『デイヴ・ザ・ダイバー』手掛けるMINTROCKETを訪問!ネクソンから独立した経緯や韓国インディーシーンへの考えとは【NDC25】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『デイヴ・ザ・ダイバー』手掛けるMINTROCKETを訪問!ネクソンから独立した経緯や韓国インディーシーンへの考えとは【NDC25】

『デイヴ・ザ・ダイバー』を手掛けたMINTROCKETにお邪魔して、CEOのファン・ジェホ氏へのインタビューを実施しました!

連載・特集 インタビュー

ネクソンは、2025年6月24日から26日にかけて「Nexon Developers Conference 2025(NDC)」を韓国にて開催しました。NDCは『メイプルストーリー』『ブルーアーカイブ』『デイヴ・ザ・ダイバー』などを手掛けるネクソングループをはじめとして、第一線の開発者らが集まり知識の共有を図るカンファレンスです。

そこで本稿ではその一環として行われた、『デイヴ・ザ・ダイバー』を手掛けたMINTROCKETのオフィスツアーとインタビューの模様をお届けします。

今回インタビューに応じてくださったのは『デイヴ・ザ・ダイバー』のディレクターであり、MINTROCKETのCEOでもあるファン・ジェホ氏。MINTROCKETはネクソンの子会社であり、その独立のきっかけからデイヴの名前の由来にまつわる驚きの裏話まで、様々なお話を通訳なしの日本語で聞くことができました。

いきなり持ち掛けられた独立話!「MINTROCKET」がサブブランドから会社になった理由を聞いた

――まずはMINTROCKETのネクソン内での立ち位置を含め、自己紹介をお願いします。

ファン・ジェホ氏(以下、ファン):『デイヴ・ザ・ダイバー』のディレクター兼MINTROCKET・CEOのファン・ジェホです。

MINTROCKETは元々ネクソンのサブブランドで、その当時から『デイヴ・ザ・ダイバー』のディレクターを務めていました。その頃からMINTROCKETは割と自由に行動していて、時折副社長がチェックしにくるというような形式でした。その流れで業務を進めていましたが、やはりサブブランドという立ち位置だと微妙に動きづらいこともありまして、事業と開発を統一する形で、2024年に会社として独立しました。

――サブブランドとしてのMINTROCKETが誕生したきっかけについてお教えください。

ファン:そもそもの前提ですが、最近のゲーム業界って、やってみるまで成功が予測しづらい側面があるじゃないですか。最近で想定外の成功を収めた作品だと『Balatro』などがありますよね。人件費も高くなっていますし、良くも悪くも予想がしづらい中で、大型のゲームでも成功の打率が下がっているのが現状です。つまり、先んじて経営戦略を立てるのが難しくなっているんですよ。

ネクソンはライブサービス型のゲームがメインですので、「シリーズの後継作などを多く作る」体制じゃありません。基本的にサービスが継続していくので、その中で新規IPを作る際には、大々的に新規IP開発部署を作って投資していく形が成功しやすいと思います。

でもネクソンって振り返ってみればすごくクリエイティブな挑戦もしていて、そういう精神のある会社なのです。現在では色々と作った上でライブサービスがメインになったのですが、やはりクリエイティブな作品も作らないといけないという話が出てきました。しかしこの世情でビッグタイトルを作るというのはリスクが高い。そこで小規模に、開発者に自由を与えつつゲームを作ろうという流れで生まれたのがMINTROCKETです。

始まりはネクソン社内のプロジェクトだったのですが、ネクソンの名前が出ちゃうとイメージも変わるのでサブブランドを作ろうとして、誕生したわけです。

――隠すほどでもないですが、積極的に「ネクソンである」と打ち出さないことは意識されていたのですね。

ファン:そうですね。例えばトヨタには内部にレクサスブランドもある。そういう風にブランドが違うことで期待や認識も変わってきます。

――話は変わりますが、最初『デイヴ・ザ・ダイバー』はインディーゲームとして扱われていましたね。

ファン:「インディーゲームであるかどうか」という流れには色々と誤解が生じましたね。『デイヴ・ザ・ダイバー』は初めからインディーゲームの領域に入ろうというつもりは毛頭なかった。だってネクソンからお給料を貰っていましたから。

ですが、西洋圏では『デイヴ・ザ・ダイバー』がアワードのインディー部門にノミネートされたことをきっかけに、非常に熱い議論がありました。「大企業傘下で作ったゲームがインディー?」とか、逆に「大企業傘下の小規模チームと、ビッグマネーを投資した独立スタジオのどちらがインディーに近いか」など、すごく業界の話題になっていましたね。

僕からすれば、インディーテイストを狙ったわけではなく、単に小規模なゲームとして開発するとなると、アートスタイルも、予算や自由度の関係でハイクオリティなものよりユニークなものを目指す形になってきます。ゲームの形も、そもそもサブブランドとして今までにないスタイルをやりたかったのです。そしてそれをくっつけると、インディーゲームっぽく見えてしまうのは避けられなかったのかなと思います。

そもそもインディーの定義も難しいと思いますが、それでも僕は『デイヴ・ザ・ダイバー』がインディーだとは思いません。開発者が500人もいて独立している、あるいは開発者が10人だけど大手企業に所属している。そういう状況もあるので、インディーの定義も時代によってだんだん変わっていくと思います。

まとめると、MINTROCKETは「シングルA規模のゲームを作る会社」です。それくらいを目標にして今後も活動していきます。

――インディーゲームを作るつもりは、初めから今まで一切なかったということですね。

ファン:そうですね。全くありませんでした。そこに関しては幸いに、韓国メディアのインタビューで「これはインディーじゃありません」と断言する機会があったので、ありがたかったですね! それでも海外で注目された時に、その発言からインディーシーンのタイトルじゃないのか、と少し避けられたりもしちゃいました。

――MINTROCKETが独立した経緯についてお聞かせください。

ファン:サブブランドでも行えるところは大きいのですが、それでもネクソンって基本的にライブサービスを運営する会社で、新作でも大型IPを作るためのシステムが構築されている会社なんですよ。ほとんどがそういう基準でのプロセスを経て作られますので、サブブランドと言えども社内にいればそれを避けられない。

もしそれを避けたいのだったら「大型IP中心のプロセスを変えていきましょう」ということになってしまいます。でも、もちろんすでに定まっているプロセスには全部理由があり、それは正しいのです。

その中で僕も悩みまして、この悩みを経営陣に話しました。そうすると「それは正しい悩みだと思います」と言われて。数か月後にいきなり「じゃあ独立しませんか?」という話を持ち掛けられました。

――ネクソンに生まれた『デイヴ・ザ・ダイバー』という“ライブサービス型じゃないヒット作”を手放す判断が出来るのは凄いですね。

ファン:そもそも、ネクソンとしても既存と違う形のタイトルなので、どう動かせばよいか判断しづらかったらしいです。とはいえ、成功した直後は悩み事より成功を祝う空気になるじゃないですか。その時期に経営陣との打ち合わせで今後の方向性について悩みを明かしたら、「そんな悩みを抱えていたのか」と分かり、上層部で解決策を考えてくれたそうです。それでいきなり出たのが独立法人(笑)。

僕はそこまで考えていなかったし、代表取締役とかをやりたいとも考えていなかった。責任が大きくなるじゃないですか。でも自分の相談から発展していったのだから責任を取りたいと思ったし、なにより「今自分がやらないと何もできない」と思ったのです。それで決心をして、じゃあ僕が前面に出ますと受け入れました。

代表取締役になることでゲーム制作としてのプラスは確実に生まれます。今嬉しいかと聞かれると、あんまり嬉しくはないのですが、プラスにはなります。誰かに報告して承認されるよりは、自身が思ったゲームの形や開発方向にすぐ進めますし、直接答えられます。事業部も社内にありますので、意図した方向にすぐに動けます。

――MINTROCKETの名前の由来についてお聞かせください。

ファン:僕がつけたわけではないのです。正直言って本当にベストじゃなかった! あれはネクソンにいた時に応募で決めたんですよ。当時の副社長が、「ミント」には可愛い、「ロケット」には早いイメージがある。二つをあわせて「小規模で早くゲームを作るブランド」だと決めたんです。オッサンっぽい決め方じゃないですか!? 僕は反対しました(笑)

――インタビューで掲載してもいいのですか!?

ファン:大丈夫。大丈夫です。

本当は、独立するときに変えようかなと思っていたんです。でもこれが新規スタジオならOKだったんですが、もう名前が定着していた。認知されているし、各方面に連絡しなくてはいけないですから。そこで「MINTROCKET」を象徴するオブジェクトがあればいいやと思いまして「作れなかったら変えよう」と探していたら、しっかりとしたものを作ってくれる会社を見つけられました。

おかげで、こういう時に良い感じの写真を撮っていただけますし、MINTROCKETという名前にもだんだん馴染んで、今では愛着が湧いています。

DLCやコラボ、オフラインイベントまで…今後の展望を聞いた

――予定されているDLC『デイヴ・ザ・ダイバー : IN THE JUNGLE』についてお聞きしたいです。


ファン:まずは『デイヴ・ザ・ダイバー : IN THE JUNGLE』が2026年の上半期リリースとなってしまい、申し訳ありません(※6月27日の『デイヴ・ザ・ダイバー』2周年で延期が発表されました)。様々な要素を入れていたら規模が大きくなってしまって、もう少し時間が必要になってしまいました。

MINTROCKET社内にある水槽。このお魚たちも「出演モデル」になったとのこと。

本DLCは基本的に、デイヴの仲間たちがジャングルの町にいって、その町の住人と一緒に謎を解いていく形になります。今回は湖なので、海の魚じゃなくて淡水魚になりますね。ユーザーさんからも淡水魚やワニ、ピラニアを獲りたいと言われていたので、アマゾンやインドネシア、ボルネオあたりをイメージしました。今回はデイヴが街中を歩き回って、そこで生活しているようなゲームプレイが出来るようになっています。

――2周年に合わせて、『デイヴ・ザ・ダイバー』のこれまでと、そしてこれからについてお聞かせください。

ファン:本当に、ここまで成功するとは思っていませんでした。リリース前の早期アクセスなどで評判は良かったんですが、数字的にはあまり成功のビジョンが見えていなかったんです。初めはチームで目標にしていた数字よりもずっと低かったので。ウィッシュリストやYouTubeのビュー数がすごく低かったので、もう「いい評判が出ればいいや」ぐらいに考えていた時期もあります。

なので、そこから600万本を超える売り上げを記録して、海外アワードの受賞なども想定していませんでした。僕がやりたかったコラボもできて、自分の欲望も満たされましたね。

さて、これからどうするかという話ですが、これはMINTROCKETがサブブランドから会社という形になったことも関わってきます。単にネクソンのいちチームのゲームだったら、ここで終わってもいいと思うんです。ですが今『デイヴ・ザ・ダイバー』はMINTROCKETという会社のメインIPになっています。

どう動くかについては未だに悩んでいますが、プラットフォームを広げる準備はしています。実際にEpic Gamesストアで配信を開始しましたし、ニンテンドースイッチ2にも対応しようとしています。中国ではモバイル版が作られているので、来年ぐらいにはこれがリリースされるでしょう。

『デイヴ・ザ・ダイバー』はDLC『IN THE JUNGLE』で終わりとはせず、これからもコラボなどで世界を埋めていきたい。いずれはコンプリートバージョンのようなものを作っていきたいです。皆に『デイヴ・ザ・ダイバー』を好きになってもらって、このIPをしっかり使って他のゲームを作っていきたいです。これは実際に動いているプランですよ。

例えば、後ろにあるぬいぐるみが発売された時期は、あまりチームが対応できるような時期ではなく、“単発で発売されて、それで終わり”だったのです。MINTROCKETがしっかり連携できていれば、もっと違ったはず。今後はそういうこともしっかりと行って“『デイヴ・ザ・ダイバー』IP”にしていきたいですね。

――『デイヴ・ザ・ダイバー』 はコラボに意欲的ですが、その点についてもお伺いしたいです。

ファン:人気が出て、今現在かなりの数のコラボを行えているのは嬉しいですね。そもそものコラボ願望は初めからありました。

僕は中世やSFを取り扱ったゲームよりも、たとえば『MOTHER』シリーズのような「現実を基盤にした世界」がすごく好きなんです。ゲームを作るのならば、そういう世界観同士でコラボも出来たらなと願っていました。

コラボの最初は『DREDGE』です。コミュニティのファンからコラボが絶対に似合うと言われ、実際に同じ時期に出た釣りゲームですし、「これはいいな」と感じてファンメイドのキーアートを持って『DREDGE』のXにポストして打診しましたが、スパムだと思われて返事がありませんでした。

ありがたいことにその時期『デイヴ・ザ・ダイバー』は既に人気が出ていたので「ディレクターが直接連絡してくるなんてありえない」と思われたそうなのです。そのあとDMで「本人です」と証明して、そこからはとんとん拍子に話が進みました。余談ですが、先ほど言った「インディーかどうか」で騒がれた後も、『DREDGE』コラボがきっかけでインディー界隈から温かい目で見られるようになり、嬉しかったですね。

そしてコラボを実際にやってみたら、かなりよかった。『デイヴ・ザ・ダイバー』の世界観は緩いので「何が来ても大丈夫だ」という確信が持てました。そこで、僕が好きな「ゴジラ」でもやりたいなと。僕の前作には『ゴジラ ディフェンスフォース』があったので、その関係で連絡してOKを頂きました。

『Balatro』に関しては、たまたま海外のイベントで『デイヴ・ザ・ダイバー』Tシャツ着て歩いていたら『Balatro』パブリッシャーのトップの方から『デイヴ・ザ・ダイバー』の人なの?と聞かれ「うん、いいですよ!」とスパッと決まりましたね。コラボは他にもアーティストさんなどとも行っているのですが、個人的に『デイヴ・ザ・ダイバー』が好きと言ってくれたことがきっかけで「じゃあ実施しましょう」となりました。

『龍が如く』コラボに関しては、僕が本当に好きだったというのもあって「絶対にいつかやりたい」とセガさんに連絡したんです。やはり大手企業とあって、すぐにとはいかなかったですね。ですのでTGSの時期に直接交渉しました。

――ゲームショウなどの現場で話が成立したりすることが多いのですね。

ファン:そうですね。やはり僕がプロデューサーまたはディレクターとして、「好きなコラボを行いたい」と出向くのが一番良いので、直接赴く形にしています。

『デイヴ・ザ・ダイバー』のストーリーは僕が書いているので言いますが、あまりストーリー的な深さが無いのです。「デイヴ」というキャラクターとその仲間たちを中心に動いているので、それ以外を埋めるのが、むしろコラボだと思っています。

『龍が如く』の件もそうですが、単に突然コラボキャラクターが出演する多少のイベント式ミッションで終わるわけではなく、『龍が如く』の世界観と繋げたいと思いました。先方からはタイムラインがズレてもいいと言われたのですが、僕が“現実を基盤にした世界”のゲーム同士として、確実に同じ時系列にしたかった。

ゴジラでもそういった要素はしっかりと合わせていきたかった。やはりゴジラは少し微妙なところもあったのですが「この年代の怪獣は今、出してもいいですか」などと相談しつつ、許しをいただきました。コラボに出てくるエビラは60年代に出てた怪獣ですので「現在も生きててゴジラと戦ってもいいのか」ということなどですね。

――ちなみに、一番好きな怪獣はどれなのでしょうか。

ファン:キングギドラです!本当はコラボに出したかった。でもキングギドラって頭が3つあるじゃないですか。開発スタッフに「これ作りにくいです!」と言われちゃって断念しました……。

そこで、これまた好きなエビラではどうかと提案しました。エビラはすごく好きなのですが、残念ながら海外では人気があまり無いらしいです。でもやっぱり深海に潜るイメージがあって、良いじゃないですか。

――『デイヴ・ザ・ダイバー』のデイヴはどのように生まれたのですか?

ファン:僕もアート担当者も、普通とは違う少し変なキャラクターを描くのが好きなんです。美形のキャラクターって、どこにでもいるからあんまり魅力がないじゃないですか。だから違うものを描いてみたいと思っていました。

昔、韓国のリゾート地である済州島に住んでいて、そこにいるダイバーさんたちを見ながら「海のゲームを作りたい」と思っていました。海って、入るたびに波で地形が変わるのでダンジョンみたいじゃないですか。そして主人公をどうしようかと悩んだ時に、筋肉質はありきたりだから……じゃあデブにしよう!と。そこから、名前も「デイヴ」になりました(笑)。

――「デイヴ」の名前は日本語の「デブ」から来ているのですか?

ファン:理由はふたつありますが、ひとつはそうですね。ふたつ目はダイバーの「デイブ・ショー」というちょっとぽっちゃりした方ですね。ただし、亡くなられている方ということもあって、あまりこちらは表に出していませんでした。『デイヴ・ザ・ダイバー』は明るいゲームなので、そこに繋げたくないという意図があったのです。

しかし僕が話したわけではないのに、海外ユーザー間での推測で「非業の死を遂げたデイブ・ショーを参考にしている」と話題になってしまいました。ここで言っておくなら「あくまで一部の要素を参考にしただけ」であって、暗い裏設定があるわけではありません。これに日本語の「デブ」を付け加えて作ったのが「デイヴ」なのです。

――私はデイヴと似た体型なので、勝手に親近感が湧いています。それでは、今お考えのゲーム外施策について教えてください。

ファン:先ほどのグッズの話にも関わるのですが、今から『デイヴ・ザ・ダイバー』をIPにしていくにはオフラインイベントなどを積極的に行わなくてはいけないので、どんどん実施していきたいですね。たまたま講演などに呼ばれるケースもあるのですが、オフラインでユーザーさんに会えることも少ないですし、そういう意味でも交流していきたい。

――日本での開催などは考えていらっしゃいますか。

ファン:正直に言うと、日本にどのぐらいの規模のファンがいるのかわかっていないんです。僕は集中すると周りが見えなくなる性格なので、日本での反響がわかっていない。でもこれが日本のコミュニティに届いて、面白そうだという反応であれば是非とも開催したいです。コラボなどで日本のIPを使わせてもらっていますし、日本でも何かできたらすごく嬉しいです。コロコロコミックから漫画も出ていますしね。

少し前までは、グッズ化など何らかの動きに繋げていく対応力が不足していたので、今後は会社としてそういった面を強化していきたいです。

――今年のエイプリルフールは『デイヴ・ザ・ダイバー』リマスターというネタが出ましたが、こういうものはどうやって作られたのでしょうか。

ファン:エイプリルフール企画で最初に行ったのは3Dデイヴです。社内で作ったものですからクオリティはよくはなかったですが、みんな面白がってくれて、次は美少女ゲームのVRに挑戦しました。ですが今年は、全然アイデアが出なかったんです。

どうしようかと悩んだ末、YouTubeでファンメイドをしてくれている方に連絡をして「一緒に何かやりませんか」と打診しました。3Dをクオリティアップしてリマスターとして出しましょうと言う話になったんです。そうやって制作しました。

後日談として面白かったのが、外注の方から「3Dリマスターの発表を見ました!我々と一緒に仕事しませんか?」と連絡が来るんですよ!「すいませんが、これは完全にネタで冗談なのです」と答えているんですが、本気で3D版を作ろうと思ってくれる人もいる。

同様に、VRゲームを作ろうという話も来ましたね。クッキング要素も含めて『デイヴ・ザ・ダイバー』VRは面白いんじゃないかと。反対こそしませんが、アイデアが完全に整っていないので、もう少し先の話になると思います。

MINTROCKETの今後、そして韓国インディー界隈についての話

――MINTROCKETが独立したということで、『デイヴ・ザ・ダイバー 』以外のゲームを作ることもあると思います。その構想はおありですか?

ファン:そうですね。今のところ『デイヴ・ザ・ダイバー : IN THE JUNGLE』DLC以外は発表していないので、ファンには「『デイヴ・ザ・ダイバー』しかやらないの?」と思う方もいるでしょうが、何件かプロジェクトが動いています。

『デイヴ・ザ・ダイバー』もDLC後にアップデートはしていきますが、こういった大型DLCは予定されていません。その後には新しいプロジェクトを紹介していく予定で、新作ゲームから『デイヴ・ザ・ダイバー』IPを使ったゲームもありますよ。

――ネクソンの子会社ということで、ゲームの規模感は『デイヴ・ザ・ダイバー』と似たようなサイズでしょうか。

ファン:ネクソン経営陣も時々「リトルゲームを作ったから次はビッグタイトルはどうだ」と言ってくれるのですが、開発の哲学から仕組みまで全部違うと思うんです。

僕の例えですが、ボクシングだったらヘビー級やライト級みたいに階級が違うんだと思っています。今の階級でチャンピオンになるのが僕に合っている方向で、ヘビー級は別の方が戦えばいいんじゃないかなと。ネクソンはヘビー級からミドル級、自分みたいなライト級まで全部いるので、それに合わせた作り方が上手い人が担当すればいいのではないでしょうか。

ここで作っているゲームも、とりあえず10人規模で作っていまして、最大でも30人は超えない形に収めようかと思っています。30人ぐらいだと話しやすいんですよ。100人になると管理プロセスから全く違っていきます。これは僕に対応できる環境ではないですね。

40人~50人規模でゲームを作っても、ハイエンドではないしコミュニケーションも取り辛い。お金もかかりますから、期待値も高くなってしまいます。やるのであればもうちょっと小規模にするか、人員を入れて大きい規模で行うことです。ふたつに分かれてからのネクソンのゲームも、成功率が高くなったと思いますよ。

――AIで小規模チームでもボリュームあるゲームが作れそうになっていますが、AI技術は使用していますか?

ファン:個人的にAI技術の発達は、ゲーム制作においては良い傾向だと思ってますが、人間の温度感が出ないのでAIを成果物に使うことはしません。その温度感、みんなわかるんですよ。実際に人間が描いたものと見比べると、やはり違うとまだ思ってます。だんだん発展して区別できないレベルに進化するとは思いますが、今はMINTROCKETとして結果よりプロセスを重視しています。

AIは作業効率化で使用している程度ですね。AIで議事録を生成したり、ゲームデザイナーさんが拙い絵で説明するより、AI生成でイメージを説明する方が早くなりますから、そういう所では結構使っています。

オフィスにはホワイトボードでのユーモラスなやりとりもちらり。

――韓国でも『デイヴ・ザ・ダイバー』のような買い切りゲームの開発機運は増えているのでしょうか?

ファン:確実に増えています。韓国におけるライブサービスタイトルって、すでにIPを保有している会社はとても有利な立場です。バグも少ないし、コンテンツも多い。すでにみんなゲームを知っているので友達とも遊びやすいです。だけど新規が成功する可能性はだんだんと低くなっていくはず。既存のゲームが強くなれば、その分新規はキツくなりますしね。

そこで、新規リソースをすべてライブサービスに入れるのが正解なのかという話になります。『Lies of P』や『デイヴ・ザ・ダイバー』が成功して、リリースの一環として成り立つと皆思い始めました。『Stellar Blade』なども出てきましたが、これらが発展したのは5年くらいの短い期間です。

昔からこういうタイプを望んでいる開発チームはありましたが、成功のケースがあまりなかったので消極的だったと思います。ですが今では自信がついて、水面下で動いていると予想しています。

――今回のNDCではグローバル市場の展開について「守るより攻めろ」という話でしたが、そうなっていくと。

ファン:そうですね。僕はそういう機運やエネルギーが出ているのがすごく重要だと思っています。西洋圏では大型企業が苦境にも立たされている時期じゃないですか。そういう時期にアジア発のゲームの成功事例が増えています。

日本のゲーム業界で見ても、10年、20年前には日本のゲーマーと西洋のゲーマーで分かれていたはずです。しかし今はJRPGライクが増えたり、日本のゲームで遊ぶ人もSteamを通じて増えてきました。今は“アジアのゲームの面白さ”が海外に伝わっていく、すごく良い時期だと思うんです。全体的に、このエネルギーで攻めていく時期です。

――韓国のインディーゲーム市場はどうなっているのでしょうか。

ファン:結構存在しています。『デイヴ・ザ・ダイバー』は規模的に大きいというわけではなく、誰でも作れるように見えます。なので同じものが作れると思われがちですが……しかし、僕から言うと傲慢に聞こえるかもしれないですが、グローバルの目線が足りないように感じるのです。グローバル展開におけるアドバイスを貰えるなんらかのきっかけがあれば、一段階ステップアップできるのではないでしょうか。

インディーシーンの熱はすごいですし、面白いゲームも非常に多く実力があります。誰かがアドバイスや、より良いローカライズなどを行って海外の基準に合わせていけば、面白いゲームがきちんと売れるようになると思います。本当に個人的な願望ですが、そういうことも行っていきたい。パブリッシングかアドバイザーかはわからないですけどね。

――日本コミュニティのファンに向けて、これから先の展望などを語ってくださると幸いです。

ファン:改めてになりますが、開発に没頭していると、日本など海外の温度感があまりよく伝わってきません。中国のイベントに行ったときにファンの方にサインを求められて、「直接会える機会があっていいな」と中国市場にモチベーションをあげるきっかけにもなったのです。日本のユーザーさんからもよくお話を頂けるのですが、直接的な実感はまだ伴っていないので、日本で直接触れ合える機会があればぜひ行きたいですね!

ゲームでは寿司職人などが出て、コラボでも日本IPを使っています。日本で好かれて人気が出ることは、日本に住んでいた自分としては本当に嬉しいことなんです。僕が好きだったコンテンツが自分のゲームに入って、そしてオリジナルの国の方に好きになってくれれば本当にありがたいですね。なにかきっかけがあれば日本のユーザーさんたちの話を直接聞けますし、それを取り込んで良いゲームを作れます。

――今回はありがとうございました。

ライター:高村 響,編集:TAKAJO

ライター/ゲームライター(難易度カジュアル) 高村 響

最近、ゲームをしながら「なんか近頃ゲームしてないな」と思うようになってきた。文学研究で博士課程まで進んだものの諸事情(ゲームのしすぎなど)でドロップアウト。中島らもとか安部公房を調べていた。近頃は「かしこそうな記事書かせてください!」と知性ない発言をよくしている。しかしアホであることは賢いことの次に良い状態かもしれない……。

編集/いつも腹ペコです TAKAJO

Game*Spark編集部員。『Crusader Kings III』と『Mount & Blade II: Bannerlord』に生活リズムを狂わされ続けています。好きな映画は「ダイ・ハード」、好きなアメコミヒーローは「ナイトウィング」です。

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  • スパくんのお友達 2025-07-10 21:29:23
    めっちゃ長文で中身詰まって面白かった
    これは良いインタビュー記事
    3 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-07-09 11:55:12
    無理を押してゴジラコラボ復活させてくれたし、ここのスタジオほんと好印象
    17 Good
    返信

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