広大な宇宙を舞台にしたSF4Xストラテジー『Stellaris(ステラリス)』。2016年のリリースから9年目となる本作ですが、2025年9月22日には超能力にフォーカスした新DLC「Shadows of the Shroud」が発売され、その人気はいまだ衰えを見せません。
今回「東京ゲームショウ2025」の開催を機に、『Stellaris』でコンテンツデザインリードを担当するチャド・イングリス(Chad Inglis)氏に話を訊くことができました。かつては日本で英語教師をしていたこともあるというイングリス氏。インタビューでは日本語が飛び出す場面もありました。

フィードバックへの迅速な対応は膨大な開発計画との同時進行
――「東京ゲームショウ2025」に先立ちリリースされたDLC「Shadows of the Shroud」ですが、プレイヤーからはこれまでにどのような反応がありましたか。
チャド・イングリス氏(以下、敬称略)コミュニティからは本当にたくさんのフィードバックをいただきました。『Stellaris』のコミュニティは非常に情熱的で、とても声が大きいのです。彼らは何が好きで何が嫌いか、何を変更して欲しいのかをはっきりと伝えてくれます。
私たちはフィードバックに対して出来る限り迅速に対応するよう最善を尽くしています。今週だけで少なくとも1回、いや、もう2回はパッチをリリースしました。ストックホルムにいる私のチームは本当によく働いてくれています。私も「東京ゲームショウ2025」の会場からSlackをチェックして、出来る限り手伝うよう努めています。コミュニティからのフィードバックはゲームをより良くするためのもので、私たちにとって非常に重要です。

――本DLCは外部スタジオAbrakamとの協力の下に開発されましたが、開発を外部委託することでどのようなメリットがありましたか。
チャド素晴らしい質問ですね。Abrakamと一緒にリリースするDLCはこれで3作目になります。最初のDLCは「Astral Planes」、2作目は「Grand Archive」でした。そして、今回の「Shadows of the Shroud」はAbrakamにとって最も大規模で最も野心的な作品となります。本作には彼らも私たちも非常に誇りを持っています。
今回の外部委託の良かった点としては、緊密な協力関係が挙げられます。私は毎週Abrakamの開発者たちとバーチャルミーティングを行っており、弊社とAbrakamのデザインチームはとても緊密に連携して作業を進めています。共同でワークショップを開き、進行中の作業を確認し、相互にフィードバックを交換しているのです。彼らはチームの一員であると感じてくれています。
――それでは逆に、外部委託のデメリットはありましたか。
チャド弊社ではオフィスで物理的に一緒に働くことが非常に重要だと考えています。特に、デザイン作業においてはそうです。デザイナー同士が一緒にいれば、誰かがアイデアを出した時に迅速かつ直接的なフィードバックが可能だからです。
リモートのスタジオと仕事をする場合はそれほど直接的なフィードバックはできません。コミュニケーションには細心の注意を払う必要がありますし、ドキュメントの作成も非常に慎重でなければなりません。間接的にフィードバックできるように、しっかりとしたデザインドキュメントを用意する必要があるからです。
これが2つのスタジオが物理的に離れている場合のデメリットです。しかし、Abrakamのドキュメントは非常に優れていますし、だからこそ私たちは良好な信頼関係を築けています。

――現在のExpansion Pass「Season 09」では、今年10月~12月に「Infernals Species Pack」のリリースが予定されています。それ以降の『Stellaris』にはどのような展開が予定されていますか。
チャドあまり直接的なことは言えませんが、これだけはお答えできます。ストックホルムのチームは今週も「Shadows of the Shroud」のパッチ作業に懸命に取り組んでいますが、「Season 10」の作業も滞ってはいません。
私たちには2026年に向けての大きな計画があります。ファンの皆さんは次に何が来るのか、きっと非常にワクワクしてくださると思います。Expansion Passというモデルは非常に成功しているので、おそらく来年「Season 10」が登場する可能性は高いと言っても問題ないでしょう。
私たちは並行して多くの開発を進めており、『Stellaris』の開発チームは非常に多忙です。外部スタジオとも協力しているので、彼らの作業を監督してフィードバックを提供しなければなりません。 同時に、次のシーズンや次の大型拡張に向けての大きな計画も抱えています。さらに、それと並行してパッチ作業も行っています。本当に多くのことが同時に進行しているのです。しかし、私のチームは信じられないほど経験豊富で情熱的で、それが私たちの活力源になっています。

ParadoxはなぜコミュニティとModを大切にしているのか?
――『Stellaris』のPC版は2022年、ユーザーコミュニティによる有志翻訳をもとに公式日本語対応が実現しました。このように、以前からParadoxはユーザーコミュニティとの協力関係を築くことに力を注いでいますが、ユーザーコミュニティの連携には他にどのような例がありますか。
チャド素晴らしい質問ですね。開発チームはParadoxフォーラムや『Stellaris』のSubredditで非常に活発に活動しています。今週も私のチームがコミュニティからのフィードバックに返信しているのをご覧いただけるはずです。
ゲームディレクターのStephen Murayもコミュニティと非常に積極的に関わっています。私たちは常にフィードバックを求めていて、バグ報告の場合はこれが直接的なアクションにつながります。QAチームはすべての情報源をチェックしてバグ報告を吸い上げており、開発チームが優先順位に従ってそれに対応しています。
もう一つ例を挙げましょう。ご存知のように、私たちには非常に活発なModコミュニティがあります。Mod制作は弊社にとって非常に重要であり、私たちもModコミュニティを愛しています。弊社で新たにコンテンツデザイナーの求人を出すと、Modコミュニティからたくさんの応募があります。ゲームのファンとしてModを制作している人々が、最終的に弊社で働き始め、プロの現場がどういうものかを知るというのは非常に一般的なことなのです。
そのことが開発チームに大いに活気を与えてくれています。なぜなら、Mod制作者は非常に情熱的だからです。そして、彼らがやがてゲーム開発者の日常が想像していたものとは違うことに気づくのも、非常に興味深いことです。
――実は、私もModを制作しています。日本のModコミュニティからParadoxに入社することも可能なのでしょうか。
チャド(日本語で)ぜひ、英語を勉強してください!(一同笑)。

――実際にModを制作していると、Paradox作品が開発段階からModのサポートを前提に設計されていることがよく分かります。Modが作りやすく、使いやすい環境を提供しているのはなぜですか。
チャド非常に良い観察眼ですね。Modは弊社のDNAの一部です。私たちはファンのフィードバックを本当に大切にしていますし、ゲームのModを制作してくれるような熱心なファンは、生涯にわたるファンであることを知っています。彼らはゲームのライフサイクル全体を通じて、私たちと共にいてくれます。ですから、Mod制作者は非常に大切なのです。
スクリプトを書くのは難しいので、Modが「作りやすい」とは思っていませんが、可能な限り作れるようにはしています。なぜなら、私たちデザイナーはコミュニティの創造性を見るのが大好きだからです。彼らが何を望み、何を期待しているのかをフィードバックしてくれて、私たちがそれに応えられたときは本当に嬉しくなります。
――Modのサポートに消極的なメーカーは少なくありません。特に、日本においてはまだまだMod文化自体が根付いていないのが実情です。Modのサポートに消極的な理由は様々だと思いますが、Paradoxから見て、こうしたメーカーにはどんな事情があると思いますか。
チャド素晴らしい質問ですね。弊社のエコシステムでModがこれほど成功している理由は、ゲームがサンドボックスとして設計されているからだと思います。サンドボックスの遊び方は一つだけではありません。何十、何百もの遊び方があるのです。すべてのプレイヤーが思い描くファンタジーがゲームの中に存在すべきであり、私たちはそれを実現したいと考えています。ですから、弊社のタイトルがModをサポートしているのは自然なことだと感じています。
しかし、それはある程度はジャンルによるものだと思います。グランドストラテジーというジャンルはModと非常に相性が良いのでしょう。まったく違うタイプのゲーム、例えばJRPGや格闘ゲームでは事情は大きく異なるかもしれません。しかし、グランドストラテジーとModは完璧な組み合わせだと思います。

――日本語サポートの拡充や日本のユーザーコミュニティとの協力など、近年のParadoxは日本への積極的な進出を目指しているように見えます。日本に魅力を感じる理由を教えてください。
チャドローカライズは非常に重要です。なぜなら、『Stellaris』をプレイするとき、プレイヤーは「自分の選択が銀河を変えるのだ」と感じたいからです。もし、日本のプレイヤーが英語でプレイしなければならないとしたら、その選択が自分のものだとは感じられないですよね。これはすべての言語に当てはまることです。
日本のコミュニティにはSFに対する深い理解があると思います。また、日本のSF作品は私たちクリエイターにとって、特に私にとっては非常に刺激的です。私は昔から日本のSFが大好きでした。ですから、日本とは自然な相性の良さがあるように感じます。
――『Stellaris』は2016年にリリースされ、今年で9年目を迎えます。そろそろ新作の話題が出てもおかしくない時期ですが、楽しみに待っているファンに新作のヒントをいただけないでしょうか。
チャド良い質問ですが、それはあなただけの質問ではありません。多くの、本当に多くのコミュニティメンバーからこの質問をいただきます。
しかし、『Stellaris』の未来は「さらなる『Stellaris』」としか申し上げられません。私たちはまだやり終えていませんし、探求すべきファンタジーもまだまだたくさんあります。もっと魅力的にしたい、もっと深めたいシステムもたくさんあります。私たちは『Stellaris』の世界でファンが楽しめる機会を提供し続けたいのです。辛抱強くお待ちいただければ幸いです。
――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
DLC「Shadows of the Shroud」は、PC(Steam, Microsoft Store, GOG.com)向けに配信中です。










