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薄幸の女性リオナの運命は?『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』が真正面から取り上げる「人種問題」

4月20日に発売開始の『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』は、少数種族の問題を取り上げています。これは人間世界で言うところの「人種問題」です。

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薄幸の女性リオナの運命は?『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』が真正面から取り上げる「人種問題」
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4月20日に発売開始の『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』は、少数種族の問題を取り上げています。これは人間世界で言うところの「人種問題」です。

今作の中心キャラは、バンシーのリオナという女性。オペラ歌手になるという夢を抱いているリオナは、しかし心に大きな闇を抱えています。その理由は、彼女自身の出自に起因します。「バンシーだから」という理由でネットにアップした動画が炎上し、さらにつなぎの仕事すら失ってしまう……。

今作は前作に比べると、扱う問題がかなりセンシティブになっているようです。この記事では少数種族リオナの歩んだ悲しい道程から、現実の世界で起こっている問題を読み解いていきたいと思います。

作中に登場の「グルーバー」とは?

『コーヒートーク』の舞台は「雨の町」で知られるアメリカ・シアトル。しかしこの都市では人間以外にも様々な亜人が生活し、居を構えています。

亜人は人間と同じ公民権が保証されているものの、実は「亜人」と一括りにできない事情もあります。中には絶対数の少ない種族も存在し、普通に暮らしているだけで差別的な扱いに遭遇してしまうことも。

「人の死を予告する」と言われているバンシーは、文字通り被差別種族。そしてバンシーでありながらオペラ歌手を目指す女性リオナも、あらゆるところで壮絶な差別を受けています。

たとえば、バンシーは普段「グルーバー」というサービスのドライバーをしています。当初は車に人を乗せていましたが、リオナがバンシーというだけで客が怖がってしまい、理不尽なキャンセルが相次ぎました。辛うじて残ったのは、配送専門ドライバーの仕事……。

このあたり、日本人にはピンと来ないかもしれません。「グルーバー」とはUberのようなサービスと思われますが、Uberは元々ライドシェアサービスです。日本人もよく知っているUber Eatsは、ライドシェアから派生したサービスに過ぎません。従って、まずは「ライドシェアとは何か?」ということを解説する必要があります。

海外では常識の「ライドシェア」

まず、「タクシー」という乗り物の定義は何でしょうか?

それはタクシー業務を実施するのに必要なライセンスを取得しているか否か、ということです。日本に限らず、どの国でもタクシーは免許制。一般車がタクシーと同じような営業行為を行うと、いわゆる「白タク」として検挙されてしまいます。

ところが、Uberはスマホアプリで一般車両を任意の場所に呼び出し、格安料金でタクシーのように移動できる……というビジネスモデルを確立してしまいました。これは「ライドシェア」と呼ばれるもので、タクシー業界の反発を呼びつつも世界各国で広く受容されていきます。安くて早くてサービスの質もタクシーと変わらないのであれば、人々はタクシーではなくライドシェアを選びます。

さらにライドシェアは、都会に出てきて間もない人々に働き口を与える役割も果たします。会社のように労働契約を結ぶわけではないのでこれは「雇用」とは言えませんが、それでも報酬の出る仕事ということに違いはありません。リオナもそんなライドシェアのドライバーだった、ということがゲーム内で描写されています。

しかし、彼女は予約をキャンセルされることが多かったため、ライドシェアのドライバーとしては働けなくなった模様。

ライドシェアのドライバーは、利用者の評価により「その後」が決まります。低評価を重ねてしまえば、業務用アプリからバンされる仕組みです。リオナの失職も表面的にはそれが原因ですが、彼女の場合は上述の通りあらゆるところで差別と偏見に晒されています。彼女に非はまったくありません。

だからこそ、リオナは配送専門ドライバーとして(つまり人を乗せないドライバーとして)何とかグルーバーに留まることができたということですが……こ、これじゃあまりにもリオナが可哀想だ!!

差別を乗り越えた国連大使

しかし、現実のアメリカでもほんの少し前まで過酷な人種差別や人種隔離が存在しました。

国際ニュースでよく見かける、アメリカのリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使という人がいます。1952年生まれのトーマスグリーンフィールド大使は、ルイジアナ州ベイカー出身のアフリカ系市民。ここはかつて有色人種への差別が熾烈だった地域で、トーマスグリーンフィールド大使の生家の近所でKKK(クー・クラックス・クラン)が十字架を燃やす集会をしていたこともあったそうです。

そして、トーマスグリーンフィールド大使の出身高校は有色人種校でした。現代では考えられないことですが、当時のアメリカ南部州ではこのような人種隔離が広く行われていました。しかしトーマスグリーンフィールド大使は努力を重ね、何とルイジアナ州立大学に進学し、同級生や教授からの差別待遇にも負けず同大学を卒業します。まさにアメリカンドリームの塊のような人物です。

『コーヒートーク2』は、アメリカで実際にあった現実をそのまま反映しているようなゲームと言えます。「これってアメリカじゃなくてインドネシア製のゲームじゃないの?」と返されてしまうかもしれませんが、実はインドネシアもアメリカと同等か、もしかしたらそれ以上の多民族国家。出身地、民族、宗教の違いによる摩擦や差別の問題を常に抱えています。

「多様性の中の統一」

2017年、当時ジャカルタ特別州の知事だったバスキ・プルナマ氏(現地では“アホック”という渾名で呼ばれています)が宗教侮辱罪で禁固2年の実刑判決を言い渡された時、現地の華人は「この流れで自分たちが迫害されてしまうのでは」という恐怖に打ちひしがれました。

プルナマ氏は華人で、この人物がジャカルタ州知事として活躍すること自体を良く思わない人々がいたことは事実です。インドネシアの華人差別は今も根強いものがあり、プルナマ氏の従弟に当たる総合格闘技選手のマックス・メティーノ選手(筆者にとっての先生でもあります)がSNSで「我が国の国是である“多様性の中の統一”はどこへ行ってしまったのだ!?」と訴えかけていたことは忘れられません。このようなセンシティブな話をゲームメディアで書くのは、いささか気が引けてしまいます。しかし、『コーヒートーク2』はその問題から一切目を逸らさず、身体を正面に向けて取り組んでいます。

コーヒーの香り漂う店の中で、現実世界の深刻な問題をも映し出す『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』は、PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/ニンテンドースイッチ向けにリリース中。PC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com/Microsoft Store)向けに配信されており、Xbox Game Passにも対応しています。


《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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