『サイバーパンク2077: 仮初めの自由』ローカライズの立役者にロングインタビュー。CDPR本国の担当ディレクター&日本語ローカライズマネージャー西尾さんに濃厚な話を訊いた | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『サイバーパンク2077: 仮初めの自由』ローカライズの立役者にロングインタビュー。CDPR本国の担当ディレクター&日本語ローカライズマネージャー西尾さんに濃厚な話を訊いた

『サイバーパンク2077』のファンのみならず、ローカライズに少しでも興味のある方なら必読です。

連載・特集 インタビュー
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2023年9月26日、CD PROJEKT REDは2020年に発売したオープンワールドRPG『サイバーパンク2077』の大型拡張パック「仮初めの自由」をリリースしました。同作はリリース直後からSteamの売上ランキング上位に入るなど、大きな人気を博しています。

Game*Sparkではリリースを記念して、同作のローカライズに携わったローカライズディレクターのミコライ・シュフェト氏、日本語ローカライズマネージャーの西尾勇輝氏にロングインタビューを実施しました。

作品にまつわる話だけでなく、ローカライズに関する興味深い話が次々に飛び出した今回のインタビュー。『サイバーパンク2077』のファンのみならず、ローカライズに少しでも興味のある方なら必読です。

ローカライズ
外国語で作られたゲームを別の言語で遊べるようにすること。翻訳作業が中心だが、翻訳以外にもさまざまな調整が必要とされる。

――最初に、自己紹介をお願いします。

ミコライ氏(以下、敬称略)CD PROJEKT RED本社でローカライズディレクターを務めるミコライ・シュフェトです。『ウィッチャー2』の頃から13年以上在籍しています。

私は本社のローカライズチームをマネージメントし、最高品質のローカライズをお届けするために全体を管理する立場の人間です。各言語のプロジェクトマネージャーの上司であると同時に、ドイツ語の品質管理も行っています。

西尾氏(以下、敬称略)ジャパンチームのローカライズマネージャーの西尾勇輝です。日本語のローカライズに関しては、品質管理から収録のディレクション、マーケティングの翻訳も含めて細かいところまですべて私が見ています。

同じローカライズという肩書がついていますが、ミコ(ミコライ氏の愛称)と私は異なる部署にいます。

とはいえミコの部下であるプロジェクトマネージャーたちと私の仕事は似ているところが多く、上司と部下の関係ではありませんが、ミコにはチームの一員として接してもらっています。社内のコミュニケーションに関しても、他のローカライズ部員と同じチャンネルにいてミコと話をしながら進めています。ジャパンチームだけが独立部隊として隔離されているので複雑なんですね(笑)。

――お二人は、これまでどのような作品に携わってきましたか。

ミコライCD PROJEKT REDで初めて、ゲームの開発とローカライズに携わりました。それ以前はゲームに関わっていませんでしたが、フリーランスの翻訳者兼通訳として働いていました。

現場上がりなので、良いローカライズを実現するにはクライアントからベンダーの方々に有益な情報をお渡しして協力関係を結ぶことが大事だと理解しています。その意味で過去の経験は今も生きていますね。

具体的に携わったタイトルは『ウィッチャー2』以降弊社から出ているもののすべてです。『グウェント ウィッチャーカードゲーム』や『奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ』もそうですし、『サイバーパンク2077』と今回の「仮初めの自由」もそうです。

弊社ではメディアミックスも展開していて、Dark Horse Comicsさんから出ているコミックやアニメの「エッジランナーズ」のコーディネートにも協力しています。

西尾私の経歴は……思い出せないな(笑)。業界に入ったきっかけは、ローカライズベンダーのキーワーズ・インターナショナルへの入社です。当時はまだ小さい会社でした。

入社時にはトライアルと呼ばれるテストがあります。翻訳の例題が出されて、それに合格すると次は面接という流れですね。キーワーズ・インターナショナルではHDゲームからブラウザゲームまで、様々なゲームの翻訳をしていました。

そんな時、当時スクウェア・エニックスのEXTREME EDGESというラインナップの中でローカライズされていた『コール オブ デューティ ゴースト』でお声がかかったんです。その後、正式にキーワーズ・インターナショナルを辞める時にスクウェア・エニックスで働かないかと誘われました。

スクウェア・エニックスでは『ディアブロ III リーパー オブ ソウルズ』からローカライズを始めて、『ライフ イズ ストレンジ』、『オーバーウォッチ』とさまざまなタイトルを担当させていただきました(※編注: SQE在籍時の西尾氏インタビューはこちら)

『サイバーパンク2077』の一番最初のティーザートレイラーが発表されて日本語ローカライズに興味があったときに、CD PROJEKT REDでジャパン・カントリー・マネージャーをしていたのが本間(CD PROJEKT ジャパン・カントリー・マネージャーの本間覚氏)です。

ローカライズの業界は狭いので、当時から本間とは親交がありました。確か錦糸町で焼肉を食べている時に「本間さんが一人でローカライズするんですか?」と話をしたら、「西尾さんも一緒にやりますか?」という流れになって、CD PROJEKT REDに入社しました。

それからはほぼ『サイバーパンク2077』一筋ですが、『ウィッチャー3』の新クエストも手伝い、アニメにも協力しています。

――ローカライズという仕事を選んだきっかけについてお聞かせください。

ミコライ幼少期から言語に興味があって、学校でもいわゆる文系の分野が得意でした。以前はフリーランスの翻訳者として働いていましたが、当時は翻訳の分野とゲームが一緒になるなんて想像もつきませんでした。

もともとゲームは好きで、ずっとプレイしていましたが、CD PROJEKT REDに入ったのは偶然のようなものです。当時の弊社はドイツ語のローカライズに携わる人材を募集していて、「せっかくだからやってみるか」と応募したのがきっかけでした。

私は趣味と仕事を一緒にするのが一番大事だと思っています。そうした中で、気がつくともう13年経っていました。

西尾私は「そろそろ働かないとまずい」という状態になっていたのがきっかけです。8年間くらい大学に通っていたのですが……通っていたと言うと語弊があって、ずっとゲームばかりして大学に行っていませんでした。

もともと映像翻訳に興味があって、なんとなく映画や海外ドラマの字幕や吹き替えに携わりたいと考えていました。しかし、映像翻訳業界はとても狭き門で、経験者しか募集していなかったんですね。

当時のゲーム翻訳は今よりもっとオープンで、「やる気がある人ならどうぞ」という気骨のある会社も少なくありませんでした。その一つがキーワーズ・インターナショナルです。たまたまトライアルを受けてみたら合格して、そこからはとんとん拍子でした。

ミコとは違って会社は転々としていますが、それ以来ずっと同じ業界にいます。当時はここまでどっぷり浸かるとは思っていませんでした。本当に自信がついて、「これしかやりたくない」と思うようになったのは、『ライフ イズ ストレンジ』や『オーバーウォッチ』を手がけた頃からです。

――なぜ、その2作品で「これしかやりたくない」と思うようになったのですか。

西尾外部の評価が一つの要因になったと思います。この2作品の日本語ローカライズに関しては自分が考えていた以上に高い評価をしていただきました。

「自分の中で思い描いていた元のゲームの演出をそのまま日本の皆さんにお届けできた」という確信が芽生え、今後の作品でもずっとそのようなローカライズを届けたいと思うきっかけになりました。

――作品本来のゲーム体験をそのままプレイヤーに伝えられたという意味ですね。

西尾それが自分の中での「ローカライズ」ですね。翻訳とはまた違うニュアンスのローカライズです。

厳密に言うと、言語や文化が違う以上、本当に100%同じゲームプレイ体験をお届けすることは困難です。しかし、プレイしたときに得る感覚を日本のユーザーの皆さんにも同じような体験としてお届けしたい。それが自分の中にあるローカライズに対する根幹のポリシーだと考えています。

ミコライ我々は提供している全言語において、同じような体験ができるようにローカライズしたものをお届けしようと努力しています。単に翻訳するだけではなく、その地域や文化に合った、究極的に言えばその言語で作られたゲームであるかのような体験をしていただきたい。それがCD PROJEKT REDのローカライズの考え方です。

――『サイバーパンク2077』本編のローカライズについて、プレイヤーからはどのような反響がありましたか。

ミコライ日本語だけでなく全言語において、すべてポジティブなフィードバックをいただいています。自分が知る限りは、ですが(笑)。それができたのは、西尾のような地域のローカライズを管理している人間がいたからです。

『サイバーパンク2077』は『ウィッチャー』シリーズと異なり、架空のお話とは言ってもカルフォルニアの特定の一地域を舞台にしています。そのため、ゲームの根底に描かれる文化をどこまで日本語に翻訳するべきか判断しなければなりません。

日本語以外の言語にもその言語の文化があるので、ローカライズする言語ごとにケースバイケースで対応が必要になります。地域のローカライズを管理している人間がいるからこそ、そういった細かいところにも手が届くのです。

――翻訳するかどうかの判断を行った文化とは、具体的にどのようなものですか。

西尾例えば、カリフォルニアが舞台なのでメートル法は使っていません。あえて翻訳しないで、フィートやインチやマイルを残しました。

最初はさまざまな議論をしたのですが、会話の中やチップの形で見つかる文書の中でナイトシティの住人が話しているときは、あえてメートル法を避けています。「1.5マイル」と言われても日本人にはどれくらいの距離なのかなかなか伝わらないと思いますが、あえてマイルで伝えることを選びました。

また、これは見た目や好みの問題ではありますが、ユーザーインターフェース上でなにを英語のまま残してなにを日本語にするかといった判断も必要でしたね。

――本作にはサイバーパンクSF特有の世界観や文化が登場します。また、原作のテーブルトークRPGも存在しますが、日本語に翻訳する上でどのような工夫をしていますか。

西尾我々にとっては原作の『サイバーパンク2.0.2.0.』がバイブルとも言うべき拠り所になります。特に、用語においてはそうですね。ルールブックや関連書籍は過去に国内でも展開されていたので、手に入るものはローカライズを始める前に読み漁っていました。

テーブルトークRPGに関しては過剰なくらいルビが振られています。これはサイバーパンク文化の一つだと思っています。漫画だと必殺技の名前が漢字で書かれていても、実際にはカタカナのルビを読むことがよくありますが、それと似た感じですね。

サイバーパンクにおいてはこのような特殊な文化が顕著なのですが、ゲームではどうしても当時のテイストをそっくりそのまま再現することはできません。人間がフルボイスでひっきりなしに会話する中にあの表現をそのまま持ち込むと、さすがにくどくなります。

ですから、なるべく自然な会話、聞いていて違和感のない会話になるまで、そのような表現をあえて削ぎ落としていく必要がありました。

ミコライこれは『サイバーパンク2077』に限ったことではありませんが、弊社はポーランドの会社なので、テキストは最初にポーランド語で書かれます。それをまず英語に翻訳して、英語から各言語に翻訳していくのですが、ポーランド語から英語への翻訳は外注せずにすべて社内のイングリッシュ・アダプテーションという部署で翻訳しています。

そのディレクターのボリスが相当なこだわりをもって、自然な英語に翻訳するだけでなく、現代の我々が使っている言葉が50年経った2077年の世界でどのように進化しているのかまで意識してローカライズしました。

英語の『サイバーパンク2077』は特殊な書き方がされています。一つ一つの単語もそうですし、文法もテストで書いたら間違いだと言われるような書き方をあえてしています。その上で、原典の『サイバーパンク2.0.2.0.』も踏まえてローカライズしています。

西尾本当に面白いところですね。『サイバーパンク2077』ならではのやり方だと思います。

日本語の場合ですと、ルビを振ることができれば独自の造語を作っても自然に組み込めたかもしれません。しかし、フルボイスかつ膨大な量でそれを行うと、ただでさえ情報量が多いゲームなので、どうしても最初はプレイヤーの皆さんの理解が追いつかなくなってしまいます。

そのため、日本語に関してはそうした要素を削ぎ落としました。その代わり、死語と呼ばれるような少し古い言葉を使い、「2077年ではこの言葉がリバイブしてまたクールになっているんだ」という雰囲気を作ることで自然なSF感を出しました。

ミコライボリスがしたことを全言語で踏襲するのは難しいですね。スペインでは原作のテーブルトークRPGが非常に人気だったのですが、実はスペイン語でもサイバーパンクのレトロフューチャーな側面に焦点を当ててローカライズするという点では、日本語と同様の手法を採用していました。

どのように「サイバーパンクらしさ」を再現するかについては、言語ごとにさまざまな工夫があります。

西尾スペイン語と日本語が似たようなアプローチを取っていたことは私も知りませんでしたね。

それぞれの言語圏でサイバーパンクという文化がどのように根付いているのか、あるいはまったく親しみがないのかによってアプローチは変わってくるでしょう。その中で、各ローカライズ担当者の好みも生かされると思います。

――複数の翻訳者が共同作業で行う大規模なローカライズには、どのような課題がありますか。

ミコライ最終的には管理が最大の難関になります。

業界のトレンドは「一つの会社に全言語のローカライズを依頼する」という形です。その方が圧倒的に管理が楽なんですね。一つの協力会社に一人の窓口担当がいて、クライアント側から窓口にすべてを渡すと窓口の方で各言語の担当者に振り分けてくれるのです。特に、大型ゲームでは一般的で、ある意味理にかなったやり方だと思います。

ところが、CD PROJEKT REDは流行に逆行していて、各言語ごとに違うパートナーと組んでローカライズしています。管理は難しくなりますが、難しさに見合うだけの成果があると考えています。

一つの会社にお願いすると、やり取りするのはその窓口担当だけになってしまいます。しかし、我々には各言語のプロジェクトマネージャーがいるので、彼らが各言語の窓口担当だけでなく、翻訳、レビュー、キャスティング、LQAなどの各担当とやり取りして作品の質を高めることができます。

そうして密にコミュニケーションをとることで、作品に協力してくれている会社だけでなく個人の方々も情熱を持って、愛を持って我々の作品に接してくれると考えています。

ただし、これを実現するには、どうしてもローカライズのプロジェクトマネージャーの力、個人個人の才能、仕事に対する情熱が必要になります。そういった点も含めて最大の難関だと思います。

レビュー
翻訳業界においては、原文と訳文を読み合わせて、意味が離れていないか、誤字・脱字がないかをチェックすることを指す。

LQA
翻訳業界用語。ローカライズをゲームに実装して正しく表示されるかをテストすること。Linguistic Quality Assuranceの略。

西尾私の中ではスケジュールが課題ですね。大規模な作品になればなるほど、しばしば物量に圧倒されますから。20代の頃なら無茶ができたのですが、アラフォーになってなかなか体が無茶を許さなくなってきました。もちろん、チームや協力してくれている方々の健康状態も気にかけなければなりません。

「時間をかければかけるほど良いものができる」というのは確かに真理なのですが、ビジネスである以上、そこはある程度折り合いをつける必要があります。納期という概念もありますし、日本語だけが遅れて開発チームに迷惑をかけるわけにはいきません。

AAAタイトルになるとそうした管理が難しくなるときがあります。そのバランスを取るのが私の仕事で、一番嫌いで一番難しく感じるところですね(笑)。逆に、「このセリフはどう翻訳しよう?」とか、「このシーンはどんな演技にすれば良くなるかな?」と考えるのはまったく苦にならないので、いくらでも時間を費やせます。

一つのプロジェクトを完成させようとすると人材やスケジュールの管理が難しくなってくるのですが、私一人ではなくミコや本間とも協力しているので、なんとかこうして形にできました。

ミコライローカライズは、ゲーム開発作業の工程の中でも最後の方にあるんです。ストーリーやクエストを作る人たちが作業を終えないと、我々は作業を始めることすらできません。前の作業が遅れたら我々の作業もそれに応じて遅れるわけですが、どこかに締め切りがある以上、そのしわ寄せは大体最後の方に来ることになります。

そういう意味で、ローカライズは一番スケジュールのしわ寄せが来やすいところだと思います。これは我々だけでなく業界全体に言えることです。これはもう致し方ないので、その中でなんとかやりくりしています。

――意地悪な質問ですが、締め切りまでに「作品本来のゲーム体験をそのままプレイヤーに伝える」ローカライズが実現できない場合はどうしますか。

ミコライまず、大前提ですが、そうならないように他の部署とも協力して、すべての部署が自分の担当する仕事に十分な時間を確保できるよう管理しています。

それでもどこかでしわ寄せが来て、おっしゃるようなジレンマが起きてしまうことはあります。そのような場合は「なにがユーザーにとって一番重要なのか」を判断して、それを優先します。我々のゲームではメインのストーリーアークが一番重要ですね。

その上で、例えば街中の一般NPCの会話やリアクションの優先順位を下げます。もちろん、そうしたものがゲーム世界を形成する上で重要な要素であることは否定しません。

我々はこれまで実際にローカライズが原因で延期したことは一回もありません

しかし、仮にそのようなしわ寄せが来て時間が足りず、「プレイヤーに最高の体験をお届けできない」と判断した場合は、会社全体を通して延期するかどうかの判断をすることになります。一つのオプションとして、中途半端なものを出すくらいなら、原因がローカライズにあったとしても延期を選ぶ可能性はあります

我々はローカライズもゲームの中で大きな役割を担う分野だと考えています。仮に、スケジュールの関係上さまざまな言語で問題が起きてしまった場合は、我々の判断だけで延期はできませんが、会社として延期の方向に持っていく流れになると思います。

テキストやボイスの量で比較すると、今回の「仮初めの自由」は『ウィッチャー2』のゲーム本編よりボリュームが大きいのです。実際、『サイバーパンク2077』本編のときはかなり大変でした。しかし、本編に比べて「仮初めの自由」は余裕を持ったスケジュールでローカライズできました。

プロジェクト名だけ発表している「Orion」など、今後登場するさまざまなプロジェクトがありますが、「仮初めの自由」のローカライズの流れをひな形として基礎から作り直していきます。

――大規模ローカライズでは、予算やコストにどのような課題がありますか。

ミコライ最大の難関は、対応言語とゲームの規模感がある程度わかっているだけの開発初期段階で、最初の全体予算を作ることです。我々のゲームは対応言語の数が多いので、過去のデータや計算の基準を駆使しても正解が導けるとは限りません。

そして、我々の悪い癖ですが、最初の企画通りに行くことはまずありません(笑)。

最終的にはゲームの内容がどんどん増えていって、ローカライズの規模も大きくなっていきます。それに応じて必要なお金が増えていくので、コストを管理するのは大変ですね。どんどん膨れ上がる内容を追いかけ続ける必要もあります。

西尾これは全言語を管理しているミコならではの役割で、私はあまり携わっていません。「大変そうだなあ」と傍観しているくらいです。

ミコライさきほどお伝えした通り、我々には各言語のローカライズを担当するプロジェクトマネージャーがいて、それぞれの言語ごとに協力会社がいます。そのため、我々が確保した予算がそこで効率良く使われているかを管理する必要も生じます。

また、ストーリーのディレクターやクエストのデザイナーがゲームの内容を追加するときに、全言語の予算を管理している私がどこかでストップをかけなければなりません。「それ以上追加するとこれだけお金がかかるよ」とコストを提示する必要があるのです。

予算を超えて内容を追加するには、執行役員やゲームのディレクターといった我々よりもっと上の人間の承認が必要になります。『サイバーパンク2077』を開発する中で何回も想定を超えてボリュームが大きくなる経験をしましたが、幸い今まではすべて上の人間が「OK」と言ってくれたので現在のゲームが実現しています。

例えば、「仮初めの自由」でクエストチーム側から「こんな内容のセリフを追加したい」と要望があったときに、私の方でコストを計算したことがあります。すべて追加したら確実に予算をオーバーすることが判明したので、「いくつの言語に向けて翻訳するか、わかってる?」と答えました。

こういうときはもっとクリエイティブに、「セリフは少し減らすけど、こう工夫したらどう?」といったやり取りをしながらできることをしていきます。

西尾それはミコならではの、全体を見ている人ならではの苦悩ですね。言ってみれば、少し面倒くさいところだと思います。逆に、私にはそういった煩わしさはありません。私の役割はどちらかと言えば、ローカライズの単価を抑えることです。

日本語はローカライズにあたっての単価が高いんですよ。吹き替えに必要なキャストの費用など諸々含めると他の言語に比べてかなり高い方です。ローカライズに一番お金がかかっているのは間違いなく英語ですが、単価の高さで見ると日本語と中国語がトップクラスなんですね。もちろん、それに応じて日本の声優さんたちの技量は高いので、納得の上で採用しています。

例えば、単価が高い分、日本の声優さんはさまざまな声色を扱える人が多いので、他の言語に比べて兼役を多めに取っても作品に悪い影響を与えることがありません。そういうところで少しずつ予算を抑える工夫をしています。また、すべての翻訳を外注するのではなく、できるところは私が全部翻訳してしまいます。

「塵も積もれば山となる」ではありませんが、このように本社が日本に使うお金をなるべく減らす努力をしています。同時に、マーケティングやPRでは日本独自の予算を使って日本ならではの施策を行い、コミュニティの皆さんのためにお金を使う工夫をしています。

ゲーム開発のビジネスにおいては、「日本語はコストがかかりすぎるから吹き替えの対象から外そう」といった判断がないわけではないので、そうならないよう我々の方でも努力しています。仮にそうなったとしても、ミコは絶対我々のために戦ってくれると思いますが(笑)。

兼役
声優業界において、メインの役とは別に他の役を演じること。かねやく。

――兼役はどのように用いられていますか。

西尾主人公に関しては基本的に兼役をしてもらわない方針です。『サイバーパンク2077』の場合はVですね。

ただ、本編で街中に流れる広告の声を収録していたとき、呼べる声優さんが足りない状況になって、Vを担当している清水理沙さんにいくつかお願いしたことはあります。よく聞くと理沙さんの声が流れています。プレイしていて、それが理沙さんとは気づかないかもしれませんが。

ミコライドイツ語は声優の数が非常に多かったですね。クオリティを犠牲にしないためには声優さんの技量が重要で、工夫しているところです。他のゲームでも兼役という概念は決して珍しいことではありません。

――本作のローカライズでは、翻訳以外にどのような課題がありましたか。

ミコライプロジェクトごとにそのプロジェクトならではの課題が見つかるのですが、『ウィッチャー3』以来マルチバイト文字とリップシンクの問題がありました。

日本語と中国語に特有のマルチバイト文字はアルファベットに比べて1文字の容量が大きいので、メモリにずっとロードしているとメモリを消費しすぎてゲームがクラッシュしてしまいます。

『サイバーパンク2077』の開発にはこれまでの経験が生かされていて、定期的にゲーム内で使用されている文字をスキャンして、その文字しかロードしない仕組みを作りました。これはとても便利ですよ。

西尾インディーゲームで見たことあるかもしれませんが、ローカライズする際に対応外の漢字を使うと文字化けして四角で表示されてしまうことがよくあります。

その問題が『サイバーパンク2077』にはありません。余計な文字をロードしなくて良いので無駄がないうえ、文字化けをチェックするストレスからも解放されました。

ミコライ『サイバーパンク2077』ならではの課題として、音声はそのままに字幕だけが原文から刻一刻と翻訳されて表示される仕組みがあります。特に、英語を喋らない、クレオール語しか喋らないキャラクターのセリフをキロシ光学の自動翻訳を通して聞くときに顕著ですね。

あれはスクリプトファイルの中に特殊なタグを入れて実現しています。新しいチャレンジだったので、翻訳者の方々がタグの取り扱いを間違えることもありました。よくあったのは、英語とクレオール語が混じっているときに途中にタグを入れると機能しなくなる問題です。そういうときはケースバイケースでプログラマーの人たちが対応してくれました。

リップシンクに関しては、「JALI」という新技術の導入もあって『サイバーパンク2077』では自然になりました。それでも、セリフに数字や特殊記号が入るとリップシンクが壊れたり、生成されなくなったりします。そういう場合は、手動でバグを報告して直してもらいました。

西尾本編のときは、本間がセリフをリップシンク用に一括してひらがなに変換していました。例えば、半角数字と漢字で「1個」と表記するとバグが発生することがあるので、わざわざひらがなで「いっこ」と表記したリップシンク用のファイルを作るんです。

『ウィッチャー3』と『サイバーパンク2077』の本編まではその作業をしていたのですが、「仮初めの自由」ではいつの間にかシステム側が改善されていて、自動的に変換されるようになっていました。

自動的にリップシンクのエラーを検出する機能もあって、そこでエラーが出たストリングに対して修正を行っていきます。その上で実機プレイで確認するのですが、どうしても正しく動かないことがあるんですね。そんなときは原因がわからず手動で直すしかないので、バグを登録して担当の人に直接修正してもらいます。

西尾面白かったのが、4年前の「東京ゲームショウ2019」で行ったデモです。来場していただいた皆さんにヴードゥー・ボーイズのプラシドとの一連のクエストをお見せしたのですが、そのデモ用のビルドをローカライズしていたときのことです。

リップシンクは今と同じ技術を使っていて、それが初めてJALIを見るときでした。最初は私と本間で確認していて、まったく問題なさそうだと思っていたら、開発からリップシンクが英語のままだと指摘されたんです。

「合っているように見えるのに?」と当時は非常に驚きました。そのあとすぐに日本語に切り替えてもらったところ、今皆さんが製品環境で見ている自然なリップの動きになったんです。

リップを自動生成する技術は以前からありましたが、あそこまで精度が高いものは初めてです。パクが合っているだけで満足していたら、きちんと口の動きが母音に合わせて動くようになっていたのにはとても驚きましたね。

パク
声優業界用語。喋っているときに動いている口のこと。口パク。

ミコライ最終的にはどうしても技術的な問題が残りますが、リップシンクにはそれ以上のメリットがあります。自動生成を行うことによって、翻訳の段階で尺をあまり気にせずにすみますし、声優さんの演技の自由度も増えます

例えば、洋画の吹き替えと同じようなやり方ですと、パク余りを気にしなければなりません。役者さんの口が動いていないときは喋れませんし、口が動いているときにすべてのセリフを収めなければならないのです。

その制約に合わせてローカライズする美学もあるのですが、我々は逆に自由度を導入することでクリエイティブにローカライズできるようにしました。このメリットは大きいですね。

そして、スケジュールという意味でもメリットは大きいです。完全に固定のパクに合わせて収録すると2倍以上の時間がかかりますから。逆に言えば、「ある程度の尺で収まればOK」というやり方ならスピードは倍になるのです。我々のように物量が大きいタイトルにとって、このような技術の進歩は非常にありがたいですね。

西尾それぞれの言語に合ったリップシンクは見栄えも良いですね。個人差はあると思いますが、私はゲーム内でパクのズレがあると気になってしまうタイプです。これは職業病みたいなものですが、そういった問題も回避できるのは良いところだと思います。

――西尾氏は映像翻訳を志していたそうですが、その立場から見て、現在のリップシンク技術は吹き替えを考慮した翻訳が不要に思えるほど進歩していると考えられますか。

西尾難しいところですね。『サイバーパンク2077』の中にも比較的自由に翻訳できるシーンがある一方、特定のアニメーションと連動する関係上、パクと合わせなければならないシーンやタイミングを合わせなければならないシーンが存在します。そのようなシーンはいわゆる映像翻訳、映像の吹き替えと同じ手法になります。

さきほどお伝えした通り、映像翻訳には「制限がある中でいかにニュアンスを伝えるか」という美学があるんですね。上手くできたときの達成感もあります。

それを否定する気はまったくありませんが、『サイバーパンク2077』の中ですべてをパク固定で翻訳しろと言われたら、規模が規模だけに私は逃げ出すと思います。ですから、そこはバランスの問題だと思っています。

本編の中でテレビのモニターに出てくるニュース番組やインフォマーシャルがありますが、あれはプリレンダーの、事前に生成された映像なので、パクは固定なんです。ですから、いわゆる洋画吹き替えと同じやり方でローカライズしているのですが、やはり自動生成でパクを合わせた方が良く見えるんですね。見た目の問題なので。

ミコライなんなら英語でもちょっとズレている(笑)。

西尾あくまでもゲームという媒体においては、自動生成を否定する意味はもうないと思いますね。

――機械翻訳(自動翻訳)などのAI技術をローカライズに応用していますか。

ミコライ機械翻訳に関しては『サイバーパンク2077』では使用していません。個人的にはAI技術の使用を真っ向から否定しているわけではなく、使いどころ次第だと考えています。例えば、手書きの脚本をベースに作られているメインストーリーの非常に感情的なシーンは、翻訳も手書きで行われるべきでしょう。

一方、さきほどのリップシンクの例のように、よりクリエイティブなことに時間を費やす目的で、今後ディープラーニングや機械翻訳を使用するケースが出てくる可能性はあります。しかし、現時点ではそのようなことはしていません。

翻訳以外でAI技術を使用している例を一つご紹介しましょう。リパードクのヴィクター・ヴェクターの吹き替えを担当していたポーランド語版の声優の方がお亡くなりになったのですが、ヴィクターは今回の「仮初めの自由」でも再登場します。

再登場するにあたり、いわゆるボイスクローニングと呼ばれるAI技術を使って、元の声優さんの声を再現しました。新しい別の声優さんの演じた声を収録して、その声をAIで元の声優さんの声に近づけているのです。

ただし、AIの使用に関しては倫理的な問題と法的な問題がまだ整理されていません。ですから、とても慎重に行う必要があります。ヴィクターに関しては、遺族の方々と新しい役者の方からの同意・承認を得た上でAIを導入しています。

AI技術の使用は日本でも世界でも役者の方々から懸念の声が上がっている問題です。今後、仮にCD PROJEKT REDがAI技術をボイスという媒体に使用していくならば、役者の方々をAIで乗っ取るのではなく、彼らが提供する声そのものをいかに向上させて、ゲームの中に生かしていくか、もっと良いものにしていくかという方向性になると思います。

西尾社内でもそのような話は出ていますが、現段階では使用していませんし、使用するとしても声優の方々にとって絶対に不利益が出ないようにしていきたいと考えています。

ミコライ誤解のないように補足しますと、今お話したのはあくまでも最終的に世に出回る製品版での話です。本格的な開発に入る前の段階、いわゆるプリプロでは我々の中でも機械翻訳を十分に活用しています。

さきほどお伝えしたように、最初はすべてポーランド語で書かれるのですが、本社のプログラマーやデザイナーの中にはポーランド人ではない人間も大勢います。なるべく早く英語に翻訳しないと作業が進まないので、仕様書やゲーム内のちょっとしたコメントも全部自動的に機械翻訳される仕組みを作って現在試しています。これはあくまでも社内用ですね。

また、本当に開発初期の段階では、「一応セリフは書かれているが、まだ収録していない」という状況もあります。そういうときは、シーンの流れや会話のテンポ感をつかむためにText to Speech、いわゆるテキストの自動読み上げ技術を使用して仮の機械ボイスを入れることもあります。

西尾国内では機械翻訳はほとんど使用していません。しかし、内部の人間の間で社内の共有資料をやり取りする程度であれば、私も機械翻訳を使って構わないと思います。むしろ、それで節約した時間を他のクリエイティブな場所に費やせるのであれば反対しません。

ボイスクローニングに関しては私もまだ十分に勉強できていないので、安易な意見を述べることは避けます。技術としての可能性は大きいと思うので、活用するにしても会社全体でベストなアプローチを考えていくことになるでしょう。

あ……厳密に言うと私も機械翻訳を使っている箇所がありますね(笑)。

さきほどからお伝えしている通り、最初にポーランド語で書かれて、英語を経由して他の言語に翻訳されていくのですが、たまに我々の方でも英語がなにを言っているのかわからないときがあるんです。

英語を見て「どちらの意味なんだろう?」とか、「ニュアンス的になにを指しているのかわかりづらいな」と困ったときは、ポーランド語の原文をGoogle 翻訳やDeepL翻訳で英語に翻訳して英語同士を比較します。

『サイバーパンク2077』では顕著なのですが、人間が翻訳した英語は色付けされて出てくるので、機械翻訳された英語の方が端的に意味を捉えていることが多いんですね。ですから、色付けされた英語の真意を突き止めるために、私個人の中で完結する機械翻訳を使うことはあります。

その場合でも、日本語には翻訳しません。英語に翻訳して見比べるだけです。これはあくまでも私がローカライズするにあたっての個人的なやり方ですが、おそらく本間も似たようなことをしていると思います。

――インディーゲームにおいて顕著ですが、ローカライズの質をあまり重視しないプレイヤーは少なくありません。ローカライズのプロとしてどのような印象を持たれていますか。

ミコライローカライズの質を重視しないプレイヤーがいること自体は、まったく当然のことだと思います。インディーゲームにおいて顕著だと思いますが、そもそもストーリーに重点を置いていない、他にゲームの良さを追求しているタイプのゲームでローカライズがそこまで重要視されないのは理解できます。

インディーゲームの会社は我々とは事情が違い予算とリソースに制限があることが少なくないので、ローカライズ以外にお金を使うのは普通のことでしょう。我々はストーリーファーストでナラティブドリブンのAAAゲームを作っているので、ローカライズを犠牲にするとそもそもゲーム性そのものが失われてしまいます。

そういった人材や予算に限りのあるインディーゲームだからこそ、AI技術の導入は我々とは別の意味で大きな利益をもたらすかもしれませんね。

ただ、ローカライズのプロとして一つ言えるのは、ローカライズの品質が良いに越したことはないということです。

その質を気にしないプレイヤーがいるのはおっしゃる通りですが、気にするプレイヤーもいるわけです。良いローカライズをしないことで気にするプレイヤー層に訴求できていないわけですから、もしかすると大きなマーケットを失っているかもしれません。それを踏まえた上で、良いローカライズをするに越したことはないと思います。

また、開発の段階でローカライズしやすい作りにする努力も必要です。お金も時間もかかりますが、インディーの方々が今後別のマーケットに展開していく中で、そのような基盤を作ることは絶対利益になると思うので、ぜひ検討してください。

西尾私もほぼ同じ意見ですね。ローカライズを気にされないプレイヤーやアクション主体のゲームであれば、言語という概念はゲームを楽しむにあたってさほど重要視されませんし、私もそういったゲームをプレイすることはあります。

ミコが言ったように、「ローカライズの質を気にしない方々がいるからといって、気にする方々をないがしろにはできない」というのが私個人の考え方です。

ローカライズの質が良いからといって気にしない方々がプレイしなくなるわけではありませんし、逆に、ローカライズの質が悪ければ気にする方々を失うだけです。質を気にしない方々がいるからといって、ローカライズがどうでも良いかといえば絶対そんなことはありません。ビジネス面でも、ローカライズにコストをかけないメリットはないと思いますね。

我々がCD PROJEKT REDである以上、ストーリーがゲームのほぼすべてと言っても過言ではないので、ローカライズで手を抜くとプレイヤーは我々の売りとする体験が出来なくなってしまいます。ですから、我々は絶対に手を抜きません。

もちろん、ローカライズの質を気にしないプレイヤーを否定することはありません。それはそれで良いと思いますし、そういったゲームをプレイされることも理解できます。

しかし、だからといってローカライズしないとか、AIに任せるとか、適当にやって良いという理由には決して繋がりません。我々開発側あるいはプロのローカライズ担当としては、それはただの機会損失でしかありません。ナンセンスとしか思えないというのが正直な意見ですね。

――最後に、本作のプレイヤーと将来ローカライズの仕事を志す方にメッセージをお願いします。

ミコライまず、プレイヤーの皆さんには「仮初めの自由」をぜひ楽しんでいただければと思います。開発チーム、ローカライズチームともに本当に情熱を注いで作り上げたものですので、皆さんが「楽しい」と言ってくださることが我々にとっての一番の幸せです。よろしくお願いいたします。

日本語のローカライズも今までの最高傑作と言っても過言ではないくらいに力を入れています。ぜひ、日本語でも楽しんでいただければと思います。

そして、今後ローカライズの業界に入りたいと思っている方は、まず自分の中で業界に入ってなにがしたいのかを明確にすることがとても重要だと思います。本当に翻訳の道に進みたいのであれば、フリーの翻訳者という道もありますし、インハウスと呼ばれる会社勤めの翻訳者という道もあります。

あるいは、私のようにプロジェクトマネージャーという役割を担うこともできます。その場合は翻訳者とは異なるスキルが要求されます。管理能力、コミュニケーション能力、問題解決能力、そして各ツールの知識がどうしても必要になります。Excelの知識も必要です。

西尾我々にとってはExcelが神なので、Excelがないと死んでしまうのです(笑)。

ミコライもう一つの大きな道はLQAのテスターとして始めることです。テスターは求人がとても多い職種ですし、業界の入り口としても最適です。作業を通してゲーム業界の全体的な流れを知ることができる上、同時に言語的なスキルも身につきます。

西尾私もLQAから始めるのはとても良い、理にかなった入り方だと思います。バイトで雇っているところもあるので始めやすいですしね。いきなり正社員として業界に入るのに抵抗がある場合は、アルバイトとして期間限定で触れてみても良いと思います。

「仮初めの自由」に関しては、『サイバーパンク2077』の一つのタイトル、一つのIPとしての集大成だと考えています。ここに至るまで本当にさまざまなことがありましたが、ようやくその真の姿を皆さんにお見せできます。ぜひ期待してください。そして、楽しかったらぜひ、X(旧:Twitter)などで感想をお寄せいただければと思います。

業界に関しては、人手不足の業界なので誰でも歓迎なのですが、ミコの言った通り、まずは自分の中でなにをしたいのかを明確にした方が良いと思います。

「どうぞ来てよ」と言いたいのですが、「もしかしたら、皆さんが思っている以上に厳しい環境かもしれませんよ」ということも同時にお伝えしなければなりません。「そんなに気軽にできるもんじゃないよ」とまでは言いませんが、最終的にどんなキャリアを進みたいのか、具体的にどんなことをしたいのかは明らかにしておいた方が良いですね。

例えば、マネジメントをしたいのか、翻訳に集中したいのか、あるいは音声の吹き替えのディレクションをしたいのか。道はさまざまです。もちろん、それらを総合的に行っている私のような人間もいますが、それぞれ専門的に行っている人たちもいらっしゃいます。

自分がなにをしたいのかをまず見極めた上で、それに沿った最適なアプローチを採れば良いと思います。

私はX(旧:Twitter)のDMを開放していますので、ローカライズに関してなにか知りたいことがあれば聞いていただいて構いません。ゲームに関しては答えられないことの方が多いですが、ローカライズに関してなにかアドバイスが欲しいときはいつでも聞いてください

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

《FUN》

遊ぶより創る時間の方が長いかも FUN

元ゲームプログラマー。得意分野はストラテジーゲーム。ゲームライターとして活動する傍ら、Modの制作や有志日本語化に携わっています。代表作は『Crusader Kings III』の戦国Mod「Shogunate」。

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