
1999年12月16日に、SNKからPS1向けソフト『クーデルカ(KOUDELKA)』が発売されました。本作は、19世紀末のイギリス・ウェールズ地方に佇むネメトン修道院を舞台としたゴシックホラーRPGです。
スクウェア(現スクウェア・エニックス)を退社した音楽家の菊田裕樹氏らが設立した新会社「サクノス」のデビュー作であり、のちに根強い人気を誇ることになる『シャドウハーツ』シリーズの前日譚(原点)としても知られています。

プレイヤーは、主人公の少女クーデルカ・イアサントを操作して、修道院の深部へと踏み込んでいき、不気味な「ネメトン修道院」に隠された恐ろしい秘密を暴き、そこから生きて脱出することを目指します。
特徴としては、3Dモデルのキャラクターを操作して不気味な修道院内を探索する、『バイオ』ライクなサバイバルホラー形式(固定カメラ・ラジコン操作)と、シミュレーションRPG風のマス目(グリッド)上のターン制シミュレーションバトルを融合させた独特のしシステムを採用していることです。

また、ファンタジー色が強かった当時のJRPGとは一線を画し、「クトゥルフ神話」や「ケルト神話」、切り裂きジャックといった歴史的事件などをモチーフにした独自のアートスタイル、そして暗く重厚なストーリーが展開されます。
さらに本作は、モーションキャプチャや実力派声優による演技・音声を早期に取り入れたシネマティックな演出や、重厚なゴシックホラーの世界観も他にはない存在感を放っていました。

本稿では、タクティカルRPGとサバイバルホラーを融合させた挑戦的なゲームシステムを紐解き、そのかつてない面白さと魅力を振り返りつつ、本作が『シャドウハーツ』へとどのように受け継がれ、発展していったのかという歴史的系譜を検証したいと思います。
◆SRPG×サバイバルホラーが生む過酷なゲームプレイと唯一無二の魅力

本作の戦闘システムは、ターン制のグリッド式移動を採用したシミュレーションRPG(SRPG)の形式を取っています。戦闘画面はマス目で区切られており、プレイヤーはキャラクターの配置や移動距離、攻撃範囲を計算しながら行動を選択していくことが重要であり、ここに面白さが詰まっています。

一般的なSRPGが多対多の戦術的な駆け引きや自軍の育成を主眼とするのに対し、本作ではこのシステムが「サバイバルホラー」特有の緊迫感とジレンマを強調する仕掛けとして極めて効果的に機能しています。

リソース管理の厳しさとグリッド配置の緊迫感
本作における弾薬や回復アイテム、そして武器の耐久度はきわめて厳しく制限されています。近接武器には使用回数による「耐久度」が存在し、銃器類を使用する際には弾薬を消費します。
暗く狭い修道院の内部で敵と遭遇した際、プレイヤーは限られたマス目の中で敵との距離を絶えず意識しなければなりません。
間合いを詰めて耐久度の低い近接武器でリスクを負いながら戦うか、それとも弾薬を消費して安全圏から射撃を行うか、という判断は、常にリソース枯渇の恐怖と背中合わせです。マス目を進む一歩一歩の思考が、サバイバルホラー特有の切迫感へと直結しています。

育成の自由度と死角から迫るリスク
戦闘を重ねることで向上する「武器熟練度」と、レベルアップ時に獲得するポイントを自由に割り振る「ステータス育成」も本作の重要な要素です。
プレイヤーの育成方針によって、物理攻撃特化や魔法特化などキャラクターの役割は大きく変化します。
しかし、特定の武器種や戦術に依存しすぎると、その武器が破損したり弾薬が尽きたりした際に一気に詰み状態へと陥るリスクを抱えます。
重々しい行動モーションやテンポの緩やかさは、単なる操作感の硬さではなく、未知の異形に対峙する際の「思い通りにいかない恐怖」を増幅させ、盤面上の緊張感を常に高め続ける役割を果たしています。

『クーデルカ』のダンジョン探索は、言わずと知れたサバイバルホラー『バイオハザード』のオマージュと独自のアイデアが融合した、極めて緊迫感のある構造が特徴。
舞台となるネメトン修道院のマップは、複雑に入り組んだ階層と施錠された扉が行手を阻む、迷宮のような構造。プレイヤーは固定カメラアングルで描かれた不気味なマップを巡り、あちこちに隠された「奇妙な鍵」や「特殊なレリーフ」など、絵画や日記に残された謎解きのヒントを頼りに仕掛けを解き明かしていきます。

この探索と解錠を繰り返して行動範囲を少しずつ広げていくカタルシスは、まさに『バイオハザード』特有のゲームデザインを踏襲したものです。

しかし、本作が決定的に異なるのは、このシステムにRPG特有の「ランダムエンカウント」が融合している点でしょう。『バイオ』では敵の配置がある程度固定されているのに対し、『クーデルカ』では謎解きのアイテムを探して同じ廊下を行き来する最中にも、突如として異形の怪物とのエンカウントが発生します。
移動するだけで武器の耐久度や弾薬が削られていく「かもしれない」恐怖のなか探索する緊張感こそが、本作ならではの醍醐味であり、独自のプレイフィールになっています。
◆『クーデルカ』から『シャドウハーツ』へ受け継がれたもの

本作が紡いだダークで悲劇的な物語は、2001年にアルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)より発売された、PS2向けRPG『シャドウハーツ』へと直接的に継承されることになります。
継承・昇華された要素は、ストーリー(世界観)、システム、演出・キャラクターの3つの側面から多岐にわたります。なぜなら開発チームが共通しているためで、『シャドウハーツ』は『クーデルカ』のDNAを色濃く受け継いだ正統派の精神的続編(かつ直接的な後日談)とも言えるでしょう。
以下、『クーデルカ』のエンディングに関するネタバレがあるのでご注意ください。

たとえば、『クーデルカ』には、プレイヤーの行動や戦闘結果によって変化するマルチエンディングが採用されています。
物語の終盤、特定のキーアイテムである「クーデルカのペンダント」を入手した状態で、最終ボス「エレーヌ」との戦いに敗北すると、ジェームズが自らを犠牲にしてエレーヌを道連れにし、クーデルカとエドワードだけが生き残るバッドエンディングを迎えます。

しかし驚くべきことに、続編である『シャドウハーツ』の物語は、この『クーデルカ』のバッドエンディング後の世界を「正史(公式な歴史)」として起算しているのです。
つまり、前作における主人公たちの敗北、絶望、そして破滅の痕跡が、そのまま次の時代の引き金となります。一見すると救いのないバッドエンドを続編の出発点に据えるという試みは、世界観全体の根底にある「抗えぬ運命」や「退廃的な美徳」をさらに決定づけました。
悲劇の結末を次回作の出発点にしてしまう、大胆な発想と壮大な構造は、当時のJRPG市場においても唯一無二の存在感を放っていました。

一方で『シャドウハーツ』には、前作の舞台となったネメトン修道院の跡地や関係者が重要人物として登場します。主人公クーデルカ自身のその後や、彼女の息子であるハリー・プランケットの存在、さらには「サクノスの剣」や「エレーヌの書」といった共通するアイテムの存在が、両作の歴史的連続性を証明しています。
また、『クーデルカ』で描かれた暗黒の儀式や禁忌の術法は、『シャドウハーツ』の世界における魔術やオカルティズムの背景として緻密に組み込まれており、単なるファンサービスを超えた世界観の深さを表現していました。
◆時代を先駆けた異端のホラーRPG

1990年代末のプレイステーションを含めた市場は、3Dグラフィック技術の発展とともに、より成熟した作品表現を模索する過渡期にあたります。
そのトレンドの中で発売された『クーデルカ』は、単なる恐怖体験にとどまらない、大人のためのファンタジーとして異彩を放っていました。

本作で体験できる大いなる緊張感と静寂の恐怖は、『シャドウハーツ』へと受け継がれる過程で大きな変容を遂げました。
一例を挙げると、『シャドウハーツ』では「ジャッジメントリング」という、シリーズを象徴するシステムが登場します。これは、回転する円盤(リング)の針(インジケーター)に合わせて、タイミングよくボタンを押すことで行動が決定するシステム。いわゆる「目押し」のようなコミカルな要素が導入され、ゲームプレイとしての爽快感や大衆性が大幅に強化されました。

多くの要素が改善・昇華される一方で、その根底にある「近代史とオカルティズムの融合」という核心部分はブレることがなかったのが素敵なポイントです。
『クーデルカ』の持つストイックなホラー性が存在したからこそ、『シャドウハーツ』シリーズの持つ独特のダークファンタジー世界が成立したと言えます。

結果的に本作は、ジャンルの垣根を踏み越えようと果敢に挑戦し、時代に先駆けた実験作だったと言えます。SRPGの思考性とサバイバルホラーのリソース管理という二つの異なるベクトルを融合させた試みは、当時のプレイヤーに強い困惑と同時に深い感銘を与えました。
だこらこそ『クーデルカ』という作品は、今なお愛され続けゲーマーの記憶に残っているのではないでしょうか。













