『428~封鎖された渋谷で~』や『タイムトラベラーズ』など数々の名作で知られるイシイジロウ氏が、ケムコとタッグを組んで“人狼”を題材としたアドベンチャーゲームを開発中です。
まだ謎の多い本作ですが、会場では試遊版をプレイすることができ、人狼の駆け引きを1人で楽しめるようにシミュレートしたものが楽しめました。発言を細かく行えるため、コンピュータ相手に白熱した心理戦が楽しめそうです。
ケムコの人狼といえば、『レイジングループ』も思い出させますが、本作は果たしてどのようなプロジェクトとなっているのでしょうか?イシイジロウ氏へのインタビューをお届けします。

――ケムコさんと組んで作ることになったきっかけを教えて下さい。
イシイ:3、4年ほど前のコロナ禍をきっかけにしたZoom飲み会をきっかけに、ケムコさんと知り合って、『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』というドットRPGを作ろうという話になり、2023年に発売しました。その流れで次のプロジェクトもやりましょうということになり、ケムコさんとしては『レイジングループ』(※)に続く人狼のゲームを企画したいと。僕も人狼ゲームはプレイヤーとして長くやっているので、相当こだわったものが作れるなら一緒にやりましょうということになり、企画が立ち上がりました。
※『レイジングループ』…田舎の因習や儀式をテーマとしたJホラーと人狼ゲームを組み合わせたホラーサスペンスノベルADV。amphibian氏がディレクター・シナリオを務めた。
――開発はいつ頃から行っているのですか。
イシイ:2年ほど前ですね。ケムコさんの『レイジングループ』というヒット作がすでにあるので、普通にアドベンチャーを作ってしまうとそれと変わらない。そして今は『グノーシア』というAI人狼ゲームのヒット作もあるわけですから、『グノーシア』のように人狼AIゲームが楽しめてさらに、『レイジングループ』くらいの濃いストーリーも持たせるという挑戦をしなければ……と開発しています。

大事になってくるのは「しっかり人狼AIゲームが機能するのか?」というところです。僕自身も今回原作になっている「人狼 ザ・ライブプレイングシアター(TLPT)」という13年間続いている舞台をずっと観てきましたし、人狼のプロがやるような試合をAIで再現できるのかというのがひとつのテーマでした。実際に試してみて、なんとかなりそうだ、ということで、今回TGSで皆さんに見せるところまで形になりました。
――出来具合はどれくらいなのでしょう。
イシイ:人狼ゲーム部分とシナリオはもうできあがっているので、アドベンチャーゲーム部分の実装をしていっているというのが現在のステータスです。
――興味深いです。『レイジングループ』は大ボリュームでしたが、本作のボリュームはどの程度になるのでしょう。
イシイ:『レイジングループ』と勝負できるくらいのプレイ時間は用意しています。もちろん人狼ゲームパートが挟まりはするのですが、シナリオボリュームも十分にあると思います。
――システム面では、『グノーシア』と比べて、より本格的になっていくのでしょうか。
イシイ:プレイしていただくとわかりますが、ガッチガチの人狼です。完全にロジカルな人狼ができるようになっていて、「こいつ処刑しといたらとりあえずいいだろ」みたいなキャラクターは1人もいません。

「人狼TLPT」は全員が主役の舞台なので、1秒でも長く立てるように、処刑を避けて立ち回っています。それをゲームに落とし込むようにしたんです。
――今回体験できたのはシステマチックな人狼ゲーム部分でしたが、ストーリーはどのようなテーマを描くのでしょうか。
イシイ:「人狼TLPT」の「DEPTH」という設定では、キャラクターたちは人類絶滅レベルのパンデミックが起きた世界で、人類を救うワクチンを作るために、人狼や人魚を切り刻んで動物実験をしている施設の科学者なんです。人間だけど単純ないい人たちという訳ではありません。そして、人狼もただの動物ではなく、名前や人格もあり、家族もいます。そして、この実験に耐えられなくなった人間のひとり、つまり狂陣が3匹の人狼を逃がし、人間にすり替わったというところからスタートします。
「人狼」を題材にした映画やゲームがたくさん出ていますが、「人狼側に名前がある」というアプローチはまだやる価値があると感じています。つまり、「あなたは人狼になりました」ではなく、名前・人格・知能も揃った”ひとりの人狼”になるというわけです。「人狼」はただの悪役カードではなく、ただ倒せば良いわけではない。これが、今までとは全く違う人狼ゲームへの入口になると思います。
――「人魚」が入ってくるのが特徴的です。なぜこの3つ目の立場があるのでしょうか。
イシイ:人魚は自分を逃がしてくれる条件で人間に「予言者」「霊媒師」「狩人」の能力を与えます。でも人間は人狼に勝利した時にその約束を守るのでしょうか? この枷であり、問いをプレイヤーに与えるため人魚の設定があるのです。
――プレイヤーが殺されてもゲームが続いていましたが、あのような仕様にした意図は何でしょうか。
イシイ:いろいろなキャラクターの物語を見ることができるからですね。製品版ではスキップもできますが、各キャラがどのように死んでいくか、残された仲間がどのように生き延びるのか、勝つか負けるかを眺めるのも楽しいです。

「人狼TLPT」人狼ゲームはやるだけではなく見るのが楽しくなければいけない……というレベルに到達しているので、自分がもし死んでしまってもつまらないわけではありません。本作でもそこを目指しています。
――キャラクターはどのように用意しているのでしょうか。
イシイ:本作では、「人狼TLPT」が13年間培ってきたキャラクターをお借りしています。すべてのキャラにファンが付くほど人気です。「DEPTH」はこれまで第三弾まで上演された人気シリーズなのですが、その映像をすべて見て、セリフや立ち振舞を理解したうえでシナリオを書いています。ぽっと作った訳でもなく、AIで作ったセリフでもなく、13年間の蓄積から生まれたキャラクターを楽しんでいただけると思います。
――アドベンチャーとしてもどんな仕掛けがあるのか気になります。
イシイ:『グノーシア』が出た時、同作のクリエイター川勝さんは「ローグライクアドベンチャー」というジャンル名をつけたんです。僕はすごく良いなと思ったのですが、なかなかフォロワー作品が出なかったんですよね。『Depth Loop』は、「ローグライクアドベンチャー」のフォロワーとして頑張ろうと思っています。
この作品はいままでとは、全く違うアドベンチャーゲームでもあります。ランダム性とループのなかで今までのアドベンチャーとは全く違うプレイ感だと思いますし、「人狼ゲーム」というシステム自体を解き明かすということも目指しています。

ランダム性を持った人狼ゲームを解き明かすことで、本作が持つテーマの真の答えに近づいていくという仕掛けになっていますので、体験したことがない作品に仕上がると思います。
――ループするという設定は物語にどのように作用しますか。
イシイ:多くのアドベンチャーゲームがループを使って、物語やキャラクターを多面的に語るように、本作もループを使って、人間や人狼の物語を多面的に描いていこうと思っています。それが人狼ゲームと組み合わさってどう化学変化するのか。例えば、主人公が人狼または狂陣になったとき、このループの絶望にプレイヤーは気づくのではないでしょうか?
――アドベンチャーゲームファンにアピールをお願いします。
イシイ:人狼ゲームにおいて、「人狼」「人間」というカードの役割ではなく、正義は人間か人狼かという全く視点が違う2つの立場からゲームを解いていくのは初めての体験になると思います。これが本作で僕がゲームデザインにおいて皆さんに問いますので、プレイヤーとしての答えをぜひ出してもらいたいと思います。ぜひよろしくお願いいたします!
――ありがとうございました!
『Depth Loop』は、PC(Steam)/PS4/PS5/ニンテンドースイッチ/ニンテンドースイッチ2向けに2026年春発売予定です。










