本記事は物語の内容に言及しています。プレイ前の方はご注意下さい。

前作の因縁の地、ネレ島に隠されたお宝を巡って現代の海賊達が激突する『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』。時価10億ドルに及ぶという「エスペランサの財宝」は、どんな非道な手を使っても手に入れようとする人間の欲望を浮かび上がらせます。財宝発見のヒントになったのは、パレカナ教団を率いるロドリゲスの父が「ピースオブエイト」と呼ばれる銀貨を手にしていたことです。このピースオブエイトは海賊関連の様々な作品にも登場する、海賊が略奪する財宝の象徴です。宝箱にぎっしり詰まったコインの山、想像せずにはいられませんよね?

このピースオブエイトはスペインの南米植民地で発行されていた物で、ボリビアの都市・ポトシなどの銀山で採掘した銀を現地で鋳造し、スペイン本国やアジアに向けてガレオン船で運んでいました。銀のハイパーインフレ、いわゆる価格革命を引き起こすほどの発行量だったので、鴨葱状態の「現金輸送船」を海賊や英国私掠船は狙っていたのです。
金銀だけでなく先住民の宝物などを満載した船が襲撃や荒天などで沈没し、海の底に眠っている――トレジャーハンターはそうした船の記録を辿り、一攫千金を求めてサルベージに挑んでいました。沈没船から引揚げられたコインはアンティークとして市場に流通しているので、ちょっと気合いを入れればそれらの「海賊のお宝」を手に入れられるので、オンラインの販売元を覗いてみるのも一興です。
アメリカのメル・フィッシャーは、そんな財宝探しの夢を叶えたハンターの代表と言えるでしょう。少年の頃に読んだ「宝島」の世界に憧れたフィッシャーは、大嵐でフロリダ沖に沈んだ船団を求め、私財と15年近くの時間を費やしてアトーチャ号を発見、コイン10万枚や巨大なエメラルドを含む総額約4億ドル相当の積み荷を引揚げました。アトーチャ号の一部は未発見で、フィッシャーの子孫が継続して探索を行なっているそうです。
そして今最も注目が集まっている沈没船は、史上最高額の170億ドルと噂される積み荷を抱えた、コロンビア沖のサンホセ号です。2015年にコロンビア政府が発見したと発表したサンホセ号は、1708年にペルーからスペイン本国に向かう途中、「ウェージャーの海戦」で英国の艦隊に襲撃されて沈没。現在はコロンビア政府の元で潜水調査が行なわれており、現大統領の任期が終わる来年までの引き上げを目標にしています。
一方、かつてコロンビア政府の依頼で調査に当っていたアメリカのサルベージ会社は、サンホセ号は1982年の時点で発見していたと主張。分配の契約を反故にしてコロンビア側が一方的に拒絶したと訴えています。

これに加え、スペイン政府とボリビア先住民が所有権を主張しており、事態はより複雑になってきました。大航海時代の財宝はその多くが植民地における「搾取」、すなわち一方的な略奪や強制労働によって不当に持ち出された物という見方もされます。そのためこの時代の沈没船が発見されると、発見者、発見した海域の国、当時の船籍の国、財宝を持ち出された国、この4者が所有権を主張することになるというわけです。
所有権を主張するというのは単に分け前をいただくと言うことではなく、財宝として利益を出すのか、文化財として保護していくのか、その場合誰に返還するのか、それらの協議に参加する権利を持つという意味です。前回言及した「水中文化遺産保護条約」もあり、貨物ではなく船体そのものの考古学的価値も検討する必要があります。沈没船を遺跡として慎重に扱うことが今後より重視されるようになりますが、トレジャーハンターの労力にどう報いるかという視点も求められるのです。
かつての大航海時代から帝国主義の時代に欠けて、欧州列強のトレジャーハンターは世界各地から発見物を持ち帰り、長らく自国のコレクションとして扱ってきました。そうしたコレクションが元あった国へ返還が始まったのはごく最近です。日本の国宝が国外に勝手に持ち出されて返してもらえない、そんな状況を想像して下さい。「インディー・ジョーンズ」のように遺跡に分け入る大冒険は憧れですが、本来はそうした行為は盗掘として処罰される対象です。宝探しのロマンと文化財の保護、近年までなおざりにされてきた二つの区分けを、これから法整備で整えていく必要があるでしょう。











