2025年7月18日から7月20日まで開催されてたインディーゲームの祭典「Bitsummit the 13th: Summer of Yokai」。本記事では、Q-Gamesが開発およびパブリッシングする世界創造TPS『Dreams of Another』のプレイレポートおよび開発者インタビューをお届けします。
モノは何を考えている?圧倒的センスの表現
本作は、粒子が散らばった世界で銃を撃ち、世界を「破壊」するのではなく、どんどん「創造」していくというゲームプレイが特徴のTPSです。今回の試遊版では、10分ほどプレイすることができました。

グラフィックにはポイントクラウドと呼ばれる技術が使われており、もわもわ……とした独特な雰囲気のフィールドを醸成しています。最初はなにもないように感じられる寂しい世界ですが、銃を乱射していくことで粒子が集まっていき、そこに街が現れます。
街を創造していくと、人のほかに、ドア、木、マンホールなどさまざまなモノが現れます。これらのモノには話しかけることができるのですが、このセリフのセンスが独特です。

例えば、ドアに話しかけると、乗り物のドアについてのお話になります。彼らからすると、乗り物のドアは動いていないのに速く移動しているから、エリートのような存在に見えるのだそう。まったく考えたことがありませんでしたが、確かに憧れの存在なのかもしれない……。筆者はこのセンスに痺れました。
アート寄りの作品なのかな、と思いきや、ゲームプレイもかなりしっかりしているのが本作のポイント。銃の射撃感やサウンドはシューターとして気持ち良い仕上がりになっているほか、転がる青白いマンホールにしっかり狙いをつけなければならないところもあり、映像や音の凄さだけでなく、しっかり「ゲーム」としても楽しませてくれそうなところが好印象でした。
クリエイター・Baiyon氏の脳内に迫るインタビュー!
ここからは、本作のクリエイターであるBaiyon氏へのインタビューをお届けします。脳内を覗くかのような、濃密で独特な時間となりました。

――自己紹介をお願いします。
Baiyon:マルチメディアアーティストのBaiyonです。Q-Gamesではクリエイティブ・ディレクターをやっており、『Dreams of Another』では企画からアートとサウンドのディレクション、楽曲を手掛けたりなど、全般的に携わりました。今回、ストーリーやセリフを本格的に書いたというのがさらに新しいチャレンジです。
――全般的に携わってみて、苦労したところ、楽しかったところを教えてください。
Baiyon:最初のゲーム作品である『PixelJunk Eden』では、まずアートとサウンドを作りながら、Q-Gamesとゲーム内容を一緒に探しながら作り込んでいくというような制作の流れでした。
今回は企画から自分で始めて、思いついた段階で、流れるサウンドも、アートも、基本のゲームプレイも、トーンも、自分の中でありましたが、それを実際に作らなければいけないわけですから、そこは大変…… ただ、逆に言うとこれらを自分で手掛けたことで、響きやすく一貫性のある作品が作れたのではないかと思います。そして、チームのメンバーも本当に頑張ってくれていいものになりました。
――「破壊なくして創造はない」というテーマはどのように浮かんできたのでしょうか。
Baiyon:自分がもともと、クリエイターとして「守破離」のようなものをテーマとして持っていたんです。なんだか、一種の儚さと尊さがあるじゃないですか。
「破壊と創造」を明確に意識したエピソードがひとつあって、中学生のときの文化祭で、チームを組んで出し物をしました。僕は友達と組んで、段ボールでオブジェを作って展示したんです。で、文化祭が終わったら片付けなければいけない、つまりいずれにせよ結局片付けて廃棄しなければいけないこともあって、途中から若気の至りか、妙なテンションになって殴ってオブジェを壊し始めたんですよ。せっかくなら楽しく片付けよう、くらいの気持ちだったと思います。そしたら、なんか背中に痛みを感じて、振り返ってみたら友達が自分を蹴っていて。そこから思い切り喧嘩になりました(笑)。
それで、先生が入ってきてめちゃくちゃ怒られたんですが、その時に言われた「お前は壊すために作るのか!?」という説教の言葉がずっと自分の中に残っているんです。言われた時は「何言ってんの?」と思ったのですが、自分の中で「なんであの時、壊すことに興奮したんだろう」と考えたことを強く覚えています。まあ、自分の作ったものを大事にしろという意味なのはわかっていた気がしますが、とはいえ結局は廃棄するものなのに…とも思っていて、人間ってこういうところが興味深いなと感じたんです。なんとなくそれが自分の中に残っていました。それが、自分のものづくりの根底に流れていて、本作ではそれを形にできました。

――クリエイティブとは関係ない経験が活きているんですね。
Baiyon:ポイントクラウドに関してはネットで見たポイントクラウドの動画や、時折クラブで見かけたポイントクラウドのVJ映像などが発想の基になっていて、点群が集まりオブジェクトを生成するようなジェネレーティブな映像を見ているうちに、「これを逆再生したらどうなるだろう?」というところからスタートしています。
大きな粒が弾けて飛び散り、分裂して細かくなり元に戻るのを複数回繰り返したら、「壊してるけど作っている」という不思議な感覚が得られるかもしれない、と思いついた瞬間、ストーリーや表現したいものが頭の中でぶわーっと立ち上がっていきましたね。ちなみに、ゲーム内ではそれを「抽象化した場所を銃で撃って具体化する」と呼んでいます。
――TPSというジャンルを選んだ理由は何でしょうか。
Baiyon:TPSが好きなポイントがひとつあって、他の人がどれだけ気にしているかわからないんですけど……TPSって「2つの視点」があるんですよ。
――と言いますと?
Baiyon:例えば、主人公を操作するという主観的な視点と、自分が操作している主人公を画面上で見ているという客観的な視点の二重の視点が存在しているんです。なんか……よく考えたら不思議ですよね。現実で移動している自分を客観的に見ながら移動しているなんてことは基本的に起き得ないですし、それを一体脳がどう受け止めているのだろう?と思ったんです。
そして、それは今回のような出来事や体験の多様な捉え方をテーマに含むようなゲームに合うと思いました。
――なるほど、独特な視点ですね。
Baiyon:音楽の力についても気づきがありました。かつて自分が大好きなクラシックやソナタをかけながらFPS/TPSを遊ぶという実験をしたことがあるんですが、もう全然雰囲気が変わるんですよね。悲しげなピアノの曲をバックに、自分は戦場で銃を撃ちまくるという……。
で、その雰囲気で戦っていると、「今殺した人って、家族いたんかなぁ」とか、「今壊したビル、もしかしたらご飯食べてた人とか、住んでる人がいたのかもなぁ」とか、いろんな興味が湧いてくるんです。本来そんなところに興味を持つように全然できていないと思うんですが、音楽が物語や場面に「含み」や「実存的な意味」をガラッと変えられるんだなと改めて実感しました。
物事を捉える視点というのはあって、FPSやTPSは普通に見ると「死んでいる」とか、「殺している」じゃないですか。ただ、逆に生きているからこそ死ぬわけで、死んでいる映像を見たときにむしろ「生」が浮かび上がってくるのを感じたんですよね……あ、寒い冬に家に帰って湯船に浸かるときなんて言います?
――えっ!? なんだろう……「あーあったかい」とかでしょうか。
Baiyon:そうですよね。この質問をいろんな人にして気が付いたんですけど、多くの人が「あったかい」って言うんですよ。でも僕の場合、「ああ、寒かった」という言い方をするんです。自分ではそれが普通だと思っていたんですが...
つまり、物事は、本質は同じだけれども、どちら側の視点から語るかによって大きく印象が変わってしまうんです。
これを踏まえると、殺している映像でも、見方を変えれば「生」を感じるものであって、その気付きに衝撃を受けたのを覚えています。
――なるほど。ほかにこだわったところはありますか。
Baiyon:私はさまざまなメディアを横断しているので、例えば音楽やグラフィックを作る時にゲームのカルチャーのリスペクトを込めたり、逆にゲームを作る時に音楽のカルチャーのリスペクトを込めたりとしたりしてきました。
今回はゲームというメディアでゲームへの愛を持ち、ゲームからのインスピレーションをゲームに込めました。
結構訊かれるのは、「雰囲気はふわっとしているのに、なぜ銃がリアルなんですか?」ということです。本作における銃はただの銃ではなく、ゲームの文脈における「銃」なので、他のゲームと同じようにパッと見てすぐ銃であると理解できること、そして通常撃つとどういうことが起きるのか想像出来ることが必要不可欠だったんです。
本作に興味を持ってくれる人は、たぶんゲームをある程度知っている人なんですよ。普段FPS/TPSをプレイしていて、ゲームにおける銃がどのようなものか知っているからこそ、「なんだこれ、おかしい、普通じゃないぞ」と興味を持ってくれる。そうした人たちに、撃ったら創られるという「逆」を見せて、疑問を投げかけて、別の意味や視点を一緒に探っていくというのがテーマとなっています。
――本作のメインキャラは、パジャマの男と、彷徨う軍人の2人です。立場的には対照的に見えますが、これはどういった理由で決めたのですか。特に前者は、ちょっと引きこもりのような印象も受けます。
Baiyon:解釈は人それぞれなのでおまかせしますが……今出ている情報だけでは2人のキャラクターを掴むことは絶対にできないだろうと思います。いまの解釈を聞いて、嬉しいなと思います。……絶対に裏切れるから(笑)。
ひとつこだわっているのはキャラの名前で、「パジャマの男」「彷徨う軍人」は、基本的に周りの印象を反映した呼び方です。自分がしっくりくる物語の形は「群像劇」で、本作もまた、本人たちよりも、環境や周囲が語るような構成になっています。

――モノが喋るというのにも驚きがあります。特に、ドアが「乗り物のドアは高速で動いているから憧れだ」というようなことを喋っていたのは衝撃的な視点でした。
Baiyon:あのセリフにフォーカスしてお話すると、新幹線で移動するときに、すごい速度で風景が流れていくじゃないですか。それを見たとき、「我々はもはや、やってはいけないほどに情報を見過ごしているのではないか、誰かが設定したキャパシティをとっくに突破してしまっているのではないか」と変な気分になったんです。
もし、歩いて1つ1つの家を見ながら移動してたら、数ヶ月とかかかってしまうわけじゃないですか。それを新幹線はたったの2時間で移動してしまって……自分の脳はどうやってこれを処理しているんだろうと不思議になったんですよ。
そのとき同時に、新幹線のドアやイスもそれ自体は動かないのに高速で移動しているのって、固定されて動けない建物のドアからしたら、スゴい存在なんじゃないの……という発想が浮かんできて、そんな感じでセリフを考えていきました。
自分の意思とは関係なくいろんな所に行けるドア... それは例えば、周囲の環境を乗りこなしてなんでも出来ちゃう人みたいな感じですよね。
そして動けないドア... それは例えば、それを羨みつつも一歩を踏み出そうとしても地面に固定されていて環境的に踏み出せない、もしくは精神的に前へと進めないとも読み取れる。みたいな感じでプレーする人たちが自分たちの社会や周りの環境に置き換えて想像することが出来るように作りました。
このセリフも、どちらの立場から見るかによって意味は変わります。例えば、乗り物のドアは現代社会の中で流されがちな自分たちの姿、と読み取ることもできますよね。つまり先ほど説明した流れていく景色の中でたくさんのことを見過ごしている、という視点ですね。
セリフでは、決して何が正しいとか結論は言いません。プレーヤーが自分の記憶にアクセスして、自己対話できるような時間を作りたかったんです。そうやってセリフを平面的な一視点だけではなく、立体的で多層的に、自分の記憶と照らし合わせながら、色々な角度から見れるようにしました。このセリフもまだ触れていない見方や含みも存在します。ただし、なんかドアが変なこと言ってるな、くらいに捉えるのも別にそれはそれでアリだと思うので、人それぞれいろんな楽しみ方をして欲しいなと思います。
もう1つ試遊の範囲で気に入っているセリフがあります。それが、マンホールが「開いてやるよ」というシーンです。マンホールの視点からしたら、自分から開いているのに、「開けてやるよ」は少しおかしいじゃないですか。そういった視点、視座、実存のようなものをすごく大切にしているので、そんな部分も楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。
――ポイントクラウド技術が使用されたグラフィックが非常に特徴的です。こうしたアートスタイルを採用したのはなぜですか。
Baiyon:もちろんビジュアル的な面白さはありますが、今回「破壊と創造」を表現するためには不可欠でした。つまり最初からポイントクラウドありきのアイデアからスタートしたんです。
ポイントクラウドにグッと来た理由として例えば... 人間の細胞って、毎日入れ替わっているじゃないですか。次にあなたとお会いするときは、もしかしたらお互い全身違う細胞でできているかもしれませんが、それでも「その人だ」って認識して、「ご無沙汰です」って挨拶しますよね。それってなんか……変じゃないですか?

ポイントクラウドの素晴らしいところは、なにかの一部になっていたものが分解して飛んでいったら、何にでもなくなって、別のまた違うものになるということが可能なところです。つまり何にでもなれて、何でもないんですよ。めちゃくちゃ面白いですよね。
生物学者の福岡伸一さんという方の動的平衡という考え方が好きで、人間の肉体や精神、思考は常に変化し続ける流動的なものだと感じています。白黒ではなくグレーを漂うような微妙な揺らぎや変化、不安定さや儚さなどはポイントクラウドの曖昧さとマッチするところがあり、そうした感情を表現できるのではないかと思いました。
――本作のサウンド面はどのようなこだわりを入れていますか。
Baiyon:いままでもゲーム音楽を作ってきましたが、今回はより、「ゲームの音楽を作った」という実感が強いです。というのも、映画の劇伴のように、基本的には特定のパートに対して曲を作ったからなんです。
『PixelJunk Eden』は作りたい全体のイメージとしてBPMや尺、グルーブ感をある程度決めて音楽を作っていったのですが、本作では場面場面で「こういった気持ちになってほしい」「こんな感情を描き出したい」というところから作っていきました。
――どういったコンセプトで作ったのでしょうか。
Baiyon:最初から大きなテーマとしてあったのは、夢の世界なので不安定で、固定されていないイメージということです。そうした世界を「音」で表現するにあたって、「作り込みすぎない」というアプローチがありました。
僕が作るような音楽って、結局のところ終わりがどこかはっきり決まっていないんですよね。作り手が「ここで終わり」と思えば終わる。展開がギチギチに練り込まれすぎているのではなく、もう少し曖昧で、流れるように進むような音楽に仕上げました。
自分の記憶や経験をインスピレーションとして作ったとある川のシーンでは、わざわざ数時間かけてその実際の川に行き、水音やそこらへんの石をすり合わせた音を加工したハイハット音など、リアルな音を収録しました。正直、こんなことをしても誰にも気づいてもらえないんです。でも、自分のこだわりとして、「本物である」ことに重きを置いているんですよね。
ゲームって制作における制約がたくさんあるし、スケジュールや予算の問題もつきまといます。それ故に、「本物である」ことはスルーされがちだと思うんですよ。ですが、そういったインスピレーションの源泉の要素を少しでも埋め込むことで、一種のリアルな体験になるのではないかと感じています。本当にすべてをリアルにするなら1年中旅し続けなければならないので、僕はまだ全然ぬるいほうなんですが……できる範囲で“リアル”を追求したいですね。
――PS VR2に対応していますが、ゲームは三人称視点ですよね。視点はどうなるのでしょうか。
Baiyon:一人称視点と三人称視点の両方があります。後者はアイトラッキングがあるので、楽……いや、楽っちゅうのはよくないな。銃を撃つのに楽だからいいよとか言っちゃうの最低じゃないですか、よく考えたら!(笑) だけど、ゲーマー文脈で見ると「お、いいね」って思っちゃう。人間って興味深いですね。
――表現媒体としてのビデオゲームをどう捉えていますか。
Baiyon:先ほど言ったことにも重なりますが、「2つの視点を持てる」ことに面白さを感じますね。例えばRPGとかみんな普通にやってますけど、自分が操作しロールプレーしている主人公を、画面越しに客観的に見ているという、よく考えたら変な構造になっているんです。僕は個人的には「主人公になりたい」と思ったことはなくて、旅を一緒に見届けているような感覚を楽しんでいます。ゲームって、プレイヤーが主観的にも客観的にもなれるじゃないですか。そこはインタラクティブ性があってこそだと思います。
試遊では青いモノを撃ってもらったと思いますが、ゲーム内ではこの青いオブジェクト自体を“アウラ”と呼んでいます。このアウラという概念は、哲学者ヴァルター・ベンヤミンの『複製技術時代の芸術』で語られる、オリジナル性や存在の“気配”の喪失に着想を得ています。
アウラとは、そのモノが持つ“本物だけが放つ特別な気配”のことです。
もともと一つしか存在しなかった絵画が、印刷や大量複製によってたくさんの人々に共有することが可能になった一方で、「唯一性」や「本来の意味」を失っていく。
つまり「たくさんコピーがある中で、本物はどれなの?」ということですね。
オブジェクト自身は、本来の自分らしさ=アウラを失っている状態です。例えばマンホールは、自分がマンホールだったということを忘れています。プレイヤーは、マンホールから出てきた青いアウラを“撃つ”ことで、その本体に戻してあげることができ、彼らが本来の自分を思い出す手助けをします。本作では、こういった一連の体験を通してこうした「自分は何者なのか」という実存的な問いを表現しています。
ゲームのインタラクティブ性に注目すると、デジタルデータとしては1種類の作品でも、プレイヤーごとにまったく違う体験が生まれます。ではその中で、どの体験が本物なのでしょうか?
デジタルデータのコピーを多くの人が遊ぶことで、作品の持つ“唯一性”はプレイヤーごとに異なる形で体験され、唯一無二の価値を持つように感じられます。
そう考えると、デジタルデータのコピーを多くの人が購入して遊ぶこと自体が、ゲームという作品自身が自らの存在を探す旅をしているように感じられます。ゲームは映画や音楽、アートなどの媒体よりもインタラクティブ性が高く、体験の多様性や唯一性がより分かりやすい形で表れている ように思います。
――深いお話をありがとうございました!
『Dreams of Another』はPS5/PS VR2/Steam向けに10月10日(金)に発売されます。さらに同じくBaiyon氏が手掛ける『PixelJunk Eden2』(PS4/PS5/Steam版)も併せて同日発売。また、これら2タイトルをセットにしたスペシャルバンドルも同時に発売されます。
どれも既にプレオーダーが開始しており、プレオーダー特典として限定パジャマ2種類、バンドルをプレオーダーした方は10月7日(火)からアーリーアクセスが可能です。









