということで、とにかく伝言ゲームが多いわけですね。

「向かう」「撃つ」「避ける」などとすぐに行動を起こせるパイロットと違い、旗振り役ならではの責任とフローであるとも捉えられます。「艦」を任せられる立場として、リアルな表現手法だとも感じられました。

そんな艦長の指示出しに対するAIの挙動はお世辞にも賢いと言えず、リアルタイムで動く戦況をよそに部下がトイレに行きたくなって席を外したり、その場にいるのに漠然と命令を無視することが多発します。これはなかなか対処できず、なんでもない雑魚戦に30分以上かかってしまうケースも珍しくありません。

また、AIだけでなく「艦の1日」をコントロールしている勤務シフトも問題を抱えています。シフト制で「艦のために勤務しているNPC」「休憩中でリラックスしているNPC」とそれぞれ交流できる仕組みは素晴らしいものの、このシステムとその不備によって働き詰めになり、しょっちゅう過労で倒れるNPCが発生しているのです。

このせいで、画面内の通知欄に流れまくる「ヤガミが艦橋で倒れました」というメッセージは、ファンの間でも有名なフレーズとなってしまいました。実際、こうしてレビューを執筆するにあたって再プレイした中でも、“ヤガミ”は何度も何度も過労で医務室送りとなっていました。

ヤガミというキャラクターはストーリーの中で狂言回し的なポジションであることも相まって、どうしても「大層なことを言ってる割にかなりヤバい人」と認識せざるを得ません。本当に異常な頻度で倒れるのでぶっちゃけギャグとして笑えるのですが、この挙動がストーリーテリングの骨子を砕いてしまっていることは、ただただ残念です。

「爽快」というパラメータが具体的に何を指しているかは不明。
ゲーム内の説明をみてもマニュアルを読んでもほんとにわからない。

また、潜水艦らしく「海の上に浮上する」というコマンドも扱うことができ、浮上時限定で「タバコを吸う」というアクションも実行可能なのですが、「浮上」はフリーズが多発するために多くのプレイヤーが禁煙していたと思われます。攻略とはほぼ関係のないフレーバーに過ぎないだろうとは今でも思っているものの、バギーな要素はどうしてもゲーム全体の印象を盛り下げてしまいます。

ロボット戦闘シミュレーションとしての評価

RBは海中を時速500km以上の速度で移動できる戦闘兵器です。火星の海では敵味方の超高速で移動するRBと戦艦が入り乱れ戦闘が行われるそこは今体験したように、視覚や通常センサーなどが何の用も為さない戦場なのです。RBの操縦は、パイロットの勘と未来予測で行われるのです。今後の戦いもがんばって下さい。

本作の戦闘は、先述したようにかなり地味です。「三角形の形を変えたりするだけ」と言ってしまえばそれまでで、後述する素晴らしいオープニング映像とは裏腹に、スタイリッシュなプレイングや派手な演出は存在しません。

多少聞こえの良い言葉を選ぶのであれば「変わったビジュアルのコマンド型戦闘」と言えるでしょう。そして、そのコマンドは「深度+」「速度-」や魚雷の発射といったシンプルなもの。その名称にロールプレイ的な“奥行き”を感じられるかどうかで、面白さは大きく変わります。ゲームの中でパイロットとしての経験を重ねれば「インメルマン旋回」などのコマンドも選択できるようになり、なんとなく頭の中で「水中でのドッグファイト」を想像しやすくなるかもしれません。

また、艦長としてプレイする際は「夜明けの船」を操作することになるため、コマンドにもちょっとした変化が発生します。先述したとおり「深度」や「速度」を変える際には操舵手に指令を出す過程が必要となり、魚雷や機雷を発射するにも装填指示をするなどして、“艦長らしい振る舞い”を体験していくことになります。

もちろん、敵との交戦時に「艦の耐久力」がゼロになればゲームオーバーです。これはパイロットプレイにおいても同じことですが、「敵に倒されて夜明けの船が沈む」という失敗体験は、プレイヤーに大きな喪失感を与えてくれます。潜水艦という一蓮托生な舞台上で、共に日常を過ごした仲間と立ち向かう生死をかけた戦いは、本作で紡がれる“ドラマ”の重要なパートとなっているのです。

ひどく地味な見た目ですが、プレイヤーの想像で補強する余地が非常に多いこの戦闘システムを、筆者は高く評価します。通常プレイでは難易度が低いので、自分で“縛り”を設けることができたり、ロールプレイに浸りたいタイプのゲーマーであれば、自分なりの楽しみ方を見つけられることでしょう。

総評

ライフシムとしての雰囲気、そして戦闘システムの“想像の余地”について、ここまで高く評価してきました。それらをまとめた総評として、本作の「ゲームクリア」とその目標が抱える問題点について見ていきます。

本作でプレイヤーが目指すのは、「火星で100年間の平和が続く仕組み」の構築。そのためには敵対勢力との戦闘や、都市での政治活動などが必須です。そして、ゲームがプレイヤーに語りかけてくるメッセージには「戦うだけが平和実現への道ではない」という主張が見え隠れします。

「手加減」という概念で無血らしいプレイはできるが、効果は不明瞭。

100機どころか200機、300機と敵を倒し続けてもよし、尻尾を巻いて逃げまくるもよし、前線から離れてコミュニケーションやその他の活動に精を出すもよしと自由な本作ですが、「殺戮を避ける」という攻略スタイルは物語の中でも示唆されます。何より、プレイヤーが「ロボットのパイロット」から「艦長」にポジションを変えられるようになったところで、システム的にも強く示されるのです。

それまで敵の撃破に全力を注いできたプレイヤーは、艦長になることで多くのコマンドを選べるようになります。「火星にある各都市の政治に介入する」「火星全体の経済状況を左右する」「他惑星や軍事組織に働きかける」といったアプローチを取れるようになるのですから、“100年の平和は戦わなくても掴める”というメッセージが込められていることは、たやすく理解できます。

また、ゲーム冒頭にナレーター・狂言回し的な存在「OVERS」の言葉として示されるセリフにも、この姿勢は顕著に現れています。プレイヤーは「(火星を)独立させる方法はプレイヤーである貴方に一任する」「可能な限り人的被害を減らして下さい」と伝えられ、「一人と一プログラムと一隻で、終わりなき戦いを呼ぶシステム、すなわち運命をたたきつぶすゲームを始めましょう」と、強い言葉で奮い立たせられるのです。

オープニングムービー前から第四の壁を越えてくるこのアプローチに、筆者の中二病精神はめちゃくちゃに震えました。「扱えるのはたった一人のただの人間ですが、大丈夫。貴方はこれまでも、色々なゲーム世界を渡りながら平和を呼んできたはずです」というOVERSのセリフは、プレイヤーがゲーム好きであればあるほど、心に深く刺さる言葉だったと感じます。

しかし、それなのに本作には「戦いを避けて平和を実現するプレイ」のためのシステムや導線が足りていないのです「都市船での政治活動」「経済への介入」に当る行動は効力があるのかどうか不明瞭で、パラメータの増減も分かりにくいものが多く、そのガイドラインはゲーム内で詳しく解説されません。PS2世代の作品であることを踏まえても説明不足で、手探りで挑むには強大過ぎる相手です。

政治に注力して得られるのは数年~10年の平和。戦闘主体であれば数十年を稼げる。

その一方で「敵をたくさん倒して“平和な年数”を稼ぐ」という戦闘狂プレイが、ゲームクリアまでの過程に強くマッチしていることも大きな問題です。「各都市の政治に介入する」よりも「敵を数十機撃墜する」という手段のほうが、お手軽に“平和年数”を稼げてしまう……これは強烈な肩透かしとしか言いようがありません。

本作の導入で「OVERS」が第四の壁を乗り越えて語ってきた、あの熱いメッセージとはなんだったのでしょうか?おそらく、多くのプレイヤーは超好戦的な「パイロット」または「艦長」として敵を撃墜し続け、戦いの連鎖を戦いで食い止めてきたものと思われます。この仕組みもまた、システムの欠如が招いたストーリーテリングの崩壊と言えるでしょう。

壮大なオープニングメッセージにまるで見合わなかった、ゲームシステムにおける重大な領域の欠如ないし導線不足には、非常に低い評価を与えるしかありません。筆者はリリース時の2005年ごろから『絢爛舞踏祭』が持つこのアンバランスさを残念に感じていましたし、「政治系・経済系の介入行動は、実装されているように見えて内部数値に変動がないものがある」という情報も当時見聞きしていました(実際は定かではありません)。

結末を迎える寸前と「100年の平和」を達成したときの満足感には、かなり大きな疑問が残った『絢爛舞踏祭』。当時のゲーマーコミュニティの間では低評価が目立ち、『ガンパレード・マーチ』や『式神の城』などと物語を繋ぐ“無名世界観”という裏設定のようなものに依存し過ぎていたところも、様々なユーザーから問題視されていました。

そういった経緯で、カルト的作品ではあっても『ガンパレ』のような人気作にはなれなかったのが実際のところです。しかし筆者は、今もなお『絢爛舞踏祭』のパッケージを本棚に並べ、すぐに見える位置に飾っています。

なぜならば、先に述べたように『絢爛舞踏祭』のようなゲームは他に類を見ないためです。長所を覆すほどの弱点を抱えるゲームでありつつも、他では得られない体験を楽しめる作品として、筆者の中では唯一無二の存在で在り続けています。ただそれだけで、筆者にとっては「忘れがたい一本」どころか価値観の中心にあるゲームとなっているのです。

『絢爛舞踏祭』と同じく芝村裕吏氏が開発に関わり、ゲームデザイン/シナリオを担当しているジュブナイルRPG『LOOP8』は、2023年3月に発売を控えています。いちゲーマーとしてどのようなプレイを楽しめて、いちゲームメディア編集者としてどのような情報発信に関われるのか、今から楽しみで仕方がありません。芝村裕吏氏ら開発スタッフとメーカー、そして我々ゲームメディアとゲーマーにとって「最も新しい伝説」になることを期待しています。

総評:★★★

良い点
・「未来の船内生活」を静かに彩るBGMとUIスタイル
・リアルながらもハード過ぎないSF設定と考証
・唯一無二の「人間関係」システム
・ゲーマーの心を突き動かす力強いセリフ回し


悪い点
・スムーズなプレイを妨げる、一部状況下でのAIの挙動
・プレイヤーの期待を裏切る「システムの欠如」、もしくはそれを疑うほどの決定的な動線の不足は、ゲームソフトウェアとして致命的




《キーボード打海》

「キーボードうつみ」と読みます キーボード打海

Game*Spark編集長。『サイバーパンク2077 コレクターズエディション』を持っていることが唯一の自慢で、黄色くて鬼バカでかい紙の箱に圧迫されながら日々を過ごしている。好きなゲームは『絢爛舞踏祭』。

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