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7分間の映像に18ヶ月を費やす…Blizzard制作チームに訊いた「シネマティック」の作り方【BlizzCon2019】

ファンが手に汗握る「シネマティック映像」の制作についてインタビュー。ストーリーとゲームプレイを期待させるトレイラーは、どのように生み出されているのでしょうか。

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7分間の映像に18ヶ月を費やす…Blizzard制作チームに訊いた「シネマティック」の作り方【BlizzCon2019】
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11月2日から開催されたBlizzard Entertainmentの大型ファンイベント「BlizzCon 2019」。初日のオープニングセレモニーでは、『ディアブロ』と『オーバーウォッチ』の新展開が同時に発表され、『ハースストーン』と『World of Warcraft』の新しい拡張コンテンツもお披露目となりました。

そんなBlizzard Entertainmentの「発表」とこだわり抜かれたシネマティック映像は切っても切り離せない関係です。新たなゲームプレイや物語を期待させる映像たちは、これまでもイベント現地に集まる大勢のファンやオンライン上の視聴者の心を熱くさせてきました。


Game*Spark編集部は、そんな映画顔負けのトレイラー映像を制作するBlizzard Entertainmentの「Story and Franchise Development(以下、SFD)」チームにインタビューを実施。エグゼクティブバイスプレジデントのリディア・ボッテゴニ氏(写真右)とバイスプレジデントのジェフ・チェンバレン氏(写真左)に、シネマティック映像やストーリー関連コンテンツの制作秘話を伺いました。



――お二人はSFDの中でどんなお仕事をされているのでしょうか。

ボッテゴニ氏:私はBlizzardで働き始めて3年ほどで、以前は長編アニメーション映画のプロデュースをしていました。その過去を生かした作業を担当しています。Blizzardで最初に関わった作品は『オーバーウォッチ』のソンブラのシネマティック映像です。3年ちょっとの間ですが、とてもダイナミックでエキサイティングなことをやってきていますよ。ジェフとは大違いです。

シャンバーラン氏:私の仕事はエキサイティングではないですから(笑)。

ボッテゴニ氏:そういう意味で言ったわけじゃないです(笑)。ジェフはBlizzardで働き始めて、もうかなり長いんですよ。

シャンバーラン氏:もうすぐ勤続21年です!入社以来、ほとんどすべてのシネマティックに関わってきたと言えると思います。最初に携わったタイトルは『Diablo II』で、それ以来ずっとBlizzardのシネマティック制作部に在籍しています。シネマティック制作部は、サウンド/オーディオ部門やビデオ部門などから構成されるもっと大きな部署の一部になりました。

――BlizzConで発表したシネマティック映像は、どのように制作されたのでしょうか?いつごろから制作を開始したのでしょう。

ボッテゴニ氏:制作開始の時期は、映像の長さによって異なります。例えば、9分間におよぶシネマティックは5分間のものより、ずっと制作に時間がかかります。ゲームプレイトレイラーなら2分間だけのものもありますが、登場するキャラクターや内容の複雑さも制作時間に影響します。

例えば『オーバーウォッチ』のアナウンストレイラーには、重要キャラクターがたくさん登場したこともあって、かなり時間がかかりました。たしかプロダクションには2年ほど。通常、大きなアナウンスメントトレイラーには18ヶ月といったところでしょうか。ちなみに、もう次のBlizzConでお見せするためのシネマティック映像の制作に取り掛かっていますよ。

――『オーバーウォッチ 2』のシネマティック映像の制作には、何人のスタッフが携わったのでしょうか?


ボッテゴニ氏:複数のプロジェクトが同時に進行していて、脚本からローカライズまで様々なチームが同時に取り組んでいるので、はっきりとした数は説明しにくいです。ライターチームや、ディレクター、サウンド/オーディオチームなどが、様々なプロジェクトのそれぞれの専門分野に取り組んでいます。作品の複雑さによって必要な人員数も変わります。『オーバーウォッチ』のトレイラーにはより多くの人が関わりましたし、『ハースストーン』の2.5Dの映像にはそれほど多くの人員を要しませんでした。

――Blizzard社外のメンバーと映像を共同制作する際には、どのように取り掛かるのですか?

シャンバーラン氏:プロジェクトによって異なりますが、私達のチームでは、特にコミック制作において社外アーティストに作業を依頼することが多くあります。まずはSFDチームで物語の柱……つまりコミックの中でどんなことが起こってほしいのかを、外部のコミック担当ライターに伝えます。そうして、熟練した専門家の手によってコミックの物語を仕上げてもらいます。コミックで描かれる絵についても同様です。

アニメーションにおいては、『オーバーウォッチ』のドゥームフィストのオリジン・ストーリーを例として説明しましょう。このときは、社内で制作したラフアニメーションを外部のアニメーションスタジオに送り、残りの部分を任せていました。ものによっては外部アーティストにかなりの裁量を与えることもありますし、社内のチームから具体的な指示を出すこともあります。

――近年ではCGによる表現力が進化し、シネマティック映像の印象がゲームの中で重要な要素になることもあります。映像から得られるイメージに対し、ゲーム開発自体が期待通りに進まなかった場合は、どうされますか?

シャンバーラン氏:そんなことは今まで一度もありませんよ(笑)。私たちの部署は、開発チームと非常に近い関係にあり、そもそも二つの完全に分かれたグループだと考えていません。SFDの中でストーリーがなかなか思いつかなかったりしたら、開発チームも一緒に手伝ってくれます。とはいえ、今後どちらかのチームに問題が発生したせいで、いずれかの作業が滞るといったような事態にならないよう、一丸となって制作にあたりたいですね。

――『ディアブロ IV』のシネマティック映像についてお聞かせください。前作とは大きく雰囲気が異なる印象でしたが、どのような要素を取り入れて“ホラー”らしさを作り上げていこうと考えていましたか。

シャンバーラン氏:私たちの仕事は、シネマティック映像を使って、視聴者に意図通りの感情を抱いてもらうことです。今回の作品のために、カメラ回しや照明使いなど、視聴者の感情を呼び起こすためにどんな手法を採用しているのか、ホラー映画を参考にしながら研究しました。『ディアブロ IV』のシネマティック映像を観た方たちから、こちらが意図したとおりの感想を聞けて、これまで私たちが同作に注ぎ込んできた努力が報われた思いです。

――『Diablo II』のように初めから終わりまで完結したタイプのゲームと、はっきりとしたエンディングが存在しない、継続した運営型タイトルのゲームでは、ストーリーへの取り組み方はどのように変わりましたか?

シャンバーラン氏:いい質問ですね。あまり考えたことはなかったです。Blizzardでは今も両方のタイプのゲーム開発を続けていますが、たとえ完結しなくとも、『WoW』の拡張用のシネマティックなど、ゲームにおけるストーリーの大きな流れを形成するためのシネマティックの制作をしています。

また、開発が継続されるにつれて生まれるシネマティックもあります。『オーバーウォッチ』が良い例ですね。『オーバーウォッチ』の場合は、短編アニメーションではエピソードが完結しますが、コミックや短編小説ではストーリーの一部分を見せる形を取っています。BlizzCon2019でお見せした映像は、ゲームに関する情報を紹介するものです。このように、様々な形で大きな物語を補完するストーリーを作っていくことを、今のところは目指しています。その点に関しては今後多少変化することもあるかと思いますが、大きく変わることはないでしょう。すでに変わったことと言えば、以前はシネマティックのみだったのが、今はストーリーを語る手段が増えたことですね。例えばコミックや短編小説など。

――ストーリーを作っていく上で、開発チームとはどのように協力して作業しているのですか?いつ、どのようなシネマティック映像を作ろうといった決定権は誰にあるのでしょうか?

ボッテゴニ氏:驚かれるかもしれませんが、各フランチャイズにクリエイティブディレクターが存在している訳ではありません。同じように、クリエイティブライターやエディターも、必ず各チームにいるわけではないのです。いつも私が言っていることですが、各ゲームそのものに個性があるように、各チームにも個性があります。アーティスト寄りのディレクターもいれば、ライター寄りのディレクターもいます。私たちの仕事は、そんな彼らをサポートすることです。

はっきりとしたイメージを持ったディレクターが「こんなシネマティックを作ってほしい」と具体的にサポートを求めてきたとしたら、その要望に副うよう制作に取り掛かりますし、「開発チームのライターをSFDチームに寄こすので、うちのライターと一緒に制作に取り組んでほしい。ただし主導権はSFDに委ねたい」と求められても、その希望に合わせます。ライティングだけではなくビジュアルの発展という点において、ゲーム開発と一緒になって問題解決に当たるというのはあまり一般的ではないかと思いますが、まさに『オーバーウォッチ 2』のトレイラーのように“増援が来た!”と、みんなで力を合わせて作業します。

シャンバーラン氏:後半の質問についても同様で、開発から具体的に「こんなシネマティックが欲しいんだけど」とアプローチがあることもあれば、私たちのほうから思いついたアイデアを提案することもあります。つまるところ、アイデアがどこから出てくるかは、みんながそのアイデアをよしとするのであれば、あまり重要ではありません。

ボッテゴニ氏:また、年に一度、ゲームプロデューサーたちと顔を合わせて話し合う場を持ち、長期的な戦略や制作期間の長いシネマティック映像、今後の拡張コンテンツの予定などについて話し合います。そのときに、私たちからは「これくらいの時期にシネマティックを公開したい、アナウンスメントを出したい」といったことを提案します。そういったやりたいことをすべてマッピングしていくと、そのうち40%程度しか実現できそうにないことに気付きます。ですので、そこから優先度をつけて削っていくことになります。そういったことを、一年を通してプロデューサー陣と協議しながら決めています。

――BlizzCon2019で公開されたシネマティックの中では、どのプロジェクトが一番大変でしたか?


ボッテゴニ氏:プロデューサーとしての観点から言うと、『ディアブロ IV』ですね。理由は、『オーバーウォッチ』や『WoW』、『ハースストーン』と違い、この作品は初披露だったためです。その他の作品には、既になじみのある重要キャラクターたちが登場しますが、『ディアブロ IV』に関しては今回が初めてなので、イメージを具体化する必要がありました。ゲームデザインという点でも、新しいメンバーが入ってきたり、過去のフランチャイズにしばらく触れていなかったということもあり、プロデューサーとして未知の領域が多くありました。

シャンバーラン氏:クリエイティブな部分で話すと、私も『ディアブロ IV』が一番大変だったかと思います。アートの面でもやはり新しい要素が多くありました。同時に、『オーバーウォッチ』も挑戦でしたね。ヒーローたちが集まるごとに、視聴者のみなさんに喜んでもらいたかった。その意図を形にするのが、当初考えていたよりも実際にはとても難しかったです。アニメーションの編集やサウンド、音楽、すべてに特に気を付ける必要がありました。

――『オーバーウォッチ』のように、『ディアブロ IV』でも短編小説やコミックなど、シネマティック以外でストーリーテリングのためのプロジェクトを展開する予定はありますか?

シャンバーラン氏:将来のリリースに関する具体的な話はできませんが、他のタイトル同様、『ディアブロ IV』についてもどんなストーリーをどのように語っていくか、考えたり、開発に話をしたりはしています。

――以前は非現実的な設定やキャラクターが多く登場するゲームが多かったのに対し、『オーバーウォッチ』では現実に近い世界が舞台になっています。ストーリーを語る上で、違いはありますか?

シャンバーラン氏: 個人的には『オーバーウォッチ』の世界観も非現実的であるとは思いますが、いずれにせよプロセスとしてはどちらもそれほど変わりません。とはいえ、『オーバーウォッチ』には実在する都市などが登場しますし、そうした事情がストーリーに若干影響を与えることもあるかもしれません。あったとしても最低限の制限がある程度です。今後は『オーバーウォッチ』の世界にトロントが追加されますが、トロントやカナダに関するストーリーはまだ語られていないので、今後考えなくてはならないですね。現実世界の都市を扱うという意味では、そういった点を考慮することもあります。

――Blizzardのパブリッシングは、地域ごとの文化に則したマーケティングを各地で展開していますが、Blizzardはアメリカの会社ですし、プロダクションのほとんどがアメリカで行われています。ローカライズが行われる際は、アメリカのSFDが一緒になって制作にあたるのでしょうか?

ボッテゴニ氏:Blizzardは、ローカライズチームとパブリッシングを世界中に配置しています。ローカライズというのはとても複雑な分野ですが、ローカライズについてはエキスパートである各地の専門チームに任せることにしています。

―― ジェフ・カプラン氏(Blizzard Entertainment VP)がオープニングセレモニーの冒頭で、『WoW』のシネマティックでモーションキャプチャー・アクターを演じたと冗談を言いましたが、実際に使ったことがあったのですか?

シャンバーラン氏: あれはジェフのジョークだと思います(笑)。これまで社内の開発の人間をモーションキャプチャー・アクターに採用したことはありませんよ。

――ボッテゴニ氏の長編アニメーション映画のプロデュースをされてきた経験は、Blizzardでの作品制作にどのような影響を与えましたか?

ボッテゴニ氏:これまでソニーやディズニー、ワーナー・ブラザースアニメーションなどで働いてきましたが、大きなアニメーションスタジオとなると、働き方はどこもよく似ています。現在はBlizzardの中に「ミニ・ピクサー」があるようなイメージです。脚本からデジタル処理、ミックス、ローカライズに至るまですべてを社内で完結することが可能です。そういう意味で、規模は小さくなりますが、Blizzardも先述のアニメーションスタジオとよく似ています。

ただし、大きな違いもあります。コンテンツの目的です。ハリウッドのスタジオで制作される長編アニメーションは、観客を映画館に呼び込み、観てもらうことが目的です。それに対し私たちの目的は、ゲームをプレイする人々に映像を観せて、時には特定の行動を促すためだったり、特定の感情を抱いてもらうことだったりします。今は違ったモチベーションを楽しんでしますよ。

――Netflixのようなプラットフォームと今後提携する計画はありますか?

ボッテゴニ氏:いろいろな方からそういった期待の声があるのは知っていますし、時にはそういった話もするのですが、今のところ私たちのチームはゲーム向けのストーリーに取り組むことに精一杯です。BlizzConに向けて、全員が全力以上を出して制作にあたっていました。多くの方がもっとBlizzardのアニメーションを観たいと思ってくださっているのも承知していますが、今回はこれについてお話しできることはありません。考えていることは考えています。

――『リーグ・オブ・レジェンド』のライアットゲームズから「Arcane」というアニメーション制作の発表がありましたが、Blizzardでもアニメシリーズを展開する予定はありますか。

ボッテゴニ氏:トレイラーを観ましたが、とてもかっこよかったですね。ライアットゲームズは本当にとても素晴らしいお仕事をされていると思います。ご質問の件ですが、これについても多くのご意見をいただきますし、たくさん考えたり、話し合ったりもしますが、やはり本日お話しできるようなことはありません。私たちが今一番に力を注ぐべきはゲーム内のコンテンツだからです。

――Blizzardが制作するアニメーションは毎回とても完成度が高く、多くの人が関心を持っています。そういった意味で現実的なアイデアかと思うのですが、今後Blizzardによる独立した長編アニメーションスタジオを設立する予定はありませんか。

ボッテゴニ氏: 6分から7分の映像を作るのにどれだけの時間をかけているかと思えば、あまり現実的とは思えませんね(笑)。私たちが作る映像は手作りなんです。映像を通してそれが伝わるといいのですが。

繰り返しになってしまいますが、多くの人がそのように考えてくださっていることは存じていますし、同じことを聞かれることが度々あります。本当に嬉しいことです。実現したら素晴らしいとは思いますし、考えたり、話し合ったりもしますが、今回は残念ながらこの件でお話しできることはありません。いつか実現したらいいなとは思いますけどね。

――本日はありがとうございました。

《Cameron Gilbert》
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