
2001年といえば、記念すべき21世紀の幕開けの余熱が未だ冷めやらぬ、奇妙な興奮と高揚感に包まれている時代だったような気がします。当時の世相を振り返ると、USJの開園や愛子さまのご誕生など明るい話題がある一方で、池田小学校事件や失業率の増大など、社会不安も大きくありました。そして忘れてはならないのが、9月11日のアメリカでの同時多発テロ事件。当時高校生だった筆者は、部屋でGOING STEADYを流しながら、「世界の終わりのような」生々しい現場のテレビ中継をボーっと眺めていたことを思い出します。
さて、2001年はゲーム業界においても様々なトピックがありました。とくに、セガ率いるドリームキャストの販売終了とゲーム事業からの撤退、一方で爆発的人気のPlayStation 2、任天堂の次世代機ニンテンドー ゲームキューブの発売など、「家庭用ゲーム機戦争」は注目すべきものでした。『ファイナルファンタジーX』『鬼武者』『METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY』『サイレントヒル2』といった、現在でも語り継がれる名作が誕生した年でもあります。全部ハマってたなぁ……。
本稿でご紹介するのは、そんなゲーム界隈が盛り上がっていた時代に発売された『the FEAR(ザ・フィアー)』というホラーゲームです。本作は、現スクウェア・エニックスの執行役員を務める齊藤陽介氏がプロデュースした「シネマアクティブ」シリーズの第3弾で、PS2向けに2001年7月26日リリース。なお、本稿はネタバレ要素を含んでいますので、閲覧にはご注意ください。

「シネマアクティブ」シリーズは、1998年に第1弾『ユーラシアエクスプレス殺人事件』、次いで2000年に『ØSTORY(ラブストーリー)』が発表されました。最大の特徴は、「全編実写映像」を用いた没入感あるビジュアルと、会話システムなどプレイヤーの選択次第で変化するマルチエンディング形式を採用していること。また、実在する俳優やアイドルの起用も特筆すべき点で、さながら劇場映画を見ているような感覚になります。

そして本作は、実写映像とアイドル、B級ホラーを織り交ぜた実写ホラーアドベンチャーゲームとなっています。豪華な出演陣とディスク4枚組という大ボリュームであるものの、決して傑作であるとは言い難いですが、本稿ではその不思議な魅力に迫っていきたいと思います。

実在の俳優やアイドルが多数出演する“B級ホラー”の魅力

まず、先述したように本作の魅力のひとつは、3Dモデリングされたキャラクターではなく、実在する俳優を多数起用していることです。


たとえば、TVクルーのプロデューサー役を演じるのは、「101回目のプロポーズ」「静かなるドン」で著名な俳優界の重鎮的存在である長谷川初範さん。「ショパン」の愛称でも親しまれています。また、ディレクター役には1983年公開の伝説的映画「家族ゲーム」で松田優作演じる主人公・吉本勝が家庭教師として指導した沼田茂之役の宮川一朗太さんが演じています。当時は「演技上手いけど知らんオジサンやな~」と失礼なことを思っていましたが、今考えるとこの脇を固める豪華な顔ぶれが、物語の没入感を一層高めていたんですね。

そして、目玉となるのは「メインヒロイン」の存在です。本作は合計5人のヒロインが登場しますが、全員が役名と同じく実名での出演となっており、当時デビュー間もなかったり売り出し中のアイドルだったのが新鮮でした。
そのヒロインたちの中で最も知名度があるのは、女優やタレント、Youtuberとしても活躍中の加藤夏希さんでしょうか。本作においては、どこか陰のあるミステリアスな女子高生役を演じていましたが、今見ても惚れ惚れするような妖艶な美しさ。しかも加藤さんは、私生活ではかなりのゲーマーであることも有名ですよね。


他にも、元ファッションモデルで女優であった野村恵里さんは、明るく活発なトライリンガル少女を、グラビアアイドルとして活動していた金田美香さんは、向上心が高い努力家を演じています。


さらに、“日テレジェニック2000”にも選ばれた元グラビアアイドルの上原まゆみさんは、作中ではカメラ好きな個性的な役を演じ、歌手や声優としても活動する福井裕佳梨さんは、フラッシュバックという特殊能力で主人公に重要なアドバイスをしてくれる不思議な霊感少女役を熱演するなど、登場ヒロインの性格や役割もさまざまでバラエティに富んでいます。しかし、やはりアイドルなだけあって全員可愛いですね……!筆者はとくに、加藤夏希さんと上原まゆみさんがお気に入りでした。

本作の舞台は、関東地方の某県にある洋館。洋館は日露戦争前にロシアの公館として建てられ、過去に殺人事件が起こったという噂があります。それを嗅ぎつけたTVクルーたちとアイドルたちがホラー系バラエティ番組の撮影のため訪れましたが、何者かによって館に閉じ込められてしまい脱出を図る……というのがあらすじです。

曰く付きの恐ろしい洋館、閉鎖空間で次々と起きる惨劇、次第に追い詰められていく主人公とアイドルたち……本作の要点を箇条書きにすると、まるっきり「B級ホラー映画」のような印象です。
低予算、小規模、短期間が特徴のB級ホラーは、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「SAW」など、中身はクオリティが非常に高く実際に大ヒットした例外はありますが、大半はチープで退屈なイメージがあります。

けれども、本作においてはその「B級ホラー感」が逆にとても素晴らしいのです。というのも、元々アイドルとB級ホラーの相性は抜群であり、化け物に襲われたり怪異に怯えたりする中で、そのアイドルが持つ可憐さが引き出され際立つ効果があるため、昔から新人アイドルが主演を張ったホラー映画は数多く存在します。

また別の視点で見れば、そんな可憐なアイドルたちと閉鎖空間でワーキャーするのは、とくに男性プレイヤーの心を鷲掴みにするのではないでしょうか。もちろん男性俳優も多数登場しますが、男性陣はあれよあれよという間に犠牲者として退場していき、最後は主人公とアイドルだけ残されるという、いわばハーレム状態になります。

つまり本作は、いわゆるギャルゲーとしての側面もあるのが魅力的なのです。当時、純度100%のチェリーボーイだった筆者と愉快な仲間たちは、それぞれの“推しの子”について熱く語りながら夜な夜なプレイを楽しんだのでした。
当時は斬新だった「全編実写×一人称視点探索」

次はゲームプレイについてご紹介します。本作の主人公はTVクルーに所属する「カメラマン」で、名前や素顔が明かされることはありませんが、どんな状況においてもカメラを手離さず撮影するツワモノでもあります。


そういう設定であるため、三人称視点が主流だった当時のホラーゲームでは珍しく「一人称視点」で探索することになります。カメラ越しの視界で洋館内を進んでいくのは、実写映像も相まって非常に没入感があり画期的でした。ともすれば、現在では当たり前の“一人称視点ホラーゲーム”の先駆けであったかもしれませんね。

探索は周囲をグルっと見渡しながら、気になるところをカメラでズームして調査する「ポイント&クリック」に近いシステムです。そして、キーアイテムを見つけて鍵のかかった部屋を開けたり、謎解きをクリアしたりして物語を進めていく王道のホラーゲームといえます。

この手のゲームにしては、館内マップがきちんと確認できたり、インベントリメニューが実装されていたり、これまでの話の概要や登場人物紹介まで閲覧できたりと、意外なほど細かな部分まで作り込まれています。当時はまったく気にしてませんでしたが……。

さらに、ゲームプレイにおける重要な要素は「会話システム」です。探索中、女の子たちに話しかけることが可能で、別の人物に関する情報や謎解きのヒントを引き出したり、お願いを頼まれたりすることも。その際に、プレイヤーは「YES or NO」のどちらかを制限時間内に選択して会話を進めます。『ユーラシアエクスプレス殺人事件』では、複数の会話選択肢が存在していましたが、本作では2択というシンプルな設計となっています。
とはいえ、前述したようにギャルゲー的側面でもあるこの会話シーンは、アイドルたちがズームされた画になるので、本当にプレイヤー自身と対話している感覚になり、思春期真っ盛りの筆者をとても楽しませてくれました。選択によってマルチエンディングになるのもリプレイ性があって良き点です。

そして、やはり「全編実写」であることは特筆すべき点です。イベントムービーに加えて、探索パート、会話パートもそれぞれのパターンがキチンと撮り分けてあるこだわり具合が凄い。また、一人称視点で館の中を自由に歩き回ることが出来ることもあり、実写ならではのリアル感と迫力を感じます。ただし操作感はそこまで良くなく、移動時のもたつく感覚がちょっと野暮ったい感覚でしたね。


また、シーンを撮り分けているため、どうしても探索パートと会話パートのつながりが不自然になりがちです。たとえば、会話中あれだけ笑顔ではしゃいでいた松村ディレクター(宮川一朗太)が、会話パートが終わった瞬間にしかめっ面で佇む探索パートの画に切り替わります。……と欠点ともいえそうですが、筆者としてはそのシュールな感じも面白くて好きでした。

何より、全編実写映像の中を一人称視点で探索する感覚は、当時のホラーゲームの中でもひときわ異彩を放っており、20年以上の時を経て改めてプレイしてみてもその斬新さは強く感じられました。


ちなみに、基本的に本作は探索重視のゲームであるものの、一部に戦闘シーンが存在します。とある理由で、次々と醜悪なモンスターに変貌してしまった女の子たちを、元の姿に戻すために戦うのですが、なぜかシステムはまんま『ハウス・オブ・ザ・デッド』っぽいガンシューティングです。あまり緊張感もなく、爽快感も何もないですが、まあオマケ的な要素なんでしょうね……。
愛すべき個性豊かな登場キャラクターたち

実写映像に加えて、多くの実在する俳優を起用していることもあり、本作品は登場キャラクターに大きく焦点を当てており、その個性的な面々が非常に魅力的です。
アイドルたちに目が行きがちですが、他にも愛すべきユニークな人物がたくさん登場します。たとえば、TVクルーの一員である「樋口日出男」は、美術の担当でオネエっぽい口調が特徴。コミカルな言動も多く、険悪な雰囲気になってくる一同を和ませてくれる清涼剤的な役回りで、強面だけど優しい樋口のキャラを素晴らしく演じていました。

そして、筆者が最もお気に入りのキャラクターなのが音声担当の「丹 一成(たんかずなり)」です。演じるのは、元モデル兼俳優の松岡俊介さんで、俳優の村上 淳さんと同じく90年代のファッションカルチャーを代表するカリスマのひとりでもあります。現在は、芸能界を引退し古民家で山暮らしをされているそうです。

そんな松岡さん演じる丹は、TVクルーの一員として今回のロケに参加するわけですが、ゲーム序盤~中盤ではルーズな雰囲気を持ちつつ、要所要所で主人公を助けてくれる役回りで、あまり目立たない存在です。しかし、次第に姿が見えなくこともしばしば増え、あやしい行動が目立ってきます。

ここからはネタバレになりますが、ぶっちゃけると今回の洋館での連続怪死事件の黒幕はこの丹なのです。終盤においては内に秘めていた彼の狂気が爆発し、数々の迷言を連発。これが筆者と仲間たちの心を大いに捉え、本作をプレイするたびに丹さんのモノマネ大会が始まるほどの愛されキャラとして定着していました。

筆者らがとくに好きな場面は、たとえば主人公に殺人のトリックを聞かれた際に、「このリモコンでタイミング良く低周波を起こせば、簡単に暗示にかかるんですよ」とわざわざ身振り手振りで詳しく説明してくれるシーンだったり、一通りネタを明かして去るシーンでは、「楽しんでくださいね……仕込み大変だったんですからー!」と、別に言わなくても良いことを口走ったり、周りをキョロキョロ見ながら「サヨ~ナラ~」と緊張感のないセリフで退場したりするシーンなどなど……。その演技力や独特の「間」のせいか、シリアスな場面なのに笑いを誘ってしまう珍キャラでした。

最後のセリフ「イッツ・ショータイム!」も非常に味わい深く、一時期筆者の口ぐせでした。とにかく、丹さんをはじめとした愛すべきキャラクターたちのおかげで、本作は筆者にとって今でも忘れられない特別な作品となっています。
さて、いかがだったでしょうか?本作は、正直なところホラー要素はあまり怖くなく、シナリオの展開も安っぽく意外性のない「B級ホラー映画感」が強い作品ですが、探索パートは謎解きを含めてやりごたえは十分ですし、全編実写映像のリアルな没入感も素晴らしいものです。プレイボリュームもディスク4枚組の大容量で、しっかりと遊べるところも魅力的でした。
何より、実在のアイドルたちとのやり取りはめちゃくちゃ楽しいので、この作品を知らない方も既プレイ済の方も、ぜひこの機会にプレイして欲しいと思います。現役で稼動する実機のPS2とソフトを入手するハードルは大変高いと思いますが……。
















