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淡々と描かれる戦時下の日常―『This War of Mine』プレイレポ

連載・特集 ゲームレビュー

淡々と描かれる戦時下の日常―『This War of Mine』プレイレポ
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1992年春、サラエヴォにバリケードと検問所が設置されました。サラエヴォ包囲の始まりです。ベルリンの壁崩壊以降、東側諸国では共産圏からの離脱と民族主義が高まり、多民族を束ねてきたユーゴスラビアでは内戦が勃発。ユーゴスラビアから独立したボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエヴォでは独立推進勢力と反対勢力が衝突。セルビア人勢力とユーゴスラビア人民軍によって包囲され、NATOが介入する95年まで市民は戦時下の生活を強いらました。

これが本作『This War of Mine』の舞台です。開発の11 bit studiosは元CD Projektのスタッフが立ち上げたポーランドの会社ですが、本作の開発のために多くの証言を実際の被災者から収集。Windows//Mac/Linuxに向けとして11月14日にリリースされ、開発費を2日で回収するという成功を収めています。メタスコアも現時点で82点をマーク。

サラエヴォ包囲自体はこれまで多くの小説や映画の題材になってきました。しかしながら、ゲームを通して描かれる戦時下の生活はこれまでの作品とはまったく異なった体験を与えてくれます。今回は特にプレイヤーの選択という点に注目してプレイレポートをお届けしたいと思います。

カジュアルでいて重苦しい雰囲気



ゲームは2つのパートで構成されます。昼間はセーフハウスとなる廃屋で家具や道具を作ったり、飲料水を濾過したり、食事を用意したり、休んだり。結局のところ、戦時下でも必要なことは通常の家事なのです。その点、本作のメカニズムは『ザ・シムズ』のようなカジュアルなシミュレーションゲームとそれほど変わりません。違う点は食材や素材が極端に欠乏してくるという重苦しいムード。カジュアルなゲームプレイと深刻なテーマは他の作品にはないプレイフィールを与えます。

夜間は通りのスナイパーに狙わないため、外出が可能です。行き先は他の市民が住んでいる廃屋や病院、軍が支配するトーチカ、教会など様々。しかしながら、やることは同じです。食料や素材を集めることのみ。ただしゴミを漁って集めるのか、他人の備蓄から盗むのか、それとも住人を殺して強奪するのか、すべてプレイヤーに委ねられています。


アイコンをクリックすると資材から家具や道具を作れる。


昼間には来客も発生。援助や物資のトレードを求められる。

操作すべてマウスで行い、プレイヤーは一つ屋根の下で暮らす住人たちを操作します。画面を左クリックすると歩いて移動、右クリックすると走って移動。道具の使用やゴミ漁りなどはすべてアイコンをクリック。アイコン自体はわかりやすいのですぐに慣れますが、行動させるキャラクターを間違えやすいのはちょっと難点です。このような昼と夜を繰り返し、戦争終結まで誰か一人でも生き残るのがゲームの目的です。

生と死の選択



生き残るために必要なことはシンプルです。飢えない、病気にならない、ケガしない、絶望しない。要するに健康であることです。しかし、これが難しい。これらのパラメータは右下のキャラクターアイコンに表示されますが、TIRED、VERY HUNGRY、SADという大雑把な形でしか把握できません。当然のように食事を怠ると腹が減り、室温が低いと病気になり、強盗に襲われるとケガをして、悪いことがあれば鬱になります。これらを管理するために、プレイヤーは誰に食事や薬を与え、誰をベッドで休ませるか、絶えず選択に迫られるのです。


絶望している仲間には話しかけるという選択が可能。

特に一番、管理が難しいのは鬱です。困っている人を放置する、無抵抗の人から物を盗むといった条件により、このパラメータは悪化。さらに他の住人が死ぬと一気に加速して、連鎖的に鬱症状が発生します。完全に鬱になってしまったキャラクターは自分で食事を取ることもできず、ベッドで寝たきりの状態に。他のキャラクターの看護により一時的に回復することもありますが、放置すると失踪、ひどいときには自ら死を選びます。ゲームの状況としても最悪ですが、もちろんプレイヤーにとってのショックも大きいです。セーブデータが1つでパーマデスというシステムも手伝って、リアルに無力感に苛まれます。

善悪に対する選択



資材収集を行う夜間パートにおいてもプレイヤーに求められるのは選択です。物品を漁れるポイントはアイコンで示されますが、ゴミと他人の所有物が区別されているのが特徴。当然ながら他人の所有物の方が食料や医療品、武器など貴重な資材が含まれています。ただし、そこから物を奪い取ることは盗みです。奪った当人だけではなく、仲間の住人への精神的悪影響が発生します。ここでもプレイヤーは選択を迫られます。


収集する場所によって得られる物や危険度が異なる。

さらに収集場所は常に無人ではありません。武装した住人たちが見張っていることもあります。見つかると強盗として即座に発砲される場合もあれば、資材のトレードを持ちかけられることもあります。このあたりの判断は吹き出しで示される英語を読んで判断する必要があります。またプレイヤーの行動によってAIの挙動は細かく変化します。怪しいと思われると追跡され、盗みを働こうとすると銃を構えられます。ただ多少、怪しくともすぐには襲われないのが非常にリアル。戦時下の人間同士の「敵か味方か」という緊迫感が伝わります。

単純なゲームプレイがもたらす戦時下のリアル



操作やルール自体はわかりやすいため、初日から10日目までは簡単に超えられるでしょう。20日目までは揃えるべき家具や道具を見極められると安定します。しかしながら、突然の気温の低下などで病人が出るため、油断は禁物です。30日目くらいからは都市全体の資材が欠乏するため、難易度が上がっていきます。無理な行動はつつしみ、食料や医療品をケチりつつ、静かに家に閉じこもるのも選択肢のひとつです。むしろ健康な住人が誰も居なくなり、寝たきりの生活になることも稀ではありません。



実際に私がクリアしたときは生き残った住人は1名。ケガと鬱に苛まれ、ベッドで寝たきり生活のところ、突如としての戦争終結です。戦争を終わらせるためにプレイヤーが主体的にできることは何もないため、達成感というよりもそこはかとない徒労感を感じました。これまでの軌跡が表示されるエンディングもやるせなさに追い打ちをかけます。

正直に言えば、本作のゲームプレイは面白いとは言い切れません。結局は家事をして、物資を漁るだけの単純な繰り返しなのです。夜間パートはステルスゲーム的な側面もないとは言いません。しかし結局のところ、プレイヤーの介入できる要素は誰を救い、誰から奪うかという単純な選択のみ。さらにこれらの選択に対するフィードバックも非常にあっさりしたものです。


本作では戦争被害児童のチャリティも行っている。

しかしながら、この淡々とした日常の中で少しずつ朽ちていくのは本当に生々しい体験だと思いました。そして、単純な作業によって物語を描くというのは、映画や小説には向いていません。つまり『This War of Mine』が描く戦時下の日常はまさにビデオゲームによって達成されたリアリティであり、この一点だけでも本作は十分にプレイする価値があります。モノトーンで統一されたグラフィックスも美しく、穏やかなBGMも涙を誘います。決して楽しいとは言いがたいゲームプレイ。それでも価値ある経験を与えてくれます。
《Shin Imai》

評価の高いコメント

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