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「ソフトの多様性」代償誰支払うべき?ニンテンドースイッチに今求められる返金制度

数多くの作品が展開されるなかで、低品質なゲームも溢れる現状。そのリスクを受けるべきは?

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Peter Dazeley/Photodisc/ゲッティイメージズ
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2022年9月時点で1億1,433万台の販売台数を記録したニンテンドースイッチは、既にかつてのWiiを越え、ニンテンドーDSやPS2にも迫る驚異的な勢いを見せています。ソフトウェア販売本数も9億1,759万本を超え、2023年初頭の今日では多様なゲームが集まる巨大なプラットフォームであるのを疑う余地はないでしょう。

そんな成功の影で、筆者はニンテンドースイッチのストアであるMy Nintendo Storeおよびニンテンドーeショップは大きな問題を抱えていると考えます。ライト層からハードコア層まで、多くのゲーマーにひろく利用されるこのストアは返金機能を搭載していないのです。

ゲーム発売後には一切の返金が許されていない

本題に入る前に、現時点のニンテンドースイッチでの返金システムについて整理しましょう。Q&Aページによると「一度ご購入いただいたダウンロードソフトや追加コンテンツの返品・払い戻し・譲渡はできません。」とされており、一切の返金は許されていません。これはニンテンドーアカウントの利用規約に記載されている文言でもあり、アカウントを利用している時点ですべてのユーザーが承諾しています。

例外として、まだ決済前の予約商品に限ってはキャンセルが可能です。決済は発売の7日前に行われるため、わかりやすく言い換えれば「予約の場合に限り、発売の8日前までならばキャンセルできる」というわけです。いずれにしても、発売後のゲームタイトルについて返金の仕組みは用意されていません。

多様なゲームが配信される裏で、低品質ゲームが溢れるストア

返金ができないと、どのような問題が発生し得るでしょうか。筆者は、低品質なゲームからユーザーを守れないことを危惧しています。ニンテンドースイッチ向けには様々なゲームが配信されていますが、中には多くの低品質ゲームも溢れています。ここでいう「低品質」というのは、一生懸命作った結果つまらなくなってしまったゲームではなく、販売形態などにある種の悪意すら感じられてしまうような作品たちです。

スイッチのストアには、アセットを並べることで最低限ゲームらしく見えるように作られたタイトルや、商業規模のゲームソフトウェアとして作り込みの浅いものも並んでいます。また、実際のゲームプレイで得られる体験とストアページに掲載されたスクリーンショットに、大きな違いがある例も報告されています。


上記ニュース記事でお伝えした『Real Car Driving Simulator & Parking 2022 Games』というタイトルの内容を編集部で検証したところ、、ストアページのスクリーンショットのうち実際のゲームとして正しく「スクリーンショット」だった可能性が高いのは3枚目以降のみ。1~2枚目は全く異なる、良くいっても「ゲーム画面に見せかけたイメージ画像」です。ストアページの1~2枚目を期待して買ったユーザーは、肩透かしを食らうことでしょう。

ストアページの画像。
実際のゲーム画面

とはいえPS Store、Microsoft Storeなどと同様に「製品のイメージ」としてスクリーンショットではないアートワークを掲載することは不自然ではありません。更に言えば、これは大手・インディーに限りませんし、ゲームプレイ画面でない旨を明記させることで解決するでしょう。『Car Racing Highway Driving Simulator, real parking driver sim speed traffic deluxe 2022』のようにユーザーインターフェースを表示した画像を「イメージ」とするには無理がありますが、今回の話とは別問題であるため、ここでは割愛します。

「イメージ画像」のようなものにゲームUIを乗せているのは明確な悪意を感じます。

低品質ゲームはなぜ配信されてしまうのか?

ブラウザやスマホから閲覧できるMy Nintendo Store。

疑念を向けられるべきなのがデベロッパー/パブリッシャーであることは当然ですが、プラットフォーマーである任天堂側の事情も見ていきましょう。普通なら売り物にならないようなゲームまでストアで配信されるこの状況は、どのようにして起こってしまったのか……それには2つの理由が挙げられます。

1つは、ニンテンドースイッチのストアで扱う商品が、CEROレーティング以外にもIARC汎用レーティングでも販売できることです。なお、これはPlayStationやXboxのストアでも採用されています。CEROレーティングは、特に小さなインディー開発者や国外メーカーにとってあまりにハードルが高く、インディーゲームを中心にIARCの採用以降タイトルがぐっと増えた印象を受けました。

IARCはCEROと比較して審査プロセスが簡単で費用もかからないため、発売元の負担が軽いことが特徴です。これによって、オンライン配信なら簡単にゲームが販売できますが、パッケージ販売には適用できず、パッケージを作ったところで一般的な小売店で取り扱えないため、流通が非常に限られてしまいます。

もう1つの理由は、任天堂のプラットフォーマーとしての姿勢です。株主総会質疑応答で回答した2019年時点での任天堂は「発売を認めるソフト、認めないソフトを恣意(しい)的に取捨選択すると、ゲームソフトの多様性や公平性を阻害することになってしまう」としています。実際にIARCが広く用いられるようになった後でも、18+以上のタイトルの国内流通を認めていないなどの例外はあるものの、そのスタンスに変化があったようには思えません。

そこで「低品質なゲームは撲滅すべき」、あるいは「任天堂は安易なレーティングを採用せず、独自基準で審査するべき」なのかというと、筆者はそうは思っていません。IARCによって小規模作品が受ける恩恵を考えると、“配信されるゲームが恣意的に選ばれるべきではない”という考えには賛同できます。

また、「低品質なタイトル」を正確に判別するのは正直に言って不可能でしょう。一般的に見て出来が悪くても、独特の魅力を持っているような作品でも弾かれる可能性はありますし、Steamなどでは審査するスタッフによって基準に差があり、不公平なジャッジが度々生じている話も聞かれます。

しかし、様々なゲームが認められるためのコストを消費者に押し付ける現状は、決して褒められたものではありません。「ゲームの多様性」と「ソフトウェア製品としての是非の判断」を切り離すことを目的に、可能な限り速やかに是正されるべきだと考えています。つまり、多様なタイトルと低品質なゲームに曝されるユーザーを守るためには、返金システムが必要だと考えます。

返金機能はユーザーを守ることにもつながるはず

Peter Dazeley/Photodisc/ゲッティイメージズ

返金機能があることによる最大のメリットとしては、低品質なゲームを掴まされた際に、金銭面においてはそれを「なかったこと」にできます。様々なゲームが配信されているストアでは、上述のように低品質なものや内容を誤認させるようなものも存在し、それに気付かず買ってしまうリスクが存在します。返金機能があれば少なくとも金銭的ダメージを負わなくて済むことになります。

低品質で悪意のあるゲームはもちろん、発売元が非難されるべきです。しかし、掴まされた場合すべてを泣き寝入りするか、SNS等で問題提起するしかないという現状は健全ではありません。

プラットフォームの運営元である任天堂にも、少なからず消費者に対する責任、言い換えれば「多様なゲーム販売」を目指し続けるためのコストが生じるべきです。そのため、返金機能はユーザーを守るために求められる方法の1つだと考えます。

もちろん、返金機能は万能ではなくリスクも存在します。発売元やプラットフォーム側には返金リクエストの審査や手数料の支払いといった負担がかかりますし、悪意のあるユーザーに濫用されてしまう可能性もあります。最も返金機能が利用されているだろうSteamでは、短時間でクリアできるゲームが返金されてしまい、売上に影響が出たり、開発者が精神的ダメージを負う例すら見られます。

しかし、ゲームの楽しい世界を覗くことに失敗し、ストアを通して嫌な体験を得てしまったユーザーの心情は、ゲーマーならば想像に難くないでしょう。任天堂にはプラットフォーマーとして、リスクを承知で消費者を信用する姿勢も「配信されるソフトウェアの多様性を認めること」と並ぶほどに求められます。

SteamやPSなど、他プラットフォームの返金システムはどうなっているのか

ここで、他のプラットフォームが採用している返金機能およびポリシーを見てみましょう。

Steam

PCゲームプラットフォームの最大手であるSteamは、返金のルールを「購入から2週間以内かつプレイ時間が2時間未満」と定めています。このルールに則っていれば、「面白くなかった」という理由だったとしても返金を行うとしています。また、このルールから外れていてもリクエストは送信可能でチェックされるとのことなので、ケースによっては例外が存在する可能性があります。

ただし、Valveが濫用とみなした場合は返金が行われないとしています。「濫用」の条件は定かではありませんが、頻繁に利用しすぎた場合などにはストップがかかるということでしょう。なお、開発者は返金に際してのコメントを匿名によるものとして閲覧でき、ユーザーフィードバックとして受け取ることもできます。

Epic Gamesストア

Epic Gamesストアの返金対象の条件はSteamと同じく「購入から2週間以内かつプレイ時間が2時間未満」です。このストアの特徴は、セルフサービスによる返金を採用していることです。条件にあっていれば審査がなく即返金されるため、審査スタッフの負担はなさそうです。ただし、条件から逸した場合はそもそも返金自体が行えないようになっているようです。

GOG.com

CD PROJEKT REDが運営するGOG.comは、30日以内であればどれだけプレイしていても返金可能という大胆な条件をとっています。ただし、30日以上過ぎた場合は返金できず、個々のケースは審査される模様です。そのため、悪質な利用であれば制限される可能性があります。

PlayStation Store

PlayStation Storeのポリシーでは、ゲーム本体や追加コンテンツの場合は購入してから14日以内と定められています。ダウンロードやストリーミングを行うと、動作に問題がある場合を除き返金できなくなるとされています。PlayStation Plusなどの定額サービスは購入後14日以内であれば返金できますが、利用状況によっては返金額が減額されることもあるといいます。

Xbox

Xboxは明確な返金ポリシーを明らかにしておらず、購入してからの期間や、リリースからの期間、購入した商品の使用状況に応じてケースバイケースで対応するとしています。ただし、ゲーム内の消費アイテムなどは返金の対象外であるとしています。

低品質なゲームを避けるために、今できること

『Real Car Driving Simulator & Parking 2022 Games』のスクリーンショット。

さて、どのような提言をしたところで現実には、2023年頭の時点でニンテンドースイッチのストアに返金機能はついていません。低品質なゲームを掴まされないためにはユーザー側の自衛が必要になるでしょう。

まず、購入前にストアページをしっかりと確認するようにしましょう。掲載されているスクリーンショットや説明文、対応言語からメーカー名まで怪しいところがないかチェックするところが肝心です。

今回の主題とは少し異なりますが、日本ストアで販売されていてストアページの説明文も日本語なのに、ゲーム自体は日本語非対応というケースも今日では存在します。言語対応がなくともストアにゲームが並ぶこと自体は、決してユーザーにとってマイナスなことだけではないのですが、そう感じないユーザーも多いことでしょう。大抵の場合しっかりと注意書きがあるため、見落とさないようにしましょう。

ストアページの情報だけでは物足りなかった、もしくははっきりとわからなかった場合は、第三者によるゲームプレイ映像などを探してみるのも良いでしょう。タイトルがわかっていればYouTubeなどでチェックすると良いですし、うまく見つからない場合は英語で「〇〇(タイトル) gameplay」と検索するとヒットする場合が多いです。また、Twitterで他のプレイヤーを探してみるのも良いでしょう。検索欄の最後に「lang:ja」とつけることで日本語ツイートの絞り込みも可能です。


どう俯瞰してみても、制限の少ないストアにも関わらず返金機能がないという状況は健全とは言えないでしょう。少なくともユーザーに「自衛」を求めるのはあまりに上級者向けのやり方です。ファミリー層にも親しまれているハードにしては、デジタルゲームへのリテラシーを求め過ぎています。

導入がノーコストではないのですが、それでも、返金機能の搭載はユーザーを守り、ストアとして多様性とのバランスがとれた健全な状態を作るための第一歩になり得ます。

現状は良い状態とはいえませんが、筆者は今後、任天堂がプラットフォーマーとして消費者を守る姿勢を構築してくれることを望みます。


《みお》

超雑食の若年ゲーマー みお

2021年3月よりフリーでゲームライターをしています。現在はGame*SparkとIGN JAPANで活動し、稀にINSIDEにてニュース記事を執筆しています。お仕事募集中。ゲームの趣味は雑食で、気になったものはクラシックゲームから新しいゲームまで何でも手を出します。主食はシューター、ADV、任天堂作品など。ジャンルやフランチャイズの歴史を辿るのも好きです。ゲーム以外では日本語のロックやアメコミ映画・コメディ映画、髪の長いお兄さんが好きです。

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