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『アサシンクリードシャドウズ』起請文を呑んだ一味同心で地元を守れ!「惣国一揆掟書」に見る伊賀の自治自衛【ゲームで世界を観る#94】

「一味」の結束は固い?現実はそう単純ではないようです。

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××が何者かに暗殺されたという史実は歴史書には存在しない。
しかし、権力による不都合な真実の隠蔽が、
いつの時代も行われていたことは確かである。
「柳生一族の陰謀」(2020年NHK版

時代劇は制作の都合で様々な粗がつきものですが、冒頭に荒波が打ち寄せれば大体解決するので、納得いかない時は心の眼で三角形を朧気に見出しながら「夢でござる!」と叫べば良いと思いますよ。

そんな深作時代劇を彷彿とさせる『アサシンクリードシャドウズ』の序盤では、伊賀忍が織田の軍勢に抵抗する2回の「天正伊賀の乱」が描写されました。回想で伊賀三大上忍である藤林長門守(正保)、百地丹波(三太夫の名は後世の創作由来、または実在の別人説あり)、服部半蔵が揃う場面は、好きな人にはたまらないシーンでしょう。

伊賀・甲賀の地は古くから東大寺などの寺社勢力による荘園が多くあり、主要な街道からも外れた位置であることから、乱世においても武家が領地を切り取ろうとするにもなかなか困難な地でした。その中で領主の寺社が弱まるのに替わって、力を付けた農民達が自ら武装して地侍(土豪)となり、自主防衛の手段としてゲリラ戦術を主とする「忍」の技を開発していきました。

伊賀・甲賀には周囲を土塁で囲んだ武家屋敷のような造りの建造物、いわゆる「忍者屋敷」が点在し、他者の守護に頼らずその場所に住む人間が土地を守る気風が強く根付いていました。村落単位で自治自衛をしていたために、地侍同士での闘争も頻発していたと言います。

忍びにも様々種類があり、家康麾下の服部など、武家に雇われて専門性を持って働くグループもありますが、伊賀・甲賀の場合は百姓や木こりなどが自衛のために武術を身に付ける場合が多く、多くはベースの家業に従事しつつ、その合間に忍びの訓練を行いました。足軽として周辺の戦に参加もして、実践の積み重ねと修験道の精神性の結びつきから独自の「忍術」へと発展します。

そうした自衛の気風が最も強く表れているのが、『シャドウズ』でも描写された伊賀惣国一揆掟書です。「惣」も「一揆」も連盟に近い意味があり、来たるべき織田軍の脅威に備え、小規模な自治郡が集まる伊賀の民全体で防衛協定を結ぶことを目的に書かれました。決して一枚岩では無かった忍び達も、より大きな脅威の前には共闘するべし、ということで何とかまとまりを見せました。「掟書」には以下のような文言が書かれています。

一、従他国当國へ入るニおゐてハ、惣國一味同心可被防之候事、
(中略)
一、上ハ五十、下ハ拾七をかきり在陣あるへく候、永陣二おゐてハ、番勢たるへく候、然ハ在々所々、武者大將ヲ被指定、惣ハ其下知二可被相隨候、并惣國諸寺之老个ハ、國豊饒之御祈疇被成、若仁躰ハ、在陣あるへく候事、
一、惣國諸侍之披官中、國如何様二成行候共、主同前とある起請文を、里々ニ可被書候事、

侵略を受けた場合は連盟総出で臨むこと、17歳から50歳までの戦える者は指定の大将の指揮下で参戦し、何があっても裏切らないよう起請文を交わしておけ、という内容です。続きには「百姓であろうと城攻めに足軽(実質忍び)として参加し、功績を挙げれば侍になれる」という記述もあり、当時の「侍」の扱いの一端も窺えます。

伊賀忍が足軽=傭兵として城攻めに参加するとは、特殊部隊として城内の破壊工作や乗っ取りを求められるということ。1563年の北条氏康による葛西城攻めなど、既に城攻めには忍びの奇襲は戦術としてよく用いられており、それだけの任務をやるからにはきちんとしたインセンティブを保証しないと、条件の良い敵の武家に仕えてしまう可能性もあるからです。実際、伊賀の乱においては福地宗隆、柘植保重が一揆を裏切って織田方に付いています。

地侍の集団なので公的に「侍」を任命できる立場の人間が伊賀にはいないのですが、この「掟書」では伊賀のために戦うと誓約すれば、惣国一揆から侍の身分と褒賞が与えられますよ、と書いてあるのです。

つまり、この場合の侍とは正式な武家の従者では無く、自治を束ねる地侍と同格の扱いになる、ということで、その立場の授与は村落内の地侍が行っていました。『シャドウズ』発表当初に侍とは何かという議論もありましたが、地侍独自のこういうケースもあるのです。

最初の項目にある「一味同心」とは、「一味神水の儀式を行った同盟者」のことであり、カットシーンの「起請文の灰を皆で飲む」儀式こそ、大河ドラマでも登場した一味神水そのものなのです。一揆結成時にはよく行われていたことから、『シャドウズ』の描写はまさしく史実に基づいていると言えるでしょう。くれぐれも三枚起請や吐き戻しなどという罰当たりな真似はしないように。

「真実」とは異なり1569年に制定された説が有力の「伊賀惣国一揆掟書」は甲賀との連携も視野に入れており、現存する「掟書」も甲賀の家に伝わっていたものでした。近年公開された1573年の「甲賀郡奉行惣・伊賀奉行惣連署起請文」においては、伊賀・甲賀で合議の上で境界トラブルを収めた旨が記録されていました。この頃までは双方の決定的な対立はほぼ無かったと推察されます。

しかし翌1574年に織田が甲賀を勢力下に収めて以降、甲賀は信長に使われる立場になってしまいました(このとき調略を担当していたのが和田惟政)。そして伊賀攻めの際には甲賀衆がその先遣を務めるのです。

1581年の第二次伊賀攻めで、織田軍に包囲された伊賀勢は比自山城などを拠点に戦いましたが、根絶やしを目的にした容赦ない虐殺に追い込まれ、最後に立て籠った柏原城にて降伏しました。捕縛された者の多くが斬首で処断されたそうで、総死者数は戦闘員・非戦闘員合わせて約3万人に及ぶとされています。

信長に攻め落とされた後の伊賀衆は散り散りになりましたが、中国地方など逃げ延びた先の大名にその技を求められました。一部は徳川家に召し抱えられ、幕府や各藩の諜報員として幕末まで仕えました。

忍びの役割は明治以降消滅しますが、歌舞伎や講談の中で形成された「忍者」のイメージの中に伊賀と甲賀の名は残り、今も名のエンタメの世界で活き活きと活躍しているのです。


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ライター:Skollfang,編集:TAKAJO

ライター/好奇心と探究心 Skollfang

ゲームの世界をもっと好きになる「おいしい一粒」をお届けします。

編集/いつも腹ペコです TAKAJO

Game*Spark編集部員。『Crusader Kings III』と『Mount & Blade II: Bannerlord』に生活リズムを狂わされ続けています。ちなみに好きな映画は「ダイ・ハード」、好きなアメコミヒーローは「ナイトウィング」です。

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    • スパくんのお友達 2025-03-30 6:34:01
      今作は演出面にかなり良く力入ってたけど、唯一こういう歴史イベントや戦乱描写だけはちょっと軽かった印象、オデッセイみたいな戦争や合戦要素を期待してたらけっこう肩透かし食らった
      山崎の戦いとか、光秀討伐のため軍を集めてるって秀吉の所に行ったら、百姓たちが普段通り働いてる傍らで数人だけで小さな幕張って布陣の会議してたりでシュールな光景だった
      13 Good
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