子どもたちの世代に残す“遺産”とは―崩壊した世界で生命の再生を目指すADV『After Us』開発者インタビュー【特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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子どもたちの世代に残す“遺産”とは―崩壊した世界で生命の再生を目指すADV『After Us』開発者インタビュー【特集】

すべての生命が失われた世界での再生の物語。そこに込めた思いとは。

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Private Divisionは、Piccolo Studioの手がけるアドベンチャーゲーム『After Us』をPC/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中です。

本作は、欲望と犠牲と希望をテーマにした心揺さぶる物語が描かれるアドベンチャーゲーム。人類がいなくなった後の世界で、主人公の精霊・ガイアが絶滅した動物たちの魂を救い出すために冒険を行います。幻想的で自然と滅びを感じさせる風景、命と再生の表現など、美麗なグラフィックと印象的な物語を体験できる作品です。

Game*Sparkでは、デベロッパーPiccolo Studioの開発スタッフへのインタビューを実施しました。作品に込められたメッセージやゲームへのこだわり、世界の楽しみ方など、さまざまな回答をいただきました!



インタビュー回答者について

◆Alexis Corominas (アレクシス・コロミナス)

共同ゲームディレクター、共同プロデューサー、共同クリエイティブディレクター。映画会社で経験を積んだ後に約20年間に渡りデジタル広告に携わり、2015年にはスペイン・バルセロナにゲームスタジオPiccolo Studioを共同設立。同社のビジョン策定とクリエイティブ部門を牽引しています。

極めて旺盛な好奇心の持ち主で、特にローマ帝国について話を始めると止まらない癖があるので要注意とのこと。


『After Us』開発スタジオインタビュー

◆開発スタッフについて

――まず、自己紹介と開発のPiccolo Studioについて説明をお願いします。

アレクシス氏こんにちは!私は『After Us』の共同ゲームディレクターのAlexis Corominas(アレクシス・コロミナス)です。

Piccolo Studioの創業者の3人は、23年前に広告業界で出会いました。私たちは何年もデジタル広告に携わって、その後自分たちで広告会社を作りました。しかし、ある時期から広告に魅力を感じなくなりました。広告はクリエイティブな制作ではなく、ビッグデータや戦術的なキャンペーンを行うものに移行していたのです。

広告を離れてビデオゲームをターゲットにすることは、私たちにとってナイーブで愚かな行動だったかもしれませんが、それは情熱から行ったことでした。

ゲーム業界は、広告業界よりもはるかにクリエイティブです。ビデオゲームはストーリーを伝えられる強力な方法であり、私たちがゲームで体験することで、感情に“より大きな影響”を与えられると思っています。そこで私たちは2015年末にピッコロスタジオを作ることを決め、2017年に最初のゲーム(『Arise: A Simple Story』)に取り掛かりました。

――共同ゲームディレクターのアレクシス氏の経歴には「ローマ帝国についてとても情熱的で、一度話を始めると止まらなくなる」と書かれていますね。ローマ帝国のどのような部分に特に興味があるのでしょうか?また、ローマ帝国がでてくるような歴史ストラテジーゲームをよくプレイされるのでしょうか?

アレクシス氏ローマ帝国は約1000年もの間、何らかの形で存続し、特に西洋文化において、その後のあらゆるものに影響を与えた、非常に重要な存在です。日常生活から歴史上の大きな出来事まで、どんな側面にも興味があり、学ぶべきことがたくさんあります。

私は歴史全般が好きですし、ゲームも好きなので、過去には歴史ストラテジーゲームをたくさんプレイしました。歴史のゲームだと、初めてゲームをしたのは1983年のテキストベースのアドベンチャーでしたね。その後あらゆる種類のゲームに挑戦して楽しんできました。

――その「ローマ帝国」への関心は、ゲーム制作にどのような影響を与えたのでしょうか?

アレクシス氏 クリエイティビティというのは、今まで見たことのあるものを新しい別の順序で並べることなので、何に影響されたのかというのは、はっきりわかりません。おそらくですが、私たちの人生はそれぞれ、毎秒ごとに自分自身の何かに影響を与えているのだとと思います。

◆『After Us』について

――『After Us』の開発経緯や作品コンセプトについて教えてください。

アレクシス氏 私たちの最初のゲーム『Arise: A Simple Story』は、老人が過去を振り返るというテーマの内容だったので、次のゲームでは未来を見ることにしたのです。

私たちは、子どもたちに何を残すのかという、レガシー(遺産)について考え始めました。そして「私たち人間が次の世代に残すレガシーとは何なのか?」という、さらに未来を見据えることにしました。

そして、その考えを現代の環境問題と結びつけて、“人間がすべてを浪費してしまった死の世界”と“生命を取り戻そうとする小さな妖精”という対比に行き着いたのです。

――『After Us』のグラフィック制作やディレクションをする上で、最も注意した点は何でしょうか?

アレクシス氏死んだような殺伐とした世界と、主人公と彼女のすべての行動の間には大きなコントラストがあり、そのコントラストこそがゲームのルック&フィールを開発する上で中心のものとなっていました。

『After Us』は壮大で雰囲気のあるダークな世界がある一方で、小さな小さなキャラクターが存在しています。世界は巨大で、主人公は小さく、弱々しく、しかしとても強い意志を持っているように感じられます。それが光や色、大きさのコントラストを生み出しているのです。

ゲームは細部を見せるよりもまず、全体像をはっきりしようと思いました。それは、ほとんど死んでいる世界で、主人公だけが生きていて動いているという「死の美術館」のような感覚を作りたかったんですね。

描写の密度を高めるために、ゲーム内では色調を抑え、多くの雰囲気のあるVFXを採用し、ポストプロセスフォリッジ(Unreal Engineの機能)を駆使しました。主人公・ガイアは時速80キロで走ることが可能で、たくさんの広大なオープンスペースを移動するので、コンテンツの消費が非常に早いのです。

開発ではゲームの画面を優先するために、細かなディテール部分を少し犠牲にする必要がありました。マップに登場する建物は、錆びた広告板や構造物が散乱した石のブロックを積み上げて、フォリッジでのレイヤーを使い分けたり、バイオームごとに限られたアセットを使用するなど、芸術的な観点だけでなく制作面でもミニマルなアプローチを用いて、それを実現しています。

これらの表現は、芸術的、制作的な観点だけでなく、物語的な観点からも有効でした。ゲーム内には車など何千もの乗り物が配置されていますが「乗り物という概念」を表すモデルは3種類しかないんです。このミニマリズムこそが、『After Us』という作品への集中力を高めているんです。

――本作を制作するにあたり、影響されたゲームや映画、書籍などがあれば教えてください。

アレクシス氏 ゲームをプレイして感動や賞賛があったとしても、他のゲームを直接参考にすることはしないようにしています。もちろん、さまざまな作品から影響は受けているのですが「あのゲームのあの要素が好きだから、同じようにしよう」というような、自発的なものではありません。

私たちは多くのゲームを研究しています。でも、自分の脳内でいつアイデアが芽生え、何がその原動力となったのかというのは、大抵の場合そのタイミングがわかりません。なので、少なくとも他作品の影響という意味で、強く頭で意識しているわけではありません。

とはいっても映画やコミック、ミュージックビデオなど、他のメディアからも影響を受けている部分はあると思いますし、さまざまなものは確かに混在しています。ゲームメカニクスの面ではビデオゲームから、アートの面では伝統的な芸術から直接影響を受けているとは思います。

――「崩壊した世界」は心苦しく衝撃的ですが、同時にガイアの創り出す“緑”がとても美しい対比になっています。この破壊と創造を感じさせるシステムについて、どのようなメッセージが込められているのでしょうか。

アレクシス氏私たちにとって世界とは「ゲームの主役そのもの」です。もちろんユーザーの方々がガイア(主人公)に共感してほしいという思いはありますけどね。

『After Us』では巨大で荒涼とした、荒廃した世界がユーザーに語りかけてくるように、ゲーム内ではあえてカメラ視点をかなり遠くに置いているんです。物語の象徴的な、壮大な風景を常に目にしながら、ガイアはその世界を進歩させるための“とても小さなひとつのかけら”のようなイメージでしょうか。

この(風景とガイアの)コントラストは、ゲームのルック&フィールの開発において中心的な役割を果たしました。世界は巨大なのに、主人公は小さく、弱々しく、しかし強い意志を持っているように感じられるのです。先程も話した通り、全体像として「死の美術館」という雰囲気にしたかったんですね。

この死んだ世界には、自然と私たちの関わりを示すような、象徴的なものがたくさんあります。主に搾取の関係として私たち人間は自然からすべてを奪い、逆に自然に十分に還元していません。私たちは、『After Us』の世界において、このことを明白にし、プレイヤーに示したかったのです。

一方でガイアの行動はすべて、生命の創造と回復を目的としたものです。そして、その行動はすべてプレイヤー自身が操作しています。それは鬱屈した世界で、ガイアが完全に世界を変える・回復させることはできない些細なことであったとしても、それでも世界を変えていくことで、プレイヤーに希望の意識を育んでほしいと考えています。

この心の中で育てるべき「小さな種」は、私たちが今この地球で何をしているのかということに向き合うのと同じくらい、今の時代にはとても必要なものなんです。だから『After Us』は寂寥感から希望に向かう旅の物語なんですよ。ネタバレになりますが、ゲームの最後には、それに直接関係するボーナスコンテンツが用意されています。

――ガイアにはとても神秘的な魅力がありますね。彼女はどういったコンセプトによって生まれ、どういったキャラクター性を目指したのでしょうか?

アレクシス氏ゲーム中ではガイアという名前は出てきませんが、私たちは彼女のことをガイアと呼んでいます(※公式サイトなどで記載あり)。ガイアは多くの文化圏に存在する普遍的な神のようなものであり、地球上の生命を象徴する存在です。

ガイアは女性キャラクターとして描かれていますが、私たちは彼女は小さなニンフのようなイメージで、白く美しい長髪と樹皮のようなドレスで描かれています。もちろんガイアは擬人化されていますが、本当の意味での人間ではありません。彼女は小さな子どものような純粋な感情を持っていますが、その心は非常に強いです。

彼女はとても身軽で速く、ただただ流れるようにマップを移動します。言葉は喋らないのですが精霊を発見するために歌い、自らの心を投げ出して世界と交流することができます。また、一時的に彼女の周りの植物を成長させる「命の炸裂」と言う力を持っています。

開発では多くの映画や大衆文化のキャラクターからインスピレーションを受けましたが、個人的なものを作りたかったので、ガイアに関してはミニマルなアプローチを目指しています。彼女は子どもの頃に抱いていたような、シンプルで原初的な感情を持っています。ある意味で、プレイヤーには彼女を通して“自分の内なる子ども”とつながり、その視点を通して世界を見てほしいんです。

ゲーム中には全知全能の女神のような、抽象的なやり方や表現で人生を表現する、マザーと呼ばれるキャラクターが登場します。マザーは、物語の冒頭で、世界のすべての命が失われたことで死にかけます。そして、絶滅した最後の動物の器に宿る力を取り戻してほしいとガイアに頼むんです。

―― ゲーム内でのガイアの“歌声”はとても印象的です。この歌声に関して、どのような意味や想いを込めて収録したのでしょうか?

アレクシス氏ゲーム中でガイアは、絶滅した動物の霊や人間の記憶を発見する時、または動物を撫でるときに歌います。彼女は若くて強い意志を持っていて、しゃべらないけれど歌をよく歌うんです。音楽と歌は話すよりもずっと自然なことで、彼女が世界とコミュニケーションする方法でもあります。

私たちは、彼女のキャラクターに繊細さや敏感さ、共感的な印象を与えています。そして、彼女が歌う美しいメロディーは世界に彩りを与える力を持っています。どんなつらい状況であっても、どんな小さなことであっても、まだまだ楽観的で明るくいられるということを思い出させてくれるんです。

――ステージ内の“貪りびと”には、さまざまな表情やポーズがあって非常に印象的です。彼らの配置に関しても苦心や思い入れがあるのでしょうか?

アレクシス氏ゲームの冒頭や私たちが示している『After Us』での仮想の未来では、人類が地球上のすべての生命を浪費し、それによって絶滅したことを表現しています。これは超現実的な世界でもあり、現実になりうる可能性もある悪夢だと思います。人間は、すべての生命を無駄にする力を持っているのではないでしょうか。

だからこそ『After Us』というゲームタイトルは「私たちが残していく遺産」という意味も持っています。もちろん、私たちはその個人個人を責めているわけではありません。私たち人間はみんな自然を愛していますし、美しい環境を破壊することを楽しんでいる人はいないと思います。自分たちではどうしようもない、集団的な行動の副作用として環境を破壊しているんです。

このゲームの特徴のひとつとして、終盤になるにつれて明らかになっていく、シーンや記憶のコレクションがあります。その記憶の内容で、人間の行動が白か黒かではなく、濃淡のあるグレーであることを表現しています。それこそがゲームの焦点であり、長期的な視点として表現しているんです。

――ステージ内に蘇る動物たちの魂も、崩壊後の世界で美しい生命を感じさせてゲームを彩ってくれます。彼らの存在やその意義について詳しく聞かせてください。

アレクシス氏 ワールド内には動物たちの魂が108個隠されています。ガイアが彼らを見つけることで、その動物たちの魂がステージ内に登場し、生きているときの追体験として登場するようになるんです。

『After Us』の荒涼とした陰鬱な世界で鳥の群れが飛び、馬の群れが疾走し、象の家族がどこかに歩いていく。ライオンの子どもは母親の後ろに付いていき、ウサギたちは瓦礫を飛び越えていく……。彼らの存在は世界の雰囲気を大きく変えてくれますが、あくまでゲームとしてはオプションであるものだと思います。

なぜならば、この「動物の魂を見つけ出す」と言う行動はゲーム内でプレイヤーに報酬を与えるものではなく、強制するものでもありません。あくまでプレイヤー自身が、自分の意志として行うものであってほしいと思ったんです。

ゲーム的な意味で何も獲得できないこれを、私たちはメカニズム報酬(mechanical rewards)ではなく“感情の報酬(emotional rewards)”と呼んでいます。世界はとても美しく、彼ら動物はこの星に住む権利があります。私たちは、そのことを表現したかったんです。

――プレイヤーとしては、彼ら動物(の魂)を撫でられることが非常に嬉しいです。これはやはり大切なことですよね?

アレクシス氏 そうですね!ゲームに登場する、動物の魂を私たちはとても重要視しています。我々は決して大きくない開発スタジオなのですが、それでもスタッフ全員が開発初期から「すべての動物を撫でられるようにしたい」と、大きな目標を立てていたんです。

その目標は最終的に、ほとんどの動物を撫でられるようになり、飛んでいたり泳いだりしている動物に挨拶できるような形で実現したんです。この、動物を撫でられる(挨拶できる)というものは、先ほど説明した“感情の報酬”そのものですね。まさしく我々が目標としてきたものです。

――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

アレクシス氏 『After Us』はただのゲームではなく、感情や感動の旅としてプレイしてみてください。その中で、私たち人間のダークな面を体験することになりますが、そのトンネルの先には光が待ち受けています。

『After Us』がユーザーの皆さんの心を動かし、考えさせ、何かしらの思いを抱かせることができたら、開発者としての私たちの目標を達成できたのだと思います!


『After Us』は、PC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中です。


《Mr.Katoh》

酒と雑学をこよなく愛するゲーマー Mr.Katoh

サイドクエストに手を染めて本編がなかなか進まない系。ゲーマー幼少時から親の蔵書の影響でオカルト・都市伝説系に強い興味を持つほか、大学で民俗学を学ぶ。ライター活動以前にはリカーショップ店長経験があり、酒にも詳しい。好きなゲームジャンルはサバイバル、経営シミュレーション、育成シミュレーション、野球ゲームなど。日々のニュース記事だけでなく、ゲームのレビューや趣味や経歴を活かした特集記事なども掲載中。

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