
本題に入る前に一つお断りを。『アサシン クリード』シリーズにおける建造物の特性として、一つ一つのパーツは凄くマニアックなところからサンプリングしているものの、その繋げ方が非常に荒っぽいというのが常で御座います(一応アニムスのVR生成の仕組みという建前)。よって、全体の整合性から言えば滅茶苦茶にも程があるのですが、それに目をつぶって個々のパーツを観ていくと専門家も唸る超レアなヴィジュアライズ、というのが『アサクリ』の歴史公証のからくりなのでした。
これまでのシリーズと同様に『アサシン クリード シャドウズ』もいつもと変わらないリアリティですので、時代が合わないとか構造に無理があるとかの野暮は言わない約束で一つお頼み申します。

改めまして、特に解説は無いけれど見る人が観れば分かる文物を探るのも『アサクリ』の楽しみの一つ。『シャドウズ』では忍び入るステージとして城郭がしっかりと作られており、築城時代のずれはあれど近畿地方の主要な城が多数登場して、「城攻め」に励んでいるプレーヤーも少なくないでしょう。
今回観察するのは播磨国(現兵庫県)にある姫路城。世界遺産にも登録されている日本の主要な城郭の一つです。最初の築城は南北朝時代の1346年ですが、戦国時代に中国攻めで入城した羽柴秀吉、そして関ヶ原後の池田輝政による改築を経て現存の姿になりました。白壁の美しい天守の見事さはもちろん、防備の面でも様々な仕掛けを施した、文武両道を達成した城郭建築の最高傑作と言えるでしょう。

狭間
姫路城の特徴というと、壁に開けられたマークのような穴の数々。一見して面白い模様のようにも思えますが、これは全て鉄砲と弓が外を狙うための「狭間」です。この裏に兵が控えていて、ここに銃口を差して迫り来る雑兵に撃ちかけます。先ずこの弾幕を突破しなければ門の入り口に辿り着くことさえ敵いません。


石垣
石垣の鑑賞は反り、角、積み方に注目してみましょう。石垣は高くなって行くにつれて角度が急になるタイプと、直線上の二種類あり、前者を「扇の勾配」「武者返し」とも表現します。角の部分を観ると、長短が交互になっていることが分かりますね。これは長方形の石材を向きを変えて積む「算木積」。石を上手く噛ませることで負荷がかかる角の部分を支える役割があります。そして全体の積み方は石の大きさが揃っていない「乱積」。他にも石の大きさを揃えた「布積」などがあります。

天守
姫路城は現存する天守の中でも最も大きく、五重六階、つまり五層の屋根に加えて四層目に二階分収まっているために、見かけよりも一階分多い構造になっています。多くの天守がこうしたずれのある構造を取っており、突入した敵を惑わす効果があるとされています。

鯱
鯱は名古屋城だけでなく、火除けの水神としてこの時代のほとんどの城郭に設置されていました。織田信長が安土城につけたのが始まりで、その影響を受けた大名達がこぞって真似をしたそうです。中国地方の民家では今でも屋根の上にスプリンクラー的な意味合いでたくさん乗せています。

石落
天守によじ登るときにはちょっと邪魔な出っ張りは、下に向かって石や熱湯などを投げ落とす「石落」。梯子や気合いでよじ登ろうとする敵を防ぐ役割があります。


菱の門、三国濠
二ノ丸入り口の菱の門をくぐると、直ぐ目の前に四角い貯水池のような堀が現れます。姫路城は街道から来る大軍勢に持ちこたえることを想定しているため、長期戦に備えた水源になります。ですが元々は秀吉築城時の本丸を囲む堀だったものを、池田輝政が回収したときにほとんど埋めてしまい、ここだけ水が残されました。


行き止まりの罠
菱の門から右に道が続いているので、攻め入った敵がそのまま突っ込んでいくと…なんと行き止まり!振り返って戻ろうとするも後続が押し寄せ、立て直している間に上から鉄砲の弾が降り注ぎます。次の曲輪に続く道はちょっと左側に隠されている小さな門。勢いのまま進むだけでは命がいくらあっても本丸には辿り着けないでしょう。

腹切り丸
姫路城の東側にある行き止まりの区画。もちろん切腹をするためでは無く、あらかじめここに兵を配置しておいて、本丸へ突撃する敵を背後から挟み撃ちにするための仕掛けです。


お菊井戸
お菊に井戸と聞いて、それが何故こんなところに?と思う人もいるでしょうが、江戸の「番町皿屋敷」の元になったと言われているのが、ここ播磨に伝わる女中の伝説です。戦国期に書かれた「竹叟夜話」によると、割ったのは杯、名前も死に方も異なりますが、それが後に改変されて「播州皿屋敷」のお菊になりました。夜に忍び込むと皿を数える声が聞こえてくる……かも?

西の丸
ゲーム中では造営中の見た目ですが、大坂の陣を機に入城した本田忠刻が、家康の孫娘である千姫のために造営した場所です。千姫は豊臣秀頼の正妻でもあったためこの時代の誰もが知る超VIP。輿入れの化粧料を使って造られたので、「化粧櫓」と呼ばれる区画もあります。

データベースの解説では概要にとどまっていますが、ステージを観察すると完璧ではないものの要所はしっかり押さえたデフォルメで建築されているのが分かります(俯瞰図提供の香川元太郎氏は昨年末に逝去されました)。アニムスの世界には説明もされないようなたくさんの歴史ネタが詰め込まれているので、変わった者を見つけたらぜひ誰かに尋ねてみましょう。意外な発見があるかも知れませんよ。
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