Game*Sparkレビュー:『梅雨の日』【年末年始特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『梅雨の日』【年末年始特集】

決して何も起こらない、退屈な1日。だからこそ、この作品は美しい。

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Game*Sparkレビュー特別企画として、2020年にリリースされた作品でレビューできなかったタイトルを厳選してお届けします。ぜひ年始のゲームプレイの参考にしてください。

2020年8月20日にインディー開発者Inasa Fujio氏がPC(Steam/itch.io)向けにリリースした短編アドベンチャー『梅雨の日』。プレイヤーは夏休みにおばあちゃんの家に遊びに来た一家の子供となり、「遊園地に行くはずだったのが雨で中止になったので家で暇している」という何気ない1日を体験する作品です。

夏休みの田舎の体験というと、『ぼくのなつやすみ』シリーズを思い出す方も多いかもしれません。しかし本作はもっとミニマムな世界、あえて言うならば「何も起こらない作品」です。舞台になるのはどこにでもあるような一軒家。プレイヤーは家の敷地から出ることができず、退屈まぎれに家の中を探検するか小さい庭を歩き回るしかできません。しかし、そんな小さな世界観の本作には、溢れるほどの魅力が詰まっています。

本稿では『梅雨の日』のレビューをお届け。自分は決して体験していないのに、どこかしらノスタルジーを感じさせる、そんな不思議な作品です。

雨を恨む主人公。遊園地に行きたかった……。

ゲームは、夏休みを利用して一週間おばあちゃんの家に一家で遊びに来た主人公が、雨の音で目を覚ますシーンから始まります。一日中続く雨の影響で、今日の予定だった遊園地行きが中止となり残念がる主人公。このあと、雨で外にも出られないまま、おばあちゃんちで何もすることがない一日を過ごすことになります。

基本操作は移動とインタラクトが中心になります。ジャンプは一部の障害物や足場を登る際に使うのですが、しゃがみはかなりの確率でバグが発生するためあまり使わないのが無難です。インタラクトは気になるものを調べるほか、ドアの開閉、物を掴むなどの操作ができます。また、ゲーム内でカメラを手に入れれば撮影することも可能です。

さて、導入部のとおり本作は究極的には「何も起こらない」作品。ゲーム開始時には一日の長さを「20分/40分/60分」で設定可能で、現実の時間経過に合わせて食事などのイベントが始まりますが、それまでの間、主人公はおばあちゃんの家の中や庭を歩き、気になることを見て、時たまちょっとした妄想をするだけです。しかし、このおばあちゃんの家の冒険はプレイしてみると風景に懐かしさを感じ、なかなか楽しいのです。

家の中を満喫しよう!そこかしこが不思議と「懐かしい」?

おばあちゃんの家は2階建ての一軒家。窓を開けると他の家の壁が近くにあるような、そんなどこにでもあるようなちょっとした田舎の日本の住宅街です。おじいちゃんはすでに亡くなっており、部屋の大部分は物置として利用しています。

ふと、部屋を見ると扇風機が置いてあります。ボタンとタイマーダイヤル、強弱だけの非常にシンプルなもの。台所にはレトロなポットや中途半端にされた調味料、手作りの梅酒と思われる瓶などが並んでいます。台所にある食器棚を開けてみると、箸に混じってレンゲが3つ。おばあちゃんと、亡くなったおじいちゃん、そして一緒に家に住んでいると「ねえね」のものでしょうか。本作はこういったどこにでもあるような、そしてどこか懐かしいような小物にこだわっているのです。

洗面所では洗濯機がごうごうと音を立て、梅雨の日に外に出せない洗濯物が干されています。おばあちゃんの部屋にはおじいちゃんの写真と仏壇。仏壇を調べると「りん(お椀型の鐘)」を叩くことができます。ここで何度も叩けるのは非常に子供らしいな、とも思います。本当は何度も叩いているとおばあちゃんに怒られるとかのイベントが有るとちょっと嬉しかったですが。

子供の視点にこだわっているという点もとても好印象です。インタラクトを含め多くのオブジェクトは「見上げる」必要があります。食器棚の一番上の扉を開けるのにはしっかりと近づき、上を見てようやく開けられるくらいのサイズ感。子供が懸命に背伸びをしながらやっと開けられているのが想像できます。もちろん開けてもただ食器が入ってるだけなんですけどね。

筆者としては、家の階段を調べると「妙に険しく感じた」と出るのが好きなシーンです。確かに普段使わない階段ってなんとなく急に感じて怖いときがありました。

祖父母の家もこんな場所にたくさん箱を積んでたな……。

子供の想像力は無限大。「DAY DREAM」を探し出せ。

仏間を調べていると、タンスの上に日本人形があります。「なんでお年寄りの家には人形があるんだろう、怖いなあ」などと思いつつ、しげしげと見つめている主人公。そこでなんと、人形が話しかけてくるではないですか!これが本作の探索要素「DAY DREAM」です。

「DAY DREAM」とは「空想」のこと。つまり、この話しかけてくる人形というのは主人公の想像の世界のお話です。本作にはこういった起こり得ないことが6つ用意されており、それらを見つけ出すのもひとつの目的です。DAY DREAMを見つけ出すにはちょっとしたアイテム探し要素などもあります。

あくまで、暇で暇で仕方ない主人公が家の中の冒険で作り出したエッセンスにすぎないこの空想。しかし、一部のシーンは幻想的な表現と「渡邉紘STRINGS」の作り出す音楽によって非常に美しい風景として表現されます。子供の想像力はすごいなあと思うシーンですが、ゲーム的な表現が加わると更に美しくなります。

個人的にはとある部屋で出会える「お化け」に関する記述が秀逸だなと思いました。「お化け」は、元々おばあちゃんが昔から「悪いことをするとお化けに電話するよ」という主人公への躾の言葉で登場する存在。それを恐れていた主人公は、祖父母の家のとある部屋のドアを「この中にはお化けがいるから開けちゃいけない」と想像しているのです。ああ、子供の頃にこの場所には何かいるって想像したよなあと思わされました。

すべての出来事は結局空想でしかなく、出会ったお化けなんて実際には部屋にいませんし、日本人形との会話もゲーム中二度と発生しません。ちなみに、本作は冒頭を含め主人公が過去形で語るシーンがあり、本作のすべてのシーンそのものが子供の頃の「思い出」なのです。かつて「こういうこと考えたなぁ」と思うような主人公と、もっと言うならプレイヤー自身のノスタルジーを引き出してくれる不思議な魅力が本作にはあるのです。

弟の怖かった夢の話。
DAY DREAMではないものの、この後異変が。

総評

ここまで紹介してきた『梅雨の日』ですが、これはゲームと言うよりも一つの表現作品と呼ぶのがぴったりかも知れません。どれだけ長くても1時間程度で遊べますし、繰り返してほとんどの要素を見てもたいした時間はかかりません。

あくまでやり込むというよりも世界観に浸る楽しみ方の作品のため、決して万人向けの作品ではありませんが、家の中の小物、テレビや洗濯機の音など家の中はノスタルジーだらけ。おばあちゃんの家という設定の絶妙な「自分の家じゃない感」や、どうにも上手く時間を潰せない子供の感覚という表現は非常に秀逸です。DAY DREAM(空想)の楽しさ、そこに到る子供の退屈さの表現も非常に優れています。

本作はその点において、一定以上の年代の日本人の少なくない数がかつて持っていただろう「郷愁」の公約数的なシミュレーターであるとも言える一作です。

冒頭の選択肢で変わる夜の食事メニュー。

現在同デベロッパーはPC向けにオープンエリアアドベンチャー『Inaka Project』を開発中。郵便局員として田舎の村内をめぐり、人々と交流する作品です。

総評:★★

良い点

・決して体験しない「思い出」なのに懐かしい!
・美しく秀逸な在りし日の風景
・「子供」感にこだわった素晴らしいコメンタリー

悪い点

・決して長く遊べるゲームではない
・何も起こらない物語は人を選ぶ


《Mr.Katoh》

酒と雑学をこよなく愛するゲーマー Mr.Katoh

サイドクエストに手を染めて本編がなかなか進まない系。ゲーマー幼少時から親の蔵書の影響でオカルト・都市伝説系に強い興味を持つほか、大学で民俗学を学ぶ。ライター活動以前にはリカーショップ店長経験があり、酒にも詳しい。好きなゲームジャンルはサバイバル、経営シミュレーション、育成シミュレーション、野球ゲームなど。日々のニュース記事だけでなく、ゲームのレビューや趣味や経歴を活かした特集記事なども掲載中。

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