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GDC 13: クリスピーズ片岡陽平氏が語る、『トーキョージャングル』への道程

家庭用ゲーム PS3


GDCの壇上に『トーキョージャングル』開発クリスピーズの片岡陽平氏が立ちました。先日お伝えしたBitsummitでの基調講演ならびにインタビューもあわせてご確認ください(共通する部分について当記事では省略します)。

まず面白かったのが、フリーのウェブデザイナーとして広告代理店のニーズを満たすことに飽いた片岡氏がゲームへシフトした際の話題。最初に考案されたのは、10日後に隕石が衝突し人類が死滅することが確実な世界において人々の最期を追うというコンセプトで、タイトルは『メテオ』、ジャンルはRPG。

思わず「おお……」と声が漏れました。

発案した2005年当時は現在のようなスマートフォンやPCゲームなど、公開するためのプラットフォームがありませんでした。ですので、自己資金でゲームを創った所で披露する場もなければプレイヤーもおらず、当然カネも集まりません。

ゲーム作りで生計を立てようとしていた片岡氏にあったのは二択。ゲームを作れる会社に入るか、自分で創設するか。そもそもデザイナー業に食傷気味だった氏にとって前者はありえず、自立の(茨の)道を選びます。

契機となったのはSCEの「プレイステーション・キャンプ!」。チャンスを求めていた片岡氏はこれに飛びつき、メテオを創っていた仲間とともに応募することに。六畳一間で物理的に日の差し込まない月3万円のスタジオから5人でスタートしました。この際3つのアイデアを考えたといいます。その理由は、PS3とPS2、PSPのいずれのハードにでも対応できるよう提案したかったから。「好きなものを創ることこそ至高」の思想はたしかにその通りですが、このことからは片岡氏の現実対応力が垣間見えます。

おお……。

タイトルは『Project ME:CO』。宇宙を漂流しながらWeb上のライフログを収集していくSNSとのハイブリッド企画でした。ライフログを集めれば集めるほど遠い惑星へ辿り着けるという仕組み。ソーシャルゲーム全盛の今でこそ「よくある」と表現されかねませんが、時期を考慮するとやや早すぎたコンセプトです。

こちらは打って変わっていかにもインディーなコンセプトアート。

タイトルは『RAIN』その名の通り乾いた土地に雨を降らせる神になるアクションゲーム。おそらくはいわゆるゴッドゲームのような内容でしょう。そしてPSP向けが先程の『メテオ』。

ソーシャル・アクション・RPGとひと通り揃えたうえで、適切なアートワークも準備することで、柔軟なチームであることをアピール。さらに、「ふざけた」写真を添付してSCEへ送付したといいます。

どんな判断ですか?

成果は上々で、真っ先にコンタクトがあったそうです。こうしてクリスピーズはゲーム会社として船出します。最初のタイトルが『MyStylist』。

と、ここまでは快調に見えますが、『マイスタイリスト』後、内輪揉めを起こし開発メンバーから7人から2人へ。片岡氏いわく、「こういう会社ではよくあること」。

えっ。


しかし折れません。まだいけることをSCEへアピールすべく、ひたすら企画を出しました。

プランA: 『Planet and baby』
突然現れた赤子が惑星を成長せつつ立派な大人を目指すゲーム。

プランB: 『ハイスピード飛脚』
秀逸なタイトルそのまま、スピーディーに依頼人の仕事をこなすゲーム。

プランC: 『World of Colors』
未開の星に不時着した人物が一人旅をしながら地図を作るゲーム。
スナフキンからインスピレーションを得たとのこと。

この中からクリスピーズがフォーカスしたのは『World of Colors』。2Dアクションを採用しつつも、典型的なゴールを設定せず、自らが旅人となり地図を作りながら世界の全容を解明するというゲーム。今でこそありがちにも思えますが、このアイデアが出されたのが数年前(『マイスタイリスト』発売は2008年2月)だという事実は注目に値します。が、このアイデアはSCEから駄目出しを喰らいます。理由は「ゲームとして遊びのロジックやシステムが足りないから」。……早すぎたんでしょう。

ここからBitsummitでも解説された普遍性×普遍性の話題の後、モチベーション維持のため製作した模擬公告を紹介。一例が、でっちあげにしてはやたら高クオリティなサントラジャケット。中野正貴氏の写真集を許可を得て加工した作品です。こうした世界観やロゴといったゲームのコンセプト部分に首尾一貫性をもたせられたことは開発にとってプラスに働いたとのこと。

非実在サントラ。
基調講演後「やっぱりサウンドトラックは出ませんか?」と伺ったところ、
「え?あれ?」とのこと。なるほど。

こうして自らを鼓舞しつつ、プロジェクトの承認を得るため100ページ以上のドキュメントを作成。緊張しつつ提出したところ、タイトルだけでプロデューサーからはGoサインが出ました。片岡氏はこのことを、「プロデューサーの特殊能力ではありません」「ユーザーも同じです」と述べています。これについてはただタイトルさえキャッチーであればよいという穿った解釈をすべきではなく、つまり成すべきを成せば一口目で料理の味は誰にでも伝わるということでしょう。

続いてコンセプトムービー。2Dだったころの、いわゆる『トーキョージャングル1』の動画が流れます。当時は3Dアニメーションのノウハウがなかったため全て手書き絵で、そのモーションからはどことなく懐かしさを感じます。なお、捕食のシーンで会場から笑いが漏れたことについて、セッション後片岡氏はナレーションなどの誘導があったことを踏まえても「やはり感性が違う部分があるようだ」と発言しています。じつに難しいところです。ともあれ、これにてSCEと共有のイメージができてサウンドなども含めた横断的な協力体制へと移行します。

会場から笑いが巻き起こったシーン。
まあ、わからなくはありませんが。

とはいうものの、開発現場はただの民家。理由は「カネがなかったから」。95平米ほどの広さに2人と最初はがらんどう気味だったものの、最終的には25名の大所帯へ。文字通り足の踏み場がなくなったそうです。

狭かったが濃密な時間が過ごせた、と振り返る片岡氏ですが洒落にならない部分もあったようです。具体的には、Bitsummitでも述べられていた全面作り直し事件以外に、なんと「電気」。開発環境整備にかんする知識が乏しかったため、夏にしょっちゅうブレーカーが落ちるといった事態が発生しました。電力会社に協力を要請したところ想定外にコストが嵩み、最終的にはビルを借りるのと変わらないくらいになってしまったとか。

やめろ!マジでそれはやばい!

また、開発ツールも自製していたものの、ゲームが膨れ上がるなかで結局使いづらいものになってしまった、その辺が整っていればもう少し洗練されたものになったかもしれない、としました。ミドルウェアが林立する現在にあっては、片岡氏の述懐もまた致し方のないところかもしれません。

さて、人材から電力まで様々な苦難を乗り越え完成した『トーキョージャングル』。デバッグしながら広告にとりかかったクリスピーズは、PVからポスター、パッケージまで自製することを決定。ユーザーとつながる部分だからこそ心をつかむ必要があったのです。ここではデザイナー時代の経験が活きたとしました。

中でも面白かったのが"メディアキット"の非常用バッグ。軍手やタオルなどを同梱したバッグをメディア向けに配布しました。これのウケが非常によく、名刺代わりになったとのこと。ただ個別にグッズをばらまくのではなく、かつ単なるパッケージングではないこの手法は、『トーキョージャングル』のコンセプトとマッチする絶妙のセンスです。

これであと100年は戦える。

また、パッケージデザインの部分についても言及。最初は「できるだけ賑やかに」と構図にまで指示があったにもかかわらず、こうした表現では本作の魅力が通じないと片岡氏は判断しました。そこで、締め切り1日前にポメラニアン以外全部消すという強硬手段に出ます。ここでも会場からは笑いの声。

やっちまったぜ……

縁石に乗り上げるくらいにインコーナーを攻めた片岡氏の判断は結果的に国内外で反響を呼びました。とくに国内と欧州で評価されたとのこと。他方、米国でなかなか受け入れられなかったことは既報の通り。水面下の戦いでは辛勝です。

片岡氏は鳥獣人物戯画を引き合いに、日本と海外の感性の違い、そしてそれに伴う価値の発生について言及した上で、「日本人が海外で好まれるような残虐表現を創るのは技術ではなく感性の問題で無理」「主観だが、日本のメーカーは必ずしも海外のマーケティングを考える必要性はない」とBitsummitに引き続き持論を展開。賛否の分かれるところですが、無闇に萎縮してはならない、くらいに解釈するのが妥当でしょうか。

ゲーム市場について、片岡氏は「異なる価値観を認める世界であって欲しい」述べて締めくくりました。重い言葉です。これは日本VS海外といった構図だけに留まらないでしょう。日本国内でも無意味な宗教戦争はそろそろ終結してほしいところです。

優劣の話ではない。

これから始まる予定の日本のインディーゲーム。ファーストパーティーに認められたクリスピーズをインディーと呼ぶべきかどうかについて、魂(や勢い、思想、気合など)の部分でインディー的であることには違いありません。次は少なくともブレーカーは落ちない開発環境で作業してもらいたいところです。

質疑応答で必然的に飛び出た質問、「メテオはこれから公開されるのか?」については、今のところなし。ただし、アイデアや練りこんだストーリー、システムには愛着があるのでいつかは創ってみたいとのこと。

また、客観的に見れば危険な綱渡りだったように見えなくもない『トーキョージャングル』がもし売れなかった場合には受託開発に回っていたか?については、「そういうシチュエーションを想像したことがなかった。自分が創りたいものを具現化することにこだわっているので、ゲームが評価されなかった場合は他のメディアにチャレンジしていただろう。」と片岡氏。さらりと答えていましたが、やはり恐るべき胆力です。
《Gokubuto.S》

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