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ビジュアルワークスの集大成となった『Agni's Philosophy』映像制作

スクウェア・エニックス オープンカンファレンス 2012で11月23日、同社のヴィジュアルワークス部は「プリレンダーCGアセット制作解説」と題して講演。技術デモ『Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO』のベースとなった、プリレンダーCG映像の制作フロ

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スクウェア・エニックス オープンカンファレンス 2012で11月23日、同社のヴィジュアルワークス部は「プリレンダーCGアセット制作解説」と題して講演。技術デモ『Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO』のベースとなった、プリレンダーCG映像の制作フローについて解説しました。

ヴィジュアルワークス チーフクリエイティブディレクター 野末武志氏

ヴィジュアルワークスはプリレンダーCGをメインに映像を制作する部門で、2000年の立ち上げ移行、数々の映像制作に携わってきました。(その中には『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』のように、映像作品として発売されたものもあります)。ゲーム業界だけでなく、国内でも屈指のCGスタジオでしょう。

内部はプリレンダームービー、モーションキャプチャー、リアルタイムイベント、エンジニアリングセクションに分かれ、CGアーティストとエンジニアが在籍しています。講演もキャラクター、レイアウト、背景、プロップス(小道具)、VFX、ライティング、セットアップ・シミュレーション、アニメーション、技術の9パートに分かれて、入れ替わり立ち替わり説明が行われるという、非常に贅沢なスタイルで進みました。


■新作を一本作るのに等しいエネルギー

まずは『Agni's Philosophy』の制作フローについて、おさらいしておきましょう。本作は、初めにコンセプトが固められた後、ヴィジュアルワークスによってハイクオリティなプリレンダーCG映像として制作。このアセットを用いてテクノロジー推進部がリアルタイムCGに変換するという手順で制作されています。

このうち、コンセプトはプロジェクトを統括した同社CTOの橋本善久氏、ヴィジュアルワークスのディレクターの一人である野末武志氏、そしてリアルタイムワークフローのリーダーを務めた、テクノロジー推進部の岩田亮氏の3名を中心に固められました。その内容はすでに本誌でもレポートしたとおりです。

このコンセプトを元に、野末氏の指揮の下でプリレンダーCG映像の作品制作が行われました。わずか3分半の映像でしたが、「次世代ゲーム開発の壁にぶつかる」という意味合いもあり、ほとんど新作を一作立ち上げるほど、膨大なエネルギーが費やされました。ある意味で過去の作品群の集大成になったと言えるでしょう。


■美容師も参加したキャラクター作り

主人公アグニなどの人物やモンスター、召喚獣などのデザインを担当したキャラクターセクション。本作では、新たに3Dスキャナを用いたモデル制作が行われました。イメージ画をもとに俳優陣を起用し、3Dスキャナで表情をキャプチャー。複数人のデータをブレンドしながら制作されたとのことです。CGキャラクターには珍しい左右非対称な顔の造形にもあえてチャレンジ。召還士のデザイン画は、グループ会社のクリスタル・ダイナミックスによって監修が行われました。

またアグニの複雑な髪型についても、いきなり3Dモデル化するのではなく、カットウィグ(練習用のマネキン)上で、プロのヘアメイクによって、実際に髪型をデザイン。これをベースにCGアーティストが3Dモデルを制作するというステップが取られました。この時、一連のヘアメイク作業を収録したビデオがリファレンスになったといいます。一度立体物になっていることで、破綻のない髪型が最初から保証されました。

キャラクター用のスキンシェーダーにも、血や汚れ、汗といった、さまざまなテクスチャが使用されています。寺院を襲撃する8名のテロリストも、基本となるデータは共通ですが、体格や肌の色などでバリエーションがつけられています。

この他、ボディやフェイシャル、衣服、ヘアーのアニメーションでは、セットアップシミュレーションセクションでリギングが設定されました。中でも髪の動きはキャラクターの感情を表現するため、手が抜けなかったとのこと。またクロスシミュレーション用に、アグニにファッションショーにおけるモデルの動作を付け、入念にチェックが行われました。動きにあわせて約16000パーツもある装飾具が、衣服にめりこまないかも重要なポイントとなりました。


■精細な作業が続いた背景&小道具セクション

世界観を表現する上で影の主役とも言うべき背景。本作ではコンセプトワークで描かれたイメージボードをもとに、プリプロダクションとしてレイアウト用のローポリモデルが作られ、それをベースにヴィジュアルワークス内部で2Dアートを作成。内部チェックを経て、ハイエンドなポリゴンモデルが作られるという手順で制作されました。キャラクターモデルと同様に、コンセプトワークでクリスタル・ダイナミクスのBrian Horton氏が参加しており、スクウェア・エニックス社内からも上国料勇氏と松田修考氏が参加しています。

崖にへばりつくように並ぶバラックは、骨組みを最初に制作し、そこにトタンや壁などのパーツを組み合わせることで、膨大なバリエーションを実現しました。シェーダーはレイトレーシングを用いた内製のものを使用し、フォトリアルな表現を可能にしています。ラストシーンの広大に広がる大地も、INEI Inc.の富安健一郎氏によるマットペイントによって描かれたものをベースに、CGアーティストがフルスクラッチ。2.5D的な独特の表現がなされています。

一方、小道具セクションが担当するのは、銃器やクリスタルなどの小物類だけでなく、トラックや大小さまざまなオブジェクトまで多岐に渡ります。銃器類は、パーツ単位で分解して組み合わせ、数々のバリエーションが作られました。トラックは地形に応じてタイヤが浮き沈みし、荷台もアニメーションさせられます。クリスタルも原石に近いイメージになるよう、数種類の鉱物の組み合わせでデザインされています。


■モーションキャプチャーでは犬の動きも計測

キャラクターアニメーションのベースとなるのが、アニメーションセクションが担当したモーションキャプチャーです。今秋に移転した新社屋では、社内に広大なモーションキャプチャ用のスタジオも完備。設備が開いていれば、社内で自由に使用できます。

シーグラフなどで急速に進化しているモーションキャプチャー技術を反映して、本作でもさまざまな実験的な試みがなされました。その一つが、バーチャルカメラや役者の動画を撮影してそこから動きを検出する、イメージベースドフェイシャルキャプチャーです。

ここでは体の動きと表情を同時にキャプチャーできるように、顔の周りに小型のマウントを設置。CG映像にした際に、違和感のない芝居ができるように工夫されました。コストがかさみましたが、テストケースの意味合いもあり、あえて挑戦したと言います。

またユニークなのが、映像中で登場するハイエナ型モンスターの動きのために、実際の犬をモーションキャプチャーしたこと。とはいえ、なかなか思うような動きがとれず、複数のデータをブレンドして使用したといいます。それでも体をふるわせるなど、特徴的な動きのデータがとれました。人間以外の動きはアニメータが手付けする例が一般的ですが、これもまた挑戦の一種でした。


■Luminous Studioとの連携でライティングを効率化

CG映像の最終的な完成度を決めるといっても過言ではないライティング。通常はMayaなどのDCCツール上で、ローポリモデル上でライティングのテストが行われた後、モデルをハイポリに差し替えてレンダリングされることになります。

しかし本作ではライティング設計の後に、ハイポリゴンのモデルをルミナススタジオ上にエクスポートし、Luminous Studio上で最終調整が行われて、レンダリングされました。ルミナススタジオの設計思想として、DCCツールとの高度な連携があります。そのためDCCツールとLuminous Studioで、作業内容をリアルタイムに同期させられるのです。

これにより、ライトのカラーや強度などの確認がリアルタイムに可能となり、作業効率が飛躍的に向上。限られた時間内でのクオリティアップに大きく貢献しました。

このように、ヴィジュアルワークスが蓄積してきた、さまざまな映像制作技術が惜しみなく注がれたプリレンダーCG映像制作。しかし、前述の通りこの映像はあくまで「中間制作物」でしかありません。このヴィジュアルワークスのノウハウを、いかにリアルタイムCG映像側で引き出すか。これが『Agni's Philosophy』の裏テーマだったと言えそうです。















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