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【Indie Japan Rising】完全無料の3D格闘ゲームツール『EF-12』に秘めた壮大な野心

ゲーム文化 カルチャー


国内のインディーゲームの開発者に焦点を当てる本企画。第二回目は、株式会社クアッドアローの代表取締役の小野口正浩氏に『EF-12』についてインタビューを行った。

(※EF-12の公式サイトがアクセス集中のためつながりにくくなっております。つながらない場合はこちらでゲームをDLできますのでご利用ください)

小野口氏は『鉄拳1』や『ソウルエッジ』を含め、数々の3D格闘ゲームの開発に携わってきた人物。モーションデザイナーとして一線で活躍しつつも、自由にカスタマイズ可能な「電子格闘競技コンテンツ」として『EF-12』を開発している。

昨年10月に正式にリリースされた本作だが、ざっくり説明すると完全無料の3D格闘ゲームのエンジンである。サンプルのデータで遊ぶことも可能だが、ゲームというよりも業務用レベルの開発ツールである。Unityに代表されるように、昨今ではインディペンデントの開発者を対象にゲームエンジンが無償化される流れがある。

『EF-12』もそのような流れの一貫としても捉えることはできる。しかしながら、本インタビューで小野口氏が説明するように、『EF-12』は単なるゲームエンジンではなく、eスポーツを通して「ゲームの社会的価値」を高めるという壮大なプロジェクトである。またインタビューの中では、日本のゲーム産業において個人がゲームを開発すること、ゲームと文化の関わりといった大きな問題に触れることができた。


モーションデザイナーというキャリア


モーションデザイナーとしてキャリアが長い小野口氏。

Game*Spark:
まず、小野口さんのキャリアについてお聞かせください。モーションデザイナーとして20年という経歴があるベテランなので、長くなるかもしれませんが、改めて今ひとつお願いします。

小野口:
大学を卒業してから、最初に入った会社が現在のバンダイナムコゲームスになる前のナムコでした。1996年にナムコに入社して、『鉄拳1』と『鉄拳2』と『ソウルエッジ』を作りました。

Game*Spark:
ナムコに入られるきっかけは何だったのですか?

小野口:
正直、ゲームの会社に入ろうとは思っていなかったですね。実はイラストレーターになろうと思っていたのです。某週刊漫画雑誌の賞で準入選したこともあります。それでイラストか漫画の仕事で食えたらいいなとは考えていましたが、とりあえず会社にちゃんと入っておこうとナムコに入社しました。それから、一週間、2Dの絵の研修をやった後、いきなり鉄拳チームに入れられてモーション担当にされました。バーチャファイターを作ったあとナムコに移籍していた石井精一さんに「一週間でモーション一個できなかったらお前クビね」ってムチャぶりされまして。それまではまったく3Dグラフィックスを扱ったことはなかったのですが。

Game*Spark:
すごいですね。まさに叩き上げというか、リアルにブートキャンプ(笑)。では、最初はイラストや漫画などの2Dの絵が好きだったのですね。

小野口:
そうですね。ずっとエアブラシで絵を書いていました。リアル系のイラストです。

Game*Spark:
「モーションデザイン」というと具体的にはどういうことをするのですか?

小野口:
基本的にはモデルのデータの動きをXYZの3軸を使って動かします。場合に応じて、モーションキャプチャーで取り込んだデータの修正なども行います。

15分でハイキックモーションを作る小野口氏の制作動画。

Game*Spark:
なるほど。ナムコで働かれた後、クアッドアローを立ち上げるまでにはどういったキャリアを積まれてきたのですか?

小野口:
石井精一さんの立ち上げたドリームファクトリーに移り、『トバルNo. 1』を作りました。その後、自分の会社をいきなり設立しました。アンカーという開発会社でプライドやUFCとかWWEなど格闘技やプロレスのゲームを作っていました。そして、2008年に現在のクアッドアローを立ち上げました。

Game*Spark:
ところで格闘ゲームやプロレスゲームをたくさん作られてきたようなのですが、スポーツはお好きですか?

小野口:
どちらかと言うと、スポーツをみるよりもやるのが好きですね。中学の時からサッカーをやっていましたし、今はあまり時間が無いのですが、スノボとかジェットスキーはやります。

セミナーにて自分の体を動かしモーションを確認する小野口氏。

Game*Spark:
先ほど、モーションをつける作業のリアルタイムの動画を見せてもらいましたが、自分の身体的な動きは参考になりますか?

小野口:
参考になりますね。やっぱり自分で動いてみると、動きを理解できる。そういう蓄積は後々、重要な資産になりますね。自分で身体を動かしてみたりすることが、ツールを覚えることよりも重要です。実際にモーション作るために、覚えることは実はすごく少ないんです。極論するとXYZのカーブを動かしているだけなので。

Game*Spark:
例えば、さっきはハイキックのモーション作りの動画でしたが、ハイキックのモーションは、筋肉や骨格の動き、足の先の頂点の動きなどが、ある程度自分のなかに蓄積されているんですかね?

小野口:
されていますね。こういうモーションを作るときは、こういうふうに動かせばいいというのは、XYZのカーブのレベルで頭の中に入っていますね。動画をよく見るとわかりますが、途中で3Dのプレビューをまったく見ないでカーブだけを動かしている場面があるのですよ。そこはこういう角度になるというのが、わかっています。

「ゲームの社会的価値を高める」壮大な野心

Game*Spark:
では、実際のゲームというかツールの話に移ります。『EF-12』は業務用としても十分に通用する3Dゲームの開発ツールということですが、どういった経緯で開発されることになったのでしょうか?

3Dの本格的な格闘ゲームが制作可能。

小野口:
企画自体は前の会社まで遡ります。10年以上前に、現在はeスポーツのプロデューサーをやっている犬飼博士君がうちの会社入ってきました。彼と話しているうちに、eスポーツを普及させることが、今後のゲーム業界のためになるという結論になりました。彼はプロデューサーとしてイベントなどをやっていき、私はクリエイターとして、専用のコンテンツを作ると約束したのが、『EF-12』のそもそもの始まりです。

Game*Spark:
2003年に『EF-12』の企画は既にあったのですね。そして、eスポーツというところに軸足を置いていたのですね?

小野口:
そうですね。現在の会社も『EF-12』という企画が先にあり、それを実現するために作りました。理想の『EF-12』を作るためには、お金も人材も必要です。そのために仕事をしながらお金と才能を集めるために会社を作ったのです。

Game*Spark:
すごいですね。10年越しの計画というわけですか!

小野口:
20年ですよ。今後、10年続きますから(笑)。

Game*Spark:
つまり、今はまだ始まったばかりということですね。しかし、そのような壮大なプロジェクトのゴールはどこにあるのでしょうか?

小野口:
公式サイトにも載せていますが、結論から言えば、ゲームの文化的価値を高めることです。

Game*Spark:
すごくでかいですね(笑)

小野口:
そうですね。例えば、日本ではゲーム雑誌のレビューがありますが、あれでみんなが満点を目指すとしますよね。だとして、ゲーム雑誌で満点のものは何点だと思いますか?

Game*Spark:
そもそも「何の尺度で」でしょうか?

小野口:
そこ重要ですよね。わかりますよね。言わんとすることは?

Game*Spark:
人生や人類といった尺度でしょうか?

公式サイトに掲載されている『EF-12』のゴール。

小野口:
社会的評価です。つまり、羽生名人が七冠達成するのと、ゲームを作ってゲーム雑誌で満点取るのを比較して、羽生の七冠が100点だとしたら、ゲーム雑誌の満点は世間では何点ぐらいに評価していると思いますか?

Game*Spark:
10点あればいいところですね。

小野口:
10点は高いですね。私は3点くらいだと思います。人によっては1点と言います。

Game*Spark:
そうですね。まだまだゲームの社会的価値はなかなか認められていないですから。

小野口:
子供たちが夜遅く、日が暮れてもサッカーをやっていると、サッカー少年です。でも、ずっと家でゲームをやっていると、ひきこもり扱いされるわけです。要するにそれは、ゲームの社会的評価が低いからです。デジタルコンテンツの価値そのものを上げてやりたい。それを上げることによって、他のゲームを作っている人たちの評価を全体的に押し上げられるわけですよね。誰かがそれをやらなきゃいけないわけです。昔、将棋だってただの大衆娯楽だったわけじゃないですか。誰かがその文化的価値を高める努力をしてきた。ゲームでもそれを意識してやる人がいなきゃいけないと私は思っています。

Game*Spark:
そのビジョンは本当に壮大で野心的で興味深いものだと思います。私自身は、美学という学問を学んでいますが、美学という学問のわかりやすい説明は、「文化的価値とは何か」ということに尽きるのです。しかしながら、そのレベルにおいてゲームとは何か、ゲームの価値とは何かということを考えている人がどの程度いるのかというと、残念ながら日本にはそんなにいない気がするのです。

小野口:
10人いたらすごいなと思っていますよ(笑)。私は自分以外に見たことないので。

Game*Spark:
その点、小野口さんは、そのレベルで考えている稀有な、貴重な人だと思うのです。社会において、ゲームにどれくらい価値があるかというと、残念ながら日本はゲーム大国でありながらまだまだ低いのは事実だと思います。そういったゲームの文化的価値を高めようという意識は、どこから湧いてきたものなんですか?

小野口:
きっかけになる出来事はありました。昔、電通が主催しているeスポーツの大会があり、それを見に行ったんですね。そのとき、私は外から遠目で見ていたのですが、アベックが「なんかやってる、ああゲーム大会だね」といって通り過ぎていったんです。つまり、eスポーツといっても、世間の評価はただのゲーム大会なんですよ。それがスタート地点ですね。

eスポーツを通してゲームの社会的価値を高める。

Game*Spark:
ゲームの社会的価値を向上させるといった場合、プロゲーマーやeスポーツを育てるという発想もありますが、それとは別に、たとえば映画作品のようなものとして、ゲームとしてすばらしいコンテンツを作るという発想もありますよね。その2つの中で、小野口さんはどうして前者を目指したのでしょうか?

小野口:
やはりゲームがゲームである本質は、インタラクションだと思うのです。インタラクションがなくなってくると、「それは映画じゃないの」と言われてしまう。ファイナルファンタジーのオープニングムービーが凄いよねというだけでは駄目だと思っています。

Game*Spark:
しかし、格闘ゲームのような対戦ゲームではなく、RPGやアクションゲームの中でプレイヤーのインタラクションも含めて面白い体験を与えるという方向性もあると思います。まさしく、先ほどおっしゃった「ゲーム誌で40点取る」というのは、どちらかというとそういった評価軸ではないでしょうか。つまり、コンテンツ自体としてどれぐらい良いものかという評価軸ですね。例えば、最近の海外のゲームでは、物語性やナラティブといったものが強調されています。今年のGDCでゲームオブザイヤーに輝いた『風ノ旅ビト(Journey)』のような作品もインタラクションは少なく、世界観やナラティブの部分がすごく評価されているわけです。そういったものと比較すると、格闘ゲームというのは、ちょっと評価軸が違うものだと思うのです。そういった「コンテンツとして優れたゲーム作品」みたいなものは、小野口さんはどうお考えなのでしょうか?

小野口:
そうですね。そういった作品は確かに多くなってきているでしょう。ゲームゲームしたものと、ゲームではないところにフォーカスしたものは、別の軸として両方共存すれば良いと思います。そして、もっと文化的に高める方向に向かっていけば良いと思います。ただ、自分が選択したのはそちらではなかった。それだけの話です。

Game*Spark:
私は個人的にも格闘ゲームは好きな人間で、ガチで対戦することの面白さは理解できます。ですが、FPSより格闘ゲームが普及していない理由は、格ゲーにはキャンペーンモードがないことだと思います。いわゆるストーリーモードはありますが、それほど出来がよいものではありません。なので、格闘ゲームで表現できるナラティブというものをもっと追求したら良いのではないかと、最近は思っています。ソロプレイでもかなりの満足度があるものができれば、格闘ゲームももっと普及するのではないか。

小野口:
そういうのもあっても良いとは思います。ひとりでプレイしているうちにハマって、その後に対戦に乗り出すというのは、過程のひとつとしては当然あります。

Game*Spark:
それこそ、『EF-12』は自由にゲームを作れるものであるから、それを利用して、ゲームにシフトするよりも、物語にシフトして何か表現する人が、生まれてもいいのかなとは思っています。

小野口:
ただ、それをやると危ないと思っていて、それではMikuMikuDanceになってしまうの
ですね。MMDがダメという意味ではなく、自分の意図したゴールと違う方向に向いてしまうという意味ですね。格闘の合間の部分を作らせると、みんながそこばっかりをやりだして、当初の目的と違う方向にいってしまう。そのため、今は演出の部分はほぼ無い形で作っています。優先して作る部分はゲームなのです。

『EF-12』が目指す理想の格闘ゲームとは?

Game*Spark:
少し話はずれたのですが、『EF-12』の具体的な話に移りたいと思います。かなり壮大なプロジェクトで、改めて聞くとビビるというか本当に壮大すぎます(笑)。「ゲームの社会的価値を高めるためにある」と!

小野口:
ずっと公式サイトに書いてあるんですけどね(笑)。

Game*Spark:
では、『EF-12』で具体的に何ができるのでしょうか?

小野口:
グラフィック、背景、ルールの部分をかなり自由にカスマイズできます。格闘ゲームのルールであるならば、ある技の攻撃判定、当たり判定、攻撃のダメージ量や補正など自由に調整可能です。

サンプルのエフェクトもあるが、カスタマイズ可能。

Game*Spark:
2012年10月に『EF-12』が正式にリリースされたそうですが、そのときの反響はどうでした?

小野口:
ものすごくありました。あのレベルの3D格闘ゲームの完全にフリーなMODはありません。なので、3Dで格闘ゲームを作りたい層には、インパクトはあったかなと。ただそのときは開発用のドキュメントがなかったので、多くの人が様子見という感じでした。サンプルもあまりなかったですね。ただ2D格闘ゲームのMODツールである『M.U.G.E.N』がありますよね。あれを楽しんでいる中で、3Dで作りたい人にはアピールしたのかなと。

Game*Spark:
確かに格闘ゲーム専用のツールは意外と少ないですよね。エンターブレインの2D格闘ツクールは一応ありますが、RPGツクールと比べるとマイナーです。

小野口:
『EF-12』は業務用のツールを公開して、好きにしていいよという状態です。そのようなものはたぶん他にはないと思います。それが逆に敷居が高いかもしれませんが、それを下げるつもりはないです。単純に2Dが3Dになって難易度が1.5倍ってわけじゃないのですよ。おそらく10倍くらい難易度が高いとは思います。なので、現在やり始める人はすでに3Dグラフィックスをやっている人、しかもけっこうプロに近い人だろうと思っています。

Game*Spark:
現在、公式のキャラクターは何種類用意されていますか?

小野口:
外見、アバターでいうと4種類位ですね。アバターとは別にファイトスタイルという技などのデータがあります。『EF-12』はその点、特殊で1アバターに1ファイトスタイルではなく、自由に紐付けできます。ファイトスタイルには、現在7種類あり、既存の格闘ゲームの操作系に対応しています。バーチャタイプにAKAGI、KURAMA、ストリートファイタータイプにFOKKER、DRAKEN、鉄拳タイプにPATTON、SCHNEIDER、キャリバータイプにPATRIOT。操作系は、自由に設定できるので全くのオリジナルでもいいのですが、ユーザーの入りやすさを考えてそのようにしています。

『EF-12』ではアバターと別途にファイトスタイルがある。

Game*Spark:
格ゲーにはいわゆるリュウケンタイプみたいなものがありますよね。そのようなタイプもファイトスタイルに反映されているのでしょうか?

小野口:
基本設計としてやはり、スピードタイプ、パワータイプ、スタンダードタイプがありますよね。それに、よくある格闘技をかけあわせて、大体のイメージを固めていくということですね。

Game*Spark:
あと格ゲーである以上、キャラクターのバランスが重要になってきますよね。その点の調整はどう考えていますか?

小野口:
それはベースとなる技、例えばジャブみたいなものであれば、このくらいかなというものがあります。バランスを決める要素はダメージだけではないので、「強いけど、硬直が長い」といった風に味付けしていきます。パワータイプだったら、ダメージが大きいけど硬直長い、あるいは出が遅いといったように。

Game*Spark:
最終的な目標は「ゲームの社会的価値を高める」ということであれば、そのために必要な格闘ゲームはいったいどういうものになるのですか?

小野口:
私のなかでひとつあるのが、キャラクターというものが存在しないということです。

Game*Spark:
キャラクターが無くても良い?

小野口:
これは伝わりにくい話ですが、eスポーツの主役は誰かという話につながってきます。eスポーツの主役は、リュウやケン、アキラではないですよね。そうではなく、あくまでプレイヤーが主役であり、彼らがヒーローになる。

Game*Spark:
つまりプレイヤーの能力やスキルが直接反映されるものが、理想の格闘ゲームというわけですか?

小野口:
そうですね。だから「このキャラだから勝った」という議論がなくなってほしいわけです。

最終的にはキャラクターが無くなるのが理想だと小野口氏は語る。

Game*Spark:
それはゲーマーとしては、悩ましい部分ですね。格ゲーが何故格ゲーなのかというと、ゲーム内にキャラクターがいるからということに他ならないのではないでしょうか?

小野口:
そのとおりだと思います。だから、やっぱり可愛い女の子を作りたがる人が多い。それにそのほうが、人気が出るのもわかっていますが、私の目指すものとは違うから、そっちの方向には行きません。もちろんユーザーはそういったものを作ると思いますが。

Game*Spark:
キャラクターよりもユーザーのスキルが直接反映されるとなると、結局、同じファイトタイプやキャラクターで対戦すれば良いということにはなりませんか。

小野口:
現状はそうなると思います。実際に当初は、そもそもファイトスタイルも無いというプランもありました。パッケージされた技があり、それを自分で組み合わせて戦うという構想もありました。ですが、脳内でシミュレーションとしても、なかなかそれはまとまらない。

Game*Spark:
私の考えからすると、F1が一番近いのかなと思います。ある程度のレギュレーションがあり、レーサーのスキルも重要だが、事前のエンジニアリングや調整も重要であるような。『EF-12』をやるためには、プレイヤーとともに後ろにセコンドみたいな人がいて、セコンドがこの技とこの技をインストールしておけば最強だ、みたいな。

小野口:
ただそこまでをプレイヤー側にやらせると、これまでの経験上、おそらくハメ技が無くならないと私は踏んでいます。確かに、理想から言えば、そのような構想の方が素晴らしいとは思います。でも現状では無理だと思っています。

Game*Spark:
なるほど。では、ある程度のプリセットされたファイトスタイルを選択するという方針を採用しているわけですね。

小野口:
そうですね。ただ、そのファイトスタイルの弱いところや強いところには積極的に意見を言ってほしいです。ここを調整しろと。これが実際の製品だと、そのようなユーザーからのフィードバックが反映されることはほとんどありませんし、あったとしてもすごく時間がかかる。しかし、『EF-12』なら自分で変更できるというわけです。

Game*Spark:
なるほど。その点は良くわかります。格ゲーにおけるバランス調整は必ずしもユーザーのフィードバックが反映されるわけではありませんので。

公式サイトに掲載されているeスポーツと『EF-12』の関係。

小野口:
突き詰めるとeスポーツのアスリートには、そこのバランス調整をやってもらいたいのです。ユーザー主導で、もっとゲームのメカニクスにコメントしてフィードバックしてほしい。そして、みんなで合意したものが、大会のレギュレーションになり、さらに調整がなされていく。

Game*Spark:
確かに通常のスポーツはそういうものかもしれません。キャラクターのバランスに関しては、格闘ゲームコミュニティの中でさんざん議論されてきたことだと思います。確かにそのひとつの理想はユーザーの意見をすぐに採用して、コミュニティと一緒に作っていくという方向性はあります。しかしながら、強キャラ、弱キャラがいて当たり前、むしろこのキャラで勝つのが良いのだよという美学も他方にあると思いますが、そういう考えに対してはどう思っているのですか?

小野口:
いわゆるザンギエフが強くなったらつまらないというような話ですよね。そういう発想は確かにあると思います。しかしながら、先ほど言ったように、弱キャラで勝ったから偉いとかそういう方向性ではなく、ツールはプレイヤーに対してイーブンであるのが、スポーツの大前提だと思います。なのでキャラクターを重視する方向のゲームと『EF-12』は違うものなのです。

Game*Spark:
つまり、今までゲームらしいと思われている部分を切り捨てる覚悟なのですか?

小野口:
そうです。そもそも、私が提示しているのはゲームではなくてルールなのです。ゲームの形をしているので、誤解は多いのですが、ゲームを提供しているつもりはまったく無いのです。

Game*Spark:
(笑)。それはなんというか野心的すぎて……ユーザー側としては「ん?」となりますね。

小野口:
「これはルールです」と言っても、みんなポカーンとするとおもいます。

Game*Spark:
世の中には、私もそうですが、ゲームが好きな人間がいて、彼らにとってはプリセットされたデータやキャラクターが重要なのだと思います。彼らからすると、『EF-12』はなんだかよく分からないもので、自分と関係がないものだと思うのではないでしょうか。そうすると、作ったり遊んだりするコミュニティが広がる可能性はかなり厳しくはありませんか?

小野口:
最初から厳しいと思っています。しかしながら、文化を作る道で厳しくない道なんてありません。だから、ここで志を曲げて、安易に迎合するつもりはない。結果として、『EF-12』が文化価値向上の手助けにならなかったとしても、曲げてはいけない部分だと思っています。

開発ツールとしての『EF-12』

Game*Spark:
そのような新しいeスポーツのルールを提供する『EF-12』 という壮大な野心はわかりました。ただ今日のセミナーでも、モーションデザインの教材としても『EF-12』を利用していますよね。そちらは副産物として生まれたということなのですか?

小野口:
当然ながら、会社としてやっていますし、助けてくれるメンバーの協力を得る上で会社的にメリットがあるという合理的な理由が必要です。その中で教材として使うというプランは当初からありました。これが『EF-12』の開発を始める直前に作った社内向けの構想案ですね。ここに教材としての利用のプランもあります。

クアッドアローにおける『EF-12』の位置づけ。

Game*Spark:
すごいですね!途方も無い野心でありながら、周到に計画されているとは(笑)。

小野口:
単純にeスポーツをやってくださいと叫んでいるだけでは流行らないですし、専門学校で作った成果物がeスポーツにフィードバックされる可能性はあります。そういうところは合理的に考えています。

Game*Spark:
先ほど言ったとおり、ゲーマーから見た『EF-12』は、非常に取っ付きが悪いように思えます。しかし、コンテンツを3Dで作りたいという人にとっては、確かに魅力的なツールだと思います。

小野口:
そうです。現状もプレイヤーよりもクリエイターの反応の方が良いです。ただし、そこで作られたものが公開され続け、ある程度の閾値を越えた時点でプレイヤーが参入してくる段階がいつかあると思っています。ただ、今はまだクリエイターに向けられている側面が強いですね。そして実際に『EF-12』でデータを公開してもらって、それがプロ級のクオリティであれば、その方にはこちらから外注でお仕事を依頼しています。

Game*Spark:
なるほど。場合によってはそこから仕事につながるというわけですね。それは過去にエピックゲームズがUnreal Engineで行なってきた方針と似ていますね。エピックゲームズの『Unreal』はMODの制作が活発になされ、優秀なMODの制作者を会社が採用することは普通であったそうです。『EF-12』もそういったMOD文化の流れにあると考えれば、理解しやすいですね。

小野口:
そうかもしれません。実際に何人かは仕事を前提に話を進めています。

Game*Spark:
なるほど。また『EF-12』の基盤となるエンジンで開発されたタイトルは既にあるのですか?

小野口:
名前は出せませんが、アーケードで稼働しているTPSタイプのものがありますね。名前の出せるタイトルでは『アクセル・ワールド』のシリーズで3Dパートのシステム部分を開発しています。

インディーゲームと会社の関係

Game*Spark:
小野口さんのすごいところは、大きな野心を描きつつ、着実にステップを重ねて計画を進めていることですよね。しかしながら、どうしてこれほどまでに途方も無いプロジェクトを行なっているのでしょうか?

小野口:
自分の人生のゴールとして、「これは自分のものだ」と完全に言い切れる作品を作りたかったのです。

Game*Spark:
格闘ゲームとは直接関係なく?

自らの誇れる作品として残したいもの。

小野口:
そうですね、それは何でも良かったのです。世間的には私は鉄拳を作った人として名前が出ることが多いんですが、実際のところ、鉄拳は自分の作品ではありません。もっと言うと、現在、鉄拳を作ったといって表に出ている人にとっても、鉄拳は彼らの作品とは言えません。世間一般の印象として鉄拳は誰の作品かというと、ナムコの作品というわけですね。結局、自分のものではない感覚がすごく強いのです。なので、本当に「これは自分が作ったんだよ!」胸張って言えるものをずっと作りたかった。

Game*Spark:
なるほど。つまり、クアッドアローが自分たちで作って、自分たちで胸張って出せるもの。

小野口:
胸張っているのはたぶん私だけです(笑)。私が作りたいものなので。他のスタッフは個別に作りたいものがあるので、時間が取れる限りはそっちをやっています。

Game*Spark:
つまりクアッドアローのなかではメインの受託以外にも、自分でゲーム作っている方がいるのですか?

小野口:
います。今、エンジンを作っているプログラマーも、時間があるときは自分の作品を作っています。

Game*Spark:
それは何らかのかたちで、今後リリースすることは?

小野口:
リリースされるかもしれませんが、それらはクアッドアローという会社は一切関わらないです。勝手に出したかったら出していいよ、会社の支援が欲しかったら言ってね、というスタンスです。うちはちょっと不思議な会社かもしれません。

Game*Spark:
クリエイターとしては理想的な環境かもしれないですね。

小野口:
そうだと思いますよ。アサインされた仕事さえやっていれば、好きなこと勝手にやっても良い会社。もっと言うと、そのプログラマーはこちらの仕事をわざと受けない時期を作って、自分の作品制作に打ち込みことも可能です。

Game*Spark:
では、今後インディーデベロッパーとして独立してクリエイターになりたい人でスキルがある人だったら、歓迎という感じなのですか?

小野口:
歓迎ですね。さすがに絶対保証はできませんが、その人の作りたいものを作れるようにできるだけバックアップします。結局、自分の作りたいものを実現させられる会社にしたいなと思っています。

Game*Spark:
クリエイターを育て、自分の作品を自由に作れるような環境を会社としては作っていると。

小野口:
そうですね。典型的に大きくならない会社ですよね。でも、うちに来たら楽しいはずだ、と思っています。

Game*Spark:
なるほど。小野口さんは今年3月のBitSummitにも行ったそうですが、他のインディーデベロッパーと交流してどういう感触を受けました?

小野口:
そうですね、『EF-12』はインディーでもメジャーでもない立ち位置ですが、どちらかというとメジャー側しか見てこなかった自分には新鮮でした。

Game*Spark:
『EF-12』はインディーではないのですか?

小野口:
そうですねえ、自分自身にはそういうカテゴリーの意識がそもそもないです。shinimaiさんには『EF-12』はインディーゲームに見えますか?

Game*Spark:
うーん、ゲームかどうか分からないですが、インディーであるかなしかで言えば、間違いなくインディーだと思います。つまり、どこからの資金も受けず、マーケティングもなく、小野口さんが本当に目指すものを作っている。だから、ゲームであるかどうかはともかく、コンテンツとしてはインディペンデントなコンテンツなのは間違いない。

小野口:
そうですね。だから私のなかでは、インディーとかAAAタイトルの違いという意識はまったくありません。たまたま作品を出しやすいところがビットサミットだったから出しただけです。インディーで作っている人たちは、それはそれで面白いと思うのですが、自分はそれに属してはいないと思っています。どちらかと言えば第三勢力みたいな感じです。

Game*Spark:
なるほど。クアッドアローとしては受託と自社の開発の両方をやっているわけですからね。インディーの開発者たちはどう食っていくかは苦しい中、色々模索しているとは思います。そういった方々に何かアドバイスできることなどはありますか?

小野口:
それは……金稼げとしか言い様がないです。とりあえず生活していけなかったら、ゲームは作れません。インディーというか、好きなもの作りたかったら、実現できる環境を作る努力をしなさい、としか言い様がない。

Game*Spark:
しかしながら、個人ではどうしようもない構造的な問題もあると思います。というのは、クアッドアローのようなクリエイターが個人で何をやってもいいよというスタンスはそこまで多くはないと思うのです。日本のゲーム会社に勤めていて、同人ゲームは制作している人でも、こっそり作っている人は結構いるわけです。そういった人たちに「堂々とやればいいじゃん」と気安く言うことは難しい。もしかして社内で怒られるかもしれないといった不安もあるわけです。そういった面で日本のゲーム業界自体が、今後ある程度変わっていくべきだとは考えませんか?

小野口:
考えませんね。こっそりやってできるのだったら、こっそりやればいいんです。そうではなく、会社のいいなりになって、会社の都合の良いように使われて死ぬくらいだったら、反逆しても生きろ、ということで良いのではないですか。

Game*Spark:
まあ、辞めろと。

小野口:
そうです。辞めずにうまく立ち回る人も実際にいます。そこは会社に迷惑かけなければ別にいいのではと思います。とはいえ、話の流れとはまったく逆なのですが、若い人にはとりあえず簡単に辞めないでほしいと思っています。というのも、私が一番失敗したなと思っているのは、1年でナムコを辞めた後はなんのコネクションも無かったことなので。日本は特にそうだと思いますが、仕事においてコネクションはとても重要です。なんだかんだ言っても、スキルとは別に、結局知っている人に仕事を頼むので。独立するからといって、今の会社と喧嘩しないことを非常に強く訴えたい。円満に辞めてもらえば、仕事上の関係も続きます。 もちろん、インディーゲームを作って狼のように生きたかったら、どんなに嫌われても自分の好きなものを作るのがいいのなら、喧嘩別れしてもいい。そこまでの気概があるかどうかです。他方で、インディーというか、潜在的に自分のものを作りたいけど個人でどうしていいかわからない、という人たちが、情報交換をできるような場を作ってあげたほうがいいなと漠然と思っています。

Game*Spark:
なるほど。あと今後の話ですが、東京ゲームショウのインディーブースで小野口さんは『EF-12』を出展する予定ですよね。まだまだどういう雰囲気になるか予想ができないのですが、出展する意義をどうお考えですか?

小野口:
東京で一番大規模のゲームのイベントで、海外からもパブリッシャーも来るわけです。来たからには、メインの会場から離れていても、一応見にくると思います。今だと、インディーの方に興味持っているパブリッシャーも多いと思います。彼らに向かって、日本でこういうことをやっている会社があるよとアピールしていきたい。

Game*Spark:
あと『EF-12』の面白いところは、ユーザーのモデルや背景、モーションも一緒にTGSに出展するのですよね。


硬い口調に見えますがお茶目な一面も。

小野口:
ブース取れるという大前提で募集をかけ始めていています。現代は作り手と遊び手の境目って限りなく薄まっている。だからモデルだけを作っている人も、作り手として東京ゲームショウに一部参加できる資格があるだろうと思ってやっています。実現したら、お祭りみたいで楽しいよねと。

Game*Spark:
クリエイター側からしたら、東京ゲームショウでモデル出せるのは、かなり魅力的ですよね。もちろんブースの費用は、クアッドアローさんが払ってくれるのですよね。

小野口:
そうです。一応、オリジナル作品で公序良俗に反しないものという決まりはありますが、どういうものでもOKです。モデルだけではなく、モーション一個、バランス調整一つでもいいと思います。そういう形でも参加してもらえると。

Game*Spark:
『EF-12』はまだまだ普通のユーザーやゲーマーが使うかんじではないかもしれないですが、クリエイターやフリーゲーム作っている人のなかでもツールとして利用することが増えていくことを願っています。今日は本当にありがとうございました。東京ゲームショウ頑張ってください。

■著者 今井晋(いまい しん)

1981年石川県生まれ。東京大学大学院博士課程でポピュラー音楽と美学について研究、非常勤講師をつとめるかたわら、音楽やゲームなどの様々なコンテンツに関して執筆しているフリーランスライター。現在の関心は、ゲームに限らずコンテンツのインディペンデントでコラボレーティブな創作実践について。Facebookはこちら

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