古いガイドブックから見る1980年代の台湾と『還願』作り込まれたゲームだからこそ、生活模様や民間伝承、オブジェクトなどの発見ができる【特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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古いガイドブックから見る1980年代の台湾と『還願』作り込まれたゲームだからこそ、生活模様や民間伝承、オブジェクトなどの発見ができる【特集】

1980年出版のガイドブックから、1980年代の台湾を舞台とした『還願』を見てみよう。

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古いガイドブックから見る1980年代の台湾と『還願』作り込まれたゲームだからこそ、生活模様や民間伝承、オブジェクトなどの発見ができる【特集】
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古いガイドブックには素晴らしい魅力があります。土地の情報はもちろん、残されている当時の文化や世相などの解説が書かれているものもあり、とりわけ海外旅行に関するガイドブックなどは、観光向けに最低限必要なことが書かれているものも多く、読んでいるだけでも興味深いものばかりです。

筆者は最近1980年に発行された台湾のガイドブックを入手しました。明治時代から続く出版社・実業之日本社から出ている定番シリーズ「ブルーガイド」のひとつで、今も人気の観光地である台湾への旅行手続きや過ごし方、有名な観光名所などが書かれている、とても読み応えのある一冊です。

「ブルーガイド海外版23 台湾」より。

ところで1980年代の台湾といえば、Red Candle gamesがリリースしたPC向けアドベンチャー『還願(Devotion)』を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。同作はストーリー重視のホラーゲームで、プレイヤーは当時の文化や宗教が根付くマンションを舞台に、とある家族の日常風景と“消し去れない記憶”を体感していく作品です。

本稿ではガイドブックを通じて『還願』の中に見る文化の様子などを紹介していきます。

一時販売停止にもなった『還願』

まずは『還願』のゲームプレイについて紹介していきます。本作は1980年代の台湾、新進気鋭の脚本家である主人公フォンウと、台湾芸能界の元大スターリホウ、そして二人の間に生まれた愛娘メイシンが生活していたマンションの部屋を中心に物語が進行していきます。

物語は1987年、フォンウが食事を待ちながらテレビを見ているシーンから始まります。妻リホウとメイシンに関する話題を話しつつ、なぜか周りにメイシンの姿が見えないところから世界が突然真っ暗に。ここからプレイヤーは真相を見つけるため、同じ部屋の異なる時代を探索していくことになります。

ゲームとしては一人称視点でマップ内を探索し、情報やアイテムを集めて謎解きしながらストーリーを進めていく形式。サイコホラーとしての要素が強く、探索中やオブジェクトに干渉したタイミングでさまざまな演出が入ります。ホラーとしてはジャンプスケア的な要素が多いため、苦手な人は注意したほうがいいかもしれません。

台湾でも有名人夫婦の子供であるメイシンは、母譲りなのか高い歌唱力を持ち、テレビでの歌謡ショーの挑戦枠に出演するほど。一方で家庭環境は決して円満とはいえず、ゲーム内では1980年、1985年、1986年の部屋の中で、日常生活の歪みや諍い、そして辛い状況から救いを求めるフォンウが、宗教に傾倒していく様子などを見ていくことになります。

そんな『還願』は2019年2月にSteamでリリースされたものの、現在は販売停止状態になっています。理由としてはゲーム内に中国への政治的批判を含むコンテンツがあったことで、Steamでも発覚直後から多くの中国人ユーザーから批判を受け、その後国外パブリッシャー解除および国内パブリッシャーがライセンス停止になるなどのトラブルに発展しました。

Red Candle gamesは2020年にGOG.comでの再販を目指したものの、多くのユーザーからの反対を受けたとして中止に。2021年3月から公式サイトにてDRMフリー版が購入できるようになり、現在は多くのユーザーがプレイできる状態になっています。



ガイドブックから台湾を読む

さて、今回入手したブルーガイドには、当時の台湾に関するさまざまな情報が記載されています。文化として台湾では結婚しても夫婦同姓にならない人が多いと書かれていますが、『還願』でも主人公夫妻が別姓であることがわかります(フォンウは杜豐于、リホウは鞏莉芳)。

台湾国内での過ごし方として、ラジオやテレビなどについての情報もあり、テレビでは歌謡ショーが多く放送されて言葉がわからなくても楽しめるだろう、と書かれています。歌謡ショーは作中でも「七彩星舞台」という番組にメイシンが出場していて、家族のとても大切な思い出として、ゲーム中の様々な場面で見かけることになる番組です。

さらに、台湾におけるレジャーのひとつとして「登山」も紹介されています。許可制ではあるものの、一部の山は外国人旅行者も登山できたとか。作中では一家で阿里山に行く予定があったものの中止になったエピソードがありますが、この阿里山も台湾に実在している山で、ガイドブックの地図にも描かれています。

「ブルーガイド海外版23 台湾」より。

他にもタバコや酒なども登場します。中国および台湾では、娘が生まれた際に紹興酒を仕込んで嫁ぐ際に振る舞う「女兒紅」という古い風習が残っています。作中でもそれをモチーフにしたような瓶入りの紹興酒に、とあるものを入れるシーンが登場します。

また、ゲームに登場するタバコ「白龍」と同じ銘柄のものはなく、似た名前ではガイドブックには「金竜」と呼ばれる銘柄が書かれています。なお、パッケージ的に類似したものは世界のタバココレクションサイトでも確認しましたが似たものはなく、台湾の銘柄であれば「Long Life」の1985年版が円に囲まれた名前という点で似ているかな、と思います。

抓周と呼ばれる儀式。

複雑な歴史や宗教

『還願』で主人公のフォンウは、さまざまな悪い状況に陥ったメイシンのために手を尽くし、やがて宗教に傾倒する様子が描かれます。この宗教はカルト宗教であり、その内容や傾倒した主人公の行末についてはゲームを実際にプレイして確認してほしいのですが、かなり重要なトピックとして描かれています。

ゲーム内でフォンウはとある儀式を行うのですが、これは赤い布で目隠しする点やその目的などから、「観落陰」と呼ばれる秘儀に近しいものであることが指摘されています。また、ゲームの舞台である1980年代の台湾は精神疾患に関する法律が無く、1990年代にようやく精神衛生法が成立した、という時代背景もあるようです。

こういった部分はガイドブックには書かれておらず、宗教に関しては「仏教が中心で、回教やキリスト教も多いが、儒教や道教、民間信仰などが複雑に絡んでいる」と書かれています。ゲーム内でフォンウが信仰する「慈孤観音」については、民間信仰の女神「紫姑」が近いものではないか、という考察も多いようです。

ゲームはとても細かく翻訳されており、日本語でプレイしてもその雰囲気や会話などをしっかり理解できます。ただし、やはりどうしても『還願』に出てくる民間伝承や地域の教え、宗教などに関してはわからない部分も多いでしょう。興味を持ったら調べてみるのも面白いですよ!

台湾麻雀なので16枚。

一時的に販売停止になった『還願』ですが、サイコホラー作品として非常に面白く、また、評価も高い作品です。謎解きも決して難しくないのでストーリーを楽しみやすくなっています。内容自体はかなり暗く辛い話も多いので、万人にオススメできるとは言い難いですが……。

ガイドブックは読み物としても面白いものです。もちろんリアルタイムのデータとの誤差や、現地での細かな間違いなどもあると思います。実際に旅行に出かける際にはガイドブックだけでなく、外務省サイトや旅行社サイト、現地に関する最新情報などを調べるのが重要でしょう。

筆者は少し古めの海外旅行ガイドブックをまだいくつも所有しています。『還願』はほとんどマンション内で展開する物語でしたが、次回はもっと広いマップを再現したようなゲームで、ガイドブック片手に旅をしてみたいですね!

こういう当時のデータも楽しいですね!

参考文献:「ブルーガイド海外版23 台湾」実業之日本社 1980年3月20日 新装第2版第1刷発行


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ライター:Mr.Katoh,編集:TAKAJO


ライター/酒と雑学をこよなく愛するゲーマー Mr.Katoh

サイドクエストに手を染めて本編がなかなか進まない系。ゲーマー幼少時から親の蔵書の影響でオカルト・都市伝説系に強い興味を持つほか、大学で民俗学を学ぶ。ライター活動以前にはリカーショップ店長経験があり、酒にも詳しい。好きなゲームジャンルはサバイバル、経営シミュレーション、育成シミュレーション、野球ゲームなど。日々のニュース記事だけでなく、ゲームのレビューや趣味や経歴を活かした特集記事なども掲載中。

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編集/いつも腹ペコです TAKAJO

Game*Spark編集部員。『Crusader Kings III』と『Mount & Blade II: Bannerlord』に生活リズムを狂わされ続けています。好きな映画は「ダイ・ハード」、好きなアメコミヒーローは「ナイトウィング」です。

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