
2025年6月13日、『This War of Mine』や『Frostpunk』シリーズで知られる11 bit studiosの新作ゲーム『The Alters』が発売されました。今回の記事はそのゲームレビューとなっています。発売直後から海外レビューで高得点をあつめ、Steamレビューも「非常に好評」となっているなど評価の高い本作ですが、恥ずかしながら筆者は発売直前にレビューの仕事をいただくまで本作のことを知らず、「へぇ~なんか面白そうな設定だな、こんなゲームが出るんだな~」というぐらいの能天気な感想を抱いていました。
まず結論から述べますが、本作はそんな筆者の能天気さをぶっ飛ばすような傑作であり、ゲームを一周クリアした今その体験を思い返してみても、これはSFゲームの新たなクラシックと呼べるものであった、と感じます。「火星の人」や「プロジェクト・ヘイル・メアリー」のようなアンディ・ウィアーの作品だったりダンカン・ジョーンズ監督の「月に囚われた男」やポン・ジュノ監督の「ミッキー17」のようなSF作品が好きなプレイヤーは、ここからのレビューを読む前にひとまず購入するかXbox Game Passに加入し遊んでみてもらいたい、と切に願います。
前述の通りすでに評価の高い本作ですが、国内では充分な知名度が得られておらず、ゲーム配信の題材などで取り扱われることもまだまだ多くありません(というのも本作はめちゃくちゃゲーム配信向きの作品だと思うからです)。本作をプレイするにあたって筆者はSteam版とゲームパッドを使用しました。また、「3:ジレンマのある選択の連続/ストーリー」の項目ではストーリーについて(ネタバレにならない範囲だと筆者的には判断していますが)やや踏み込んだ言及があります。絶対になにも知らないで遊んだほうが面白いので、そこを知りたくない場合は飛ばして読むなど工夫していただけると幸いです。また、記事執筆に使用したSteamキーは11 bit studiosより提供を受けています。
1:強烈なビジュアルイメージと世界観/音響

まず本作のSF的な重厚さを際立てているのが、そのビジュアルです。推奨環境的にも現代のゲームとして「非常にリッチ」というほどではありませんが、必要充分な美しさがあり、なによりデザインがすばらしいです。プレイヤーは主人公であるヤン・ドルスキとして、不時着した謎の(ゲーム中に記述があったかどうかわからないですが、おそらく)惑星をさまようことになるのですが、ゴツゴツした地表に寒々しい色合いなど、人間を寄せ付けない感じが非常によく出ています。プレイヤーに「こんなところで生き延びるのなんて可能なの……?」という脅威を感じさせてくれますし、どことなく神秘的な雰囲気もあり非常に魅力的な環境でした。

過酷な惑星環境ともう一つ、本作の主要な舞台となるのが「ベース」です。自分で拡張し、うまいことベース内の施設を作り変えていくベースのデザインも秀逸。地表を移動するためのローラー内に『ザ・タワー』シリーズのようなサイドビューで基地を作っていくという体験そのものが正しいですし、SF的なセンス・オブ・ワンダーも感じさせてくれますし、なによりめちゃめちゃかっこいいです。ゴロゴロ転がって移動する様は、すこし映画「プロメテウス」を連想したりもしました。


ベースの中のデザイン、装備などのガジェットのデザインもそれぞれかっこよく、説得力がばっちりな出来。研究ツリーや資源量を示すディスプレイなども視認性やデザイン性がそれぞれ高く、ゲームの雰囲気を盛り上げてくれます。BGMや効果音なども空間を感じさせる不思議な音響がすばらしく、総合して本作のアートやデザインのレベルは非常に高く感じます。また、日本語フォントも違和感なく、うまく溶け込んでいます。本作のようなSFを題材にするゲームにとって、このあたりがよく出来ていることは非常に価値が高いです。


細かい話ですがタイトルロゴのデザインや章ごとに出てくる「PROLOGUE」などの表記のシンプルながらも印象深いかっこよさについても言及させてください。こういった細部のかっこよさはまさにSFゲームに必要なことだと筆者は考えます。プレイヤーにクールな印象を与え、最後まで「かっこいいゲーム」だと思って遊べるからです。それはゲームへの没入感を深めることにもつながり、本作にも単純なゲームプレイ以上の深みを与えています。
2:ゲームプレイ/探索とリソース管理

本作のゲームプレイを大まかにまとめると、探索とリソース管理が主であると言えます。プレイヤーは謎の惑星で常に迫りくるタイムリミットのために適切に資源を集め、それを適切に運用する必要があります。また短期的な目標を達成するたびに「JOURNEY」と呼ばれるマップ移動があり状況がリセットされるため「すべてがうまく揃って安定して過ごせる」ということは起こらず、常にカツカツの状況で必要なリソースや必要な行動、それにかかる時間などを計算して取捨選択する必要があります。
常に急かされるようなプレイ感はかなり好みが別れるところでしょうし、筆者も(あまりプレイがうまくなかったため)「詰み状況」になってしまうことが幾度かありましたが、数日前のセーブに巻き戻してやりなおせば打開できました。

本作の最も特徴的な要素が、自分のクローンである「オルター」を作っていく、という要素です。オルターにはいくつもの種類があり、それぞれなにかのスペシャリストとなっています。「オルター」は主人公であるヤンの「選ばなかった人生」を象徴する姿でもあり、そのことがストーリーにも深みを与えています。特に「サイエンティスト」は非常に重要な役割をこなすことになるため、できれば早期に作ったほうがよいと感じましたが、逆に言えばほかはそれなりに自由に選択する余地があるとも感じました。

探索パートではマップを開拓しその場所にある問題を特定しつつ、資源を採掘できる場所を探したり、本拠地とポストでつなげてファストトラベルを可能にすることで探索範囲を広げてゆくことができます。このパートには『デス・ストランディング』の影響が感じられました。ベースでできる作業や一度製造し本拠地とつなげたあとの採掘用拠点は全て自分のオルターにやってもらうことができるため、プレイヤーはできれば動き回っていることが望ましいです。実際のプレイ時間はわからないですが、体感としては、本作ではシミュレーション部分よりもかなり多くの割合を探索に充てていたような印象があります。

探索のゲームプレイはただ楽しいだけのものとはいえません。マップ上に突っかかりがおおく存在し、動きがぎこちなくなったり、最悪の場合はその場にハマって動けなくなるようなことも何回か発生しました。またトラベルポスト(ファストトラベル可能なポスト)を斜面に立てるとプレイヤーが埋まってしまったり、バッテリーチャージ機能になぜかアクセスできなくなるなど、細かい動作上の問題が目立ちました。これらの問題は最終盤の緊迫度が高い状況でも発生し、そのせいでやり直しになったときは「もうちょっとちゃんとしてくれよ……」と感じました。
また、不具合以外の問題としては、特に最終マップなどでは資源がかなりアクセスしづらい場所にあったり、ポストをつなぎづらい場所にあったり、意地悪になっているところが問題だとも感じました。プレイヤーに脅威として立ちふさがる「アノマリー」も相当な量存在し、正直「またかよ……もっと探索させてくれよ」と思うような局面も何度もありました。難度オブションは存在していますが、特に資源バランスはより簡単なオプションがあってもよいのではなかろうか、とも少し思いました。
慣れてくるとスタンダード難度でも充分な資源が得られますが、いつどのような資源がどれぐらい必要になるか、というのが唐突に知らされるため、結局はカツカツになってしまいます。筆者のようにリソース管理が不得意なプレイヤーは何度かやり直すことにはなってしまうかもしれません。

未開の惑星は問題でいっぱい。アルターたちが問題を起こすことも頻繁にあり、また「磁気嵐」によってベースがどんどん故障していってしまうというようなことも起こります。筆者も初回プレイ時には磁気嵐の最中はシナリオの進行が実質ストップしてしまうためにストーリーの進行が困難になってしまう、というようなことも起きました(通信は細かく確認しましょう!)。常に急かされ、常にカツカツであるというのは本作の特徴でもあり、後述する「ジレンマのある選択」も相まってゲーム中はなかなか苦しい作品でもあります。ただその苦しさはシナリオの重厚さのよい味付けとなっていますし、ゲーム終盤の感動やカタルシスにもつながっています。
3:ジレンマのある選択の連続/ストーリー
ここからはストーリーについての記述があります。筆者的にはネタバレにならないと感じる範囲ですが、気になる方はスキップしてください。

今作ではシナリオ中にいくつか大きい「決断」を迫られるパートがあります。プレイヤーの倫理を試すようなところもあり、精神的負荷がなかなか高いですが、これは本作の大きな魅力の一つです。自分でした決断の重みがのちのち伸し掛かってくるという展開は圧巻ですし、一つ一つの決断が今までの自分を形作るのだ、という普遍的かつ重いテーマとも合致していて、プレイし終わったあとにすばらしい余韻を残します。最初にも触れましたがアンディ・ウィアーのSF小説や映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」なんかを連想させられる場面もありました。特に「エブエブ」はテーマ的にも通底する部分が大きいと思います。
異常な現象の起こる惑星で自分の過去と相対することになるというゲーム、というとやや小難しそうな印象を与えるでしょうが、本作はそれほどは哲学的な領域には突入せず、スピリチュアルにもならず、地に足が着いています。あくまで眼の前の現象とその解決にフォーカスが絞られていて、あまり意味不明になりすぎない点は筆者の好みと非常にマッチしていました。

他作品のタイトルを多くあげたのは、筆者にとって本作が、それらの作品と並びうる非常に重大なSF体験になったからに他なりません。本作はSFファンには間違いなく刺さる作品だと思いますし、最終盤の展開には心動かされ、筆者はおもわず落涙してしまいました。人によって解釈は異なるでしょうが、本作は「どんな選択であれ、その選択をしたことにはきっと意味があるはずだ」という極めてポジティブで真っ当なメッセージを発している作品だと思います。惜しむらくはマルチエンディングということもあってかエンディングそのものはややあっさり気味であったという点。様々苦労し様々な目標を達成すればするほど「え、これで終わり!?」と思うかもしれません。ただし筆者もまだ1周しかプレイしていませんし、より内容の深い「真エンド」的なものがある可能性もゼロではないとは思います。
シナリオ、美術、音楽、ゲームプレイが高いレベルで合致し、本作の体験は非常に特別なものとなっています。少なくとも筆者にとっては、このゲームは今後何年も思い返すであろう、そして何人もの人間に薦めるであろう特別な作品になりました。特に最終盤のサイエンティストとのとある会話とそれにまつわる選択は個人的にかなり強く印象に残りました。ぜひ、プレイして確かめてみてください。
総評
本作はリソース管理の煩雑さ、常に選択を強いられる限界状態であることなどからプレイする人間を選ぶ作品かとも思います。また、マップに引っかかるポイントがあるなどゲームプレイ上の問題もあり、単にゲームとして見れば手放しで絶賛できるものではないかもしれません。SFが好きでないプレイヤーや、ゲーム部の煩雑さが目に付くプレイヤーは本作に対する筆者の評価の高さが納得できない方もおられるかと思います。本作は人を選ぶ作品であり、好き嫌いもおそらくは極端に別れるでしょう。
しかし、本作には欠点を補ってあまりある非常に特別な体験があると筆者は感じました。少なくとも筆者にとっては重要な作品になりましたし、クリアした後の余韻も含め、このようなゲームとはそう頻繁に出会えない、とも感じました。減点形式であれば満点にはならない作品でしょうが、筆者はこの作品が好きですし、これほど没入して「面白い」と感じられた作品も、他人に勧めたくなった作品も、そう多くはありません。そしてこういったゲームと出会うためにビデオゲームを遊んでいるのだ、ということも再確認できました。
Game*Spark レビュー 『The Alters』 PlayStation 5、 Xbox Series X/S、 Microsoft Windows 2025年6月13日リリース
問題は確かに存在するが、傑作であることは間違いない
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GOOD
- 説得力の高いグラフィックス、デザイン、音響
- ジレンマのある選択と、感動的なストーリー
BAD
- マップにハマる要素があるなど、探索パートに問題が多い
- 資源が意地悪な場所にあったり詰み状況が存在するなどやや意地悪なデザイン