

『アサシンクリードシャドウズ』に登場する城郭の中でも特にプレイヤーから評価が高いのが、織田信長が晩年の本拠として築城した安土城。本能寺の変の後に焼失し、近年になってようやくその姿を想像できるようになった幻の城です。本格的な調査が始まってまだ30年あまりで、今もなお次々と新しい発見が飛び出し、想像図もまだまだ書き換えられていくでしょう。それでもなお、安土城が日本の城郭を大きく変化させた金字塔であることは疑いの余地がありません。



石垣、堀
安土城で圧倒されるのが、山裾前面を覆う石垣の城下。当然ながらこれらを調達できる権力と資金力、熟練の技術者などを総動員しなければ作り出せない代物です。南側の城下町のどこからでも姿が見えて、よそから訪れる人々は自分のところの城と比較してその差に愕然としたことでしょう。安土城には信長が自ら布告やパフォーマンスを行うお立ち台のような場所があったようで、城の案内も積極的にしていたとも言われています。ただし入場料はきっちり徴収したようですが……。


大手門、大手道
政務で安土城に向かう人々は正面の大手門から入り、秀吉や家康などの名将が居並ぶ屋敷群を抜けて天守へ向かいます。この道を歩いていれば必然的に戦で名を上げた武将ともすれ違う可能性があり、そうした有名人と目が合うだけでも結構気圧されていたのではないでしょうか。


黒金門、七曲
城の西側には通用門とも言える黒金門があります。ここは軍港へストレートに繋がる道があり、政務の大手門、軍事と物資の黒金門と用途が分けられているようです。道は「七曲」というわざと細く曲がりくねった造りで、敵が一気に攻め上がれないように、また迎撃がしやすいように、という攻防一体の工夫がされています。

ゲーム中ではデフォルメして琵琶湖にダイレクト接続していますが、実際には1キロメートル離れた西の湖に軍港を設置しました。琵琶湖を経由すると水運が京都まで繋がり、輸送や交通の面でとても利便性が良い位置に造られているのです。つい最近の調査では、ここにも護岸のための石垣が見つかっており、城下の施設として重きを置かれていたことが分かります。

「天主」
安土城は天守ではなく例外的に「天主」と呼ぶのが通例となっていて、これは太田牛一「信長公記」の表記に基づいています。天守の存在は「殿守」などと呼ばれて信長以前にもありましたが、本格的に高層化していったのは安土城が最初だと考えられています。多くの城郭に着いている鯱も安土が最初で、日本の城のスタンダードになったという点で最重要だと言えるでしょう。信長は天守の中に居住空間を設けて寝食をここでしていたといいます。
しかし大名が天守に住んだのは信長と豊臣期の大坂城くらいで、それ以外の城は天守とは別に御殿を設け、そこで居住や政務を行っていました。本当のリッチな人は高さでは無く面積で家を建てるともいいますが、あのような急な階段を上り下りしながら生活するのは大変だったからでしょう。


天主の五階以上は部分は望楼になっていて、ここに信長は来客を招き入れて政務を行っていたと考えられています。金箔や絵画を用いた豪華な装飾で、五階部分は八角形になっているのが外からも目を惹きました。ここから城下や琵琶湖を見渡して、将来の野望を大いに語り合ったことでしょう。

注目してもらいたいのは五階の天井部分。「信長公記」の「天井には天人御影向の所」の記述の通り、天女の姿がしっかりと再現されています。1992年のセビリア万博ではこの望楼部分の再現が試みられ、現在は「安土城天主 信長の館」という施設で見学できます。
信長が最も高い場所に住むというスタイルは岐阜城でも採られており、家臣の住居や来客用の御殿を山の麓に設け、信長自身と近親者は山頂の城郭で暮らしていました。近年の調査でこちらにも天守の土台と思われる石垣が見つかり、フロイスが岐阜城について記述した「四階御殿」が安土城の原形となる本格的な高層天守だった可能性が浮かんできました。

御幸の御間?
安土城には天皇を招き入れるための「御幸の御間」があったと「信長公記」に記載されています。信長は朝廷も恐れぬ権力を求める姿がドラマなどで描かれてきましたが、近年は朝廷の臣下としての立ち位置を重視するイメージが主流になりつつあります。最近の発掘調査では、天守とこうした周辺の施設が渡り廊下で接続されていたことが判明しました。
城の構造を理解するには、自分の足で「城攻め」をやってみるのが一番です。そこで『アサシン クリード シャドウズ』を使ってできるこんな競技を考えてみました。
城攻めタイムアタック
門をスタート、天守最上階(屋根裏除く)をゴールと定め、スプリントタイムを動画撮影で計測する
キャラクター、難易度は問わず。各設定で種目化も可
パルクールアクション、鉤縄は使用禁止、弥助の扉破りは可
戦闘は任意、武器、アビリティ、道具に制限無し


一度走り抜けてみると、攻め手を惑わせる道の造りがどのように機能するか実感できます。例えば、黒金門は入ってすぐ直角に曲がる「枡形虎口」が採用され、門を破った勢いを一旦殺さないと上手く進めません。動きが鈍った敵は高台から簡単に射止められます。それが分かった上で今度は防衛側、タワーディフェンス的に弥助の弓と鉄砲でどこから射かけるかを考えながら逆ルートを歩いてみましょう。その面白さが分かってきたら、あなたも城好きの仲間入りです。