
Embark Studiosが手掛ける脱出シューター『ARC Raiders』が人気を博しています。本作はいわゆる“タルコフライク”のひとつ。ARCという殺人マシンが横行する地上にて、仲間レイダーと協力したり、あるいは他のレイダーに倒され戦利品が奪われたりするPvPvEエクストラクションシューターです。PvPならでは“プレイヤー同士で物語が生まれる”ことも特徴のひとつですね。
ただし人気の一方で、本ジャンルの性質と言うべきか、時にストレスが溜まってゲームを一時中断してしまうほど過酷な“奪い奪われ”な世界でもあります。筆者は本作をこっそり「闇討ち仇討ち騙し討ち、殺人マシン跋扈する戦場」と思っているほど。こちらだって善いことばっかりしているわけではないし、因果応報で……だから楽しいのですけどね。

……でも時に、本当に心折れる! 「もう無理!」という瞬間は定期的に到来します。なぜ『ARC Raiders』は『あつまれ どうぶつの森』のように幸せな交流が出来ないのか?
そこで筆者、気付きました。こちらが武器を捨てれば良いのです。ガンジーのごとく「非暴力・不服従」の精神です。……というわけで本稿では、『ARC Raiders』でストレスがたまりにたまった筆者が、闇討ち仇討ち騙し討ち、殺人マシン跋扈する戦場にて非暴力・不服従の「地上観光」をした結果、うまれたドラマをお届けしていきます。
◆「非暴力・不服従」は“行動原理”が違うため、対人戦勃発せず……!
幸いにも、『ARC Raiders』は「武装せずに地上へ赴くこと」も可能。無償で提供される武器を手に取って出撃する救済措置とは別に、なぜか手ぶらでの地上外出が可能です。非暴力プレイを開始するためにはまず自分のインベントリを整理して銃を外すところからですが、なんと幸運にも敵レイダーに全部を奪われたばかりなのでかばんは空っぽ。やったぜ!
とはいえ目的がないと楽しくはないので、スクリーンショットで『ARC Raiders』世界を撮影するという条件を課します。“良い撮影スポットを探す”ことが目的とします。さながら気分は戦場カメラマン。
どうしても近接攻撃装備はついてきてしまいますが、それ以外はシールドなどの「殺傷しない装備」で固めていきます。スモークグレネードもNGです。被ダメージも多くなるはずなので、シールドや回復も数を揃えましょう。ただ、敵のレイダーに自分が倒された時、旨味がないとそれはそれで失礼なので、インベントリには「アヒルのおもちゃ」を筆頭にいろいろ携えていきます。「アヒルのオモチャ」はなんぼあっても嬉しいですからね。


そして出撃前の警告「銃器を装備していません」には「とにかく準備完了する」という、なんだか妙に強い意志を感じる選択肢を選び……地上の景色を撮影するためだけに勇ましい足取りで出発しました。もうこれだけでシュール。出撃受付の人に「あいつ手ぶらで行ったよw」とか言われてそう。

まずは「ダム戦場」から。赤い水の流れる平地をお散歩していきましょう。銃を構えていないと「手ぶら」なモーションになりますが、さすがにこれは“格好の獲物”すぎるので双眼鏡を持つことにします。

面白いもので「戦わない」と決めたら、一気に視点が変わってきます。雄大な山脈に広がる巨大な廃墟……スクリーンショットにおける条件として「立ち止まること」などは決めていたのですが、そうでなくとも雄大な自然にふと立ち止まってしまいます。上空を飛んでいるARCもまるで鳥のようです。近づかれたらダッシュで逃げますけど。

しかし「こちらが攻撃しない(できない)」と決めたら、なぜか油断をしてしまうもの。赤い池も、普段なら「他のレイダーに位置を把握される」と思ってのんきに闊歩しませんが、「こちらから攻撃しない意思」が“戦意の無さ”に直結して、迂闊な行動を連発してしまいました。

そんなわけで、「お~! ジップラインに乗ると赤い池が綺麗だぞ!」と思っていると第一ARCに遭遇。全然警戒できていなかった。



反撃もできないので必死に建物の中に逃げ込みます。ウワーッ!!!
しかしわかってはいたことですが、出来るだけ他のレイダーとかち合わないよう移動していると……全然PvPが発生しません。「ブルーゲート」「宇宙港」「埋もれた街」と観光していきましたが、出会うのはARCばかりです。
武器を持たないままで“レイダー同士が物資を奪い合う場所”に殴り込むのはただの自殺志願者で、迷惑ですからね。かといって、まれに他のレイダーに出会っても意図的に「撃ってくれ」と煽るのはかなり違いますし、結局「撃たないでくれ」と言い合って去るだけになります。

たとえば「ブルーゲート」では、遭遇したレイダーにショットガンを撃たれたものの「撃たないで!」と言ったら相手からも「OK! こっちも撃たないで!」と返事が返ってきたりしました。撃ち返そうにもこっちは銃持ってないのですが相手からしたらそんなこと、ぱっと見でわかりません。おそらく牽制を兼ねてこちらに銃撃したのでしょう。普段のプレイなら絶対に撃ち返していたので、これは“武器を持っていないからこそどちらも生き延びれた”事例です。


ただ、寂しいし刺激がない……。好戦的なレイダーを誘うように、耐えきれず目立つ場所で派手な行動をしたりもしたのですが……あまりに目立ちすぎたのか寄ってこず。案外大胆な場所で目立つ行動をするのは生き残る作戦のひとつかもしれません。


『ARC Raiders』は(地下で人は生きていますが)ポストアポカリプスに似た世界観とあって、かなり廃墟の造形に力が入っています。残念ながらシューターとしての演出上は暗がりが多いですが、よくよく見れば筆者含む廃墟好きの琴線に触れるビジュアルです。しかしガチ観光がこんなに容易だとは……。
そもそも、今回のプレイは他プレイヤーの「目的」とはあまりにもかけ離れているため、他プレイヤーとの遭遇事態がかなり少ない印象でした。同じマップでPvPをしているにも関わらず、少し行動パターンが違うだけでこんなに平穏な『ARC Raiders』が待っているとは!




ただし、ARCには死ぬほど襲われました。先ほども言ったように緊張感が欠如していたため見つかりまくったのです。もちろん迎撃できないため、全力で逃げることに。その結果“ARCから逃げるテクニック”は地味に向上した気がしますが……。ARCが苦手な方はしばらく観光目的で走り回ったら良いトレーニングになるかもしれません。

◆ついにはプレイヤー狩りのレイダーから銃まで貰えちゃった……!

ぶっちゃけ、平穏無事すぎて刺激が足りない。正直初めは「武器がないからPvPで負けまくったよ~!」という展開を想像していました。こちらを倒したレイダーが「え!?こいつ銃持ってなかったの!?」と驚く姿が観たかったのですが……そもそもPvPすら発生しない!

だけど、だけど「ステラ・モンティス」は違うはず。「ステラ・モンティス」は、高難易度であり、今現在PvPが盛んなマップのひとつです。きっとこちらを狙う対人レイダーが襲ってきてくれるはずです……! 頼むから闇討ちしてきてくれ! 筆者は今回、アヒルの他にエピック資材をふたつ持ち込みんでいます。鴨が葱を背負って来るレベルで美味しいエサとなりましょう。誰か襲ってこいよ!

しかし筆者の緊張感はもうほぼゼロ。一回ARCに殺された以外は、全部無傷で生還できています。「ステラ・モンティス」の戦場カメラマンというより工場見学ツアーみたいだな! とか考えつつ、気まぐれに誰もいない部屋でアヒルを投げて遊んでいました。

……誰かおる。
アヒル投げの現場を他レイダーに目撃されていました。本来なら、ここで銃撃戦か挨拶が始まるもの。でもこっちは武器を持ってないし、せいぜいアヒルしか構えられない。そしてさっき投げたばっかりなのでアヒルすらすぐには構えられない。

一触即発の雰囲気……というより双方フリーズ。ステラ・モンティスは高難易度マップなのでPvPが頻発します。このレイダーもおそらく自分を追ってきたのでしょう。でも、多分もう「こいつアヒルしか持ってないな」とバレてます!「これは流石に殺されるかな……」と思っていたら向こうも動きません。
にらみ合いではあるものの、実質こちらの命は相手の掌の上……。しばらく見つめ合った後、背中から撃たれてもしょうがないかと、そっとその場を離れることにしました。すると相手プレイヤーが急接近し、こちらの前に立ちはだかります。

「よく見たら顔にデカい傷あるやん、殺される」……そう思っていたら、そのレイダーは唐突に大量の物資を地面に落とし始めました。まさかのプレゼント!?

しかもじゃんじゃかプレゼントしてくれる!! 受け取れないって! そんな気持ちで「ノー」と「ありがとう」を連発。少し離れると銃を二丁と小型シールドまでプレゼントしようとしてくれました。

……自分が使わない銃を持ってるってことは、やっぱりPvPレイダーじゃん!
何考えてんだこいつ!なぜ彼はここまで親切なのでしょう。残念ながら筆者には“武器を持たずにアヒル持ってる奴”の心理はわかっても、“武器を持たずにアヒル持ってる奴に出会った人”の心理はわかりません。哀れに思ってくれたのでしょうか……。

初めは「戦場カメラマンを殺すなんて『ARC Raiders』は地獄だなぁ!」という展開を想定していました。しかし、ここまでのプレイで、(運がよかったのもあるでしょうけど)一回も対人では殺されませんでした。それどころかPvPプレイヤーに銃を頂けるという事態にまで発展……!
少なくとも、今回のプレイでは確実に「非武装だからこそ対人戦が減った」ことは間違いないです。なんだか「銃を持たなければ相手と仲良くなれる」みたいな理論になっていますが、もちろん「背後から問答無用で銃撃された」「こっち行けよと罠に誘導された」といった事例と今回会わなかったのはただの偶然です。そしてさらに言うなら、物資の獲得に躍起じゃなかったというのも大きいはず。
しかし人はきっと、ゲーム中でも現実と同じように「自分に対する敵意」に反応するのでしょう。アヒルを投げていたところを目撃されたのは問題外ですが……しかしPvPでは「自分は戦闘に興味がない」と示すことも効果的に作用するのでしょう。

PvPはつまるところ、人間と人間のコミュニケーションです。ゲームとして同じルーティンを繰り返し磨き上げることも生存率を高めますが、「普段の自分の行動とはかけ離れたアクション」をしていくことによって、見つかる戦法もあるかもしれません。たとえば今回筆者が学んだことは、「アヒルは戦意を削ぐ」ということです。「撃つな!」というよりも、相手の方にアヒルを投げてピヨピヨ鳴らした方が、生存確率は上がるかもしれません。武器を捨て、アヒルを構えよ……。
とはいっても、今回のプレイは「楽しかったけど、基本的に何の意味も無い」プレイ方法。過酷なエクストラクションシューターにて、良い感じの息抜きになったのは間違いないです。「PvPにちょっと疲れたんだよな」という方は、ゲームのルールを無視した謎チャレンジに走ってみてはどうでしょうか。
『ARC Raiders』は、PC(Steam、Epic Games Store、Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに販売中です。
『ARC Raiders』記事一覧はコチラ!











